ミラノデザインウィーク2024レポート Vol.3

イタリアで4月中旬に開催された今年のミラノデザインウィーク。DNPでは社員が実際に現地にて、150件を超えるブランドの視察・取材を行いました。各ブランドの新作や、ミラノデザインウィークでの展示の様子について、Vol.1~Vol.4まで4回に分けてご紹介します。

2024年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介

arper ブランドサイト
一昨年、昨年はホワイトカラーの柔らかいカーテンでスタンドを構成していましたが、今年スタンドのデザインを一新。ブラックベースのダークな空間で来場者の創造力をかきたてるような映像とともにプロダクトを展示し、「What makes the project of living? (暮らす”というプロジェクトとは ?)」をテーマにフレキシブルなライフスタイルを提案していました。高い注目を集めていたのが新作チェア Catifa Carta(画像右)。ブランドのアイコンとして愛されてきた Catifa 53 チェアを PaperShell (ペーパーシェル)という革新的なサステナブル素材を使用して刷新しました。29 枚の木質シートを層にして天然樹脂で接着したペーパーシェルは、CO2 を吸収するという樹木の特性を生かすことで環境に及ぼす影響を劇的に軽減しています。またユニークな2曲面シェルの構造により、強度と座り心地の良さを両立させています。

Photos by arper

Text by Chihori Kunito

Gervasoni ブランドサイト
2024年はPaola NavoneによるGhostの記念すべき20周年。その名の通りお化けのようなゆったりとしたカバーをすっぽりとかぶったこのシーティングコレクションは、Gervasoniを語る上で欠かせない代表作の一つです。今年はこのシリーズの新作として、4本の脚にフィットするタイプのカバーを採用したチェアが発表され、古代ローマのドムスをイメージしたGervasoniのSalone del Mobile会場(画像中央)で展示されました。さらに、ミラノ市内のGervasoniフラッグシップストアでは、Ghost Partyと称しメタリック生地やアニマル柄(画像右)など、遊び心にあふれた特別仕様のGhostが展示されるとともに、来場者によるInstagramコンテストが開催され、伝統を大切にしながらも常に革新的であり続けるGervasoniらしい提案が人々を楽しませていました。

Photos by Gervasoni

Text by Hidehiro Anzai

カリモク家具
今年のカリモク家具は、自社を代表する4つのブランドを4つの会場で展示する、過去最大規模での出展となっていました。本会場となるRho Fieraでは「Karimoku Case」による展示を実施。その他の3会場については、ミラノ中心部に位置するトルトーナ地区にて「Karimoku New Standard」「MAS」「SEYUN」による展示が、それぞれの空間や立地を活かす形で行われていました。3会場はそれぞれ程よい距離に点在しており、ミラノの街を歩きながらカリモク家具のさまざまな世界観に浸るという体験は、世界一のデザインの祭典ミラノデザインウィークで日本のモノづくりの心を感じることのできる、カリモク家具の魅力に溢れた展示となっていました。

Photographer: Silvia Orlandi Puntino
Brand: Karimoku New Standard

Photo Credit: Sohei Oya (Nacasa & Partners)
Brand: MAS

Photo Credit: DSL Studio
Brand: SEYUN

下の画像はRho Fiera会場の様子から。「自然なコントラスト」をテーマに建築家の芦沢啓治氏とブランドのデザインディレクターを務めるNorm Architectsが手掛けています。塗装色「スモークドオーク」を基調とした空間は「禅」にも通じる落ち着いた雰囲気となっており、展示されている家具は、どれも柔らかなコントラストを感じさせる佇まいとなっていました。まさに「空間から考える家具」を体現した家具は、6つに区切られた展示空間の中にも一貫したスタイルで日本の伝統とモノづくりに込めた思いを表現しており、モダンで落ち着いた「Karimoku Case」の神髄に触れることのできる展示となっていました。

Photo Credit: Jonas Bjerre Poulsen
Brand: Karimoku Case

Karimoku New Standard :https://www.karimoku-newstandard.jp/
MAS:https://mas.karimoku.com/
SEYUN:https://zhd.karimoku.com/
Karimoku Case: https://www.karimoku-case.com/

Text by Taisuke Watanabe

Kartell ブランドサイト
「Kartell Milano Urban Horizons」をテーマに、フィエラ会場の広大なスペースで新作を発表しました。デザインとクリエイティビティの都市であるミラノに敬意を払い、城壁を想起させるような壁面には、ミラノの歴史的建造物が描かれています。
今年はイギリスの老舗ファブリックブランドであるリバティとのコラボレーションを発表しました。画像右はPhilippe StarckがデザインしたHER HIGHEST HIGHNESSとリバティのいきいきとした花や植物のパターンが融合しています。グラフィック インプレッションという高度な印刷技術を使って、ポリカーボネイト製の座面と背面にリバティのパターンをダイレクトに印刷しています。また会期中には、新たなコミュニケーションツールとして、 Kartellの新しいポッドキャスト “My version of...”をリリースをしました。ゲストがKartellのブランドや製品に対するイメージを語り、毎週新しいコンテンツがアップロードされています。

Photos by TOYO KITCHEN STYLE

Text by Chihori Kunito

moooi ブランドサイト
「A Life Extraordinary」をテーマに「リビングルーム」を単なる物理的な空間ではなく、デザインに生命(LIFE)を吹き込むというダイナミックなコンセプトでインスタレーションが開催されました。会場の中心では、円形のステージ上に家具と照明がそれぞれスタイリングされ、静的なプロダクトに、照明やマテリアルの質感、デザインの躍動感といった動の息吹が加わり、moooiの世界観を堪能できる唯一無二の魅力的な空間を作り上げていました。ホワイトやベージュといった明るいトーンで構成され、一見シンプルな装いにも見えますが、音に合わせてコントロールされた照明が空間を華やかに包み込み、さまざまなアプローチでゲストの五感を活性化させていました。画像右はアルゼンチンのデザイナーCristián Mohadedによる新作アームチェアのBIG GEORGE。ボリューム感があり、包み込まれるような形状が特徴です。そのほかLG Electronicsとのコラボレーション製品も展示され、moooiらしい遊び心のあるエレガントなデザインとテクノロジーが融合し、新たなインテリア空間を提案していました。

Photos by TOYO KITCHEN STYLE

Text by Chihori Kunito

Moroso ブランドサイト
ミラノ市内、Via PontaccioにあるMorosoのフラッグシップストア。その中心部のセットアップの主役に選ばれたのはPatricia Urquiolaによるデザインのシーティングシステム Gruuve でした。70年代のNonconformistの美学を受け継いだこのデザインは、4つのモジュールを自由に組み合わせることでダイナミックな空間づくりを実現するほか、正面だけではなく背面にも簡単に座ることができる形状が取られています。家庭内、コマーシャルエリアどちらにおいても、人が出会ったり、くつろいだりといった、このソファを中心にインテリアで起きるさまざまな物語が頭に浮かんでくるようなデザインでした。

Photos by Moroso, Studio Eye

Text by Hidehiro Anzai

Poltrona Frau ブランドサイト
Poltrona FrauはManzoni通りのショールームで、IMAGINEをテーマに新作を発表しました。画像左はFAYE TOOGOODによるデザインの新作、SQUASH アームチェア、小型テーブル、ラグマットがコーディネートされています。イギリスのフォークソングの要素を再解釈し、1970年代らしさを融合したコレクションです。柔らかくふわっと包み込まれるような形状をしたアームチェアは見るからに最高の座り心地を想像できます。小型テーブルは ラッカー塗装された2つのウッドブロックが、クッションを挟み込んでいるユニークなデザインです。カラーバリエーションはクリーム、セージ、ブルー、ブラウンの4色です。ラグマットはイギリスのビンテージパッチワークのイスをイメージさせる市松模様が入っています。ベルベル族伝統の技法で天然由来の繊維と染料を使い、市松模様は手書きのペイント調を再現しています。

Photos by Poltrona Frau

ParkaソファコレクションはDRAGA & AURELによるデザイン。 1990年代を象徴するストリートウェアであるパーカと、デザイナーの多分野にわたるバックグランドからインスピレーションを得ており、快適さとリラックスを テーマにしています。 このソファはモデュール式で、空間や用途にあわせて組み合わせが可能です。張地はPoltrona Frauの幅広いラインナップから選ぶことができ、ソファの上部と下部で素材を変えることも可能。まさにファッションのように、さまざまな組み 合わせを楽しめるデザインです。

Photos by Poltrona Frau

Text by Chihori Kunito

編集後記

世界中からデザイン発信の最先端の場として注目を浴び続けるミラノデザインウィーク。パンデミックを経て活気を取り戻しつつある今回は、昨年以上にパワフルで、街中が多くの人で賑わっていました。展示を行っている会場はどこも明るくウェルカムな雰囲気。会場内の至る所で新作家具やファッションなど、デザインの話で盛り上がっています。日本だと敷居が高く、入ることを少し躊躇するようなハイブランドでも関係ありません。誰もが気軽に気になったブランドに入り最先端のデザインに触れる。そこで感じたことを自分なりの美意識を通じて、気軽に会話できるその環境こそが、イタリアがデザイン大国である所以だと感じます。ブランド側はモノづくりへのポリシー、デザイン探求の成果を表現し、ユーザー側はそれを理解し共感することでブランドのファンになる。あたりまえにデザインに触れられる環境と、デザインが価値あるものとして会話の中心にある世界に憧れを感じるとともに、理想のデザインの在り方をを目の当たりにしたミラノ取材となりました。

Text by Taisuke Watanabe

Editor紹介

ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

ドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州市場のデザインマーケティングを担当。現地駐在員として市場調査やデザイナーとの対話を通じ、ヨーロッパトレンド情報の収集、及びその発信活動に従事。

国内住宅内装分野を中心にDNPオリジナルの内装加飾シートWSシリーズの開発に携わる。
ミラノサローネ他、海外の展示会にも足を運びながら、国内インテリアの向かう先を見据え、
日々開発と発信を行っている。

  • 2024年5月時点の情報です。

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