ノーベル化学賞の吉野彰理事長に訊く【後編】全固体電池開発のLIBTECとDNPの意外な関係
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これは、リチウムイオン電池の開発で2019年にノーベル化学賞を受賞した技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)の吉野彰理事長(旭化成名誉フェロー)と、LIBTECに出向していたDNPの研究開発センター・加賀田翼のツーショット写真です。実はこの写真、とても特別なタイミングで撮影されたものなのです。そのヒミツはこの原稿の後半で。
インタビューの前編では、リチウムイオン電池が地球温暖化など環境問題へのソリューションとなりうる背景や今後の可能性をうかがいました。この後編では、LIBTECで行われている全固体電池への取り組みや、LIBTECと接点を持つDNPの印象などについてうかがいます。
目次
オールジャパンで取り組む、次世代電池開発
Q
:次世代電池として研究・開発されている「全固体電池」とはどのようなものでしょうか。
吉野:従来の電池は、プラス極とマイナス極のイオンの伝導を担う電解質として液体を用いるため、その蒸発や分解、液漏れといった問題が常にありました。
全固体電池はその電解質が固体となるため、液漏れの心配がなく、安全性が格段に向上します。また、耐久性もおそらく向上するでしょう。
近年、電気自動車(EV)の普及に伴い各国で開発が活発に行われており、ここLIBTECでも取り組んでいるところです。
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Q
:理事長をなさっているLIBTECについて、教えていただけますか。
吉野:もともとはリチウムイオン電池とその材料に関わる国内の企業を中心とした研究組合として、2010年4月に大阪で設立されました。
DNPもメンバーの1社ですが、材料メーカーそれぞれが自前で電池の研究・開発を行うのは難しいため、各社が開発している材料を共通で評価するという目的で始まりました。
そこで、各社の持ち込み材料を使って製造したリチウムイオン電池で、電池特性や安全性の評価、分析・解析を行い、その結果に基づいてコンサルティングを行ってきました。
現在、組合員として自動車・蓄電池・プロセス・材料のメーカーなど29機関が参加しています。
全固体電池のプロジェクトは、2018年に24機関でスタートさせました。
ボトルネックとなる課題を解決する要素技術を確立しつつ、電池のセルのプロトタイプを用いて新材料の特性や量産プロセス、EV搭載時の適合性を評価する技術の開発を手がけています。
大学や公設の試験研究機関にも参画いただき、京都大学の革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発(NEDO RISING2)や大阪府立大学・横浜国立大学の次世代型高容量蓄電池の研究開発事業(JST ALCA-SPRING)といった外部プロジェクトとも連携して、まさにオールジャパンで全固体電池開発に取り組んでいます。
会社や業界を超えた協業を実践し、人的ネットワークによるさらなる連携も
Q
:LIBTECで研究に取り組むメリットは何でしょうか。
吉野:全固体電池の実用化に向けた技術は、やはりこれからのものですので、それを固めていくには、各者の立場や特徴、強みをふまえて取り組み、力を結集していくことが大切です。
ただし、当然競合する面もありますので、共通基盤というべき“協調領域”をもって進め、それ以外の領域は各者の自由競争というスタイルをとっています。
自動車・蓄電池・プロセス・材料等というサプライチェーン全体で協調し合える場というのはたいへん貴重なものです。
私自身、かつてリチウムイオン電池の研究・開発で随時、他者の機械や技術を活用させていただくなどして、効果を上げてきた経験があります。
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また副次的効果として、ここで培われる人的ネットワークも大きいでしょう。各者から約2年単位で出向メンバーが入れ替わるなかで、研究員同士の絆ができるのです。
LIBTECで一緒にチャレンジした時間や経験が糧となって、より深く本質的な連携が行えるようになるはずです。10年後、20年後が楽しみですね。
Q
:吉野理事長とDNPの関わりはいつ頃、どのような形で始まったのですか。
吉野:DNPとはLIBTEC設立以前に、奥下正隆さんという包装部門の開発者とのお付き合いから始まりました。
奥下さんは会社の枠を超えて精力的に行動される方で、リチウムイオン電池の包装材に取り組みたいと飛び込んでこられたんですね。この方がいたから今のリチウムイオン電池用バッテリーパウチができたといえます。
もともとDNPは、新しい素材や技術を用いて、使い勝手が良く長期保存や物流に適した食品などのパッケージ開発の実績があります。
1980年代に発売された果実飲料は、アルミを使用したラミネートパウチに充填し、ストローを刺して飲むというスタイルを実現しました。
また、高温・高圧で殺菌処理するレトルトカレーなどのラミネートパウチの技術も持っています。特に食品の長期保存には、内容物に応じて低温や高温でも、ある程度の時間の耐久性を担保できる技術力が必要とされています。
こうした難易度の高い分野にあえて挑戦するというのは、DNPらしいチャレンジ精神のあらわれではないでしょうか。
特定領域に偏らない、多機能さがDNPの持ち味
Q
:DNPは、LIBTECにも設立時から参画していますね。
吉野:そうですね。これまでLIBTECに出向されていた山崎昌保さん、加賀田翼さんも実直な、しっかりした開発者です。
たとえば山崎さんは、電解質の数ミクロンという1つの粒子に電極を差し込み、充電や放電を行う技術をLIBTECで完成させてくれました。これにより、粒子の特性を余すところなく電池に活かせるようになりました。
技術的に高難度でしたが、彼だから実現できたといえます。
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DNPは、材料メーカーか加工メーカーのどちらかというよりは、どちらの機能も併せ持つ、絶妙なバランスの会社に思えます。
社員の方たちも、多機能な人が多い印象ですね。
純粋な材料メーカーは、研究者も触媒や合成などの特定分野で強みを発揮されますが、DNPはもっと幅広く、ニーズとシーズをうまくつなげられるような方が多いのではないでしょうか。
Q
:今後、DNPと一緒に取り組んでみたいことはありますか。
吉野:ラミネートシールの長期にわたる安全性を担保する検査手法の確立でしょうか。
EVに使うことを考えると、10年間、20年間も安全が確保されなければなりません。それを現時点で保証できるような検査手法が今はないのです。
これまでの実績をふまえ、DNPにはこれからも期待しています。
吉野理事長とLIBTECで研究を共にしたDNPの社員に、理事長との思い出を聞きました。
研究開発センター:山崎 昌保(2010年8月~2015年3月にLIBTEC出向)
吉野理事長には、2010年8月に出向研究員としてLIBTECに赴任して初めてお会いしました。
リチウムイオン電池の発明者の元で電池の勉強ができるということで、ワクワクしたことを覚えています。
LIBTECではNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトに携わり、電池材料の新たな評価手法の導入などを行いましたが、吉野理事長から直接ご指導いただくこともありました。
仕事以外では、忘年会で出向研究員と一緒に、アカペラで歌われたりしたことも印象に残っています。
2019年にノーベル賞を受賞されましたが、私が赴任した時から候補者として挙がっており、毎年発表当日は事務所で職員と出向研究員が集まって、ライブ配信で結果を待っていました。今回、受賞の発表を聞いた時は本当に感動しました。
今後ますますニーズが広がるリチウムイオン電池の進化にDNPも貢献できるよう、開発を進めて行きたいと思います。
研究開発センター:加賀田 翼(2016年8月~2019年9月にLIBTEC出向)
吉野理事長は普段から気さくな雰囲気の方です。
打合せの時は私たちの話に真剣に耳を傾け、話し手の意図をしっかり理解してくださいます。毎年、ノーベル化学賞発表の日はLIBTECのメンバーで発表の様子を視聴していました。
今回もWebで中継を見ていましたが、ほかの受賞者の名前と共に理事長の名前が読み上げられた瞬間に、大きな歓声が上がり、しばらくして事務所にメディアの取材依頼の電話がたくさん入りました。
発表日の朝のことですが、私ともう一人、別の会社の出向研究員が帰任するので、記念撮影をお願いしたところ、当日で忙しいにも関わらず、快く応じていただきました。
***
冒頭に掲載した写真は、DNPの加賀田が、出向最終日の2019年10月9日に、大阪のLIBTECで吉野理事長と一緒に記念に撮影したスナップです。
奇しくもこの日にノーベル化学賞の受賞が決まり、理事長はその足で東京に移動して、記者会見に臨むことになりました。
記者会見の吉野理事長は、朝のスナップと同じシャツとネクタイで、とても慌ただしい一日だったことがよくわかります。
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吉野彰理事長インタビューを終えて
世界中の人々の生活も変えた吉野理事長のリチウムイオン電池に関する業績は、国連で採択された2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち
・ゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
・ゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
のほか、EVの普及などによる脱炭素化によって
・ゴール13「気候変動に具体的な対策を」
の達成にむけた取り組みです。
DNPも引き続き、次世代の全固体電池の開発などで協働していくことで、エネルギー関連の産業の発展と環境問題の解決に貢献していきたいと考えています。
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- ※記載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承下さい。
- ※LIBTEC(リブテック:Consortium for Lithium Ion Battery Technology and Evaluation Center)
前編はこちら
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