生活空間インテリア・デザインレポート 話題の国内ホテル編 Vol.7

ご好評いただいている「デザイン トレンドレポート ホテル」。第7弾は名古屋、横浜、東京のホテルをご紹介いたします。ホテルのコンセプトやデザインの背景をご紹介するとともに、筆者視点でインテリアのポイントやコーディネートについてご紹介します。
※2024年11月時点の情報です。

ザ ロイヤルパークホテル アイコニック 名古屋

・中部地方の歴史と文化に触れられるアート作品

・コンセプトHistory、Present、Timeless を表現した客室

・陰影礼賛を表現したプレミアムフロア



Point of Materials
木質・石・和紙・ファブリックなど

ホテルコメント横浜関内

・螺旋階段を設えた開放的なロビー

・さまざまなタイプの客室デザイン

・曲線美を活かしたエレガントなインテリア



Point of Materials
木質・メタル・石・ファブリックなど

・デザインコンセプトは「劇場の舞台美術 (Stage Art)」

・映画や舞台の世界を表現した空間デザイン 

・華やかなアールデコ様式の装飾



Point of Materials
木質・石・金属・ファブリック・など

https://www.royalparkhotels.co.jp/ic/nagoya/

住所:名古屋市中区栄4-1-1 中日ビル24F
TEL: 052-269-1118
アクセス:名古屋市営地下鉄東山線・名城線「栄」駅、名鉄瀬戸線「栄町」駅から地下街で直結



名古屋・栄のシンボル的存在である「中日ビル」に「ザ ロイヤルパークホテル アイコニック 名古屋」が2024年2月20日に開業しました。コンセプトは「旅する、チュウブ」。客室はHistory/Present/Timeless 3つのデザインコンセプトで設え、美濃和紙や有松絞りなど伝統技術、中部産の木や石そして土を使ったアートや器、音や香りに至るまで、中部地方らしさを表現しています。設計・施工は株式会社竹中工務店が担当しています。

01-1. 中部地方にまつわるアート作品を楽しめるエントランスとロビー

画像左は1階エントランスにある岐阜県高山市の左官職人である挟土秀平氏の作品です。織田信長(金華山)、豊臣秀吉(聚楽第)、徳川家康(関ケ原)の所縁の地の土を使って、日出づる国の天下統一を目指す三英傑(花押)を表現しています。歴史の偉人が踏みしめていたかもしれない土を使った作品が、ダークな空間の中で美しく浮かび上がり、一気にホテルの世界観に惹きこまれます。画像右はロビーの写真です。ブラウンカラーの木質に包まれた、落ち着いた雰囲気の空間にもさまざまなアート作品が設えられています。

ロビーフロアにはギャラリースペースがあり、客室で使われている茶器のほか、三重県の瀧原宮神代杉を使用したウッドスピーカーなど多様な作品を鑑賞することができます(画像左)。
またロビーの奥にはティーラウンジが設けられています(画像右)。椅子に座って楽しめる立礼茶室で、カウンター天板は畳で構成されています。天井にはヒノキ材による木組みの天井装飾、そして壁面には上記と同じく挟土秀平氏の左官壁を見ることができます。

01-2. 3つのデザインコンセプトを表現する客室

全246室の客室は、History/Present/Timeless の3つのデザインコンセプトで設えられています。
下の画像はスタンダードフロアのHistoryで、三英傑ゆかりの地で、彼らの精神と文化を表現しています。客室内に大胆に設えらえた、水墨画のスクリーンは岐阜県鳥羽市の水墨画家である荒井克典氏が安土城を描いた作品です。スクリーンがゆるやかに空間を仕切り、ベッドルームとの間には木製チェアとテーブルがコーディネートされています。またフロア、壁面ともに明るい木質に包まれいて、空間全体から木素材のぬくもりを感じます。ベッドの左側の壁面には、天井までの高さがあるスライド収納が格納されていて、テレビや空気清浄機などアメニティが完備されています。家電製品を使用しない時は見せないように工夫したデザインでした。

続いて、下の画像はスタンダードフロアのPresentです。過去から受け継がれたものづくりの力強いエネルギーに触れ、中部の今を深く「識る」インスピレーションルームです。Historyに比べ、ややグレイッシュな木質に包まれ、スタイリッシュさも感じる空間です。History、Presentともに存在感を放っているマルチカウンターは、中部の職人技を活かした茶筒をモチーフにしています。三英傑が愛した茶の湯文化に由来したこのデザインは、名古屋のからくり技術を表現し、洗面ボール、冷蔵庫などさまざまな機能が収納された抽斗になっています。

下の画像はHistoryのコーナーツインです。客室全体が透け感のある柔らかいカーテンで包まれ、1日を通し、天気や時間帯によって、日本らしい感性である移ろいを感じられる空間でした。

ここからはTimelessのコンセプトを表現したプレミアムフロアをご紹介します。最上階32Fは、全室55㎡以上の特別フロアとなっています。陰翳礼賛の世界観を表現し、炎のように揺らぐ光と翳(かげ)の空間をイメージしています。
プレミアムツインの客室には真鍮鋳物のペンダント照明、伊勢型紙を張り込んだテーブル、飛騨家具の椅子、有松・鳴海絞のクッションがコーディネートされています。またベッドルームの後ろには洗面スペースがあり、障子戸を通し、光が柔らかに透過します。現代にも引き継がれている日本の感性や和のエッセンスを感じるインテリアになっていました。

スイートの客室(画像下)は、今までにご紹介した客室に比べ、ダークなカラーで空間がコーディネートされ、高級感をより感じるインテリアになっています。美濃和紙に包まれた寝室のヘッドボード、岐阜県産のトチを使用した一枚板のテーブル、椅子は飛騨家具、そして飛騨の間伐材から作られた鎖照明がコーディネートされています。そしてこの客室の一番の特徴は、寝室の奥に茶室が設けられています(画像右)。茶室の中にもスピーカーが設置され、Bluetoothで好きな音楽をかけながら、静かな時間を過ごすことが可能です。

続いて、ご紹介するのはアイコニックスイートです(画像下)。客室に入り、名古屋の絶景とともにまず目に飛び込んでくるのは、大きな石をそのまま脚部に使用した堂々とした佇まいのテーブルデザインです。三重県菰野町の菰野石を使用しており、その土地の力強さや歴史を感じさせます。またリビングスペースはフロアが下がっているため、外の景色をよりダイナミックに感じることができました。まさに中部エリアの歴史と今の風景の融合を感じることができる空間です。

アイコニックスイートのベッドルームは、ヘッドボードに中部産の木から作られた一枚板のスピーカーが設置されています。有機的な曲線を描いた折り上げ天井のデザインと、美濃和紙で包まれた壁面が間接照明で柔らかに包まれ、ぬくもりと安心感を得られる空間でした。

最後にご紹介するのはメゾネット スイート(画像上) です。上層階にリビング、ベッドルーム、下層階にダイニングスペースが設けられています。大きな窓ガラスで構成された空間は、名古屋の上空に没入し、贅沢な時間を過ごせる客室になっています。また寝室にはアイコニック スイート と同様に、一枚板のスピーカーが設置され、木質素材ならではの低音の深みを感じるサウンドを楽しみながらくつろげる空間を提案しています。

https://www.hotelcomento-yokohamakannai.jp/

住所:神奈川県横浜市中区不老町2丁目7−2
TEL: 045-222-0027
アクセス:JR京浜東北・根岸線「関内」駅南口より徒歩約5分、横浜市営地下鉄「伊勢佐木長者町」駅より徒歩約4分



2024年4月1日に開業した「ホテル コメント 横浜関内」は同月に開業した「横浜BUNTAI」と隣接し、便利に行き来できるよう設計されています。これらは横浜市関内・関外地区活性化ビジョンにおいて、みなと大通りの新たなシンボルロードに面する立地として、関内地区の賑わいを関外地区へと拡充させる役割を担っています。ホテルコメント横浜関内は全116室の客室を有し、外観デザインからインテリアの細部に至るまで曲面を連続的に配置。客室は11タイプのバリエーションに富んだ構成としています。インテリアデザインは株式会社トサケン、設計・施工はスターツCAM株式会社が担当しています。

02-1. 曲線美を活かした明るいロビー

ロビーは有機的な曲線を活かしたデザインに、さまざまなマテリアルが使われたユニークなデザインでした。2階のレストランに続く明るいメタル素材の螺旋階段が空間の特徴になっています。また丸みを帯びた形状の天井は木質素材に包まれ、窓ガラス側の壁面には見え方や光の当たり方によってカラーが変化する偏光色のミラーが設えられています。

吹き抜けの開放的な空間は、外界の光をたっぷりと取り込み、爽やかさな印象を与えると同時に、エレガントな印象の家具のコーディネートにより、ほっとした安心感を感じるインテリアになっています。

02-2. さまざまなタイプの客室デザイン

客室はバラエティに富んだ全11タイプ、合計116室を有しています。
下の画像はアリーナルームです。建物の角に位置するこの客室は有機的な曲線を描く間取りで、空間全体がエレガントな印象です。そのほか円形のルーバーや、ベッドルームとバスルームの間仕切り戸も曲線を描いた引き戸になっていました。

ワイドフォースルームは4名でも滞在できる客室で、2段ベッドが特徴の空間です(画像下)。横浜観光や近くのアリーナでのイベント前後に、家族や友人と楽しい時間を過ごしている様子が想像できる客室デザインです。2段ベッドは日本人の身体のサイズにあった設計がなされていて、2段ベッドでも安心して使用することができるようになっています。ミディアムカラーの木質に対し、ブロンズカラーの手すりが組み合わされていました。

こちらは広さ60m2を持つメゾネットルームです(画像下)。1階にはリビングスペースとバスルーム、2階にはシングルベッドが4台設けられています。ホワイトベースの明るく洗練された空間に、ブルーグリーンのファブリックが爽やかに映えています。

2階にあるベッドルームはユニークな形状のヘッドボードが空間のアクセントになっています。ホワイトカラーのストライプ柄の壁紙や、同じくストライプパターンの布張りのヘッドボードなど、空間をさりげなく広く感じさせるデザインの要素が見られました。

02-3. 開放的な空間のオールデイレストラン

ロビーフロアの螺旋階段を上がったところに位置するオールデイレストランの「ent eat」は、円形のバーカウンターを中心に、さまざまな集い方ができるテーブル、チェアがコーディネートされています。レストラン内にも明るいメタル素材が随所に使われていて、ロビーの空間デザインとの親和性を感じます。テラス席も充実していて、自分の好みや目的に合わせた場所でくつろぐことが可能なオールデイレストランとなっています。

https://www.mercure-tokyo-hibiya.com/

住所:東京都千代田区内幸町1丁目5−2
TEL: 03-3503-5051
アクセス:JR新橋駅 日比谷口より徒歩3分、東京メトロ銀座線/都営地下鉄浅草線 新橋駅 7番出口より徒歩3分、ゆりかもめ新橋駅より徒歩5分、都営地下鉄三田線 内幸町駅 A5出口より徒歩3分



内幸町平和ビルの一部を改装し、フランス・パリを拠点とするアコーのミッドスケールブランド「メルキュール」として、2023年12月19日に開業しました。メルキュールは、デザインや食を通して世界中の旅行者に体験いただく「ローカルインスパイア―ドホテル(地域のインスピレーションを大切にするホテル)」をブランドコンセプトとしてかかげています。メルキュール東京日比谷のデザインコンセプトは、「Stage Art(劇場の舞台美術)」。華やかな照明、緞帳、座席、そして映画のフィルムなどからインスピレーションを得たデザインが随所に散りばめられています。

03-1. 映画や舞台の世界に入り込んだようなロビーデザイン

ロビーに入ると華やかな空間が広がり、鮮やかなカラー・マテリアルで構成されたインテリアコーディネートを見ることができます。ホテルが位置している日比谷は、明治時代、鹿鳴館の設立を契機に華やかな社交と外交の中心地となり、日本の近代化の象徴となった場所です。その後、帝国劇場、日生劇場などの劇場、日比谷映画劇場など、多くの劇場や映画館が誕生し、日比谷は今なお日本の劇場や映画などの舞台を中心とするエンターテインメント文化の聖地として進化し続けています。このような背景から、ロビーは映画や劇場をイメージした空間デザインで、華やかなアール・デコ様式のコーディネートになっています。

舞台の緞帳を想起させる装飾や、まるで自分が舞台や映画の世界に紛れ込んだかのような感覚を味わえる空間でした。ホワイトとグリーンのマーブルで文様の三崩しのようなパターンで構成されたフロアに、煌びやかな印象のソファやチェアのデザインが美しく映えています。画像の右にある吹き抜け空間に設えられたアート作品は、パリ・オペラ座のエトワール(トップダンサー)の舞い踊る軌跡をイメージしています。

03-2. スタイリッシュな客室デザイン

メルキュール東京日比谷では3つの客室タイプ、合計178室を有しています。1989年から2022年まで営業していた第一ホテルアネックスの客室空間を活かした空間ですが、どの客室もリノベーション空間とは思えぬほど、コンセプトが体現されたデザイン性の高い客室デザインになっています。
客室フロアに到着すると映画館のようなダークな空間が広がります。ルームナンバーを示す照明は、映画のフィルムを想起させるデザインです。

下の画像はスーペリアキング(面積22m2)です。ディープグリーンをアクセントにしたスタイリッシュな空間で、家具、照明、ファブリックなど細部までこだわりとコンセプトを感じられるインテリアになっています。ミニバーはブラックとバーガンディーカラーのツートーンで構成され、ハンドルには、さりげなく月や星のモチーフを取り入れています。

ツインルーム(面積22m2)の客室は、窓際に小上がりを設けているのが特徴です。窓際に座り、日比谷の街並みを眺めながら、思い思いの時間を過ごせる場所になっています。プリビレッジルームは、はディープパープルをアクセントにした空間で、グレイッシュな木目のフローリングに桜模様のラグが映えています。

バスルームも、客室内のアクセントカラーに合わせたグリーンやパープルのタイルで構成されています。このように華やかなマテリアル、カラーが溢れたコーディネートですが、ベースとなる壁面や建具ディープなカラーで構成され、空間をひきしめているように感じました。

こちらはエグゼクティブ・スイート(面積44m2)の客室で、リビングルームとベッドルームがセパレートした間取りになっています。リビングルームの壁面には舞台衣装と女優たちをイメージした刺繍のアートが飾られています。リビングルーム、ベッドルームともに、フロアはダークカラーのヘリンボンパターンで構成され、マスタードイエローのファブリックやゴールドのメタルがアクセントになっています。空間全体はデコラティブな設えですが、天井がダークカラーで仕上げられており、スタイリッシュにすっきりとまとめられた印象でした。

ベッドルームの壁面には 、歌舞伎や能の衣装に用いられる文様や、舞台に用いられるアクセサリーをイメージしたデコレーションが施されています。窓際には、デスクスペースが設けられていて、機能性も考えられた空間です。

03-3. ゴージャス感漂うラウンジ、レストラン

プリビレッジおよびスイートルームに宿泊のゲストが利用できるエグゼクティブ・ラウンジでは、メルキュールのコンセプトである「ローカル・ディスカバリー(地域の発見)」の食体験や、ディナー前に軽く飲み物やおつまみを楽しむアペロなど、時間や気分に合わせて利用可能です。ロビー(画像下左)にはマリリン・モンロー、オードリー・ヘップバーンなどの歴史に名を刻む映画女優をイメージしたオブジェが飾られています。

ラウンジ内部は、アール・デコの時代の雰囲気があり、ディレクターズチェア、ハンギングスタイルのチェア、そしてワーキング用のキャスター付きチェアもあり、用途に合わせてくつろぐことが可能です。個性的な形状のコーヒーテーブルはカメラのレンズをモチーフにしているそうです。

随所にゴールドの素材が煌めき、ホテルのコンセプトを体感しながらラグジュアリーな時間が過ごせるゴージャスな空間になっていました。

地下にあるレストランLa Scène(ラ・セヌ)はフランス語で舞台の「シーン(場面)」を意味しています。ゲストの大切な人生の「シーン」でご利用いただきたいとの願いが込められています。空間デザインは日比谷野音をイメージし、テラス席も充実しています。木質素材で波打つ曲線を描いた壁面、藤素材の椅子や照明、フランス菓子のシャルロットのような形状をしたソファにはパターンがそれぞれ異なるファブリックを組み合わていました。さまざまな音楽が楽しめる野音のように、賑やかで楽し気なデザイン要素が詰まった空間でした。

まとめ&編集後記

今回はコンセプチュアルなホテルを名古屋、横浜、東京から1件ずつご紹介しました。インパクトがあるインテリアは、目に入りやすいカラーやマテリアルにフォーカスしてしまいがちですが、細部におけるデザインのこだわりや、空間としてのおさまりが非常に重要な要素になっていることを感じました。またホテルでの滞在・体験を通して、各ホテルがかかげるコンセプトを分かりやすく伝えつつ、そのホテルを実際に体験した人だけが感じることができる特別感の演出も不可欠です。日常を離れてホテルという空間やサービスをゲストに楽しんでもらおうというホスピタリティを空間デザインからも感じることができました。





Chihori Kunito (大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
大学・大学院で心理学・認知科学・色彩心理学などを学ぶ。学生時代は内装の色彩が人間の心理に与える影響や、肌がきれいに見える壁紙の色彩などについて研究。日本色彩学会 2011年学会大会にて発表奨励賞を受賞。2012年DNPグループに入社し、壁紙の企画デザインを担当。2016年より現在の部署にて、ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

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