eスポーツのイメージ写真に今回のテーマ「eスポーツ」の文字を掲載

世界で、日本で急成長している「eスポーツ」ってなんだ?

世の中で話題のキーワードをDNPのプロフェッショナルが解説する「トレンド講座」。今回のテーマは「eスポーツ」です。eスポーツは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、スポーツ競技として、主にコンピューターゲームで対戦する際の名称です。2022年には日本のeスポーツファン(試合観戦・動画視聴経験者)が700万人に達しており、2023年には国内市場が130億円規模になると見込まれています。このeスポーツ市場の最新動向と今後の発展について、DNPでeスポーツ事業を手がけるABセンターの山田有成が、解説します。

目次

日用品・食品・飲料等の消費財メーカーや、アパレル・エンタメ・医薬・金融など、多種多様な業界の企業のマーケティング課題の解決に従事した後、“サービスデザイナー“として社内外の事業開発・ビジョン開発等の“共創型イノベーションプロジェクト“を手がける。その後、新規事業開発のリーダーとして、eスポーツの事業開発を推進。興行としてのeスポーツだけではなく、競技者を主役とした競技文化の発展をめざしている。

2023年には約130億円規模! 急成長する国内eスポーツ市場

コンピューターゲーム(以下:ゲーム)を使用した対戦をスポーツ競技として捉える「eスポーツ」。広く捉えると、「自宅で友人たちと対戦ゲームを楽しむ」ことも「eスポーツ」と言えますが、一般的には、鍛え上げた技術で高度なプレイを連発する「プロプレイヤー」と多くの人が観戦できる「大会」、そして彼らの対戦を観て熱狂する「ファン」の3つのポイントがあるものが「eスポーツ市場」と捉えられています。

ノートパソコンを前に置き、インタビューに答える山田有成

その機運が国内で高まり始めたのは2000年代初頭のこと。通信環境の進化に合わせてゲームソフトにオンライン対戦機能が実装され、ゲーム関連企業が主催する大会や有志の大会が積極的に開催されるようになったことで、プロプレイヤーが登場し始めました。

また、現在で言うYouTubeなどの動画共有サービスの普及もあいまって、大会の模様やゲームプレイを配信する機会が増え、特定の大会やプレイヤーにファンが付き始めました。「eスポーツ」という言葉が使われるようになったのもこの頃です。

その後、eスポーツのイベントが持つ「若年層にアピールできる」「集客力・拡散力が高い」といったマーケティング価値が注目されるようになりました。ここ数年はコロナ禍をきっかけのひとつとして、“巣ごもり”生活のなかでゲームをする機会も増え、自動車や食品等のメーカー、アパレルなどの大手企業がスポンサーとして参入するようにもなってきました。

2021年には、スポンサー料・放映権・広告・チケット・物販などを合計した世界のeスポーツの市場規模は1000億円を突破(*1)。日本でも、2023年には130億円に迫ると予測され、経済産業省が成長産業として推進しています。

  • 1 出典:角川アスキー総合研究所「グローバル eスポーツ&ライブストリーミング マーケットレポート2021」

グラフ1/日本eスポーツ市場規模

出典:一般社団法人日本 e スポーツ連合/角川アスキー総合研究所「日本eスポーツ白書2022」

グラフ2/2021年日本eスポーツ市場規模 項目別割合

出典:一般社団法人日本 e スポーツ連合/角川アスキー総合研究所「日本eスポーツ白書2022」

ブーム牽引の立役者は“ゲーム受容世代”

次に、最新の動向をみてみましょう。2022年6月に埼玉スーパーアリーナで行われたトーナメント大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2 Playoff」では、2日にわたって行われた大会の総来場者は2万6千人を突破しました。
国内eスポーツ市場の最多動員記録を達成し、オンラインでの同時接続視聴者は、合計で50万人を超えました。

eスポーツ大会の2021年の日本向け配信実績は年間1500件以上、延べ視聴時間は35億分以上(*2)。大会は基本的にゲームタイトルごとに開催され、「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2 Playoff」の名称にもなっている「VALORANT(ヴァロラント)」をはじめ、「‎Apex Legends(エーペックスレジェンズ)」や「League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)」「Fortnite(フォートナイト)」 「ストリートファイター」「ぷよぷよeスポーツ」といった人気タイトルをプレイする大会が数多く生まれています。

  • 2 出典:eスポーツ カレンダーサイト「TAIYORO」

eスポーツ競技種目例(ゲームは代表的なものを掲載)

シューター 格闘 スポーツ 陣取り
1対1やチームを組んで銃などの武器を持って戦い相手を倒す。
・フォートナイト
・エーぺックスレジェンズ
・ヴァロラント
キャラクター同士で格闘の技を繰り出し相手を倒す。
・ストリートファイター
・大乱闘スマッシュブラザーズ
実在したスポーツを題材にした対戦や車・飛行機などのレース。
・プロ野球スピリッツ
・ウイニングイレブン
・グランツーリスモ
チームに分かれて陣地を争い、互いの本拠地をめざす。
・リーグ・オブ・レジェンド
・Dota2
戦略 カード パズル
軍隊などの指揮官になり、命令を出しながら敵と戦う。
・スタークラフト
・クラッシュ・オブ・クラン
オンライン上でプレイする対戦型デジタルカードゲーム。
・ハースストーン
・シャドウバース
画面上のコマ配置を変え、コマを消すようなパズル要素を競う。
・ぷよぷよ
・パズドラ

こうした大会を視聴して楽しんでいる人は現在、国内700万人以上で、プロバスケットボールのBリーグを超える規模。2025年には1200万人に達し、Jリーグのファン数を上回ると見られています。

グラフ3/日本eスポーツファン数(試合観戦・動画視聴)

出典:一般社団法人日本 e スポーツ連合/角川アスキー総合研究所「日本eスポーツ白書2022」

こうした急成長の背景には、ゲームに対する意識の変化があります。ファンの中心となる30代以下の生活者にとってゲームは、ネガティブな印象を持っている親世代も減り、幼い頃からテレビやマンガと同じ感覚で親しんできた身近な存在。生活に欠かせないアクティビティであり、友だちづくりに欠かせないコミュニケーションツールでもあります。

この“ゲーム受容世代”の年齢構成が上がっていくにつれ、近い将来、フィジカルスポーツの市場規模を超えるようなビッグコンテンツとなる可能性を秘めていると言えるでしょう。

課題は「個人で楽しむ人」と「プロとして活動する人」をつなぐ中間層の開拓

拡大を続ける日本のeスポーツ市場ですが、一過性のイベント・興行ではなく、私たちの生活に根付かせて、持続的な成長につなげるためには解決すべき課題もあります。

eスポーツは、ボクシングやゴルフなどのように「プロ」になる明確な規定が十分に整っておらず、一般のゲーマーからアマチュアプレイヤー、そしてプロプレイヤーへと育つ環境がまだ整っているとは言えません。

個人で楽しむゲーマーが2021年時点で約5500万人(*3)、eスポーツのファンが700万人以上いるのに対し、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が発行するプロ認定ライセンスを取得している人はわずか300名弱ほど。ライセンスを取得していなくてもプロとして活躍している人気のプレイヤーもいますが、個人で楽しむゲーマー層の厚さに対してプロプレイヤーはまだ少なく、その間をつなぐ中間層=アマチュアプレイヤーの育成が重要となっています。

私たちは、一般のゲーマーの中にもプロプレイヤー候補となりうる人が数多くいると思い、そうした人たちを大会に出場するアマチュアプレイヤーに引き上げるためにも、場(大会)づくりや、競技団体とプレイヤー、ファン、そして企業をつなぐ基盤づくりが必要だと感じて、さまざまな取り組みを進めています。

  • 3 出典:角川アスキー総合研究所「ファミ通ゲーム白書2022」

eスポーツ競技ピラミッドの理想と現状

独自のノウハウを掛け合わせ、市場の持続的成長をめざすDNP

マンガ等の出版物やアニメ、ゲーム等の各種IP(知的財産)ホルダー(保有者)との強固なネットワークを構築し、企業の広告・販促・イベント支援等の実績を重ねてきたDNPは、そこで得たノウハウなどを掛け合わせ、eスポーツ市場の持続的な成長を支援しています。具体的な取り組みは、大きく分けて、<場の提供><イベントソリューションの提供><ゲーム文化の普及・啓発活動>の3つがあります。

まず、一般ゲーマーを大会に出場するアマチュアプレイヤーに引き上げ、中間層の空白を埋めるために、誰もが気軽にeスポーツ大会に参加できる<場の提供>が欠かせません。

この分野では、プロ・アマを問わずに参加できるオンライン対戦イベントで、総再生数約120万回(*4)を記録した「Cypher CUP(サイファーカップ)」を主催しました。

また、「Business person to e-sports(ビジネスパーソンも e スポーツへ)」をコンセプトに、社会人が個人でもeスポーツを楽しめるよう、社会人プレイヤーを対象としたeスポーツリーグ「B2eLEAGUE」の立ち上げや、その前身となる「eスポーツ企業対抗戦®」(*5)の開催など、アマチュアプレイヤーが参加しやすいオープンな大会を積極的に企画・運営しています。

  • 4 公式配信に加えて参加選手の配信も含めた閲覧回数です。うち公式配信の再生回数は約30万回。
  • 5 「eスポーツ企業対抗戦」は株式会社クリーク・アンド・リバー社の登録商標です。

「憧れを身近にする」をコンセプトにアマチュアプレイヤーとプロ・ストリーマーが混在して優勝をめざす、APEX大会「Cypher CUP」を開催(2021年)。

さらに、大会運営を支援する取り組みとして、eスポーツ会員情報管理サービス「DNP eSports PlayerPass(プレイヤーパス)」を提供しています。

フィジカルスポーツで多くの実績がある「DNPスポーツ情報管理サービス」をeスポーツ向けにカスタマイズし、eスポーツのプレイヤーと大会情報の一元管理や、大会の開催と参加を容易にするプラットフォームサービスを構築しました。

リーグ等の試合記録の管理、大会情報の提供といった各種機能を提供し、大会主催者・プレイヤー・ファン・コンテンツホルダー・協賛企業などが相互にアクセスできる環境をめざしています。

eスポーツ会員情報管理サービス「DNP eSports PlayerPass」の機能

「DNPスポーツ情報管理サービス」の概要図

<イベントソリューションの提供>の分野では、ビジネス規模を広げていくため、eスポーツに興味がある人々にアプローチしたい企業に向けて、各種大会やイベントの企画・運営を行っています。

これまでの実績としては、トヨタ自動車が運営するクルマのテーマパーク「MEGA WEB<東京>」と全国22の自動車販売店をオンラインでつないで来店促進を図った「グランツーリスモ」大会や、北海道の新千歳空港で、eスポーツを通じた“空港起点”の地域活性化に産官学連携で取り組んだ「北海道エアポートeスポーツチャレンジ」などがあります。

トヨタ自動車主催の「グランツーリスモ」大会の様子(2019年)
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さらに、<ゲーム文化の普及・啓発活動>の分野では、市場全体の底上げを図っていくため、eスポーツが持つ社会的価値をもっと多くの皆さんに知っていただく取り組みを進めています。

例えば、年齢や性別、障害の有無などに関係なく誰もが平等に参加できることを活かし、DNPでは2019年から社内コミュニケーションの取り組みとしてeスポーツ大会を開催しています。

コロナ禍にあって社員の運動会などのリアルイベントができなくなるなか、オンラインで全国の拠点をつなぎ、社員と家族が一堂に会して交流を楽しみました。家族で一緒に参加できて、場所を選ばずに楽しめるeスポーツを社内コミュニケーションの活性化に活用するこうした動きは各社に広がっていて、私たちも社内での知見を各企業への提案に活かしています。

インタビューに答える山田有成

DNPは、社内eスポーツチーム「Ichigaya Gaming Lab(IGL)」を2020年3月に発足し、約40名の社員が参加。他企業のチームとの交流戦や大会への参加、メディア出演、チーム主催イベントの開催等を通じ、プレイヤー視点での普及・啓発に取り組んでいます。
Twitterアカウント https://twitter.com/IchigayaL

今まさに飛躍しようとしているeスポーツ市場に携わる立場として、整備すべきことは多いのですが、会社としてチャレンジできることに、とてもワクワクしています。

ゲームを「プレイ」するだけではなく、「観る」文化が広まったことは、ビジネスとして大きな転換点に来たということだと思います。このチャンスを一過性のものに終わらせないよう、DNPならではのアセット(資産・強み)を上手に活用し、長期的な視点で取り組んでいきます。

今回のトレンドのまとめ

  • 記載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承ください。