有限会社船田アーキテクツ様
圧倒的なリアルさを持つ木目調の外装パネル
船田アーキテクツが求めた効果-施工事例
緑豊かで落ち着いた雰囲気を持つ、東京都杉並区浜田山。この都内屈指の住宅街に建つ「グランリビオ浜田山」は、「次世代に受け継がれる住まい」をコンセプトとした、総戸数84戸の低層分譲マンションです。軽快で洗練された建物は、道行く人の目を引く魅力を備えています。
沿道に面したファサードに設けられているのは、木目調の「DNP内・外装焼付印刷アルミパネル アートテック®」を組み合わせてつくられたマリオン。マンション内外の一体感や、沿道や中庭といった空間との連続性を高める効果を持っています。
グランリビオ浜田山のデザイン監修を手掛けた有限会社船田アーキテクツの船田徹夫氏に、プロジェクトの背景や設計のプロセスについて、話を伺いました。
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アートテックを活用したソリューション・その他製品についてご相談承っております
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プロジェクトの起点や背景
プロジェクトの背景や依頼の内容を教えていただけますか。
船田徹夫(敬称略。以下、船田):このマンションが建つ最寄り駅の北側は、商店街を抜けた先に静かな住宅地が広がっています。全長が約4.2kmに及ぶ善福寺川緑地や和田堀公園、柏の宮(かしわのみや)公園など多くの緑に恵まれ、丁寧に手入れされた庭木のある邸宅が立ち並んでいます。街全体に落ち着いた穏やかな空気が保たれている地域です。
自然環境が大切に守られてきたこのエリアで、日鉄興和が手掛ける分譲マンションブランド「LIVIO(リビオ)」を計画しました。最上位のハイグレードマンション「GRAND LIVIO(グランリビオ)」シリーズのフラッグシッププロジェクトとして「グランリビオ浜田山」がスタートし、私たちにデザイン監修の依頼がありました。
プロジェクトのコンセプトは「次代に受け継がれる住まい」です。マンション購入者の子どもが成長した時に、自分たちも住み続けたいと願い、住環境が受け継がれていくというイメージです。建築のデザインとしては、周辺の環境に溶け込むことを第一に考え、時代に左右されない素材を用いたシンプルな形状と、トレンドの変化に影響を受けない「価値が持続するマンション」をめざしました。
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自然環境との調和という点では、庭と住棟を一体的に計画されていますね。
船田:中庭をつくるというよりは、もともと存在していた自然や緑のなかに“建物をつくらせていただく”という姿勢で設計しました。住棟は、中庭を中心として、建物と庭に隔たりを感じないゆとりある配置とし、日常の生活が中庭を巡って展開する動線計画と空間構成になっています。
その上で、内と外で同じような空気感をつくろうと考えました。中庭にはパーゴラを設け、その下は「暖炉のあるリビング」をイメージしたアウトドア空間としました。居住者にとってロビーラウンジが第二のリビングルームだとすると、建物は同じ重量感を持ち、外の空気を感じながら時間を過ごせるパーゴラは第三のリビングルームです。このアウトドアリビングの先には、小山と川をイメージした高低差のある造園をつくり、敷地内にいながら旅をするイメージのランドスケープデザインとしています。
また、沿道や中庭の高木には、この敷地にあった既存樹の一部を保存・移植して歴史をつなぎ、屋上や駐輪場も緑化するなど、多数の植物を配した緑豊かなつくりとしました。他の植栽も、近隣に生息する野鳥やチョウが好む種類を採用するなど、生物多様性に配慮しています。人間と、樹木、草花、鳥、光、風といった自然界のたくさんのものが出会える場所を生み出すことをめざしました。そして、エントランスホールにもインドアグリーンを充実させ、室内でも自然を感じ取ることのできる、屋内と屋外を緑でつなぐデザインとしています。
繊細に研ぎ澄まされた邸宅像を求めて
建物の設計で工夫されたことを教えてください。
船田:デザインコンセプトは『砺美(れいび)の邸』としました。「あらと」とも読む「砺」は、刃物を研ぐための石のことです。丁寧に根気強く極限まで磨き上げられた美しさ・洗練された美を、「砺美」という造語に込めています。
建物では、コンクリートのボリュームや重量感を感じさせず、自然のなかで透けて水平に広がるような空間を検討しました。日本の木造住宅のような建築美を感じられる、繊細に研ぎ澄まされた次世代の邸宅像を追求したのです。
外観の大きな特徴は、縦のマリオンと横の庇(ひさし)が取り付けられたファサードです。バルコニーや共用外部廊下のさらに外側に、奥行が約60cmのマリオンと庇を付加しました。風が通るような軽快感や密度感とし、内外の一体感、沿道や中庭との空間の連続性を高めるために設けたものです。この部分は、建物の内外をつなぐバッファゾーン*となり、室内側からは部屋が外に向かって延びているように感じます。
*バッファゾーン:外と内の間で、緩衝の役割を持つ中間領域。
マリオンをアルミパネルでつくることで、軽快な外観を実現できました。マリオンは建物に取り付いている側では150mmの幅がありますが、先端に向かって細くなる形状とし、先端部は見付け寸法が80mmのカットパネルとしています。床スラブの先端は、パネルを曲げ加工を施し60mmにしました。なお、マリオンの縦のラインは、ずらしながら上下を重ねています。これは、どこか工作途中のような動きのある雰囲気が出ることを意図してのものです。
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他には代えられない価値のある材料
マリオンのアルミパネルには「アートテック」の木目調を採用されました。狙いや選定の経緯を教えてください。
船田:関係者全員が支持する『砺美の邸』というデザインコンセプトのもと、建物表現のメイン素材を木調にすることは、デザイン監修者として唯一の選択肢でした。その理由は、天然の木材の物理的性能やCO2削減への寄与度を評価してというよりは、木目のビジュアルが持つ心理的な効果が非常に大きいことにあります。私は2年ほど前に、「アートテック」をある事例で採用したことがありました。その時は、金属の質感を持つ木目の材を外壁材の一部にアクセントとして採用したのですが、今回は本物の木が持つ質感や存在感を特に求めたのです。
マリオンを木目とすることで、建物全体が薄い木の板でつくられているようなデザインを実現できました。マリオンの軒裏部分にも同素材を用いることで、地面レベルから建物を見た時に建物の大部分が木目仕上げのように見え、緑の上に浮かぶモダンでナチュラルな建築となりました。
分譲マンションで仕上げ材を選択する際には、天然素材の経年変化を購入者に肯定的に受け入れてもらうことがほぼ不可能といえます。「アートテック」はフッ素塗料による焼付印刷が施されていて耐候性のテストもされているので、経年で劣化しないという安心感を持って提案できます。
高い耐候性が求められる一方で、木目の表現において求められるのはリアルさです。アルミパネルを木目に仕上げる方法はいくつかあります。刷毛で筋状の模様を付けて木目に見せるもの、耐候性の木目調オレフィンシートを貼ったもの、木目調の熱転写加工などです。ただし、いずれも耐候性の不安があったり、光沢感が出たりするといった課題があります。
今回のプロジェクトでは、各種サンプルを関係者の前に並べて確認したところ、マットな質感でリアルな木目を持つ「アートテック」は他の製品と比べて圧倒的なリアルさがあると評価が一致し、採用に至りました。耐久性と意匠性の要求をどちらも高いレベルで満たす「アートテック」は、他の商品に代えられないと思います。
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リアルな木目を持つ材料がもたらす効果
木目や色合いは調整されたのでしょうか?
船田:私の手元にあったサンプルをもとに、少し離れた距離から見た時にもウォールナット柄の木目がきちんと見え、落ち着いた色合いとなるように微調整しました。このあたりの調整が細かくできることは心強いですね。
建物の外観は木目調の「アートテック」をメインとし、周囲の材料は木目を綺麗に見せる背景として、かつ緑との調和を妨げないようにコーディネートしていきました。外装のタイルはダークグレー、窓サッシ枠は黒としています。一部のスチール手すり子は、木目の柄を模したパターンで特注しました。
実は、このプロジェクトは、予算調整の段階では「アートテック」以外の製品に替わっていたのですが、工事に入った段階で「アートテック」の仕様が復活しました。竣工した時、事業者からは「もしアートテックでなかったら、まったく異なる印象になっていただろう」と話がありました。また、近隣住民のなかには「木造のマンションができましたね」と言う人もいたと聞いています。木目がはっきり見えて金属感のない建物が街並みに及ぼすインパクトは、とても大きいと私自身思っています。
今後のプロジェクトでは、どのように使うことを考えていますか?
船田:リアルさを感じさせる木目のシリーズは、これからも多くの場で使っていきたいと思います。今回のプロジェクトのように、心理的効果の大きな木目のビジュアルが必須となる場面は、今後も増えていくでしょう。
自分のこれまでのアルミパネルの使い方は、薄さを活かしてフラットで折り紙のような表現とすることに限定していたように思います。でも、コーナー材や曲面材を織り交ぜる工夫をすることで、表現の幅をもっと広げていけるのではないかと考えています。
自分が若い頃は、本物の素材を使わないことに抵抗感がありました。でも、イタリアに渡ってミケーレ・デ・ルッキの事務所で働いた時、事務所ではメーカーと協働してメラミン化粧板の柄を数多く検討していました。彼らは樹脂を建築やインテリアのほか、家具や照明器具、工業製品などにどのように展開できるかを真剣に考えていたのですね。そうした様子を見て、素材に対する見方が変わったように思います。私も「アートテック」を通じて建築の可能性を広げながら、人の感性に訴える建築をつくっていきたいと考えています。
■設計者
船田徹夫(ふなだ てつお)
1957年 函館市生まれ。
1980年 北海道大学建築工学科卒業。坂倉建築研究所にてキャリアをスタート。モダニズムデザインの核心を学び、実践する。
1989年 時代がポストモダンへと移行するなかで世界的な視野を持ちたいと願い、ミラノに渡る。イタリアを代表するデザイナー・建築家であるミケーレ・デ・ルッキと、アントニオ・チッテリオの2つのスタジオに勤務。歴史に深く根ざした現代デザインのダイナミックさを学び、その広大な可能性に触れる。
1992年 Studio De Lucchiの日本プロジェクトの設計監理事務所として船田建築研究所を開設。
2005年 有限会社船田アーキテクツ開設。
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■事例DATA
グランリビオ浜田山
所在地:東京都杉並区浜田山
用途:分譲共同住宅84戸
竣工年:2023年
設計:株式会社自由建築設計事務所
デザイン監修:有限会社船田アーキテクツ
施工:株式会社淺沼組東京本店
ファブリケーター:株式会社ツヅキ
建物構造:RC
規模:地下1階・地上3階
敷地面積:4830m2
延床面積:7003m2
施工期間:2022年08月-2023年10月
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アートテックを活用したソリューション・その他製品についてご相談承っております
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*22024年4月24日 DNP市谷加賀町ビル 応接室にて
*アートテックは、DNP大日本印刷の登録商標です。