<DNP×サントリー>
AIによる「校正業務改革」でもっと楽に!ミスを減らすには?
商品パッケージ・チラシ・カタログなどの印刷物の校正業務は、複数担当者による目視チェック・読み合わせなどを行う必要があり、時間・労力のかかる大変な作業です。また、ひとつの見落としにより刷り直しが発生してしまうこともあり、校正担当者にかかる心理的負担は非常に大きいものとなります。“校正作業をもっと楽にできないか”、“校正時間をもっと短縮できないか”、“ミスのリスクを減らすことはできないか”など、その業務に課題を持つ企業は多いのではないでしょうか。
2024年1月30日(火)~2月2日(金)に開催されたプライベート展示会「DNP THE SESSION 2024」では、DNPがサントリーホールディングス株式会社(以下、サントリー様)と一緒に取り組んできたAIを活用した「校正業務改革」を特別にご紹介しました。DNPとサントリー様が、校正業務の工数削減と品質向上をめざした取組みの背景やこれからの展望をご紹介します。
2024年2月16日公開
1.AIによる「校正業務改革」に取り組んだ背景と課題
サントリー様デザイン部では、お茶やコーヒー飲料といったさまざまな商品のパッケージデザインにおける誤字・脱字のないデザイン品質を担保する責任を持っています。印刷前の文字チェック作業を「校正」と呼びますが、デザイン部では年間1万件以上の校正を行っており、すべて1文字ずつ目視確認をしていました。目視での校正は時間・手間がかかる上、確認ミスが発生してしまうこともあり、より良い解決策を模索していました。
校正業務における課題
[課題1]工数負荷が高い
・複数担当者による読み合わせ・文字消込など、念入りなチェックが必要。
・修正があるたびに、修正カ所以外の部分も再度確認が必要。
[課題2]心理的負荷が高い
・商品回収につながるミスの場合、企業の信用低下や多額の費用が発生。
・食品のアレルギー表記をはじめ、細心の注意が必要。
これらの課題を解決するため、サントリー様デザイン部では「校正業務改革チーム」を立ち上げ、校正における工数削減と品質向上に向けた取組みをスタートしました。印刷データを機械的に校正する仕組みはなく、実現するためには印刷データから文字を読み取る技術、そして読み取った情報が正しいかをチェックする技術が必要となります。そこで、DNPの画像処理技術とAI技術を活用することはできないかと、両社での検討が開始しました。
サントリーホールディングス株式会社 デザイン部 高橋 優樹 様 |
- AIを活用した新たな校正の仕組みを作る
2019年に校正業務改革チームを立ち上げ、主要メンバーとして校正業務の工数削減と品質向上に取り組んできました。AI技術を活用した新たな校正の仕組みを作るため、AIの精度や使い勝手について繰り返しフィードバックを行い、品質の安定化や効率化を実現しました。
今後、業務改善によって生まれた時間を活用し、お客様に喜んでもらえるような商品開発にも取り組んでいきたいと思っています。
2.DNPとサントリー様で実現した「校正業務改革」
長年DNPは印刷会社として、多くの企業の印刷物を手掛けてきました。そのためデザイン制作・画像処理・校正に関する知見・ノウハウを多く有しており、紙面や画像に記載された文字をテキストデータへ変換するAI-OCR(※)の研究・開発にも取り組んできました。AI-OCRは、目視確認・手入力で行われてきた紙書類の読み取り業務を効率化する手法として注目され、DNPでも手書き申込書類のデータ化などに活用してきました。
- ※AI-OCRとは、OCR(Optical Character Recognition/光学文字認識)にAI技術を取り入れ、さまざまなフォントや手書き文字を正確に認識できるようにした技術。レシートや名刺などを撮影してデータ化する際などに利用されている。
サントリー様では、印刷用デザインデータを元原稿と照らし合わせることで校正業務を行っていましたが、校正業務を自動化するためには、デザインデータ上の文字を正しく読み取る画像処理技術の精度向上が必要不可欠でした。正しく文字を読み取れないと、結局目視での確認が必要となってしまい、作業効率化を実現することができません。また、飲料パッケージデザインは特殊な形状や細かい文字も多くあります。このようなデザインデータからも文字を正確に読み取るため、数百を超えるサンプルデータでの検証とフィードバックを繰り返し、画像処理技術を向上させました。
両社で「校正業務改革」を話し合っていく中で、校正業務の改革はほぼすべての企業が持つ共通課題であり、社会的課題であるという認識が生まれました。2019年5月からは、飲料・食品メーカーを中心に36社と合同検証を実施し、さまざまな企業で制作されるパッケージのデザインや形状をテストし、AIの精度改善等を繰り返し、どのくらい校正業務を効率化できるか検証を進めました。そしてようやく2021年「DNP AI審査サービス™(校正・回覧業務)」としてサービスをリリースしました。
【参考】ニューノーマルでの働き方改革を推進するAI審査サービスを提供開始
大日本印刷株式会社 第1PFサービスセンター デジタルトラストプラットフォーム本部 菅澤 重仁 |
- 校正担当者の安心できるパートナーとなる
AI審査サービスは構想段階からサントリー様にご協力いただき、「校正業務改革」というビジョン実現に向けて開発を進めてきた思い入れの強いサービスです。サントリー様のデザイン制作のノウハウと、当社の持つDTPや画像処理のノウハウ、それぞれの強みを活かすことで、現場ニーズに即したサービスを実現することができました。
今後、生成AI等の技術トレンドも活用し、校正担当者の安心できるパートナーとなるサービスにしていきたいと思っています。
3.「校正業務改革」のこれからの展望
開発に約4年の歳月をかけ、2023年1月からサントリー様デザイン部に「DNP AI審査サービス(校正・回覧業務)」をテスト導入しました。導入により、校正業務の品質安定化・スピードアップを実感することができましたが、まだ課題や改善点はあります。
現状は、目視確認とAIを組み合わせたハイブリッドな方法で校正を行っていますが、さらにシステム改良を進め、最終的には目視確認を必要としない運用をめざしています。また、ペットボトルパッケージだけでなく、紙パッケージや段ボールなどにも対象を拡大し、他部署へもこのシステムを導入していくことも計画しています。現在かかっている校正時間6,000時間の約85%にあたる5,000時間を削減することを目標に、業界標準のAI校正サービスを実現するために、今後も継続的に取り組んでいきたいと考えています。
AIの精度向上はもちろん、システムの使いやすさもバージョンアップを重ねています。テスト導入中にUI/UXに関する改善要望をヒアリングし、少しでも操作性が良くなるように工夫をしています。校正は非常に負荷の高い業務であるため、少しでもストレスがかからないような作業環境を提供していくことも非常に重要となります。
導入効果見込み
・校正にかかる工数の50%~75%削減(年間約3,000時間削減)
・ミス発生のリスクの大幅減(AIは理論上125年に1回発生)
4.まとめ
校正業務はその多くが人手に依存しており、効率化や人的ミスの低減が求められています。例えば、商品パッケージの制作時には、各業界で遵守すべきルールのほか、ロゴやマークの表示方法など企業独自のルールに準拠する必要があり、社内外の多くの人々が部門を横断し校正業務に携わっています。
「DNP AI審査サービス(校正・回覧業務)」は、AIを用いてさまざまな印刷物の表記ルールチェックや誤字・脱字チェックなどを行います。本サービスを利用することで、すべての内容をひとつずつ目視チェックするのではなくAIがアラートを挙げたポイントを中心に人がチェックを行う形とすることで、校正業務改革を支援しています。また、AIによる作業効率化だけでなく、修正履歴や進行状況もシステム上で確認できるため、ペーパーレス化や業務の見える化も同時に実現しています。
サントリー様との共創により始まった当サービスは、飲料食品業界に留まらず、金融・家電メーカー・自治体・教育などさまざまな業界・団体で活用が広がっています。課題やニーズをヒアリングする中で、多言語対応、景表法・薬機法・食品表示法といった遵守すべき法観点のチェック、表組みのチェックなど、用途に応じて求められるチェックに対応すべく機能拡充をしています。また、生成AIなど最新の技術も活用し、今後、さらなる校正時間の削減・人的ミスの削減をめざし、校正業務改革を加速させていきたいと考えています。
【参考】AIで校正・校閲の省力化をするサービスに文法チェックや多言語対応の機能を拡充
自社の校正業務に活用できるのか・どのくらい作業が効率化できるのか・操作性を見てみたいなどご質問・ご要望がございましたら、PoCによる効果検証やデモ画面もご用意しておりますので、ぜひお問合せください。