リサイクル可能な梱包材「MaiLoop」を手に。RMDに参加した尾見さん、小玉さん、鈴木さん

デザインの力で循環型社会の実現に挑む「Recycling Meets Design™ Project」

使い終わったプラスチックパッケージ。それらの多くは分別回収され、リサイクルされているものの、「生まれ変わった再生プラスチックの用途がなかなか広がらない」という課題がありました。そこで、長年にわたり環境に配慮したパッケージを開発・提供してきたDNPは、社外のデザイナーの協力を得ながら、デザインの力で再生プラスチックに新たな価値を加えていくアップサイクル(※1)に取り組んでいます。2020年7月には、再生プラスチックの活用の場をより広げ、社会で循環させることをめざす「Recycling Meets Design™ Project(以下RMD)」を立ち上げました。DNPで包装事業を担当する尾見敦子と鈴木英怜那、アートディレクターである(株)BULLET・小玉文氏が、RMDの新しい挑戦について語り合いました。

目次

  • 1 アップサイクル:廃棄物を単にリサイクルするのではなく、元の素材の特徴を生かしつつ新たな価値を付加して別の製品に生まれ変わらせること。サステナブルな再生のあり方として注目されている。

インタビューに答えてくれた尾見さん、小玉さん、鈴木さん(左から)

【プロフィール】
*写真左から
尾見 敦子(おみ あつこ)
大日本印刷株式会社 包装事業部 イノベーティブ・パッケージングセンターマーケティング戦略本部
小玉 文(こだま あや)
株式会社BULLET 代表取締役社長/アートディレクター
鈴木 英怜那(すずき えれな)
大日本印刷株式会社 包装事業部 イノベーティブ・パッケージングセンター企画本部

生まれ変わるプラスチックの使い道を広げていくには?

——「Recycling Meets Design™ Project(以下RMD)」はどのように始まったのでしょうか?

尾見敦子(以下、尾見)

DNPでは長年環境に配慮したパッケージを提供してきましたが、海洋プラスチックごみ汚染の問題などもあり、「使い終わったあといかに循環させるか」ということにも取り組まなければならないと考えるようになりました。

プラスチックパッケージはこれまでもリサイクルされ、再生プラスチックとして生まれ変わっているのですが、さまざまな色や素材の製品が混ざり合うことで暗い色になってしまうことや、強度・耐熱性などの機能面や衛生面が低下することを理由に用途が限られていました。

そのため、輸送用のパレットや車止めにしか使われておらず、一般の方が再生プラスチックを目にすることは少ない状況です。

そこでデザインの力で、再生プラスチックの新たな価値を見つけ出し、社会で循環するものへとアップサイクルするプロジェクト「RMD」を2020年7月に立ち上げました。

社外のデザイナーの方にもお声がけし、このプロジェクトには7社が参加。社内のデザイナーと合わせ17名ほどのメンバーがいます。

プラスチックパッケージがリサイクルされた際にできるペレットなど

プラスチックパッケージからリサイクルされたペレット(左の瓶の中・粒状の物)。コストと技術の問題で着色材料を排除することは難しく、板状等に成型しても暗褐色になってしまう。


鈴木英怜那(以下、鈴木)
私はDNPのデザイナーとして、普段は食品関係のパッケージデザインのディレクション業務や製品のマーケティング関係のデザインに携わっているのですが、話を聞いたときに「ぜひ参加したい!」と思いました。

というのも、DNPに入社して包装事業部に配属されたとき、「自分たちがつくっているものの意義や責任を考えておかないと、ゴミをつくることになってしまう」と教えられていたためです。

極端な言い方ではありますが、その言葉の印象が強く、パッケージをデザインするうえで環境への配慮は必ず行わなければならないと思っていたので、今回、とてもいいチャンスをもらえたと感じました。


小玉文氏(以下、小玉)
私は普段、食品パッケージのデザインを多く手掛けていますが、パッケージを生み出すことの責任に向き合わなければという思いはありつつも、なかなか実行できていない後ろめたさを感じていました。DNPさんからお声がけをいただいて、すぐに参加を決めました。


尾見
私は、このプロジェクトの事務局・推進役として参加しました。デザインを一緒に考えるうえで基本的な情報を理解してもらう必要があると感じ、最初に取り組んだのが、再生プラスチックの現状をみなさんと共有することでした。

コロナ禍でオンラインでの開催となりましたが、環境省の方をお招きし、日本におけるプラスチック問題について話していただきました。

また、事務局メンバーが中継して、オンラインでリサイクル工場を一緒に見学することもあり、プロジェクトを進めるなかで私自身、新たな発見がたくさんありました。

リサイクル工場での見学やディスカッションの様子

2020年8月に実施したリサイクル工場見学の様子。リアルな現場に触れて課題認識を高めるとともに、技術的な説明を受けて活発なディスカッションを行った。

——RMDに参加して再生プラスチックの現状を知り、どのような感想を持ちましたか?

鈴木
私は最初のレクチャーを受けて、「これは一筋縄ではいかないかも…」と感じました。

再生プラスチックの使い道を考えるというテーマを聞いたときは、何かしら方法はあるだろうと思っていました。素材の色がナチュラルなアースカラーで、事前に聞いていたほど悪くないと感じたためです。

しかし、レクチャーを通じて、再生プラスチック自体に業界全体がネガティブなイメージを持っていて、そもそも利用してもらうためのハードルが高いことがわかりました。

また、単におしゃれなものをつくれば解決、というわけではありません。再生プラスチックは毎年大量に生まれるので、社会で継続的に使ってもらう仕組みづくりが大切になります。

この2点をどうやってクリアすればいいだろうかと、とても悩みました。


小玉
鈴木さんがおっしゃるように、私も、この再生プラスチックを使って一時的に見栄えの良いものをつくり、展示をするだけではダメだと感じました。

再生プラスチックという素材や現状の問題を認知してもらうだけでなく、今後、社会で長く使えるものを考えなければいけない。

リサイクル工場での現場の方の声をお聞きし、未来のためにも、いま本質的な解決方法を考える必要があると思いました。

ディスカッションを重ねて、各デザイナーがアイデアを模索

——再生プラスチックの現状を知ったあと、具体的にどんな活動を進めてきたのですか?

尾見
まず、再生プラスチックをアップサイクルするアイデアを定期的に持ち寄り、お互いに意見や感想を出し合いながらブラッシュアップする場を設けました。

その中で絞られてきたアイデアについて試作品をつくり、あらためて意見を交換するという流れです。

2020年の12月に、第一期の経過報告としてオンラインプレゼンテーションを実施し、社内外に呼びかけた結果、多くの参加者の前で8つのアイデアを発表することとなりました。

登壇者がアイデアを話している様子

2020年12月に行われたオンラインプレゼンテーションの様子。

鈴木
パッケージをつくる会社のデザイナーという立場からすると、普段は、お客様である企業の要望から導かれるゴールに向けて、最適解を探す作業が中心です。

しかしこのRMDでは、ゴールは自分たちで決めるもの。そうした状況がとても新鮮で、また、立場の異なるデザイナーさんと本質的な深いディスカッションができたことも大きな収穫でした。


小玉
「再生プラスチックを活用する」というテーマに対し、デザイナーさんごとに予想以上にいろいろなアプローチがあり、私自身とても刺激を受けました。

自由にアイデアを考えることのできる立場というのが心地良く、取り組みやすい環境だったと思います。


尾見
オンラインプレゼンテーションでは、再生プラスチックを用いたアナログのレコード盤をつくる案や、環境教育の一環として学校給食のトレイに使う案など、ユニークなアイデアが発表されました。

オンラインの参加者から「どれも使いたい!」という声が多数寄せられて、再生プラスチックのイメージを変えてアップサイクルするという意味では大成功だったと思います。

提案されたアイデアの中から、最初のプロダクトとして、まずは鈴木さんと小玉さんが提案した、繰り返し使える配送材「MaiLoop(メイループ)」(商標登録出願中)を形にすべく、現在はアイデアの改良を重ねています。

クローバー型やスクエア型の「MaiLoop」

RMDから生まれたアイデアのひとつ「MaiLoop(メイループ)」。繰り返して利用可能な梱包パッケージで、封書タイプのほか、四つ葉タイプ、吹き出しタイプなどさまざまな形状を試作した。

再生プラスチックで「何度も使える配送材」をつくる!

——「MaiLoop(メイループ)」のアイデアはどのようなものですか?

鈴木
「MaiLoop」は、再生プラスチックでつくった、何度も繰り返し使える配送用パッケージです。通販などの荷物はいつも、紙袋や段ボールなど最終的にゴミになるものと一緒に届けられている。これは良くないよね、と。そこで、再生プラスチックを使って解決しようと考えました。

実は、アイデア出しのブレスト段階で、小玉さんと私が別々に、「繰り返し使える配送材」という切り口を出していました。それで私が、「一緒にやりませんか」と小玉さんに声をかけました。

社会実装を考えたとき、「使いやすいもの」と「使いたくなるもの」という2つの視点が大切になると考えたため、前者に関わる機能面を私、後者に関わる情緒面を小玉さん、と分担することにしました。


小玉
私の方では、どんな素材や形がよいかを考えました。例えば、「MaiLoop」の袋に使っているこのシート。再生プラスチックとリサイクルゴムを合わせた素材で、革のような手触りで柔らかいんです。

ずっと触っていたくなるような不思議な心地よい良い質感で、素材を手に取った瞬間に私も鈴木さんも「これだ!」と思いました。

形は、配達員の方から手渡しされたときに「うれしい!」「面白い!」という気持ちになってもらえるよう、汎用性のあるスクエアなものだけでなく、ハート形や吹き出し形など、気持ちに合わせて選べるデザインも提案しました。

吹き出し型の「Mayloop」を手に話す小玉さん

鈴木
私の方は、実際に送れるのか、どう回収するか、電子タグをつけたらどうかなど、機能面を主に考え、それらの仕組みや実現可能性を社内のさまざまな部署に検討してもらいました。

単に既存の封筒を置き換えるのではなく、「MaiLoop」を使うことで付加価値が生まれなければ、普及しないと考えました。

そこで、電子ペーパーを組み合わせることで宛名の表示や書き換えが手軽にできたり、アプリを併用することで物流管理を簡単に行えたりする仕組みのアイデアも考えました。


小玉
簡単だから使いたくなる、楽しいから使いたくなる。この2つの両立を大切にしました。


尾見
「MaiLoop」はプレゼンテーションでも特に反響が大きかったですね。環境への配慮は前提として、みんなが困っているほかの社会課題の解決にも波及するというのが、納得感につながったのだと思います。


鈴木
1回使ったら捨ててしまうパッケージを何度も繰り返し使える配送パッケージとして生まれ変わらせるという点が、パッケージのネガティブな面をポジティブに切り替えるキーポイントだったのかなと思いますね。

「MaiLoop」を手に持ち、話をする鈴木さん

——「MaiLoop」は今後どんな展開を予定していますか?

尾見
プレゼンテーションでの感想や配送業の方へのヒアリングからオフィス内での需要に気づき、社内の定期便での活用から検討したいと思いました。

社内なら回収方法も確立しやすく、往復して使うパッケージではボタンひとつで電子ペーパーの宛名が切り替えられるなど、利用方法もイメージできました。

そこで、まずは私たちDNPグループの内部で実際に使いながら、素材や形、仕組みなどを検討することになりました。

自分たちで使ってフィージビリティスタディを重ねることでより良いプロダクトに育て、社会実装を少しでも早めようと考えたのです。

社内便用に試作されて「MaiLoop」

「MaiLoop」の試作品の一部は、フィージビリティスタディの一環として、DNPの包装関連事業の社内便として利用を検討している。

「これをつくりたい」があるから、素材が進化していく

——まだ現在進行形だとは思いますが、現時点でRMDを振り返ってみて、どんな気づきがありましたか?

尾見
RMDを進めるなかで、DNP社内でも再生プラスチックへの理解が少しずつ広まってきたのを感じています。

例えば、包装事業部にはお菓子の容器やカップなどのプラスチック成形品をつくっている工場がありますが、過去には、衛生面の問題から再生材を機械に投入するにも慎重な見方がありました。

でも、今回のRMDをきっかけに再生プラスチックに興味を持ってくれ、若手中心のプロジェクトで成形テストなどの検討を始めてくれました。

ほかにも、生活空間関連の事業の部署から建築部材への応用について問い合わせがあるなど、再生プラスチックのアップサイクルの輪は社内に確実に広がっています。

こうしてRMDの発信がきっかけとなって、再生プラスチックの持つネガティブなイメージが変わっていく様子を見ると、うれしいですよね。


小玉
再生プラスチックの独特な色は、リサイクル前の容器の多様な色が混ざることで必然的にできる色なのですが、これは、さまざまなものが混ざることで「最終的にたどりつく色」だと捉えることもできますし、一巡して自然の色に戻ってきていると捉えることもできます。

再生プラスチック製のプロダクトが身の回りで活躍し始めることで、「自分たちが使い終わったプラスチック製品はこのように循環していくんだ」と体感する機会が生まれ、次第に、ネガティブな素材から日常的な素材へと位置づけが変化していくと思います。


鈴木
プレゼンテーションのあとにリサイクル会社の方が、「デザインのアイデアを先にもらってから素材を開発するというプロセスもありだよね」って話していました。

今までの素材ありきの発想から、RMDの活動を通してアイデアを軸に素材開発をするという逆の方向に進んでいけば、新たに生まれるプロダクトの幅がもっと広がっていくと思いました。


尾見
鈴木さんが言うように、「これをつくりたい」というアイデアがあると、実現するためにみんなが工夫して、素材開発も進み、再生プラスチックの弱点である強度や酸素・水蒸気等のバリア性などの機能もアップしていくはず。

機能がアップすれば、より良いプロダクトが生まれていく。長期的に、そういった良い循環を生み出していきたいですね。


小玉
ところで、「Recycling Meets Design™ Project」というプロジェクト名はとても良いですね。


鈴木
リサイクルがデザインと出会う、ですもんね。


小玉
まさに。再生プラスチックがデザインの力と出会うことによって、これまで接点がなかった場所や人と繋がり、こんなにもさまざまな可能性が生まれるんだと深く実感しました。

私自身、大学のデザイン科で教鞭をとっているのですが、RMDのような取り組みに学生も参加できるといいなと思いました。

現在の状況や固定観念にとらわれず、ものの見方から考えることがデザインの本質です。

これからの未来を担う若いデザイナーには、さらに柔軟なアイデアを生み出してほしいと期待します。



——RMDの今後の展開はどのようなものになりますか?

尾見
2021年度は新しいデザイナーさんにも参加してもらって、第2期のアイデア出しを予定しています。

今回の「MaiLoop」からヒントを得たのですが、単に今あるものを再生プラスチックに置き換えるだけではなく、そのプロダクトが再生プラスチックになることでどんな社会課題を解決できるのかという視点も深めていきたいと考えています。

これからのRMDの活動について話す尾見さん


鈴木
私自身は、今後「MaiLoop」の実用化に向けて、さらに細かな部分を詰めていきたいです。

世の中にも、リサイクルに対して今までは、「しないといけないけれど、面倒なこと」というイメージがありましたが、すでに「あたりまえのこと」になっています。

再生プラスチックに対する印象ももっとポジティブになっていくと思うので、少しでも多くの人たちに気づきを与えられるように、活動の幅を広げていきたいですね。


小玉
無理なく自然にサステナブルな取り組みを行える社会になると良いですね。RMDの取り組みから生まれる可能性がたくさんあると思います。


尾見
RMDのプロジェクトを通じて日々感じているのは、人と人の出会いが化学反応を生み、大きなムーブメントに広がるということ。

私たちの活動はまだまだ続きますので、これからも社内外を問わず仲間を増やしていきたいです。興味のある方は、ぜひお声がけください。


【関連記事】
 ・「Recycling Meets Design™ Project」のこれまでの活動内容について
 ・「DNP環境配慮パッケージング GREEN PACKAGING」について

【未来のあたりまえをつくる挑戦者たち】

VOL.1「Recycling Meets Design® Project」 動画:1分6秒
活動にかける思いをプロジェクトリーダーの川上愛が語る。

  • 掲載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承ください。