生活空間インテリア・デザインレポート
海外の建築・空間を紹介 Vol.6 パリ編

DNP生活空間事業部ではこれまで、イタリアや北欧、イギリスのライフスタイル、デザイントレンドを発信してきました。今回は、フランス パリをご紹介いたします。2024年のパリはオリンピックで盛り上がりを見せたほか、5年間の修復工事を終えたノートルダム大聖堂が再開するなど世界の注目を集めました。このコラムでは、DNP生活空間の社員がパリを視察した商業施設やホテルのトピックスを中心にご紹介します。

パリの新旧をつなぐラ・サマリテーヌ

パリ1区のセーヌ川沿いに位置する「ラ・サマリテーヌ」は1870年に創業した老舗の百貨店です。16年間の改修工事を経て、2021年にリニューアルオープンしました。

Photos by DNP

上の画像はPont-Neuf館です。アールヌーボー様式の華やかなオリジナルデザインが蘇りました。最上階を囲むように描かれた豪華な孔雀のフレスコ画もフランスの職人によって修復されたそうです。アールヌーボー様式の一つの特徴である、植物や花を描く鉄製の手すりや装飾が、空間を立体的に包み込み、ガラスの天井から降り注ぐ日光が、その陰影をより強調させています。

キャラクター2

Pont-Neuf館に入った瞬間に圧巻の空間が広がり感動しました。シンメトリーのデザインは没入感も感じます。

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オリジナルのデザインを踏襲し、テーマカラーはイエローとグレーになっています。左の写真はフレスコ画を彩る鉄製の装飾。あえて見せている鉄製ボルトがクラシカルなデザインと融合し、ユニークです。中央の写真は各フロアの階段下の装飾。美しいレリーフを見ることができます。右の写真は新設されたテラゾーのフロアです。

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外観もご紹介します。左の写真はセーヌ川から見たサマリテーヌ。その右側の外装には内部のアールヌーボースタイルを彷彿とさせるようなデザインが描かれています(画像右)。

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隣接されたRivoli館は全面改装され、 SANAA(妹島和世、西沢立衛)が設計を手掛けています。波打つガラスパネルが建物を覆い、ダイナミックな建築物となっています。このデザインはサマリテーヌの過去と現在を投影し、隣接するPont-Neuf館やパリの街並みとの調和をはかっています。

散歩をしながらアートを楽しめるパッサージュ

パリ7区に2018年に開業したBeaupassageは集合住宅と商業施設が融合し、散歩をしながらさまざまなレストランやカフェ、ショップを楽しむことができる通りになっています。大きな開口部をガラスが覆い、規則正しく並んだモダンな店舗・建築はパリの古い町並みとも調和しています。

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敷地内にはパブリックアートが空間に溶け込んでいるのが一つの特徴です。 Beaupassageの内部に続く通路には、左右の壁に全長24mに及ぶ段ボールで作られたアート作品「La Traversée」がありました。

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La Traversée は神秘的な森を想起させ、パリの街並みとBeaupassageをつなぐトンネルの中にいるような没入感を感じました。

圧倒的な存在感を放つファッションブランドの存在

パリのシャンゼリゼ通りには巨大なトランクが出現し、話題になっています。これは工事中のファサードを覆うために設置されたものです。マット仕上げのメタル素材の上に、ルイ・ヴィトンのアイコンのひとつであるモノグラムパターンがグロスのメタル素材で装飾されています。ベルトの部分は木目柄になっており、細部にまでこだわりを感じます。夜になると美しくライトアップされ、パリの街並みに圧倒的な存在感をはなっていました。

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日本でも工事中のフェンスにアートを施すような試みが見られていますが、景観を崩さずに、新たなファサードで工事現場を覆ってしまう造形は、「さすがのファッションの都パリだな!」と感じました。

冒頭にご紹介したラ・サマリテーヌの向かいの建物には、the Maxime Frédéric at Louis Vuitton café があります。沢山の植物に囲まれたボタニカルな空間の中で、 Louis Vuittonの世界観を楽しめるカフェ・レストランとして人気を集めています。客席と客席の間に、間仕切りあるいは視線制御のために設置された植物のプランターは波打つ形状で、空間をゆるやかに仕切り、動線を自然と描いています。

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波打つ天板は、縦溝の入ったフルーテッドウッドと呼ばれる木質素材の腰壁に支えられ、躍動感のあるケーキディスプレーになっています。スイーツの台座はルイ・ヴィトンのモノグラムパターンに形取られたトラバーチンマーブルが使われていました。クッションに使われているファブリックや、食器もカラフルで、この空間に居るだけで楽しい気持ちになれるデザインで溢れていました。

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ファッションブランドからもう一つ、日本でも人気を集めているパリ発のブランド「POLENE」をご紹介します。Richelieu店は明るいベージュをベースにした空間で、木質素材、壁面の左官などマテリアルの質感が際立つ空間になっています。このブランドが得意とする丸みを帯びたデザイン、絶妙なニュアンスカラー、レザーのクラフトマンシップが空間にも反映されていました。

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パリのユニークでポップなデザインを堪能できるホテル

マリオット・インターナショナルが運営するデザイナーズホテルのMoxyはリーズナブルな価格でスタイリッシュなデザインを楽しめるホテルです。 Moxyは日本にも錦糸町、京都などに展開していて、その土地にあったカルチャーをポップなデザインで表現しています。

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今回ご紹介するのはMoxy Paris Val d‘Europe。テーマパークの近くに位置していることもあり、コンセプチュアルな空間が広がっていました。

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Moxy Paris Val d‘Europeの特徴はラウンジスペースが非常に広く、用途に合わせて過ごすことができます。それぞれのラウンジスペースは異なるデザインが展開されながらも、互いが干渉することなく、ひとつの空間にまとまっていました。画像左はゲームができるスペースで、トランプをシェードに使った照明があり、不思議の国のアリスの世界観を彷彿とさせます。画像中央はビリヤードができるスペース。壁面には小人が描かれていたり、天井までにょきにょきと描かれた森の木々からは白雪姫を彷彿とさせられました。

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またワーキングスペースも充実していて、用途に合わせて空間を利用することができます。画像左のオープンなミーティングスペースは、一部梁があり天井が下がっているのですが、大ぶりなペンダントライトを設えることで、視線がそちらに誘導され、圧迫感を感じさせません。ピンクの壁面やパーティションに対し、ブラックのマテリアルが入ることで空間を引き締めています。またその付近にある休憩スペース(画像右)には、大胆にハンギングされたソファがありました。ソファの下部には照明があり、間接照明がしっかりと浮遊感を感じさせます。天井から下がるピンクの花とともに目線が上に行きがちですが、壁面にも大きな花のアートがあり、空間がバランスよくまとまっているように感じました。

ポップでカラフルな要素が多く使われているにも関わらず、不思議と空間のまとまりを感じました。使用されているモチーフの大きさや、空間ごとの仕切り方に工夫がなされているように思います。

客室は国内のMoxy同様に、コンパクトな間取りですが、収納やテーブルを壁面にハンギングし、使用しないときは空間を広く使えるような配慮がされていました。

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フランスの建築遺産に触れる

エッフェル塔の前に位置するシャイヨー宮にある「シテ建築遺産博物館」ではフランスの建築の歴史にふれることができます。そのなかでも注目なのは、フランスで活躍した建築家ル・コルビュジエに関する展示スペースです。コルビュジエが設計した集合住宅ユニテ・ダビタシオン(Cité Radieuse)の実寸大模型があり、実際に内部に入って見学することが可能です。

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この集合住宅は、戦後の復興のために建築家が行った近代住宅と都市計画に関するプロジェクトの集大成で1952年に完成しました。コルビュジエの基本寸法であるモデュロールをベースに設計され、レッド、イエロー、グリーン、ブルーなどの原色が多く使われています。キッチンはシャルロット・ペリアンがデザインし、コンパクトでありながら機能的なデザインになっています。

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マルセイユに行くとユニテ・ダビタシオンに宿泊することもできるそうです。

フランス パリ視察をふりかえって

パリから想起するような華やかさや、ファッションブランドの圧倒的な存在感を感じるデザインを多々見ることができました。その装飾性は、単に見た目が煌びやかなだけでなく、職人のこだわりや、デザインとしての工夫や意図をしっかりと感じることができます。パリの新旧のデザインにふれることで、過去のデザインや歴史をリスペクトし、それに調和させながら新しいアイデアを積極的に取り入れている、という要素を多々感じることができました。石造りで構成された街並みは非常にエレガントで、気品があります。その圧倒的な存在感がある一方でパリの華やかなファッションや最先端のデザインを惹き立てているようにも感じました。

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ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネイト提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター


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Officine Universelle Bulyの1号店であるボナパルト店に行ってきました。このブランドは19世紀に活躍した調香師Jean-Vincent Bullyの精神を受け継いだ総合美容専門店です。調剤薬局のように自分にあったフレグランス製品を選ぶことができる特徴があり、全ての製品が植物由来の成分で構成されています。アンティークな雰囲気の店内とクラシカルな製品のパッケージが融合し、ブランドの世界観をつくりあげていました。

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