企画展会場に5人のプロジェクトメンバーが並んだ写真

DNPがオリジナル企画展をつくったら何ができる? 独自の技術と社員の個性が融合した「ふしぎな恐竜展」

東京・市谷で大日本印刷(DNP)が運営する、オープンイノベーション施設「DNPプラザ」で2023年10月20日(木)~2024年1月13日(土)に開催した「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」。DNPのソリューションを活かした展示コンテンツを通じて、来場者に今までにない恐竜の楽しみ方に触れていただきました。企画を担当したのは、会社の副業・兼業制度を活用して恐竜コンサルタントとしても活動する宮澤悠大。「DNPで恐竜展を企画・運営したい」という宮澤の想いに共感したメンバーが連携し、DNPならではのイベントをつくり上げました。「ふしぎな恐竜展」がどのように生まれ、何を生み出したのか、プロジェクトに関わったメンバーの中から、宮澤を含めた5名に話を聞きました。

目次

プロフィール

記事に登場するプロジェクトメンバーが並んだ画像

企画・プロデュース担当/宮澤悠大(写真:左から3人目)
情報イノベーション事業部 DXセンター ソーシャルコミュニケーション本部

3D模型制作担当/伊賀上真左彦(写真:一番左)
シーピーデザインコンサルティング(グループ会社) 新規事業開発室

ライトアニメ担当/端山徹也(写真左から2人目)
出版イノベーション事業部 ビジネスクリエイション本部

VR恐竜展システム・WebAR担当/日暮敬行(写真左から4人目)、宮原豪希(写真:一番右)
DNPデジタルソリューションズ(グループ会社) Webシステム制作本部

DNPらしさのある「魅せる恐竜展」がコンセプト

「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」では、同種のイベントでよくある恐竜の骨格標本や化石などの展示は行っていません。しかし、所定の場所から二次元コードを読み込んだスマートフォンをかざして会場を見ると、なにもないはずの空間にバーチャル恐竜が出現! 会場フロアにはがっしりした体躯のトリケラトプスが、建物の吹き抜け部分からは長い首をもたげるブラキオサウルスが登場するその迫力は圧倒的です。

WebARの画像(トリケラトプス)

さらに、恐竜や草木などのミニチュアパーツをレイアウトしてオリジナルの恐竜展をつくれるVR(仮想現実)コンテンツや、人気の恐竜マンガ『ディノサン』とのコラボレーション展示など、これまでにないさまざまな体験を通して恐竜の魅力に触れることができます。

この企画展をプロデュースしたのは、副業で恐竜コンサルタントとしても活動中のDNP社員・宮澤悠大。恐竜コンテンツを独自のビジネスとする取り組みが社内でも知られている宮澤は、社内・社外で多くの実績を残してきました。今回、パートナーとのオープンイノベーションを促進する場である「DNPプラザ」を格好の舞台として、“DNPならではの恐竜展”をつくる取り組みがスタートしました。

「我々が持つ技術やソリューションと恐竜コンテンツを掛け合わせることで、新しい恐竜展をつくりたいと思いました。お子さんや親御さんには最先端技術による展示を楽しんでもらうことでDNPのことを知ってもらい、企業の方には我々の最先端のソリューションを知ってもらう機会になるような、“恐竜の見かた”と“DNPの見かた”の両者が変わる『魅せる恐竜展』にしようと考えました」(宮澤)。

DNPのソリューションを活かして新しい恐竜コンテンツをつくる

DNPには、ルーヴル美術館など、国内外のさまざまな美術館や博物館と連携して、新しい鑑賞システム等を開発・導入してきた実績があります。「こうした強みを使ったらおもしろい恐竜展ができるのでは」と考えた宮澤。自分がめざす恐竜展の実現に向けて、これまで一緒に仕事をしてきたメンバーに声をかけました。

その一人が宮澤と同期入社で、出版イノベーション事業部でライトアニメ事業を担当する端山徹也です。「ライトアニメ※1」とは、マンガの原稿をそのまま使って、セリフの吹き出しを取ったり、キャラクター等のパーツを切り出したり、カラー化したり、軽い負荷で動画にするDNP独自のアニメーション手法のことです。

企画展の中心となった宮澤悠大(左)とライトアニメを担当した端山徹也(右)

ライトアニメにしたい面白い作品を探していた端山に、宮澤が恐竜マンガ『ディノサン』を紹介したところ、二人は意気投合。すぐに出版社の編集部を通じて原作者に働きかけ、「迫力のある恐竜たちが人間と同じ“生き物”である」という作品のメッセージを迫力満点の映像で伝えるオリジナルコンテンツの誕生につながりました。

「今回のライトアニメ作品では、恐竜の動きをどのように表現するかに苦心しました。また、こだわったのは恐竜好きの声優さんに演じてもらったこと。作者の木下いたる先生や声優の皆さんの熱量も大きくて、完成度の高いコンテンツをつくれたと思います。実際に会場で夢中になって観てくれるお子さんも多く、あらためてライトアニメの可能性を実感できました」(端山)。

人気マンガ「ディノサン」の世界が動き出す「ライトアニメ」のコンテンツ  画像:©木下いたる/新潮社

また、『ディノサン』の舞台である架空の恐竜テーマパーク「江の島ディノランド」をDNPの鑑賞システム「みどころキューブ(※2)」で再現。来場者は、立体的なバーチャル空間の中で、それぞれの恐竜が生息していた時代別やディノランド内の飼育場所別に俯瞰したり、詳細情報を確認したりすることができます。

「江の島ディノランド」や恐竜たちを立体的に紹介した「みどころキューブ」

個人的に恐竜が好きで、以前から宮澤と、恐竜コンテンツを活用した新規事業を模索していたシーピーデザインコンサルティングの伊賀上真左彦も、展示コンテンツの制作に参加した一人です。伊賀上が担当したのは、3Dプリンターで制作する模型。図鑑や専門誌などに掲載されるリアルな恐竜のCGイラストで人気のイラストレーター・加藤愛一氏と連携しました。加藤氏から3次元CGデータの提供を受け、トリケラトプスの子どもの実寸大模型を作成しました。

3D模型の制作を担当した伊賀上真左彦

「加藤先生から、CGイラストの制作の際に用意する3Dモデルのデータを預かり、それを適切に管理し、二次利用につなげることができました。当社は3Dデータの流通信託ビジネス(※3)の立ち上げに取り組んでおり、今回は、今後の事業化に向けた貴重なモデルケースとなりました。」

  • 3 3Dデータ流通信託ビジネスとは:3Dモデルの商用利用やデータ管理の仕組みを整備し、利活用しやすい環境構築をめざす事業

「AR(拡張現実)やVR、イラスト・ゲーム・模型などの制作に使う3Dデータを複数の目的で活用する際のデータ加工について、また、実際の模型を見た方がどのような感想を持つかなどの検証を行いました。データ加工についてはシーピーデザインコンサルティングだけでなく、DNPコミュニケーションデザインにも協力してもらい、3DプリントやARなどに展開するのに最適な加工をしてもらいました。展示期間の後半には、卵に入ったマイアサウラの模型や、フルカラー3Dプリンターで自動彩色したサカバンバスピスの模型を用意。加藤先生の作品の世界を3次元でご覧いただけます」(伊賀上)。

フルカラー3Dプリンターで自動彩色したマイアサウラの卵の模型

元となる加藤愛一氏のイラストの3Dデータ

Webを活用したARやVRを取り入れたコンテンツの作成に加え、ロゴの制作や空間デザインに協力したのが、DNPデジタルソリューションズの日暮敬行、宮原豪希です。

日暮が主に担当したのは、画像認識技術とVR技術を用いて、オリジナルな恐竜展をデザインできるVRコンテンツです。来場者が恐竜や草木・岩などのミニチュアパーツをテーブルの透明天板の上に自由に並べると、ディスプレイのバーチャル空間にリアルな3D画像となって表示されるというもの。もともと学校でのワークショップ用に開発したシステムを今回の恐竜展に合わせてアレンジしました。

ミニチュア模型を動かすと、ディスプレイ上で恐竜の骨格模型や草木が動き、自分だけの恐竜展をデザインできる

「バーチャル空間に3Dモデルのデータを並べるだけでは、空間としての臨場感がうまく表現できません。配置されたバーチャルの恐竜にライトを当てて光と陰を調整したり、奥行き感を出したりなど、細かい工夫を盛り込むことで、没入感の向上について試行錯誤しました。今回の恐竜展は、実際に使った生活者の方々からフィードバックをいただける絶好の機会となりました。その知見を大切に、さらに改善していきたいです」(日暮)。

VR恐竜展システムを担当した日暮敬行

また、「WebAR」を使って、実寸大のバーチャル恐竜を画面上に出現させるシステムを担当したのが宮原です。従来のARは専用アプリのインストールが必要でしたが、「WebAR」は、生活者自身のスマートフォンで2次元コードを撮影して特定のWebサイトにアクセスし、リアルな空間にある識別用のマーカーなどにカメラをかざすだけでARを体験できます。今回の展示では、加藤愛一氏の3Dデータを用いて、リアルな空間に実寸大のブラキオサウルスとトリケラトプスを出現させました。

「WebAR」を担当した宮原豪希

「DNPプラザ」には地下から地上2階までの吹き抜けがあり、この空間で長い首を伸ばして見下ろしているかのようなブラキオサウルスは臨場感たっぷり。恐竜を間近で見上げるような体験ができるほか、写真や動画を撮ることもできます。

「リアルの空間に違和感なくバーチャルの恐竜を出現させることが大変でした。例えば、WebARのシステムには、マーカーがスマートフォンのカメラから外れると一瞬オブジェクト(今回は恐竜)が消えてしまう仕様があったのですが、それだと来場者の方の熱が冷めてしまいますよね。そこでマーカーが外れても映像が補完されて見え続ける仕組みを追加しました。

忘れられないのが、吹き抜けから飛び出したブラキオサウルスの首を苦労して仕上げて、最初に宮澤さんに見てもらった時、『なんかチンアナゴみたいだね』と言われたことです。生物として実感できるようなリアルな動きを再現するのには、かなり苦労しました。ほかにも、恐竜の表現に関する宮澤さんの要求レベルはとても高かったのですが、それらを一つひとつクリアしていくことで良いものに仕上がったと思います」(宮原)。

生活者視点でのイノベーションの創出し、今後の事業に活かしていく

恐竜を愛する宮澤の目線で“どうしたら恐竜の魅力をよりリアルに体感できるか”を最大限に考え、DNPのソリューションをふんだんに活用してつくり上げた「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」。ARやVRをはじめ、デジタルとアナログ、リアルとバーチャル、モノづくりと情報サービス等の幅広い事業を展開しているDNPだからこそ実現できた、ユニークな企画展だったと言えます。

子ども連れのファミリー層にたくさん来ていただきましたが、企業関係者も多く来場し、「この技術を使ってほかの展開はできるか」「このコンテンツを自社でもつくってみたい」といった問い合わせも多数寄せられています。

「たくさんの反響があって驚きましたが、今回の展示で恐竜の魅力を体験してもらうだけでなく、それを支えるDNPの技術やノウハウに対して、多くの方に興味を持ってもらえた手応えを感じています。単なる商材紹介では興味を持ってもらうのは難しいですが、恐竜展という場でアイデアをかたちにすることで、よりわかりやすく提示できたと思います」(宮澤)。

企画・制作に参加した各メンバーも、それぞれ次につながる手応えや事業のヒントを得たようです。

ライトアニメ担当の端山は、次のように振り返ります。「昆虫好きの方が来場されて、『昆虫でもライトアニメをつくってほしい』という感想を寄せてくださいました。今回は企画展示とライトアニメを組み合わせたエンターテインメントとして体験いただくことができたと思います。昆虫や魚、動物などのテーマでも、同様に水平展開できるのではと、今後の事業のヒントを得ることができました」

立体モデルを制作した伊賀上は、今後の展望を次のように語りました。「今回は“一体成型”という手法でトリケラトプスをつくったのですが、より巨大な恐竜をつくってみたいですし、そうした場合は3Dデータをどう分割させればいいかなど、色々と試していきたいです」

インタビューに笑顔で答える伊賀上(右)と端山(左)の写真

日頃はクライアントからの受託案件が多いなか、自分たちで決めたゴールの達成に向け、異なる部門の社員とアイデアや意見を出し合いながら進めた今回の経験から、メンバーたちは大いに刺激を受けました。

VRを担当した日暮は、「今回の企画展のように“自分たちでゴールを決める”プロジェクトは、大変でしたが、とてもやりがいがありました。我々が手がけているARやXRといった技術はまだ一般に浸透しているとは言い難く、『どうやって身近に感じてもらうか』が課題でしたが、これを解決していくヒントなども感じることができました。今後も、より多くの方に実際に体験してもらうためのフロー(流れ・手法)やUX(顧客体験)を考えていきたいです」と語ります。

インタビューに答える日暮(手前)と宮原(奥)の写真

WebAR担当で、展示期間中も来場者の意見を取り入れて順次システムのアップデートを行っていた宮原は、「あたりまえのことですが、お客様の意見を吸収してより良いものにしていくことの大切さに、あらためて気づかされました。『ARの恐竜と一緒にいる様子を動画で撮影できるといいよね』といった声を活かして、その機能を期間中に追加しました。生活者の方が楽しめるコンテンツをつくることで、『WebAR』技術の活用シーンをさらに増やしていきたいです」と決意をあらたにします。

社内外で共創を育む土壌があるDNP

強い眼差しで話す宮澤の写真

入社以来、「いつかDNPに恐竜博物館をつくりたい」という夢を語り、恐竜を軸にしたビジネス活動を続けてきた宮澤。「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」が実現した背景には、社内留学制度や社内複業制度などの社内連携を促す仕組みや、社員の個性を活かす副業・兼業制度の構築など、“新しいものを生み出そう”とする機運の高まりがあります。DNPが掲げる「生活者視点でのイノベーションの創出」のフィージビリティスタディ(実現可能性検討)として、今後の展開にも期待が寄せられている。

「『見かたを変える、ふしぎな恐竜展』は沢山の部署が携わり、まさに“ALL DNP”として取り組んだプロジェクトとなり、私にとってエポックメーキングな体験でした。」と宮澤は話す。

「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」に尽力したDNP・グループ各社
・アットテーブル:ディノサンオリジナルコラボメニューの開発、提供
・シーピーデザインコンサルティング:3D模型制作
・出版イノベーション事業部:ライトアニメ企画
・DNPアートコミュニケーションズ:artscapeでの広告、記事配信
・DNPエスピーイノベーション:“恐竜の皮膚”触感パネルの製作
・DNPコミュニケーションデザイン:3Dデータの最適化、アニメーション設定などの加工
・DNPデジタルソリューションズ:VR恐竜展システム・WebAR、デザイン制作
・DNPフォトイメージングジャパン:ディノサンオリジナル記念撮影フォトブース “写Goo!”の開発・設置
・DNPメディア・アート:ライトアニメ制作、オリジナル恐竜ペーパークラフトの設計、製作
・マーケティング本部:みどころキューブの提供

「これまで恐竜コンサルタントとしての活動や恐竜の知見を活かしたビジネス展開はありましたが、社内の仲間と一緒にオリジナルの企画展をつくり上げたのは初めてのこと。恐竜の魅力をたくさんの人々に思う存分伝える貴重な機会になったのはもちろん、社内の仲間や多彩な技術と出会えたという点で、ひとつ上のステージに進めた手応えがあります。今後も、ここで得た人脈やノウハウを活用してビジネスを広げつつ、密かな野望である“DNP恐竜博物館の館長”に向かって、走り続けていくつもりです」(宮澤)。

DNPの共創活動と「DNPプラザ」について

DNPは独自の「P&I」(印刷と情報:Printing and Information)の強みを掛け合わせ、パートナーとの連携を深めて、「より良い未来」を自らつくり出していくための価値の創出に努めています。技術・発想・企画等のノウハウと、生活者や企業・教育機関等のアイデアや技術、アートやデザインその他の強みを掛け合わせて、「対話と協働」によって「未来のあたりまえ」をつくり出していきます。
東京・市谷にある「DNPプラザ」はオープンイノベーション施設として運営しています。社会の中の多様な「問い」に基づいて、「より良い未来」に欠かせないあたりまえの価値を生み出す取り組みを、実証実験を行いながら、多くのパートナーとともに推進していきます。

DNPプラザの外観写真

詳しくはDNPプラザ ホームページをご覧ください

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