“仕切ることでつなげる”「インターフェンス」開発プロジェクト 【後編】イノベーションを加速するDNPの協業パートナー
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気配を伝えながら空間を仕切ることで、人と人、人と場、人と街に“緩やかなつながり”を生むネットフェンス(ひし形金網)「インターフェンス」の開発プロジェクトは、DNPと共和鋼業株式会社、近畿大学の3者で協業しています。プロジェクト発足の経緯やDNPとの協業の感想、今後の展望を、共和鋼業の森永耕治社長と、同社をサポートする株式会社IPディレクションの土生哲也さんにうかがいました。
目次
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左から
共和鋼業株式会社
森永 耕治(もりなが こうじ)様
株式会社IPディレクション
土生 哲也(はぶ てつや)様
「気配のつくりかた」展で思い浮かべた“ひし形金網”
Q. お二方はもともと、どのような問題意識をもっていたのですか。
森永耕治社長(以下、森永) 当社は創業以来、ひし形金網をつくり続けてきました。線材でひし形に網目を編んだ金網のことで、皆さんも一度は、公園などで緑色のこの製品を見かけたことがあるのではないでしょうか。
ひし形金網は一般の方にもよく認知されていますが、現状はメッシュフェンスのイメージが強く、硬くて緑色、そんな印象しかないことが課題でした。実はこの製品は、色々な色があり、柔軟性があるので巻いて持ち運ぶこともできます。編み物なので、1本ずつ違う色を入れることもできます。そういった特長を生かせば、ひし形金網の可能性はもっと広がるのではないかと考えていました。
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土生哲也さん(以下、土生) 私は弁理士として中小企業の知的財産に関わり、支援する仕事をしています。ただ、特許や商標を取得しただけでは、中小企業のビジネスをより良くすることは難しいとも感じていました。何か新しい要素が必要だと考え、武蔵野美術大学の修士課程でデザインを学び、デザイン経営(*1)と知財の知識を組み合わせて、新しい中小企業支援のあり方を探ろうとしていたのです。
*1 デザイン経営=デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法。
2021年に開催した、デザイン経営と知財というテーマで中小企業を支援するプログラムに、大阪府の中小企業約15社に参加いただいて、そこで出会ったのが共和鋼業の森永さんです。ひし形金網という、日常に溶け込み、そこに在ることすら意識しないようなものを活性化させようとしている。すごく面白いと思いました。
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Q. 2021年開催の「気配のつくりかた」展をきっかけに、土生さんからDNPに、協業のお声がけをいただきました。その際の印象をお聞かせください。
土生 当時私は武蔵野美術大学に通っていて、その市ヶ谷キャンパスの図書館が「DNPプラザ」
(DNPのオープンイノベーション施設)の地下1階にあったのです。図書館に立ち寄った際、偶然「気配のつくりかた」展を観覧しました。
その観覧中、ふと、以前森永さんに見せてもらった一枚の写真が思い浮かび、似ているなと思いました。靴屋の店内を仕切る金網に日差しが当たって、その影が流れていくように伸びている写真です。展示では柔らかなファブリック(布)が使われていましたが、金網はもっと強度があり屋外でも使えます。ソフトなものとハードなもので、バリエーションが出せるのではないかと思い浮かびました。そこでDNPさんに連絡を取ったら、返事をいただいたのです。
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森永 返事があったと聞いて驚きましたが、当社としても「ぜひやってみたい、お願いします」と。
土生 私の中では「気配のつくりかた」展のコンセプトと共和鋼業のひし形金網はうまくマッチしそうだという確信めいたものがありました。かねてより、“中小企業と大手企業が手を組んで新しい価値をつくる”ことに挑戦してみたかったので、興味を持っていただけて、とても嬉しかったですね。
企業の大きさを超え、目線を合わせて協業する“理想的な関係”
Q. 「インターフェンス」開発プロジェクトはどのように進んでいますか?
森永 プロジェクトの開始当時はDNPとアイデアを出し合い、DNPからのやれそうなこと・やりたいことのアイデアに対して、当社で試作してフィードバックするという形で進めていました。これまであらゆる金網を編んできているので、その際の端材がサンプルとして社内に蓄積されているのです。そうした端材で臨機応変に対応できるのが当社の特長で、試作のスピードは他社と比較しても非常に速いと思います。
土生 共和鋼業の大きな強みは「ほぼすべてのひし形金網を編める」ということ。機械設備が充実していて網目や線材のバリエーションが豊富なのです。これまでの実績があるから、どんなアイデアも想像力をさらにふくらませて、端材をもとにすぐ試作できる。その環境は共和鋼業ならではの強みで、簡単には真似ができないと思います。
今回のプロジェクトは、最初から「インターフェンス」というコンセプトがあって、それを実現するためのメンバーが集まったというわけではありません。実現したい世界観ややりたいことをじっくりと議論するところから始まりました。
野球ができるグランドって、ひし形金網が張ってありますよね。多くの人は、金網の向こうにいるプレイヤーを見ているのであり、金網のことは見ていません。存在が意識されていない。でも実際は、安心して野球ができる空間を、視界を遮ることなく金網がつくり上げてくれているんです。
「気配のつくりかた」展でDNPが展示していた「仕切られているけれども、お互いのつながりは常に感じられる」という世界も、グランドの金網と同じ考え方だと思っています。それをより洗練させたカタチをDNPと一緒につくれないかと議論し、立ち上がってきたものが「インターフェンス」です。
あるものをつくるために役割分担したり、発注側・受注側に分けたりするのではなく、自分にできることを出し合って、新しいものをつくっていく。このモノづくりのプロセスが、これからの世の中に必要だと思っています。
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Q. DNPと協業して、どのような感想をもちましたか?
森永 プロジェクトのDNPのメンバーには芸大や美大出身の社員が多く、同じモノづくりの企業でありながら、私にはこれまであまり接点がない人たちでした。着眼点が全然違うので非常に刺激的ですが、同時に、置いて行かれないようにもっと勉強しなければと感じています。
土生 大企業は変わってきている、ということを実感しました。DNPのように、技術を含めて非常に多くの経営資源を持っている大きな企業が、私たち中小企業と目線を合わせ、一緒に考えている。下請けではなくパートナーとして協業していることに、大きな希望を感じます。プロジェクトを大きくスケールしたり、社会実装したりする時に大企業の力は非常に心強いですし。
とかく中小企業は、自社の知財を守ろうと閉鎖的になりがちです。今までは「大手に提案しても無駄、アイデアを取られてしまうだけだ」という諦めの雰囲気があったことも否めませんが、私はこれからの中小企業はもっと大企業にぶつかっていくべきだと考えています。そして大企業の皆さんも、未来の社会的な意義を見据え、独自の技術やアイデアを持っている中小企業と積極的に協業してほしいと思っています。
近畿大学での打ち合わせで印象的だったのは、DNP側のチームリーダーである北村謙治さんが自社のアイデンティティやビジョンを明晰に説明されていたことです。やはり大きな企業のリーダーはこのように自社について語ることができるのだと感服しました。その話によって目指すべき方向が明確化され、あらためて参加メンバーの意識も一つになった気がします。
広がる「インターフェンス」の可能性
Q. 現在「インターフェンス」開発プロジェクトは、2025年に開催される大阪・関西万博の「ベストプラクティス」に応募しています。万博で期待することをお聞かせください。
森永 “金網に加飾する”という「インターフェンス」のアイデアは国境を越えられると思います。また、それを実現できるフィールドが万博なのではないかと期待しています。
土生 今回DNP・近畿大学・共和鋼業と一緒に提案することで、全国の中小企業がもっとオープンになって大企業と対等な目線で知恵を出し合い、新しいものをつくっていこうというメッセージになるといいなと思っています。
Q. さらにその先の展望は?
森永 まだ公開はできませんが、複数のアイデアを進めていて、どれも手応えがあります。オフィシャルな場で成果を出し、ぜひ事業化を実現したいと考えています。
土生 さまざまな製品や利用方法を開発して、サービスとしての幅を広げていくつもりです。例えば、既存の古い金網をグレードアップできるとか、金網に加飾する作業を一般に開放してイベント化するとか。「色々な使い方ができるから、この仕切りはひし形金網にしようよ」という提案も出てくるでしょうし、これまで想定していないような用途やビジネスモデルが今後出てくるかもしれない。「インターフェンス」という製品を通じて、新たな価値を生み出していきたいですね。
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各者の強みを持ち寄り、さらなる挑戦へ!
大日本印刷株式会社 生活空間事業部 永井 遼
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昨今は、迅速に実証を進めて開発のスピードを上げる「アジャイル開発」が注目されていますが、大きな企業でモノづくりのプロトタイプのスピードを上げることは大変だと日々感じています。それに対して、共和鋼業さんは非常にリアクションが速く、相談した内容をすぐ形にしてくださることに驚きました。森永社長自身がデザインの考え方を深く理解されており、専門的な話しもすぐにわかっていただけることも大変心強いです。
そして土生さんには、今回のプロジェクトにお声がけいただいたこと、いつも高い視座で議論をまとめていただいていることに、大変感謝しております。私自身はこれまでのキャリアで、生活空間関連事業で内外装材の表面をデザインするサーフェスデザイン部門に特化してきたため、比較的“ミクロに思考する”傾向があります。それが強みでもありますが、土生さんのように俯瞰で考えてくださる方がいることで、チーム全体の視座も上がっていくと感じています。
今後も各者の強みを生かしながら、「インターフェンス」を活用して未来の街づくりを考え、実現していくプロジェクトを推進していきます。
【共和鋼業の森永社長に訊きました! 動画1分】
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