建築における照明デザインと最新技術を紹介
建築の設計において重要視される照明のデザイン。近年では、LED照明器具の普及や照明器具の進化によって多様な表現が可能となり、その重要性がさらに増しています。
今回は、建築における照明デザインの基本的な考え方、役割と効果、種類やデザインの考え方について詳しく解説します。さらに、照明デザインを効果的に取り入れた建築事例もあわせてご紹介します。
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照明デザインとは
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照明デザインとは、光を素材として用い、空間の雰囲気や目的に合わせた光環境を造ることです。照明を工夫することで、過ごしやすさや機能性、安全性を向上させることを目的としています。光の新たな可能性を追求して独創的な空間を創造し、芸術性を評価されることもあります。
住宅や店舗、街路などさまざまな場所で、照明をデザインする考え方は取り入れられています。適切な光源、器具が空間のコンセプトに合わせて配置されるため、照明デザインは、インテリアデザインや建築そのものの設計とも密接な関係にあるものと言えます。また、LED技術の進歩により、照明デザインの重要性と可能性は今後さらに高まることでしょう。
照明デザインの手法と種類
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照明デザインは、めざす空間や明るさなどによって、用いられる手法と照明の種類は変わってきます。主な手法と種類について紹介します。
自然光と人工光
まず知っておきたいのが、光には自然光と人工光の2種類があることです。自然光は、文字通り太陽など自然に由来する光のことです。時間の経過とともに変化する光であり、照明デザインにおいては、上手に建築物に取り込むことで季節感の演出などが可能になります。ただし、屋内に取り入れる際には、熱や冷気の侵入、天候による照度変化などへの考慮が必要です。
人工光は室内照明などによる可視光線のみで構成された光で、一定の明るさや色を保てます。その分、時間や季節の移り変わりを表現するものとしては向いていません。
どちらか一方だけではなく、両方の光を組み合わせて照明デザインをするケースもあります。両者の特性を理解し、適切に組み合わせることで、快適で効果的な光環境を創出できるのです。
照明デザインの手法と使用される照明の種類
照明デザインには直接照明、間接照明、建築照明という3つの手法があります。
●直接照明
光源から照射した光が直接被照面(光を照らす面)に広がる照明方式です。直接光を当てることから、対象物をはっきりと照らせます。生活の中心となるリビングや、仕事部屋などデスクワークをするスペースなどで用いるのに有効で、照明効率にも優れています。
明かりが強い分、影ができやすい点も特徴です。そのため、空間のアクセントを作り出すのに有効ではあるものの、眩しさを感じやすかったり、暗い部分が生じやすくもなります。
直接照明に使用される主な照明としては、部屋全体を均一に照らすシーリングライト、天井に埋め込みフラットな仕上がりになるダウンライト、特定の場所を局所的に照らすスポットライト、コードやチェーンで天井から吊り下げるタイプのペンダントライトなどがあります。
●間接照明
壁や天井や床などに光を当て、反射光で空間を照らす照明方式です。壁などに当てることで光は拡散されるため、広い範囲を照らすとともに、柔らかい雰囲気を演出できます。リラックス効果も高いため、リビングや寝室などに用いられます。
一方で、直接照明よりも照明効率は低く、デスクワークなどをするスペースに使用するには不向きです。
間接照明に使用される主な照明としては、壁に直接取り付けるブラケット照明、足元を照らすフットライト、床に直接置くスタンドライトなどがあります。また、スポットライトを天井や壁などに当てることで間接照明として使用するケースもあります。
●建築照明(建築化照明)
光源を床や壁や天井などの建築要素に組み入れ、照明器具自体を見えないようにしながら空間を効果的に照らす照明方式です。「建築物と一体化させた照明デザイン」を指しています。建築化照明と呼ばれることもあり、直接照明や間接照明のように、完成後に取り付ける器具照明とは対照的なアプローチです。
建築照明は、光源を隠すことで光が干渉するため、柔らかく心地よい光を生み出し、空間を広く穏やかに見せる効果が期待できます。例えばホテルやレストランのような高級感を演出したい空間や、美術館やギャラリーのように展示物を印象付けつつ特別感を出したい空間などに用いられます。
一方で、建築物の設計段階から照明のあり方を考えなければならないため、専門家の協力が必要となります。そのため導入コスト、メンテナンスコストともに高くなる傾向にあります。
建築照明に使用される主な照明としては、天井そのものを光源とする光天井や、折り上げ天井に設置した照明から天井に照射するコーブ照明、壁に設置した照明から壁やカーテンに照射するコーニス照明などがあります。
最新の照明技術
照明デザインの進化は、照明器具の進化を意味するものでもあります。その最たる例がLED照明です。ここからは、近年主流となっているLED照明をはじめ、最新のライティング技術や進化した機能を解説します。
LED照明
LED照明は高エネルギー効率と長寿命が特徴で、消費電力とCO2排出量の大幅な削減を可能とする省エネ効果の高い照明器具です。また、速い点灯・消灯反応と頻繁なスイッチングに強い特性から、商業・産業施設での使用にも適しています。さらに調光や色温度調整が容易で、多様な環境に対応可能です。
1960年に発明されたLED照明は、1990年代に、より明るい青色LEDが発見されたことにより急速に普及し、今や、照明業界の主流となっています。その後も技術革新が続き、エネルギー効率の向上、寿命の延長、そして調光・調色機能の高度化が進んでいます。これにより、LEDは単なる照明器具から、環境に配慮しつつ多様なニーズに応える高機能な光源へと進化を遂げています。
スマートライティングシステム
スマートライティングは、IoTやAIを活用してセンサーやネットワーク技術と連携し、照明の自動調整や遠隔操作を実現した技術です。人の動きや自然光に応じて自動的に明るさを調整し、エネルギー消費を最適化できるのが大きな特徴と言えるでしょう。主に商業施設やオフィスなどで使用され、時間帯や人の混み具合によって照明が自動調節されます。
スマートフォンや音声アシスタントによる操作も可能で、利用者の利便性を大幅に向上させ、快適な照明環境を提供します。
センサーによる照明制御技術
最新の照明制御技術として、センサーによる省エネ制御があります。照明制御用センサーとして代表的なものは次の4種類です。
・熱線センサー:人体から放射される制外線を検知して反応する
・電波式センサー:人の動きをマイクロ波で検知して反応する
・明るさセンサー:検知範囲内の反射光を記憶し一定になるよう照明器具を調整する
・画像センサー:画素素子を利用して人の動きや空間の明るさを検知して反応する
スマートライティングシステム同様、主に商業施設やオフィスに使用され、中には美術館などの展示施設で活用されます。照明制御の技術が省エネ性能と快適性の両立を実現し、タイマー設定や遠隔操作機能と組み合わせることで、柔軟で効率的な照明管理を可能にしています。
照明デザインとエネルギー効率
建築における照明デザインを考える際には、コスト削減や環境配慮の観点から、照明のエネルギー効率についても考慮すべきです。照明のエネルギー効率を追及するには、LED照明の採用を中心に、省エネと快適性の両立をめざす設計が必要となるでしょう。
センサー技術やスマート制御システムを導入すれば、必要な場所、必要な時間に照明を点灯できるため、エネルギーコストの大幅な削減が可能です。また、自然光を活用したデザイン設計なら、環境への配慮も可能となります。
技術とデザインを融合し、効果的な光の配置を作り出すことで、省エネと快適性を両立した空間創出が実現できるでしょう。
照明による省エネ効果
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照明は多くの業種で空調に次ぐ電力消費源です。そして、照明器具の省エネ対策は企業でも家庭でも比較的導入しやすく、高い費用対効果も見込めます。
具体的な省エネ効果は、次のように試算されています。
・LED照明への切り替え:最大90%以上削減
・明るさセンサー:約30%削減
・人感センサー:約60%削減
・スケジュール制御:約20%削減
・タスク・アンビエント照明*:約39%削減
* タスク・アンビエント照明:作業する空間(タスク空間)と周囲の空間(アンビエント)を分けて考え、それぞれに適した照明を使用する方式。
環境に配慮した照明デザイン
LEDは省エネ性、高効率性だけでなく、環境配慮性にも優れています。その理由は、蛍光灯や水銀灯のように「水銀」が含まれていないため、廃棄の際も地球環境への負荷を軽減できるからです。
また、一般的な電球よりも寿命が40倍も長いため交換回数が少なく済み、製造や販売によって排出されるCO2の削減にも効果が期待できるでしょう。LEDを利用して照明をデザインすることで、環境への影響に配慮した建築設計が可能です。
照明計画の立て方
建築物のなかで、どのように照明を活用していくか計画を立てることを照明計画と言います。その際に重要になるのが、作業性を損なわないための「明るさ確保」と、空間の雰囲気や印象を作る「空間演出」の2つの観点です。そして、これらに考慮した器具を選択する際には、次の5つのポイントに注目しなくてはなりません。
・定格光束(明るさ)
・色温度(光の色の見え方)
・演色性(物の色の見え方)
・グレア(光源が見えることによるまぶしさ)
・配光(光の広がり方)
例えば、厚生労働省がまとめた「情報機器作業における労働衛生 管理のためのガイドライン」では、オフィスのような集中力が必要とされる空間では「明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせないようにすること」と記されており、机上の照度は300ルクス以上が推奨されています。
リビングなどリラックスする空間では、温かみのある光でリラックスした雰囲気を演出できる温白色程度の照明が良いでしょう。照度、光の色、物の色の見え方、まぶしさ、光の広がりを考慮し、目的に応じた適切な照明を選択することが重要です。
参考:情報機器作業における労働衛生 管理のためのガイドライン(PDFが開きます)
「明るさ確保」と「空間演出」のポイント
照明を設計・デザインする際には、「明るさ確保」と「空間演出」のどちらを重視するかによってアプローチが異なります。
明るさ確保の場合、一般的に照度設定、台数計算、演色性・色温度・グレアの確認、光ムラの手順で確認を行います。明るさのムラが少なく、均一な照度になるよう設計することが重要です。
空間演出の場合、天井・壁・床のどこを照らすかをまず、決める必要があるでしょう。LEDは配光が狭いため、設計後に照度分布図で光ムラをチェックすることが重要となります。
照明デザインの評価基準
照明デザインの評価には「輝度に基づく視環境評価」「空間の明るさ感評価」「不快グレア評価」「視認性評価」などの方法があります。照度だけでなく、空間全体の明るさ感や不快なまぶしさも考慮します。
また「見える─見えない」というレベルと「見えやすい─見にくい」というレベルの視認性評価も重要です。これら複数の基準を総合的に判断して照明設計を行います。
照明デザインの事例紹介
照明デザインを行う上で、建築素材の選択も重要となります。例えば大日本印刷が製造販売する「DNP内・外装焼付印刷アルミパネル アートテック®」は、照明デザインの概念そのものを拡張し、単なる機能的な明かりの提供から、空間全体の雰囲気や感情を操作する芸術的表現へと昇華させるような表現が可能な素材です。そこでここからは、アートテックを活用して効果的な照明デザインを施した、実際の建築事例についてご紹介します。
プレミストタワー靱本町
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プレミストタワー靱本町(うつぼほんまち)
は、地上36階建ての超高層分譲マンションです。注目したいのは、エントランスの壁面にあるゴールド基調の意匠です。R加工で少し湾曲したエスカレーター入口の壁に三角形のパンチング加工を施した、金属柄のアートテックを使用しています。
パネルの背面にLEDを仕込むことによって、天井に埋め込まれたダウンライトの光と重なって、柔らかな光がこぼれる重厚感のあるエントランスとなりました。
ヒューリック錦糸町コラボツリー
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ヒューリック錦糸町コラボツリー
は再開発が進む錦糸町の北口エリアに、2023年1月に建築されました。「江戸切子」と「宇宙」をモチーフにした外観デザインが印象的なビルです。
エントランスにはゴールド調のリン酸処理風アートテックを使用し、開放的で柔らかい印象になりました。階段にライトの光を壁に当てて反射光を広げる間接照明である「コーニス照明」が仕込まれているのが特徴です。夜間には、この光をアートテックの壁が柔らかく反射し、エントランスを優しく照らします。
まとめ
照明デザインは、空間の快適性や機能性、省エネ性を向上させる役割を担っています。全体照明と部分照明、間接照明を適切に組み合わせたり、自然光と人工光のバランスを考慮したりすることで効果的な光環境を創出できるので、十二分に住みやすい住環境やオリジナリティ溢れる空間を追求していけるでしょう。また、LED技術の進歩によって環境に配慮しながら高機能な光源を提供できるようになった昨今では、その可能性はさらに広がっています。
照明デザインを行う際には建築素材の選択も大切なポイントです。そこで、機能的な明かりの向上はもちろんのこと、芸術的表現も可能にすることが可能なアートテックをご検討してみてはいかがでしょう。デザイン性やカスタマイズ性に優れ、照明デザインの幅を広げるアートテックは、より高いレベルの照明デザインを実現します。
【参考】出典元
照明器具の種類と特長!部屋に合った照明の見つけ方 パナソニック
照明デザイン賞受賞者一覧 一般社団法人照明学会
街路灯、防犯灯、投光器をLEDに交換 省エネ性やメリット、災害時のあかりもご紹介 一般社団法人日本照明工業会
視環境の評価 パナソニック
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*2024年8月現在の情報です。
*アートテックは、DNP大日本印刷の登録商標です。