生活空間インテリア・デザインレポート 話題の国内ホテル編 Vol.8

ご好評いただいている「デザイン トレンドレポート ホテル」。第8弾は大阪、福岡のホテルをご紹介します。ホテルのコンセプトやデザインの背景をご紹介するとともに、筆者視点でインテリアのポイントやコーディネートについてご紹介します。

Photo THE OSAKA STATION HOTEL, Autograph Collection

・デザインフィロソフィーはTime Travel(時空の旅)

・鉄道や駅らしさを感じられるアートや空間デザイン

・モダンな客室の中にも鉄道らしさを表現

Point of Materials
木質・メタル・レンガ・石・ガラスなど




・アルド・ロッシと内田繁のデザインの融合

・オリジナルを踏襲した3つのカラースキーム空間

・グレイッシュな木目で構成された落ち着いた客室

Point of Materials
木質・石・メタル・ファブリックなど

https://osakastation-hotel.jp/

住所:大阪府大阪市北区梅田3丁目2-2
TEL: 06-6105-1874
アクセス:JR大阪駅 (サウスゲートビルディング) 2階の歩行者デッキ、西梅田地下歩行者道路「ガーデンアベニュー」(地下1階) 直結

THE OSAKA STATION HOTEL, Autograph Collection はJR大阪駅西口に直結した「JPタワー大阪」内に2024年7月31日に開業しました。1874年に初代大阪駅が開業した地であり、この大阪で紡がれてきた歴史や文化、その価値を未来へと継承していくことをブランドコンセプト「THE OSAKA TIME」に込めています。ホテルデザインは、各エリアを巡ることで生まれたTime Travel(時空の旅)というストーリーによって、大阪の歴史、文化、体験からインスパイアされたさまざまな工芸や素材によって創り込まれ、「鉄道・駅の記憶」を大切な誇りに、唯一無二の体験を提供しています。設計・デザインは、乃村工藝社、日建設計、FOO、安井建築設計事務所などが担当しています。

01-1. 旅の始まりを演出するエントランスと広大なレセプションフロア

エントランスは時空(とき)の旅の始まりを示す場所となり、初代大阪駅が開業したその場所に生じた、時空体験の入口となっています。この入口の先にどのようなホテル空間が広がっているのか高揚感を感じさせる、洗練されたラグジュアリーなエントランスのデザインです。

エレベーターで29階に上がると、レセプションフロアに到着します。初代大阪駅の記憶を表現し、旅の出発点である駅の待合室をイメージした開放的な空間が広がります。1874年に開業した初代大阪駅は、当時では珍しい赤煉瓦を用いた西洋建築で、それをオマージュした空間になっています。壁面、柱などにはさまざまなレンガの積み方をしたデザインを見ることができます。また昔の有人改札を想起させる、楕円形のレセプションデスクは、上から見るとホテルのロゴと同じ形になっているのもポイントです。

レセプションフロアの大空間の中央には、時空の旅人が行き交う駅前広場に見立てた空間「STATION SQUARE」があります。大阪は「水の都」と呼ばれ、その昔、商家では甕(かめ)を門前に置き、往来する人々に水を振る舞っていました。また、かつて駅や列車内に冷水機が設置されていたことを記憶している方もいるのではないでしょうか。冷水機のそばにあった封筒型の紙コップも設置されていて、水を飲みながら、このようなおもてなしの原点ともいえる「ふるまい水」を感じて頂き、思い思いにすごせる場となっています。

STATION SQUAREでくつろいでいると、目に入るのが初代大阪駅の大時計に見立てた映像アート作品です。清掃員が24時間、時計の針を動かし、時を示すクロックアートになっています。Time Travelの途中、この空間でひと時の休憩を楽しめるユニークなスペースです。

エレベーターホールから続く赤煉瓦の回廊は、初代大阪駅舎に用いられたとされている伝統的なフランス積み、その後主流になったイギリス積みをリデザインしています。また化粧室へ続く回廊の壁面には、切符を切った跡の鋏こんをモチーフにしたアートがあります。それを追っていくと、駅長室の扉が。この扉の奥には、秘密のバーが設けられています。

01-2.大阪の洗練された文化と親しみを感じる客室

30階~38階の高層階に位置する客室は、40m2を中心とした全418室を有しています。「物を本来あるべき姿ではなく、別のものとして見る」という千利休の思想である「見立ての心」を大切に、大阪の洗練された文化と親しみのあるおもなしを感じる客室になっています。

上の画像はKINGの客室です。ベージュやグレーをベースにしたインテリアに、ヘッドボードのブルーのアートが空間を爽やかに包み込みます。このアートは右側にあるクローゼットの面材へと繋がっています。またこのスライド式の扉は、リビングとバスルームの間仕切りの役割も担っています。ランダムな方向を向いたブラケット照明は、大阪の名物であるたこ焼きをイメージしているそうです。

ヘッドボードのフレームや客室内にあるドアのエッジなど、アクセントにゴールドのメタル素材が使われています。ホテルカラーの真鍮ゴールドを基調としたデザインです。扉のレバーハンドルも、電車のブレーキレバーをモチーフとしたオリジナルデザインです。エレガントなモダンスタイルの客室スタイルですが、随所に大阪らしさが表現されていました。

洗面台はアイランド型で、空間の回遊性もあり機能的なデザインでした。個性的な表情の御影石のカウンタートップと、グレイッシュな木目柄の組み合わせがエレガントです。

上の画像はTWINの客室です。折り上げ天井が空間の特徴になっています。側面にミラーをしつらえることで、天井高をより高く感じさせています。コーナールームということもあり、二方向が大きな窓ガラスで構成され、大阪の景色を存分に楽しむことができます。

上の画像は159m2の広さをもつ、THE SUITEの写真です。​大阪城の​絢爛豪華な​「奥御殿の​大広間」に​見立てられた空間で、ダイニングテーブル​と​キッチンを​備えています。壁面の左官仕上げによるアートや、一枚板のテーブル天板などラグジュアリーな空間を演出しています。

寝室の向かいある両開きの扉を開くと、豪華なバスルームが広がります。大きな円形のバスタブを配置してもなお余裕のあるスペースは、極上のプライべートバスタイムを過ごすことができるでしょう。

01-3. 駅や鉄道の趣を感じるレストラン

29階のレセプションフロアにはTHE LOBBY LOUNGEとTHE-MOMENT GRILL&DININGがあります。
THE LOBBY LOUNGEは初代大阪駅の切妻屋根をモチーフにした天井高約10メートルの「光の屋根」と、線路や動輪をモチーフにした巨大なリングアートが空間の主役になっています。

THE-MOMENT GRILL&DININGは日本各地の食材や世界の素材が楽しめるオールデイダイニングです。“豪華列車の食堂車”がコンセプトになっており、曲線を強調させた折り上げ天井のデザインが、列車の中にいるような雰囲気にさせます。

https://ilpalazzo.jp/

住所:福岡県福岡市中央区春吉3丁目13-1
TEL: 0570-009-915
アクセス:地下鉄空港線「中洲川端」駅1番出口より徒歩7分、地下鉄七隈線「天神南」駅6番出口より徒歩6分

ホテル イル・パラッツォは世界的な建築家イタリア人のアルド・ロッシと、日本を代表するインテリアデザイナー内田繁の設計デザインで、日本初のデザインホテルとして1989年に開業しました。アルド・ロッシが日本ではじめて手がけた建築には、内田繁の他にもエットーレ・ソットサス、ガエターノ・ペッシェ、倉俣史朗、三橋いく代、田中一光など、世界的なクリエイターが参画し話題になり、1990年にはプリツカー賞、アメリカ建築家協会(AIA)名誉賞などを受賞しました。開業から約30年の歳月を経て、2022年から改修プロジェクト「Re-Design」を始動し、この度2023年10月1日にグランドオープンしました。アルド・ロッシ設計の外観デザインはオリジナルを尊重し一部復元しています。インテリアデザインは、内田繁氏の思いやデザインの理念を受け継ぐ「内田デザイン研究所」が担当しています。

02-1. ホテルの世界観に誘うブルーのエントランス空間

階段をあがる必要があったエントランスは、1階から段差なく直接アプローチ可能にリニューアルされました。中に入ると、「結界」をイメージした青一色の没入感のトンネルが広がり、つきあたりにバラのオブジェを見ることができます。青色の空間に赤色のバラ、緑色の葉で、ホテルのメインカラースキームである3つのカラーを再現しています。

02-2. オリジナルの配色を踏襲したラウンジ

ブルーの空間を抜けると、フロントエリア、ラウンジ「エル・ドラド」があります。開業当時、別棟に4つのバーがあり、そのうちの1つがアルド・ロッシがデザインしたバー「エル・ドラド」でした。リニューアルされたラウンジには、そのバー「エル・ドラド」から内装の一部を移築しています。中央に位置する黄金のモニュメント「ファサード」はバーでボトル棚として使用していたものです。

ファサードの手前には、内田繁が晩年に手掛けたインスタレーション作品「Dancing Water(ダンシングウォーター)」が設置されています。水の揺らぎが空間に癒しの効果をもたらします。

「エル・ドラド」は西洋の人々が探し求めて冒険に旅立ったという、伝説の黄金郷を意味しています。この空間は、開業当時のカラースキームとして使われていた赤・青・緑の3色をベースに構成されています。また8本の大きな柱が空間の中で重厚感を与えていますが、数本は開業当時と同じ場所に設置しています。

レセプションエリアはグリーンの空間で、バーカウンターも兼ねています。このグリーンカラーはホテルのロゴやアメニティなど随所でみることができます。フロアは2色のグレーカラーの木質が、50cm幅のストライプで構成されています。これは開業時にアルド・ロッシがこだわったポイントだそうです。

02-3. 3つのカラースキームから赤を取り入れた空間

客室フロアの廊下はカラースキームの一つである赤で構成されています。エレベーターホールには、アルド・ロッシ氏によるドローイングがプリントされた鏡が設置されています。隣には、内田氏がデザインした時計「DEAR MORRIS」が置かれています。カーペットはレセプションエリアのフロアと同様に、赤と白の50cm幅のストライプで構成されています。
2階の客室はもともとロビーやレストランがあったフロアのため、天井高が4mを有しています。アーチ状の屋根や格子状のライトは開業当時を意識した原点回帰となるデザインです。奥には内田氏デザインのフロアランプ「L’UOVO」があります。イタリア語で卵を意味するこのランプは、柔らかい光が空間をやさしく包み込みます。

02-4. オリジナルデザインの趣を感じられる明るい客室

客室はスーペリアクイーン、スーペリアクイーン バルコニー付き、デラックスキング、デラックスキング バルコニー付きの4つのタイプがあります。

上の画像はデラックスキング バルコニー付きの写真です。家具は全てオリジナルで制作されています。オレンジ×水色のソファは、開業時に使用されていたソファのカラーを踏襲しているそうです。またコーヒーテーブルの脚は内田氏のデザインの特徴を示しています。

白を基調とした空間にグレイッシュな木目が空間にほどよいぬくもりを与え、共有部の華やかな空間と落ち着いた印象の客室が違和感なくつながっているように感じました。

カウンターテーブルに設えられた黒色のチェア、バルコニーにあるシルバーのチェアは共に内田繫デザインの作品「FEB(フェブ)」をイル パラッツォに合わせて作られたものです。シンプルな構成でありながら、ジオメトリックなパターンを想起させ、しっかりと存在感を感じるデザインでした。

バスルームはゲストが安らぎを得るように黒のダークな空間に大きな円形のバスタブを採用しています。(このバスタブはデラックスキングのみです。)

03. トレンドレポート ホテルVol.8 まとめ&編集後記

ご紹介した2つのホテルは、それぞれその土地の歴史や、オリジナルのデザインを踏襲した空間デザインでした。DNPのトレンドレポートでご紹介しているメガトレンドからRescpectfulにあたる潮流かと思います。(メガトレンドの説明はこちらをご覧ください。
時の流れとその土地の歴史をつむいできたデザインに敬意を払い、現代のライフスタイルにあったデザインにリデザインされています。客室はいずれも、あたたみのあるグレイッシュカラーで構成されていました。ホテルライクな高級感を感じながらも、自宅のように安心してくつろぐ空間が広がっていたと思います。

Chihori Kunito (大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
大学・大学院で心理学・認知科学・色彩心理学などを学ぶ。学生時代は内装の色彩が人間の心理に与える影響や、肌がきれいに見える壁紙の色彩などについて研究。日本色彩学会 2011年学会大会にて発表奨励賞を受賞。2012年DNPグループに入社し、壁紙の企画デザインを担当。2016年より現在の部署にて、ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

DNPではホテルの客室扉にお使いいただけるELLIO、客室扉にお使いいただけるWSサフマーレなど幅広い製品・サービスをご提供しています。
ELLIOやWSサフマーレに関する詳細はこちらよりご覧いただけます。

  • *2025年3月時点の情報です。

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