ミラノデザインウィーク2024レポート Vol.4
イタリアで4月中旬に開催された今年のミラノデザインウィーク。DNPでは社員が実際に現地にて、150件を超えるブランドの視察・取材を行いました。各ブランドの新作や、ミラノデザインウィークでの展示の様子について、Vol.1~Vol.4まで4回に分けてご紹介します。
2024年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介
Aesop
ブランドサイト
オーストラリアのスキンケアブランドであるAesopは、ミラノのPiazza Cordusioに新しいショップをオープンし、ミラノデザインウィークに初出展しました。ベルギーの建築家Nicolas Schuybroekによってデザインされたインスタレーションは、Form follows formulationをテーマに、1960年~1970年代のアルテ・ポーヴェラからインスピレーションを得ています。店内にはAesopのBar Soapを規則正しくグリッド状に構成した壁面が設えられ、Aesop製品の上質さや安心感といったブランドイメージを空間全体から感じることができました。またBar Soapの一部分を取り除くことで空洞が生まれ、Aesopの製品がその世界観を表現する映像とともに展示されました。このBar Soapはミラノデザインウィーク終了後、解体し再利用されるそうです。
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Text by Chihori Kunito
Artemest
ブランドサイト
今年のデザインウィークの中でも注目度が高かったインスタレーションの一つ、L‘Appartamento by Artemest。Artemestは2015年に設立されたイタリアのインテリア製品を扱うオンラインショップです。今年は1900年代に建てられた歴史的建造物Residenza Vignaleにて、L’Appartamentoの第2章を発表。Elicyon、GACHOT、Rottet Studio、Studio Meshary AlNassar、Tamara FeldmanDesign、VSHD Designがキュレーションし、厳選された作品が展示されました。展示されていた家具や小物は、Artemestのオンラインサイトから購入することが可能です。画像左のElicyonによるThe Cocktail Room は、イギリスのマナーハウスからインスピレーションを得ています。画像右はVSHD DesignによるThe Dining Room。モダニストとバロックの美学の間の対話をテーマに、重厚な装飾が施されたバロック様式の壁と天井の空間で、洗練されたすっきりとしたモダンな家具が組み合わされ、そのコントラストを楽しむことができます。
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画像左はTamara Feldman DesignによるThe Bedroom 。デザイナーのルーツであるメキシコの伝統や美学を表現し、テラコッタや木材といった温かみを感じる自然素材を複雑に融合させています。画像中央と右はStudio Meshary AlNassarによるThe Flower Room 。 フランスのシュルレアリスムからインスピレーションを得たデザインで、ベビーピンクやベビーブルーなどのパステルカラーを使用しています。ゲストが中庭に足を踏み入れる前に、柔らかな色調に囲まれたこの部屋で気ままなひと時を過ごしてもらうことを意図しています。それぞれの部屋でマテリアルとインテリアの複雑でハイレベルなコーディネートを提案し、魅惑的な音楽の演出とともに唯一無二のインテリア空間を作り上げていたArtemestは、今年のデザインウィークの中でも強いインパクトを残したインスタレーションの一つでした。
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Text by Chihori Kunito
Elle Decor Italia
Elle Decor Italiaがキュレーションしたイベントが、歴史あるPalazzo Bovaraで開催されます。Material Homeをテーマにしたこのインスタレーションは、Studio Elisa Ossino , Rossi Bianchi Lighting Design 、 Studio Antonio Perazzi のコラボレーションによるもの。空間におけるマテリアルの触覚、知覚、嗅覚の側面を探求します。インスタレーションは7つの部屋で構成されていますが、エントランスにはマテリアルライブラリーがあり、まずはマテリアルを観察することで空間へのイメージを膨らませます。
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画像左はベッドルームのSoffice。イタリア語でふわふわした様を表すこのタイトルの通り、柔らかな質感を視覚的にも感じるマテリアルでまとめられたベッドルームは、吸音機能をもつフェルト製の壁面で囲まれています。一方で、硬質な印象を持つフロアのタイルや個性的なデザインのアームチェアMies。印象的なライト付きのミラーは、1970年にデザインされたUltrafragolaで、空間全体が優しい印象であると同時に、どこか懐かしさを感じるようなレトロな風合いを感じます。画像右はレストランエリアのCromie。Elisa Ossino がデザインしたNINEFIFTYの新作のタイルが壁面とフロアに使われています。家具はRUBELLIやKartellの製品がコーディネートされ、色とパターンを視覚的に楽しめる空間でした。
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Text by Chihori Kunito
FENDI Casa
ブランドサイト
ミラノ市内にあるFENDI Casaのショールームでは、デザインスタジオControventoによる、 FFロゴをモチーフとしたシースルーのパーテーションや、白を基調としたミニマルで優しい世界観のセットアップの中、新作が発表されました。コンテンポラリ-アートギャラリーの世界観にインスピレーションを受けたというこの空間では、パーテーションによってエクステリアからインテリアへと誘導された導線で新製品のデザインが焦点を当てられます。その中で展示されていたのが同じくControventoによるソファ “FENDI F-Affair”。異なるテクスチャのFFロゴをモチーフとした形状の組み合わせによって構成され、空間演出から連動するコンテンポラリーな様式と快適な座りごごちが調和するデザインです。
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Text by Hidehiro Anzai
Google
Making Sense of Colorをテーマに、GoogleのデザインチームとChromasonicによるインスタレーションが開催されました。色の感覚を通して、クリエイティブなイマジネーションを刺激させる体験を提供し、Googleが製品をデザインするうえで、色が重要な要素であることを表現しました。
まずは、スクリーンによって21個に区切られた空間の中で、座ったり歩いたりしながら音と照明によるインスタレーションを体感します。Chromasonicの技術により音の周波数を光に、光の周波数を音に変換したもので、視覚と聴覚の感覚が交差するのを感じます。
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次に「色はどんな見た目?」「色はどんな匂いがするの?」「色はどんな味がするの?」といった投げかけがあり、実際に目や耳、触覚を使って、マテリアルから得られる感覚をGoogleスタッフとディスカッションをしながら体感します。この一連の体験を通し、色が私たちの世界、私たちの経験をどのように変えるかということを詩的に問いかけていました。
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Text by Chihori Kunito
MCM
ブランドサイト
ドイツのファッションブランド MCMが、ミラノデザインウィークに初出展し、Palazzo CusaniにてMCM Wearable Casaコレクションを発表しました。Maria Cristina Dideroがキュレーションを、Atelier Biagettiがデザインを担当しています。MCM Wearable Casaコレクションは、MCMの伝統とモダンなデザインの両方からインスピレーションを得て、現代のスピリットを再構築し、バウハウスの精神と現代のノマドのライフスタイルを融合した多彩な7つのポータブルアイテムで構成されていました。またMCMメタバースも展開し、リアルとフィクションの世界両方でコレクションが楽しめるようになっています。
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画像左はSpace Cabinet series。惑星や宇宙探検のような空間的広がりのある事象からインスピレーションを得たアイテムで、サイズによってジュエルミニバッグ、ミニキャビネット、バランスボールとして機能します。画像右はMind Teaserはゲームからインスピレーションを得たデザインで、5つの異なる要素の組み合わせ次第で、スツールやコーヒーテーブル、アームチェアに変化します。
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画像左のChatty Sofaはストリートグラフィティスタイルを彷彿とさせるデザインで、街角で見かける活気あるアーバンアートを連想させるだけでなく、「カーサ(家)」を視覚的に表現しています。充電ポートもついている機能的な製品です。画像中央のTATAMUは、日本語で「畳む」を意味し、モジュール式の座り心地を導入しています。デイベッドからマットまでさまざまな姿に変わるユニークなデザインです。画像右のCLEPSYDRAはデジタル・ノマドを連想とさせる照明デザイン。シェードを付けて使用することも可能で、シェードは帽子として着用することも可能です。
Text by Chihori Kunito
2024年ミラノデザインウィークから見るトレンドの方向性
コンセプトトレンド
DNPでは、今年も3つのメガトレンド(数年間は続く社会的傾向)をベースに、各ブランドの出展コンセプトを分析しました。これらの方向性は、世界的なライフスタイルのトレンドを把握する上で重要な背景になると考えています。
Mega Trend 1 - Respectful
伝統や過去の名作をオマージュし、モダンなアレンジを加えて解釈する試みです。キーワードとしてはHeritage、Legacy、Esseentialといった単語があげられ、1900年代のイタリアで培われた本質的なデザインの良さなどを見直すようなコンセプトが多々見られました。(対象ブランド: Molteni&C、Gucci、Aesop、Artemest、Hermèsなど)
Mega Trend 2 - Well-being & Sustainability
パンデミックを経て、3つのメガトレンドの中で一番ボリュームになっているゾーンです。人だけでなく、地球に生きる全ての生き物に対して優しい暮らしをすること、そしてそれによりWell-beingを高めるような提案です。キーワードとしては、Quiet Luxury、Ergonomic Design、Inspiration from Nature、Susitinabilityなどがあげられます。(対象ブランド:Flexform、Natuzzi Italia、MOROSO、Paola Lenti、moooi、arperなど)
Mega Trend 3 - Boundless
あらゆる境界を越えてイノベーションを起こすようなトレンドです。数年前から、ファッションとインテリアの融合やインテリアとエクステリアの融合が見られていて、それらは引き続き継続しています。今年は特に、AIやITといったテクノロジーとインテリアの融合に注目し、多数の取材を行いました。そこであげられたキーワードはBreakthroughやFuturisticです。(対象ブランド:MCM、Google、BMW、Samsung、moooiなど)
Text by Chihori Kunito
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コーディネートトレンド
一昨年からDNPが提唱しているエクレイジュコーディネート(ファブリック、木質を含むさまざまな素材に見られたホワイト、ベージュなどのライト系、またグレイッシュ、中間色のニュアンスが含まれるコーディネート)が今年もさまざまなブランドで見られました。近年、ファッショントレンドで注目されているQuiet Luxury(クワイエットラグジュアリー)が、インテリアでも多数見られていたことに、DNPでは注目しています。分かりやすいブランドロゴや華美なモチーフを使わず、シンプルな上質さを追求したオフホワイトからベージュカラー中心とした明るく洗練された空間です。このインテリアは、日本の空間でも受け入れやすいコーディネートで、今後の動向に注目したいと思います。一方で、エクレイジュの領域から外れたダークカラーの木質や大理石を使った重厚感のある空間も多数見られ、幅広いインテリアテイストが出現していたと感じています。これらは上記のRespectfulのトレンドで見られた、伝統や過去の傑作へのオマージュといったコンセプトで出現しており、ややオーセンティックな雰囲気を感じる空間でした。
プロダクトとしては、ラウンド形状の大型ソファが出現度が高く、それらの中心に設えられるセンターテーブルには、フォルムやマテリアル、そして組み合わせの多様化が見られました。長いステイホームの反動として、人々が集い、会話を楽しむ様子が想起できるインテリアでした。
エクレイジュコーディネートのご提案についてはこちらもご覧ください。
Text by Chihori Kunito
CMF(Color Material Finish)トレンド
ファブリックはインテリアのテーマカラーやアクセントカラーとして使われる場合が多く、前述の通りホワイトからベージュのゾーンが今年の頻出カラーとして挙げられます。一見するとカジュアルで少し地味にも見えるカラーを、世界が注目する場でハイブランドが積極的に取り入れる動きは、新しい空間作りの流れとして捉えることができました。次いで多かったのがグリーンやブルー。アウトドア家具や植栽とも相性が良く、特にグリーン系の大理石は今年の頻出マテリアルのひとつと言えそうです。さらにそのグリーンと合わせて登場していたのがオレンジやブラウン。アクセントカラーとしてさまざまなところで使われていた彩度の高いオレンジやブラウンは、今年の注目カラーと言えそうです。
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木質のメインはオーク、ウォールナット、アウトドア家具ではチークが使われていました。いずれも木質本来の色を活かしたナチュラルでドライな仕上げが多く、中でもウォールナットは明るくカジュアル印象なものが増えてきたように感じます。また一方でオープンポア仕上げと言われる塗り潰し表現も多く見られ、これは厚塗り塗装をする事で見た目の良くない材料も有効活用できるため、サステナブルな取り組みとして紹介されていました。木質以外の金属や樹脂系の素材でも同じように均質な塗装が至る所で見られ、空間全体がソリッド感のある質感にまとまっています。つまり異なる素材の家具でも表面を似たような仕上げにすることにより、違和感なくひとつの空間に共存させることができるということです。これはユーザーが好みの家具を自由に選べることに繋がっており、今年のミラノ全体を通して各ブランドが個性をアピールするだけでなく、ユーザー視点に寄り添った提案が増えてきていると感じました。
Text by Taisuke Watanabe
- Chihori Kunito(大日本印刷 生活空間事業部)
ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター
- Hidehiro Anzai(DNPヨーロッパ)
ドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州市場のデザインマーケティングを担当。現地駐在員として市場調査やデザイナーとの対話を通じ、ヨーロッパトレンド情報の収集、及びその発信活動に従事。
- Taisuke Watanabe(大日本印刷 生活空間事業部)
国内住宅内装分野を中心にDNPオリジナルの内装加飾シートWSシリーズの開発に携わる。
ミラノサローネ他、海外の展示会にも足を運びながら、国内インテリアの向かう先を見据え、日々開発と発信を行っている。
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- 2024年5月時点の情報です。