サステナブルな暮らしとデザイン Vol.5 イギリス 前編
DNP生活空間事業部ではこれまで、イタリアや北欧、アメリカのライフスタイル、デザイントレンドを発信してきました。今回は、イギリス ロンドンを視察したレポートを前編・後編に分けてご紹介いたします。2022年のエリザベス女王崩御、2023年のチャールズ国王戴冠式は日本のメディアでも大きく取り上げられました。また今年6月には天皇皇后両陛下がイギリスに親善訪問されたのも記憶に新しいでしょう。歴史的にも日本とイギリスは、友好関係を築いてきており、文化の親和性が高いと言われています。
前編では、DNP生活空間の社員がロンドンを視察した商業施設のトピックスを中心にご紹介します。
既存建築の趣を活かしたユニークな商業施設
ロンドンの中心部Mayfairに2019年に開業したMercato Mayfairは元教会の建築物をそのまま活かしたフードホールです。1800年代に建設されたエドワード朝様式の教会で、1974年に聖別されました。施設内では、市場を想起させるような雰囲気と活気に満ち溢れ、まるで世界旅行をするような気分で、さまざまな国の料理を楽しむことができます。
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インテリアデザインはロンドンのGreig and Stephenson Architectsが手掛けています。教会で使われていたベンチ、ステンドグラスや絵画はそのままに、新たに設えられたスタイリッシュな家具や内装材が融合しています。祭壇にあたる場所はDJブースになっていました。フードエリア以外にも、地元の食品や雑貨を販売するスペースのほか、イベントを開催することもあり、コミュニティマーケットとしても注目を集めています。
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聖別された建築物とはいえ、教会というと静かに祈る場所というイメージがある中で、クラブのような賑やかさがある店内は、良い意味でギャップがあり新しい体験ができました。
次にご紹介するのは、Attendant Coffee RoastersのFitzrovia店。このカフェは1890年代につくられた男性用地下公衆トイレをカフェに改修した店舗です。店内ではイギリスの陶磁器メーカー ロイヤルダルトンによって1960年代につくられたオリジナルの便器がそのまま活用されています。
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小さな店舗は満席でにぎわっていたのですが、公衆トイレでカフェタイムという違和感が何ともユニークでした。ファサードのデザインも素敵ですね。
話題の再開発スポット
ロンドン南部のBattersea は、現在、再開発真っただ中の注目スポットになっています。Batterseaのアイコンである、 Battersea Power Station は1900年代に発電所として機能し、1983年に操業停止しました。この建築物が2022年10月に商業施設として生まれ変わり開業しました。商業施設のインテリアデザインはイギリスの建築事務所WilkinsonEyre が手掛けています。
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館内は、発電所の趣を活かして、タービンホールAとタービンホールBで構成されています。下の画像はタービンホールBです。1950年代のモダニズムを感じさせるデザインで、ギミックを見せるようなスタイリッシュなデザインでした。
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下の画像はタービンホールAで、アールデコをベースにしたデザインになっています。良く見ると既存建築を活かしているからか、同じフロアレベルでも若干高さが異なるようで、左右を渡す橋が平行ではない設えになっています。また一見シンプルな手すりですが、桟の1本1本が異なる形状をしていて、見る角度によってパターンが浮かび上がってきます。
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Batterseaエリアは、再開発が完了すると約2万5000人もの人が暮らし働くエリアになるそうです。今後の行方が気になる再開発地域の一つです。
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新築のホテルやマンションは個性的な外観のデザインが多かったです。建設途中の建物も多く、完成した時の街並みを見るのが楽しみです。
既存建築を活用したロンドンの商業施設として忘れてはならないのがKing Cross駅近くのCoal Drops Yard。ニューヨークのLittle Island( こちら のコラムをご覧ください)や麻布台ヒルズの設計を担当したイギリスの設計事務所Heatherwick Studioがデザインを手掛けています。2018年に開業したこの施設は、1850年代、イングランド北部から鉄道で輸送される石炭をロンドン全域に輸送するために建設された工業用倉庫として存在していたものです。その 2 棟の切妻屋根を改築・拡張して、現在の形になりました。
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Coal Drops Yardにはさまざまなショップやレストランのほか、Tom Dixonのショップもあります。アーチを描いたレンガづくりの空間の中に、Tom Dixonのスタイリッシュなデザインが融合し、魅力的な空間を作り上げていました。
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Coal Drops Yardの隣にはGranary Squareがあり、カフェやショップが立ち並び、マーケットが開催されることもあります。もともとこのエリアは駅の裏に位置し、暗い場所だったそうですが、再開発により市民の憩いの場となっています。
沢山の人が運河沿いや屋外のベンチでくつろいでいました。とても心地良い時間が流れていましたよ。
近代的な建築物が立ち並ぶビジネスエリア
ロンドンの金融街であるCity Of Londonには沢山の近代的な建築物が存在しています。画像中央は1986年に建てられたロイズ・オブ・ロンドン。配管やリフトがむき出しになったインダストリアルなデザインは、金融街のなかでもひときわ異彩を放っています。画像右は30 St Mary Axe。Foster + Partnersによって設計されたこの建物は、ピクルスに使用する小さいキュウリのような形状をしていることから、地元の人々には「ガーキン」という名前で親しまれています。
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次に、City Of Londonにある人気の展望施設をご紹介します。上層部にかけて膨らんだ形状をしている高層ビル「20 Fenchurch Street」は、最上階の36階~38階にSky Gardenという展望フロアを設けています。Sky Gardenの名前の通り、ロンドンの上空に浮かぶ庭のような展望フロアのデザインになっています。ランドスケープデザインはGillespiesが手掛け、干ばつに強い地中海と南アフリカの植物が選ばれているそうです。
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展望フロアはゆるやかな傾斜が設けられ、フロア内をぐるっと回遊できるよう設計されています。生い茂る植物の中、まるでジャングルの中を歩くかのような体験をしながら、ロンドンの展望も楽しむことができます。また屋外のテラスに出ることも可能で、ロンドンの風を感じながら、街並みを眺めることができます。当施設には、カフェやレストランもあり、2015年に開業して以来、現在も強い人気を集めているスポットです。
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無料でこの展望を体験できるのはうれしいスポットですね。テムズ川を挟んで反対側にあるThe Shardもしっかり見えました!
話題のカフェ・レストラン
2022年に開業した人気のオーストラリアスタイルレストラン Milk Beach Sohoをご紹介します。インテリアデザインはロンドンのデザインスタジオ A-nrd studioが手掛けています。オーストラリアのミルクビーチで見られるインテリアスタイルや、アールデコの建築からインスピレーションを受けているそうです。
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インテリアのマテリアルには天然素材を使用し、それぞれの質感を強く感じながらも、ニュートラルなトーンできれいにまとめられています。フロアは大理石を使用したテラゾーデザイン、壁はスタッコ、天井はオーク材、大きなペンダントライトは竹製です。テーブル天板はトラバーチン、椅子のバックレストにはラタンや麻紐が使われていました。
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ナチュラルな印象のマテリアルを複数取り入れ、ブルーのファブリックがアクセントになった素敵な空間でした。まるでビーチサイドにいるような感覚になれました。ディナータイムは満席でかなり賑わっていましたよ。
次にご紹介するのはカフェ Feyaです。画像左はMarble Arch店、画像右はBond Street店です。ブリティッシュパキスタン人のシェフ Zahra Khanが、女性のエンパワーメント向上とジェンダーギャップの撲滅というミッションのもと、運営しているカフェブランドです。彼女は2021年のForbesにおける「世界を変える30歳未満の30人」にもノミネートされた注目の人物です。Feyaでの売り上げの一部は、Feyaのパートナーである慈善団体に寄付されています。
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Marble Arch店は沢山の植物の中にオウムのオブジェがいたり、アーバンジャングルのようなテイストです。壁面はアーティスト Ramona Pinteaによるアートが大胆に描かれています。天井からは女性の手が電球を持ったユニークな照明が設えられています。これは女性の独自性や創造性をイメージしているそうです。店内のインテリアは中東の華やかさを思わせる花やアートなど、きらびやかな要素を、惜しげもなく組み合わせたフォトジェニックな空間でした。
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この華やかなインテリア空間は、他民族化が進んでいるロンドンならではの、トレンドの兆しだと感じました。私は日本でも話題のブラックラテを頼んでみましたが、美味しかったです。
最後に、ロンドンの人気カフェとして欠かせないSketchをご紹介します。施設内はコンセプチュアルな5つレストラン・カフェ・バーがあり、それぞれ異なるアーティストがデザインを担当しています。なかでも最も有名なThe Galleryはインド出身のデザイナーIndia Magdaviがデザインを手がけ、2014年にオープンして以来、根強い人気を誇っています。オープン当初は、彼女の代表作の一つであるエレガントなチェア Charlotteを中心に、壁面も全てハリウッドピンクでした。2022年にインテリアが一部リニューアルされ、チェア YINKAにファブリックブランドPIERRE FREY や RUBELLIのテキスタイルを採用し、アフリカの雰囲気を感じさせる空間を作り上げました。オープン当初からアイコンになっているさまざまなマーブルを組み合わせたフロアデザインは、リニューアル後も健在です。
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左の写真はThe Grade。Carolyn QuartermaineとDidier Mahieが手掛けた空間は、不思議の国のアリスや秘密の森を想起させるような、魅惑的なデザインになっています。右の写真はSketchの中でThe Gallery に次ぐ話題のスペースであるEgg Toilets。卵型のポッドはなんと個室のお手洗い。天井にはカラフルなステンドガラスが空間を彩り、フォトスポットの一つになっています。
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まるでデザインのおもちゃ箱の中に飛び込んだかのような体験ができる空間でした。さまざまなアーティストとコラボレーションをし、進化し続けるSketchは今後もトレンドセッターとして注目されるでしょう。
以上が、「Vol.4 イギリス 前編」のご紹介になります。
後編では、ロンドンのホテルや、デザインスポットをご紹介します。
Editor紹介
- Chihori Kunito(大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネイト提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター
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ロンドンから電車で南に1時間ほど行ったところにあるブライトンに滞在しました。おしゃれなカフェやレストラン、個性的なファッションや音楽、美しいビーチとアイコニックなピアなど一言では語れない魅力に溢れた、ファッショナブルな街です。多様な文化を許容するような雰囲気があり、LGBTフレンドリーな街としても有名です。
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観光スポットの一つであるロイヤルパビリオンは、ジョージ4世が19世紀初頭に別荘として建築したもので、インド・サラセン様式を取り入れています。ヨーロッパ、インド、中国、イスラム様式を融合させたユニークで華やかなデザインはブライトンのアイコンとして、存在感をはなっています。
- 2024年7月時点の情報です。