ミラノデザインウィーク2022レポート Vol.3

イタリアで6月6日から12日にわたり開催された今年のミラノデザインウィーク。DNPでは社員が実際に現地にて、50件を超えるブランドの視察・取材を行いました。このコラムではVol.1からVol.4まで4回に分け、DNPの視点で分析したトレンドのキーワードとともに、各ブランドの新作をご紹介いたします。

DNPではミラノデザインウィーク2022を通し、3つのメガトレンドと7つのキーワードを設定しました(詳しいことは“ ミラノデザインウィーク 2022 レポート Vol.1 レポートVol.2 ”、をご覧ください)。今回のコラムでは、”Well-being”を取り上げます。

トレンド方向性



2022年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介



Molteni&C   https://www.molteni.it
今年の新製品のテーマは「暖かく流動的な家」。そのテーマを象徴する製品のひとつがVincent Van Duysenのデザインによるユニット“LIVING BOX“(左)です。木質材や大理石、金属を巧みに組み合わせたボックス形状をベースとしながら、丸みを帯びたコーナー等のディティール、そして内部に組み込まれたLED照明による家具自体が柔らかく発光する演出が、空間を柔らかく彩ります。また、今年新たに同ブランドのHeritage Collectionに加わったテーブル“BLEVIO“(右)は、Ignazio Gardellaが1930年に自身の実家のためにデザインしたもので、その曲線的なシルエットと異素材の組み合わせが、どこか懐かしさにも似た暖かい雰囲気を創り出しています。

Text by Hidehiro Anzai

Molteni&C




Poliform   https://www.poliform.it/en-us
暖かいムードと美しさで包み込まれたPoliformのスタンド空間は、中間色で構成され、優しく穏やかな心地良さを感じました。Jean-Marie Massaudのデザインによる新作ソファBRERAはエレガントな曲線を描き、ココデメールという植物の実からイメージしたスツールUBEが添えられています。そのほか壁材パネルやクローゼットの面材と一体化する建具も発表し、家具だけでなく空間をよりトータルに構成できる提案を行っていました。

Tex by Chihori Kunito

Poliform




porro   https://www.porro.com/en
Durini通りにあるporroのショールームは、ホワイトやペールトーンの木質を基調としたコーディネイトで、明るくエレガントでありながら、porroらしいスタイリッシュさも感じる空間でした。右の画像は、Piero Lissoni​によるデザインの”Materic “です。楕円形の天板に、円錐型のベースを組み合わせ、スカンジナビアな風合いを感じるアッシュ材を使用しています。

Tex by Chihori Kunito

porro




Minotti   https://minotti.jp
Marcio Kogan/studio mk27によるHORIZONTE。その名の通り水平に伸びるベースラインを軸に、レザーやファブリックによる柔らかなクッションやバックレストを組み合わせていくことで、空間へどこまでも拡張が可能なモジュラーシーティングシステムです。Rho Fiera展示会場では、穴あきコンクリートブロックが内と外の連続性を演出する空間に白とグリーンをベースにコーディネイトされ、Minotti独自のホスピタリティ空間を創り出していました。

Text by Hidehiro Anzai

Minotti




Flou   https://www.flou.it
今年のコレクションを“Welcome“というキーワードで表現したFlou。Matteo Nunziatiのデザインによる木のぬくもりをテーマにしたダブルベッドGaudiは今回、フレーム材にナチュラルカラーのアッシュ材を追加。ペールカラーのファブリックとあいまって、人々を優しく迎え入れるような雰囲気を創り出します。

Text by Hidehiro Anzai

Flou




CESAR   https://www.cesar.it
Garcia CuminiによるTANGRAMは、幾何学図形を組み合わせて無限の形を生み出すという中国古代のゲームに着想を受けてデザインされました。キッチンには珍しい5つの曲線が柔らかな印象を演出し、直線との組み合わせによりアイランドやコーナーなどあらゆる形を作ることができます。

Text by Hidehiro Anzai

CESAR




Ceramica Cielo   https://www.ceramicacielo.it/en
Rho FieraのスタンドはGreta Cevenini のスタイリングで、サニタリースペースの空間提案が行われました。同ブランドが提案するカラーリングやデザインはサニタリーだけでなくリビング空間にも影響を与えています。今年は、明るいトーンにアースカラーが組み合わされ、全体的に清潔感と優しいナチュラルテイストを感じる空間でした。右の画像、Marcelはバウハウスからインスピレーションを受け、Marcel Breuerへのオマージュとしてデザインされました。

Tex by Chihori Kunito

Ceramica Cielo







市内の展示では、ブランドの掲げるストーリーやアイデンティティをデザインとして存分に表現しているところもありました。新しい時代の幕開けに、幻想的な空間で没入感のある世界を体験することで、感情が刺激され心身の癒しにつながります。




DIOR
DIORは昨年に続き同社のアイコンである「メダリオンチェア」をテーマにした展示を開催。Philippe Starckがシルエットのシンプルを追求して再解釈した「メダリオンチェア」は、大胆なエレガンスを宿した、ある種の女性らしさへのオマージュとして、「ミス ディオール」と名付けられました。展示会場では、メダリオンチェアのシンプルな美しさを際立たせながら、DIORらしいエレガンスさを融合させた音楽と照明の演出で、ひとつの映画を見ているようなうっとりとしてしまう時間が流れていました。またこのチェアはアルミのモノマテリアル製で、リサイクル性、軽量性、強度も優れています。Monte Napoleone通りのショップではそれらをアピールするかのようにブティックのファサードにも「ミス ディオール」チェアが展示されていました。

Text by Chihori Kunito

DIOR




Hermès   https://www.hermes.com/jp/ja/story/302520-milan-design-week-2022
「軽やかさ」をテーマに、木材で給水塔をモチーフにした4つの構造体を製作したエルメス。そこに薄く繊細なカラーペーパーを障子のように張ることで、内部からあふれ出る光が空間を軽やかに包み、行灯のような柔らかい光を放っていました。今年のホームコレクションの新作はカシミアを使ったテキスタイルが主役です。

Text by Chihori Kunito

Hermès




Armani Casa   https://www.armani.com/ja-jp/experience/armani-casa
アートギャラリー“Armani Silos”にて、“Water“ “Tigerなど8つのテーマに合わせた映像とともに家具が展示されました。中央の画像は、折り畳み式ドアを備えた小さなワードローブスタンドのSuiteです。​扉や側面のストライプ モチーフは、GIORGIO ARMANIファッションのアイコニックなパターンを、イタリア産の桐で表現しています。右の画像は、カナレットウォールナットの輪郭を持つエレガントなSharonチェアです。

Text by Chihori Kunito

Armani Casa



※2022年9月時点の情報です。



まとめ

コロナ禍で心身の健康を促すWell-beingに関するトレンドは、世界的に加速しました。今年のミラノデザインウィークでは、それらの需要に応えるかのように、明るい空間で清潔感や安心感を感じさせる提案が多かったと感じています。インテリア業界を牽引するイタリアの家具ブランドも、高級感・特別感を強く打ち出すというよりも、上質な素材・家具を組み合わせながら人々に寄り添う空間のインテリアコーディネイトが目立ちました。また新しい時代の幕開けに、音楽や芸術などアートに触れることで心身の癒しを与えるようなインスタレーションも多く見られました。明らかにコロナ禍を経て、人々の価値観が変化していることを感じることができ、このトレンドが今後どれくらい継続するのか注目しています。




Chihori Kunito

ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

Hidehiro Anzai

ドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州市場のデザインマーケティングを担当。現地駐在員として市場調査やデザイナーとの対話を通じ、ヨーロッパトレンド情報の収集、及びその発信活動に従事。




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