スマートフェンシングⓇ/ SMART FENCING

フェンシングについて

2人の選手が向かい合い、片手に持った剣で互いの有効面を攻防するフランス発祥の競技で、種目はフルーレ、エペ、サーブルの3種目で個人戦と団体戦がそれぞれあります。使用する剣の形状や、得点となる有効面、優先権の有無などが種目ごとに異なり、ピストと呼ばれる導電性パネル【14m】の上で行い、オリンピック・パラリンピックでは暗い中、ライトアップした試合会場で行われます。競技の魅力は選手の精密かつスピーディーな技の応酬と駆け引きにあり、接近戦や激しい攻防、華麗な剣さばきが見どころです。「戦場のチェス」とも呼ばれる程、戦術が重要とされ、体格や体力が勝敗の決定的差にならないため、老若男女問わずあらゆる年代の人々と交流できるスポーツです。

※スマートフェンシングはDNP大日本印刷の登録商標です。

フェンシングの写真

ルール

試合は個人戦は予選が3分×1セットで5点、トーナメントでは、3分×3セットのうち15点先取、または試合終了時により得点を多く取った選手が勝利となり、団体戦は1チーム3名+1名の交代選手による5点先取の総当たり戦で、3分×9試合行い、得点の積上げ合計が45点先取、または試合終了時により得点を多く取ったチームが勝利となります。
審判は主審とビデオ審判、副審の1~4名で行われ、用語は全てフランス語で行われます。主審が選手に「アン・ガルドEn garde(構え)」から「プレPrets/Pretes(用意)」「アレAllez(始め)」と合図をかけて試合が開始されます。打突によるランプ点灯時には「アルトHalte(止め)」の合図で試合を中断し、得点時にはスタートラインに戻って試合が再開されます。騎士道に発しているフェンシングは相手を重んじる競技ですので試合前と後に「サリューエSaluez(挨拶せよ)」の合図で対戦相手と審判、観客に礼をし、最後に対戦相手に礼をしなければなりません。

歴史・ルーツ

フェンシングの語源はFence(垣根、防ぐ)から来ており、自分の身を守る・名誉を守ることから来ており、騎士道精神からくる礼儀正しさを重んじる競技となっております。
ルーツは戦争や軍隊教育で使われた刀剣から始まり、16世紀に火薬の発明による鉄砲や大砲によって身軽で機敏に動く必要があり、細くて軽い剣に変わっていきました。※1450年以降にスペイン、1500年以降にイタリアやフランスでフェンシングの基礎や原形、剣法の書物が出来、1670年には現代に近いフェンシングが出来たと言われています。(諸説あり)
やがて剣が戦争で使われなくなった後、フェンシングは騎士の名誉と命を守るものとされ、騎士道精神の下で決闘(エペ)が貴族や高貴な貴婦人の間で流行し、剣術を習う人が増えてきました。決闘は白い服を着て、相手の体のどこかを突き、血が出たら決着としたため、練習でも怪我人や死者が度々発生していました。18世紀には上流社会の教養としてフェンシングを習うことが主流となり、決闘で使われる実戦的なエペから技術的で安全なフルーレと金属性マスクが誕生し、18世紀後半には騎兵用の剣術としてサーブルがハンガリーで誕生しました。
1911年に国際フェンシング連盟がフランスのパリに設立(現在はスイスのジュネーブ)しルールが統一され、 1936年に電気審判器が誕生し、より公平性が向上することでスポーツ競技として世界各地に普及、発展していき、近代オリンピックでは、第1回の1896年アテネ大会で採用されて以来、全ての大会で実施されています。

車いすフェンシング

車椅子フェンシングの写真

ピストと呼ばれる専用の土台に各選手専用の車いすを固定して斜めに向かい合い、腕を伸ばすと剣先が相手の肘辺り届く距離に審判員が調整して試合を行います。フェンシング同様、種目はフルーレ、エペ、サーブルの3種目で個人戦と団体戦がそれぞれあり、ルールや武器、防具も共通ですが、車いすフェンシング特有ルールについてはWorld Abilitysport【旧称:国際車いす・切断者スポーツ連盟(IWAS)】が設ける規定に準じています。選手は上体や重心を前後に動かせるよう車いすの片側(剣を持たない方)に持ち手が装着されていますが、上体が椅子から離れると反則になります。選手は障がいの程度によってクラスが分かれ、下肢の切断や麻痺などの障がいで体幹バランスが取れるクラスAと、下半身不随など体感バランスが取れないクラスB、四肢麻痺により利き腕に障がいがあるクラスCの3つに分けられて競技を行います。 ※パラリンピック競技はクラスA、Bの2クラスのみ。
パラリンピックでは、第1回の1960年ローマ大会で採用されて以来、全ての大会で実施されています。
フェンシングの機材に加えてピストのコストが高額かつ車いす含めた輸送費が高額となるため、拠点以外での練習が困難であること、試合開始時や選手変更の度に都度車いすを固定し直し、利き腕に合わせたピストの調整と距離計測する必要があるため、運営にかかる人的リソースが非常に大きいという課題が有ります。
※障がい者競技で目の見えない人の競技でブラインドフェンシングも有ります。(パラリンピック競技ではない)

種目について

フルーレ(FOIL)

18世紀に上流社会の教養として、エペやサーブルの練習用武器として誕生。フルーレはフェンシング初のスポーツ競技で安全性を重視するだけでなく「美」「アート」と呼ばれ実戦的よりもフォームや美しさを重んじています。1896年の第1回オリンピックから競技化となり1955年に電気審判器が導入しました。
剣は重量500g以下、全長110cm以下で剣身90cm以下、ガード直径12cm以下。剣先にスイッチが付いており、スイッチに500g以上の加重をかけると電気審判器のランプが点灯する仕組みです。起源のルール(安全性と芸術性)にもとづき、四肢以外の胴体への突きのみ有効とし、突くと電気審判器の色ランプが点灯して得点となります。導電性生地のラメ(メタルジャケット)を有効面に着用(カバー)することで電気審判器が有効面・無効面(白ランプが点灯)を判別します。両者が突いた(点灯)場合は有効面を突き、優先権が有る方に得点となります。

エペ(EPEE)

16世紀以降、貴族の決闘として利用され、ルールは騎士道精神のみとされ、白い服を着て相手の体のどこかを突き、血が出たら決着としたため、練習でも怪我人や死者人が度々出ました。決闘だけでなく決闘用の訓練競技としても利用され、1900年の第2回オリンピックで競技化され1936年に電気審判器が導入されました。全種目の中で競技人口が一番多く「キング・オブ・フェンシング」と呼ばれ、欧州ではエペこそフェンシングの華、エペフェンサーは男の中の男と呼ばれていました。
剣はサーブルやフルーレより重く、重量770g以下、全長110cm以下で剣身90cm以下、ガード直径13.5cm以下。剣先にスイッチが付いており、スイッチに750g以上の負荷をかけると色ランプが点灯する仕組みです。決闘ルールにもとづき対戦相手のガード以外の全身(頭からつま先まで)を相手より早く突いた方が有効(得点)となり、0.04秒以内の同時突きであれば両者ランプが点灯し、両者点数となります。優先権や無効面が無いため、ランプが点灯した方が得点とルールがシンプルでわかりやすいため、未経験者の観戦に向いている競技とされています。

サーブル(SABRE)

東洋の斬る刀剣として15世紀頃からイタリアで好まれ、18世紀後半に東洋系民族がハンガリーに定着し騎兵武器として西欧に導入されたことが現在のサーブル競技の起源とされています(諸説あり)。19世紀後半にイタリアが剣を軽量化したことで決闘用と軍隊の戦闘訓練用として広まり、その後は形式を残して乗馬から外してスポーツ化され1896年の第1回オリンピックから競技化となり、1989年に電気審判器が導入されました。最速のフェンシング競技と言われ、早過ぎて剣を目視することが困難とされています。
剣は重量500g以下、全長105cm以下で剣身88cm以下、ガードは手をカバーするよう半円状で直径14cmと縦15cm以下。刀剣の性質上、斬りと突きを有効とするため、剣身全体が相手の有効面に触れると電気審判器のランプが点灯する仕組みです。起源のルール(騎乗での戦闘)にもとづき、当時は馬を傷つけることは不名誉なこととされた理由から頭部、両腕を含む腰から上の上半身全てを有効面とし、下半身を無効面とし、触れても電気審判器が反応しないルールです。両者が有効面に触れた場合は優先権が有る方に得点となります。

フェンシングの写真

優先権について

昔は真剣で試合が行われていたため、攻撃してくる相手に対して自分も攻撃仕掛けると両者ともに傷つくか死ぬこともあったため、危険防止のための基本ルールとして相手が攻撃してきたときは、まず防御(fence)してから反撃することから作られたルールです。①相手よりも先に腕を伸ばして剣先を相手に向ける②相手よりも先に前進し始める等で優先権が与えられますが、❶相手に剣を叩かれる❷動作がストップする❸突き(攻撃)の動作が終了する❹体勢を崩すなどが行われた瞬間に優先権が入れ替わります。複数の剣の接触や選手の細かい動きにより、試合中に優先権が目まぐるしく入れ替わるため、試合中にどちらが優先権を持っているかを常に把握する必要が有ります。

その他競技

日本におけるフェンシングの歴史

事項
1868 •陸軍戸山学校でフランス人教官が軍刀(サーブル)の操法としてフェンシングの技術を導入
1935 •フランス留学でフェンシングを学んだ岩倉具清が1935年に東京に日本フェンシング・クラブを設立。あわせて、法政大学と慶應義塾大学に指導を行い、スポーツとして普及を促進
1936
•大日本フェンシング協会が設立(IOC総会におけるオリンピック東京大会開催決議を契機とする)
•「昭和の大剣士、昭和の宮本武蔵」と呼ばれた森寅雄7段が剣道普及とフェンシング習得を目的に渡米。全米フェンシング選手権で準優勝するなど活躍。米国では「タイガー・モリ」と呼ばれた
1938 •2大学のほか明治大学、専修大学、東京大学による5大学リーグ戦が開始。また関西での普及も進展
1939
•第二次世界大戦開戦に伴い、オリンピック開催を返上
•西洋スポーツの禁止に伴い、国内での競技活動が不可能となり、大日本フェンシング協会は解散
事項
1946 •日本フェンシング協会が設立。日本体育協会に加盟するとともに国際フェンシング連盟にも再加盟
•戦後、森寅雄海は海外への剣道普及に加え、国内のフェンシング技術力向上に貢献
1964 •オリンピック/パラリンピック東京大会に日本代表選手が出場(次頁参照)
1998 •日本車いすフェンシング協会が設立(本部:東京)
2008 •オリンピック北京大会で太田雄貴が男子フルーレ個人で銀メダルを獲得
2012 •オリンピックロンドン大会で男子フルーレ団体で銀メダルを獲得
2021 •オリンピック東京大会で男子エペ団体が金メダルを獲得

参考文献

  • 静岡県沼津市監修
  • 戸田壮介、1998、『フェンサー/コーチのための フェンシング』、日本フェンシング研究所
  • 東京都高等学校体育連盟、1980、『やさしいフェンシングの手引き』、青山学院高等部
  • イシュトヴァーン・ルコヴィッチ(山本耕司 監修・川名宏美 訳)、1976、『電気フルーレによる最新フェンシング技術』、(株)ベースボール・マガジン社
  • 飯田雄久、1966、『フェンシング』、(株)ベースボール・マガジン社
  • 山本耕司、1964、『図解・新しいフェンシング』、(株)ベースボール・マガジン社
  • 佐野雅之、1957、『フェンシング』、(株)旺文社

歴代のオリンピック出場者(五十音順 敬称略)

開催年 都市 オリンピック出場者
1952 ヘルシンキ (F)牧真一
1956 メルボルン (F,E,S)佐野雅之
1960 ローマ (F,E)大川平三郎、(F,E,S)小沢嗣央、(F,E,S)田淵和彦、(E,S)藤巻惣之助、(F,S)船水光行
1964 東京 (E)荒木敏明、(F,E)大川平三郎、(F)大和田智子、(F)小森芳枝、(S)北尾光弘、(S)柴田征二、(F,S)清水富士夫、(F)竹内由江、(F,E)田淵和彦、(E)手島猛、(F)戸田壮介、(S)船水光行、(F)真野一夫、(E)港井克忠、(F)保井多美子
1968 メキシコシティ (F)大川平三郎、(F)清水富士夫、(F)福田正哉、(F)真野 一夫、(F)若杉和彦
1972 ミュンヘン (F)植原清、(F)中島寛、(F)芹沢 一郎、(F)圓山詩郎、(F)福田正哉
1976 モントリオール (F)岡秀子、(F)加治原由香里、(F)鎌田弘子、(F)亀井秀明、(F)川津正徳、(F)佐藤範幸、(F)神宮敏男、(F)吉川真理子
1980 モスクワ※不参加 板倉英行、大塚清、佐藤範幸、千田健一、村田省、伊藤真知子、岡秀子、岡正子、庄司 孝子、横井晶子
1984 ロサンゼルス (F)東伸行、(F)梅沢賢一、(F)及川あずさ、(F)岡智子、(F)金津義彦、(F)子安英八、(F)下川禎(F)前川みゆき、(F)宮原美江子
1988 ソウル (F)東松生、(F)梅沢賢一、(F)江村宏ニ、(F)岡智子、(F)金津義彦、(F)出野晴信(F)桐谷乃宇奈、(F)峯啓子、(F)宮原美江子、(F)森川明美、
1992 バルセロナ (F)安部欣哉、(F)市ヶ谷廣輝、(F)高柳裕子、 (E)田部仁一、(F)永野義秀、(S)橋本寛
1996 アトランタ (E)新井祐子、(F)市ヶ谷廣輝、(E)久保紀子、(E)田中奈々絵
2000 シドニー (F)新井祐子、(F)岡崎直人、(F)嶋田美和子、(S)長良将司
2004 アテネ (F)太田雄貴、(F)菅原智恵子、(S)長良将司、(E)原田めぐみ、(S)久枝円
2008 北京 (F)太田雄貴(銀)、(S)小川聡、(F)菅原智恵子、(F)千田健太、(E)西田祥吾、(E)原田めぐみ、(S)久枝円
2012 ロンドン (F)淡路卓(銀)(F)太田雄貴(銀)、(F)池端花奈恵、(F)菅原智恵子、(F)千田健太(銀)、(E)中野希望、(S)中山セイラ、(F)西岡詩穂、(F)平田京美、(F)三宅諒(銀)
2016 リオデジャネイロ (S)青木 千佳、(F)太田雄貴、(E)佐藤希望、(S)徳南堅太、(F)西岡詩穂、(E)見延和靖
2021 東京 (S)青木千佳、(F)東晟良、(F)東莉央、(F)上野優佳、(E)宇山賢(金)、(S)江村美咲、(E)加納虹輝(金)、(F)西藤俊哉、(E)佐藤希望、(F)敷根崇裕、(S)島村智博、(S)ストリーツ海飛、(S)田村紀佳、(F)辻すみれ、(S)徳南堅太、(F)永野雄大、(S)福島史帆実(F)松山恭助、(E)見延和靖(金)(E)山田優(金)、(S)吉田健人
(F):フルーレ、(E):エペ、(S):サーブル
開催年 都市 パラリンピック出場者
1964 東京 青野繁夫、斉藤定一、原沢茂夫
1976 トロント 杉尾良一
2004 アテネ 谷萠子、久川豊昌
2008 北京 久川豊昌
2021 東京 阿部知里、恩田竜二、加納慎太郎、櫻井杏理、藤田道宣、松本美恵子

基本動作・ルールについて

・用語はフランス語を用います
・基本動作は「構え」「前進」「後退」「突き(攻撃)」「払い(防御)」を示します

構え方の写真

前進/後退の写真

・基本の突き方と払い方を示します

突き方の写真

払い方の写真

・騎士道精神にのっとり、試合の開始時と終了時に挨拶(Salut; サリュー)を行います
・マナーや礼儀を重んじることから、かつては貴族の習いごととして流行

挨拶の作法

フェンシングの挨拶の作法(Salut; サリュー)の写真

・危険な行為や、スポーツマンシップに反する行為がみられた場合は、違反事項として試合を中断します ※特に、複数回の体験を通じて慣れてきた頃が要注意

剣を持たない手を使った妨害

危険な動作

スポーツマンシップ違反

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