ミラノデザインウィーク2024レポート Vol.1

イタリアで4月16日から21日にかけて開催されたミラノデザインウィーク(一部、出展により会期は異なります)。DNPでは社員が実際に現地にて、150件を超えるブランドの視察・取材を行いました。このコラムではVol.1からVol.4まで4回に分け、DNPの視点で分析したトレンドのキーワードとともに、各ブランドの新作をご紹介いたします。

2024年のミラノデザインウィークは昨年よりさらに賑わいを見せ、家具・インテリアデザイン展示会Salone del Mobileの来場者数は361,417人、市内イベントFuorisaloneの出展イベント数は1,125件と、いずれも昨年比17%以上増という盛況の形で幕を閉じました。人々の暮らしに大きな影響を与えたパンデミックの発生から数年。その間に価値を再認識されたWell-beingなどの概念は年を追うごとに洗練された形となって現れ、ミラノの街は新たなライフスタイル、新たなデザインを楽しむ人々で街中は溢れかえりました。

2024年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介

Cassina ブランドサイト
Philippe Starckとの30年にわたるコラボレーションを記念した新たな2つのコレクションを発表。“Somewhere EI-S” は、スーツケースや鞄など、旅を彷彿とさせるユニークなモチーフと、Cassinaの職人技によるレザーや金属の高度な加工を組み合わせたシーティングシリーズ。“Volage Ex-S Night Wood” は、マホガニーやエボニー材から選択可能な高級感のあるヘッドボードや吊り下げ式のベッドサイドテーブルを組み合わせた、エレガントなスリーピングエリアのコレクションです。これらのシリーズには再生PET繊維や、特許取得済の空気浄化機能を持つファブリックBreath®など、目に見えないながらも持続可能性や健康に配慮された高度なテクノロジーによる素材が選択肢として用意されている点にも注目です。

Photo by Luca Merli, Somewhere El-S
designed by Philippe Starck

Photo by Luca Merli, Volage Ex-S Night Wood
designed by Philippe Starck

Text by Hidehiro Anzai

Flexform ブランドサイト
Salone del Mobile.Milanoの会場(画像左)では、Between the Foldsをテーマに、美しいギャラリーや舞台セットを想わせる展示が行われました。ホワイトをベースにした空間に、木質のあたたかみが際立ち、クワイエットラグジュアリーを表現していました。ミラノ市内のショールームでは、会場に展示されていた新作を実際に手に触れて試すことができます(画像右) 。

Photo by Flexform

Photo by Flexform

画像左はAntonio Citterioデザインによる新作ソファ CAMELOTです。側面にメタル製のフレームとウッドまたはレザー張りの円筒形バーが設えられていて、視覚的なアクセントになっています。ファブリックの柔らかさとバーのコントラストがユニークなデザインです。バックレストクッションは、大きく包み込むような感触のグースダウンが使用されています。

Photo by Flexform

Photo by Flexform

画像右は同じくAntonio Citterioデザインによる新作コーヒー・サイドテーブル ARNOLDです。オークとカナレットウォールナットのナチュラル感を強く表現した仕上げは、今年新しく加わったマテリアルです。思わず触ってみたくなるような質感で、素材のあたたかみを感じます。 ARNOLDはダイニングテーブルのシリーズも展開されています。

Text by Chihori Kunito

Molteni&C ブランドサイト
今年、創業90周年目を迎えたMolteni&CのSalone del Mobileにおける展示会場、およびその新作コレクションはミラノの建築家Piero Portaluppiにインスピレーションを受け、Vincent Van Duysenのクリエイティブディレクションのもとにデザインされました。Portaluppiの建築作品に見られる精巧さや繊細なディティールが、装飾性と洗練性を兼ね備えたMolteni&Cの新たなスタイルとして美しく昇華されています。今回はVan Duysenによるデザインの新作を2点ご紹介します。

Photos by Molteni&C

Photo by Molteni&C

コーヒーテーブル、ラウンジテーブル、ベッドサイドテーブルの3つの用途に対応したFonte。ブランドのクラフツマンシップを表現した無垢のオーク材を使用した脚部や細部のこだわり、さまざまな用途に対応する機能性がどんなインテリアも美しくまとめ上げます。さまざまな天板の仕上げも特徴で、Salone del Mobileの会場ではグリーンやレッドの大理石のバリエーションが空間を鮮やかに彩りました。

ウォールシェルフ、カップボード、そしてTVユニット。LOGOSはさまざまな姿に形を変え、インテリアに無限の可能性を提供するユニットシステムです。コンパートメントや照明、形状はもちろんのこと、多彩に取り揃えられた木、ラッカー、ガラス、金属といった素材、そしてそれらの仕上げがパーソナライゼーションの要求に応え、家具の枠組みを超えて空間づくりの重要な役割を担います。

Photos by Molteni&C

※掲載商品の日本での発売は未定

Text by Hidehiro Anzai

Poliform ブランドサイト
1800m2に及ぶ展示スペースで賑わいを見せていたPoliform。広大なスペースを活かし、インテリアからキッチン、アウトドア家具に至るまで幅広いプロダクトが展示されていました。Poliformらしい華やかさはありながらも、ユーザー目線に寄り添った、生活の中のワンシーンをイメージさせる空間を丁寧に作り上げていました。

Photo by Poliform

Photo by Poliform

新作のコーヒーテーブルERNESTはJean Marie-Massaudによるデザインです。 ERNESTにはさまざまな形状があり、各モジュールをパズルのように組み合わせたり、それぞれを単体で使うことで生活のさまざまなシーンに対応します。また天板から脚までモノマテリアルでまとめることで組み換えにも幅が生まれ、次々と変わっていく空間は日々の生活に刺激と豊かさを与えてくれます。

Photo by Poliform

Photo by Poliform

新作ソファORBISはEmmanuel Gallinaによるデザインです。 ORBISはラテン語で世界、ユニバースという意味を持ちます。ORBISの緩やかな曲線と柔らかなフォルムは居心地の良い空間をデザインし、家族や気の合う仲間などが集まる拠り所となるはずです。ジュエリーの細工からインスピレーションを得た細い脚により浮いた座面は、座った人々の会話を軽やかに促し、生まれた会話は私たちの幸福感やウェルビーイングな生活へと繋がっていくのです。

Text by Taisuke Watanabe

Natuzzi Italia ブランドサイト
創業65周年を記念し、 “quiet luxury“をテーマにしたショールームがお披露目されました。ミラノ市内のショールーム内、中心に位置する吹き抜けには、Natuzzi Italiaの創業の地であるプーリア地方を治めていたフレデリック2世を描いた高さ8mにも及ぶGino Donvitoのアート作品「Puer Apuliae」が飾られています。この作品の前には、アートから引き出されたカラーが採用されたソファがコーディネートされ、空間全体が絵画の中に惹きこまれるような感覚がありました。

Photo by Natuzzi Italia

画像左はKarim RashidデザインのMemoria sofa。有機的な曲線が特徴で、プーリア地方の緩やかな丘陵地帯や、海の流れを表現しています。画像右はNatuzzi Italiaが人間工学的視点で開発したMindful sofaです。背もたれが自動で可動し、呼吸しやすい体制と適切な血流を促し、最適なリラックス状態へと誘います。

Photo by Natuzzi Italia

Photo by Natuzzi Italia

Text by Chihori Kunito

ARMANI / CASA ブランドサイト
昨年に引き続き、今年も歴史ある本社「パラッツォ・オルシーニ」にて“ECHOES FROM THE WORLD (世界からの響き)” と題した展示が行われました。ジョルジオ・アルマーニがインスピレーションの源としている、ヨーロッパ、日本、中国、アラビア、モロッコといった、それぞれのエリアを想起させる空間でファッションとデザインの間に流れる対話が表現されました。

Photos by ARMANI / CASA

日本の映画「影武者」からインスピレーションを得たコレクションの一部であるドレスとともに展示されたのは、キャビネット「VIRTÙ(ヴェルテュ)」(画像中央)。刀にインスパイアされたハンドル、そして扉を開くと内側のグラフィックの中にアルマーニのロゴが家紋のように取り入れられていて、遊び心を感じさせます(画像右) 。

Photos by ARMANI / CASA

砂漠の夜景やアラビアンナイトの雰囲気からインスピレーションを得たのは、ブルーのレザーインテリアのバーキャビネット「CLUB(クラブ)」(画像左)。植物をモチーフにした刺繍が施されたグログラン生地のスクリーンが非常に美しく、ファッションとの融合を感じさせます。画像中央は中国からインスピレーションを受けたエリアで、鏡の回廊の中で繊細な金の色合いが表現されていました。有機的なフォルムのソファ「VISO(ヴィーゾ)」を囲むように展示されたコンソール「VENUS(ヴィーナス)」と書棚「VIRGOLA(ヴィルゴラ)」。天板・棚板に使われているOrsini Glassは金箔を貼った上から塗装を施し、独特の模様が空間を美しく彩っていました(画像右)。

Text by Chihori Kunito

Snaidero ブランドサイト
デザイン性と実用性を兼ね備えた美しいキッチンを創り出しているSnaidero。フィエラ会場では花びらをイメージしたやわらかく優しい印象の展示ブースをつくり、Snaideroの高いクオリティを存分に表現していました。細部の表現性、Snaideroだけが持つ美しいマテリアル、イタリアらしいデザイン、この3つを大事にしているそうです。

Photos by Snaidero

Orlando Designによるキッチン「Elementi」は、アイランド部分が今年の新作です。クオーツタイルを重ねた土台のデザインは、タイルの数によって高さを調整することができます。空間を華やかに反射している面材「PVD Mirrored Amalfi」は、今年の新しい仕上げ。アルミボードに特殊な加工を施したミラーのようなマテリアルですが、このように大きなサイズのマテリアルを作り出せるのはSnaidero独自の技術ならでは、とのこと。リブ加工されたヨーロピアンウォールナットとのコントラストが際立ち、シンプルな構成でありながら高いデザイン性を感じます。

Photos by Snaidero

Snaidero Designによるキッチン「Way」は、厳密なプロポーションとシンプルな直線で構成され、扉の薄さが際立っています。扉の仕上げに新たに加わったFiorentino Red Lacqueredは、メタルパウダーを吹きかけてから、表面を研磨する独自の技術で作られたもので、見る角度によってゴールドやブラウンに色が変化する特殊な加工が施されています。天板は吸水しにくいブラジル産の大理石が使用されています。

編集後記

今年のデザインウィークはパンデミック以前とほぼ同等の活気を取り戻し、特に中国からの来場者が勢いを増しているように感じました。昨年は、長く続いたステイホームの中で、ウェルビーイングを促すようなスタイルから発展し、ブランドらしさやオリジナリティを改めて打ち出し始めているような空間が多く見られました。今年は、さらに各ブランドごと異なる方向性を示しているように感じています。昔のヨーロッパを彷彿とさせ本格的なデザインの美しさを見通す回帰トレンド、煌びやかさや重厚感を感じるようなインテリアが目立ちました。また一方で新作を一つの作品のように魅せるギャラリーのようなシンプルなインテリア空間も多くみられ、ファッショントレンドでもある、クワイエットラグアジュリーがインテリアトレンドにも見られていることが考えられます。いずれにしても、ミラノデザインウィークの場が単なる新作のお披露目の場ではなく、実際にその家具を購入し、使用する人を考慮したコーディネートやスタイリングが多かったように感じています。
世界のトレンドをけん引する各ブランドの新作だけでなく、その背景にあるコンセプトなど方向性を分析し、これからのデザインの潮流をとらえていきたいと思います。

Text by Chihori Kunito

Editor紹介

ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

ドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州市場のデザインマーケティングを担当。現地駐在員として市場調査やデザイナーとの対話を通じ、ヨーロッパトレンド情報の収集、及びその発信活動に従事。

国内住宅内装分野を中心にDNPオリジナルの内装加飾シートWSシリーズの開発に携わる。
ミラノサローネ他、海外の展示会にも足を運びながら、国内インテリアの向かう先を見据え、
日々開発と発信を行っている。

  • 2024年5月時点の情報です。

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