ミラノデザインウィーク2024レポート Vol.2
イタリアで4月中旬に開催された今年のミラノデザインウィーク。DNPでは社員が実際に現地にて、150件を超えるブランドの視察・取材を行いました。各ブランドの新作や、ミラノデザインウィークでの展示の様子について、Vol.1~Vol.4まで4回に分けてご紹介します。
2024年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介
B&B Italia ブランドサイト
Photo by B&B Italia |
B&B Italiaは、新作だけでなく時代を超えたデザインの軌跡をたどり、歴史的なコレクションの価値を呼び起こすアンソロジーを発表しました。画像左のソファは、Piero Lissoniデザインの新作Dambodueです。存在感がありながら控えめでもあり、静けさとエレガントさを兼ね備えたデザインです。中央には、Monica Armaniデザインの新作スモールテーブルAllure O‘ Dotと2022年に発表されたPiero LissoniデザインのPlanckがコーディネートされ、空間に華やかさをプラスしています。
ショールームの中で存在感を放っていたPiero Lissoniによる新作テーブルを2つご紹介します。画像左の Isosは、テーブルの脚のデザインが特徴で、天板との接触部分が35度にカットされています。まるで鉛筆のようなフォルムで、軽やかに天板を支えています。画像右のAssialeは伸長式と固定式の2つのバージョンがあります。さまざまな仕上げが用意されていますが、ミラノのショールームでは赤の鏡面仕上げのテーブルがコーディネートされ、空間のアクセントになっていました。
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Text by Chihori Kunito
De Padova
ブランドサイト
A WAY OF LIVINGをテーマにさまざまな国のカルチャーを取り入れ、リビングやダイニングなどそれぞれのシーンが想起しやすい空間がミラノのショールームでお披露目されました。画像左はElisa Ossinoデザインの新作Honorè Armchairです。曲線を描いたエレガントな佇まいで、包み込まれるような形状のバックレストが特徴です。画像右はTIME & STYLE ēditionの新作Raindrop Casting Bronze Tableです。富山県高岡市の歴史ある鋳造技術と職人による手仕事の融合から生まれた新製品で、ブロンズ製の脚は雨粒が落ちる様を表現しています。ブロンズというマテリアルの重厚感と、雨粒の有機的なフォルムがバランスよく共存したデザインです。天板は北海道産のナラ材を使用しています。
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Text by Chihori Kunito
Time & Style
ブランドサイト
Time & Styleは既存のTime & Style San Marcoに隣接する新しいショールームを2つオープンしました(画像左・中央)。画像左は新作のStone Garden とKumiko Partition です。Stone Gardenは京間の畳のサイズを基本とし、畳や布団といった日本のエレメントで構成された新しいモデュール家具の提案です。通常のソファにあるバックレストをなくしてみることで、空間の景色が水平方向に広がります。またクッションパーツは日本の布団をイメージし、京都の老舗布団メーカーと協力して開発しています。Kumiko Partitionは良質な杉材を使用しフレームを極限まで細くし、組子紋様の美しさを際立たせるシンプルなデザインです。金物を使わずに製作された紐丁番により、表裏自在に可動する折りたたみ部分が特徴です。イタリアンモダンデザインに溢れたミラノデザインウィークの中で、日本の美しい感性をモダンに表現したプロダクトとして注目を集めていました。
Time & Style Largo Treves
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Time & Style Balzan
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Time & Style San Marco
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Text by Chihori Kunito
Flou
ブランドサイト
広い空間、独創性、パーソナライズなどの受容に答えた2024年コレクションを象徴するように、Flouは新作家具をNatevoのプロダクトとともにSalone del Mobileの解放感のある広々とした会場で発表。Pinuccio BorgonovoのデザインによるシーティングシステムFioccoは、7つのシートモジュール、2つのアームレストモジュール、1つのバックレストモジュールを組み合わせ可能な形にアップデートされ、インテリアを型にはまらないモダンな方法で演出します。屋内向け、屋外向け仕様で展開されており、モジュールの間にFoglioテーブルを追加することで多な使用シーンに対応が可能です。
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Text by Hidehiro Anzai
Giorgetti
ブランドサイト
ミラノ市内に昨年オープンしたショールーム “Giorgetti Spiga The Place” で展示されていたのは、Carlo Colomboによるデザインの新作アームチェアCLORI。人間工学にもとづいて設計され、フォルムと機能性が融合したあらゆるインテリアに調和するこのプロダクトの特徴は、ポリウレタンをレザーまたは柔軟な木材で覆った、Giorgetti独自の技術による硬質のシェル。常に伝統と革新の間で上質な暮らしを追求する、Giorgettiのブランドを象徴するデザインと言えます。
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Text by Hidehiro Anzai
Paola Lenti ブランドサイト
Photo by Paola Lenti
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ショールームのエントランスを色鮮やかに彩っていたのは、nendoによる新コレクション “花嵐 Hana-arashi “。Mottainai Projectの第2弾として、アームチェアやプーフなどが発表されました。
シートパッドはMarisファブリックの端材を使って作られていて、取り外しも可能です。新たな資源の消費を最小限に抑え、最大限に再利用するというPaola Lentiの哲学を反映しています。
画像左は新作アウトドアコレクションからNicolò MoralesデザインのサイドテーブルPrimulaです。花の形をしたマヨリカ焼きのベースが特徴で、Nicolò Moralesが手作業で彩色しています。画像右はインテリアコレクションの新作から、F. RotaデザインのダイニングテーブルElonです。天板はAbonos™ アッシュ材で仕上げとなっており、木質の大胆なテクスチャーを楽しむことができます。Abonos™は、数千年ものあいだ川底に埋められ、化石化のプロセスが促進した木材を再利用したもので、高い耐久性のあるサステナブルな素材です。
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Text by Chihori Kunito
nendo
ブランドサイト
今年のnendoの展示は前述のPaola Lentiのショールームの一画で開催。「nendo : whispers of nature(自然のささやき)」をテーマに5つのコレクションを展示していました。イラストとアニメーションで丁寧にデザインプロセスの紹介をしており、直感的にコレクションの成り立ちを見せる表現は、他の家具ブランドにはない、nendoらしさを体験できる展示となっていました。
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clustered clouds は空に漂う雲から着想を得たシェルフのコレクションです。無数の穴からなるパンチングメタルを素材に用いることで、雲のイメージである「空っぽの質量」を表現しています。シェルフを中心に一周ぐるりと回ると、複雑に重なり合うパンチングメタルが次々と表情を変えます。一瞬一瞬で姿を変える、雲のイメージそのものを感じさせるコレクションとなっていました。
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light and shade は「光と影」の関係を、プロダクトにおける「成型物と金型」の関係に置き換えることで、互いの補完関係を表現したコレクションです。本来、人目に触れることのない金型を最終製品の一部(もしくはそのもの)とすることで、デザインプロセスからアウトプットまでの流れを美しく完結させていました。”金型”を金属素地活かしのブラック、”成型物”をしっとりとマットなホワイトで仕上げることで質感にも色合いにもコントラストが生まれ、より「光と影」の関係性を強く感じるコレクションとなっていました。
by Taisuke Watanabe
Hermès
ブランドサイト
エルメスの新作ホームコレクションが、そのインスピレーション源であるメゾン伝統のオブジェとともに紹介されました。 エルメスの世界観に没入できる、壮大な展示会のテーマは大地。レンガ、石、スレート、木、土といった自然の素材による構図が、騎手のシルクジャージを描き出しています。セノグラフィーは1カ月前から会場に入り作り上げ、16種の石、10種の土、4種の木材、再利用されたレンガ素材を使用しています。素材のほとんどはフランスとイタリアのものを使用し、フランスの職人の手により製作されました。
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画像左はモダニズムの伝統を受け継ぐラウンジチェア 《ディアパゾン・ドゥ・エルメス》です。力強いフォーマルなデザインを形作る素材とのコントラストが美しいチェアです。画像中央はランプ 《ヴォルティージュ・ドゥ・エルメス》。ランジング用の手綱、短鞭、障害競技のポールからインスピレーションを得ています。バイカラーのレザーを編み込んだ細い支柱、スラブリネンのランプシェードにはレザーのパイピング、パティネ加工が施されたブロンズのような質感の台座で構成されています。控え目でありながら、カラーとマテリアルのコントラストが効いたユニークなデザインです。
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Text by Chihori Kunito
編集後記
伝統と最新技術の融合的表現は、特にイタリアの家具ブランドで見られる特徴の一つ。歴史あるブランドがデジタル技術や新素材を積極的に取り入れ常に成長していくその様は、イタリアのデザイン大国としての地位を支える文化的象徴のようにも見えます。その一方で、新しい技術をどう使うかという点についても学ぶところは多く、例えば最新の技術そのものにとらわれることなく、それをブランドアイデンティティの表現のために正しく使うという姿勢、そこには時代に左右されない、普遍的な美意識があってこそ成り立つものだと思います。さまざまな技術が発展している今だからこそ、トレンドだけではない、本質から学ぶ点が多いと気付かされた今年のミラノデザインウィークでした。
Text by Hidehiro Anzai
Editor紹介
- Chihori Kunito(大日本印刷 生活空間事業部)
ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター
- Hidehiro Anzai(DNPヨーロッパ)
ドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州市場のデザインマーケティングを担当。現地駐在員として市場調査やデザイナーとの対話を通じ、ヨーロッパトレンド情報の収集、及びその発信活動に従事。
- Taisuke Watanabe(大日本印刷 生活空間事業部)
国内住宅内装分野を中心にDNPオリジナルの内装加飾シートWSシリーズの開発に携わる。
ミラノサローネ他、海外の展示会にも足を運びながら、国内インテリアの向かう先を見据え、
日々開発と発信を行っている。
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- 2024年5月時点の情報です。