ZEB認証を取得するために知っておきたいこと:基準、手順、メリット

脱炭素という言葉が頻繁に聞かれるようになった昨今、建築物においては、「ZEB認証」が脱炭素の鍵を握ると考えられ、スタンダードになりつつあります。

今回は、ZEB認証について詳しく知りたい方に向けて、認証の定義やメリットについて解説します。認証のプロセスや基準についても触れていますので、ぜひ認証取得の参考にしてみてください。

本コラムは、壁材・床材など住空間向け製品を扱っているDNP生活空間事業部が編集しています。以下のバナーよりDNP製品・採用事例等をご覧いただけます。

ZEBとは何か?

ZEBは、“Net Zero Energy Building”の頭文字をとった言葉です。快適な室内環境を維持しながら、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることをめざす建物をさします。

「エネルギー消費量の収支ゼロ」とは、省エネによるエネルギー消費削減と創エネによるエネルギー生産の組合わせによって、実際のエネルギー消費を実質ゼロにすることです。

環境省では、ZEBのことを「先進的な建築設計、パッシブ技術、高効率設備システムにより大幅な省エネを実現し、再生可能エネルギーの導入でエネルギー自立度を高め、年間一次エネルギー消費量の収支ゼロをめざす建築物」と定義しています。

引用元:ZEBの定義|環境省

ZEBの概念は、エネルギー効率と持続可能性を重視する現代の建築トレンドを反映しているともいえます。

ZEBの目標と背景

ZEBは、2030年までに新築建築物でZEB基準の省エネ性能を確保し、2050年にはストック平均でZEB基準を達成することを目標にしています。また、太陽光発電設備の導入も重要な目標とされています。

これらの目標は、2050年カーボンニュートラル実現を見据えて設定されました。ZEBの普及促進策は、短期的な2030年目標だけでなく、長期的な2050年目標も考慮しているということです。ZEBは、建築物のエネルギー効率を大幅に向上させ、再生可能エネルギーの活用を促進することで、持続可能な建築環境の創出をめざしています。

そもそも、ZEB認証が始まった背景には、日本全体のCO2排出量の3分の1が建築分野からのものであるという事実が深く関係しています。

日本政府は2020年10月に、2050年までにカーボンニュートラルの実現をめざすと宣言しました。それ以降、産業部門からのCO2排出量削減が進む一方で、建築物の省エネ化が急務の課題として挙げられるようになります。

そこで、2021年に閣議決定された地球温暖化対策計画の中で、2030年度までに新築建築物のCO2排出量を2013年度比51%削減する目標が設定され、新築建築物にはZEB基準の省エネ性能確保が求められるようになりました。国全体の目標達成を支援し、持続可能な建築物の普及促進を担う認証制度がZEB認証なのです。

ZEBの段階と認証基準

ZEBには、ZEB、Nearly ZEB、ZEB Ready、ZEB Orientedという4つの段階があります。一次エネルギー消費量の削減率や再生可能エネルギーの利用度合い、面積などによって区別されます。

ZEB>Nearly ZEB>ZEB Ready>ZEB Orientedの順に省エネ性能が高くなります。なお、ZEB以外の3つは、省エネ・創エネ設備の導入などによってZEBに近づけていくことをめざした段階です。

ZEBの定義を4つの段階に分けることにより、建築物の使用目的や規模、地域などに応じた段階的なアプローチが可能となります。

認証基準の詳細

ZEB認証の認証基準を、4つの段階ごとに表にまとめました。

ZEB ・年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物

・次の(1)、(2)のどちらにも適合する建築物
(1)基準一次エネルギー消費量から再生可能エネルギーを除いて50%以上の削減
(2)基準一次エネルギー消費量から再生可能エネルギーを含めて100%以上の削減
Nearly ZEB(ニアリーゼブ) ・ZEBに限りなく近い建築物として、ZEB Readyの要件を満たしつつ、再生可能エネルギーにより年間の一次エネルギー消費量をゼロに近付けた建築物

・次の(1)、(2)のどちらにも適合する建築物
(1)基準一次エネルギー消費量から再生可能エネルギーを除いて50%以上の削減
(2)基準一次エネルギー消費量から再生可能エネルギーを含めて75~100%以上の削減
ZEB Ready(ゼブレディ) ・ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備えた建築物

・基準一次エネルギー消費量から再生可能エネルギーを除いて50%以上削減した建築物
ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド) ・ZEB Readyを見据えた建築物として、外皮の高性能化及び高効率な省エネルギー設備に加え、更なる省エネルギーの実現に向けた措置を講じた建築物

・次の(1)、(2)の定量的要件を満たせる建築物
(1)再生可能エネルギーを除いて、用途ごとに次の基準を満たす建築物
A) 事務所・学校・工場等は40%以上の一次エネルギー消費量削減
B) ホテル・病院等・百貨店・飲食店・集会所等は30%以上の一次エネルギー消費量削減
(2)WEBPROにおいて現時点で評価されていない未評価技術を導入する

ZEB認証のメリット

ZEB認証には、エネルギー消費量の削減以外にも、次の4つのメリットがあります。

(1)環境への貢献
(2)エネルギーコストの削減
(3)建物の価値向上
(4)他の認証よりもカーボンニュートラルへの貢献度が高い

(1)環境への貢献

ZEB化した建築物は、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーを活用するため、温室効果ガスの削減に貢献します。二酸化炭素排出量が多い建築業にとって、環境に貢献することは産業全体のイメージ向上にもつながる重要なものといえます。

(2)エネルギーコストの削減

ZEB化することにより、建築物の運用にかかる光熱費を大幅に削減できます。例えば、ZEB Readyを実現した場合、標準的なビルと比較して40~50%程度の光熱費削減が可能です。

また、ZEBは、省エネと快適性を両立します。自然エネルギーの活用や個人の好みに配慮した制御により、エネルギー消費を抑えながら快適性と生産性を向上させます。

(3)建物の価値向上

建物をZEB化すると、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)、LEED(グリーンビルディング認証)、BELSといった環境性能評価・認証で高評価を得やすくなり、建物の価値向上につながります。

また、ZEB化した建築物を賃貸物件として運用する場合には、環境やエネルギーに配慮した建物であることがテナントからの評価につながる可能性もあります。テナントにとっても、環境に対する配慮が企業価値向上につながるためです。

(4)他の認証よりもカーボンニュートラルへの貢献度が高い

ZEB認証は、建築物のエネルギー効率に特化した評価を行う認証制度です。2014年に開始されたエネルギー性能の表示制度である「BELS」の最高ランク評価よりも、省エネ性能が一段進んだエネルギー性能まで評価できます。

その他にも、CASBEE、LEED、BREEAM(建築研究施設環境評価手法)などの認証制度がありますが、これらはエネルギー性能だけでなく資源循環や室内環境などを含めた、総合的な環境性能を評価する認証制度です。一方のZEBは、エネルギー効率と環境負荷削減に特化した認証制度です。そのため、カーボンニュートラルの実現という意味では、ZEBの方がより貢献度が高い制度といえるでしょう。

ZEB認証の取得手順

ZEB認証の取得は、BELSにもとづく第三者評価機関の評価が必要です。ここからはZEB認証の取得手順について、順番に説明していきます。

(1)認証取得のための準備と計画

ZEBの認証プロセスは、新築と既築で異なります。

新築の場合は基本設計段階でZEB化の意向を伝え、既存改修の場合はZEB化可能性検討を行います。いずれの場合も、適切な段階でZEBプランナーに相談することで、より確実な計画が可能になるでしょう。詳細設計が終わったら、ZEB認証の手続きへ進みます。

なお、既築の場合は、基本設計の前にZEB化可能性調査を行い、実現可能かどうかを確認することが必要です。

ZEBプランナーとは、一般社団法人環境共創イニシアチブが定め、ZEB実現に向けた業務支援を行う事業者です。建築目的、予算、用途、スケジュール、優先順位を明確にし、必要に応じてZEB化検討業務そのものを外注することも有効です。

ZEB認証にあたっては、プロセス全体を通じて、エネルギー効率の最適化と持続可能性の向上が重視されるといえます。

(2)必要なドキュメントとデータの収集

エネルギー使用量は、WEBPROプログラムという建築物のエネルギー消費量計算プログラムを使用します。そのため、まずは計算に必要な書類やデータの収集が必要です。

主に必要となるのは、省エネ設備に関する設計情報です。その他にも、建物の地域、面積、用途、設備仕様、断熱材などの情報を入力して計算します。必要な情報をすべて入力すると、設計エネルギー使用量と基準エネルギー使用量の比率によって、ZEBのレベルが判定されます。

(3)認証申請の手順

認証申請の手続きは、大まかに次のステップで進みます。

1. 建築用途や予算の整理
2. 専門家(ZEBプランナー)と相談しながらの基本設計
3. BELS評価の取得(BEI 0.5以下の証明)
4. ZEB認証の申請

ZEB実現のためには、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)評価*でBEIが0.5以下であることの証明が必要です。BEIとは、建築物省エネ法で使用される指標です。地域や建物用途、室使用条件などで定められる「基準一次エネルギー消費量」から、建築物の「設計一次エネルギー消費量」を引いた値をさします。

*BELS評価:BELSとはBuilding-Housing Energy-efficiency Labeling Systemの略語で、建築物の省エネ性能を評価・表示する制度のこと。

また、これのプロセスをスムーズに進めるためには、専門的な知識と費用が必要であり、事前の計画が重要です。基本設計を依頼する設計会社にZEBに関する窓口がない場合は、ZEBプランナーに相談するのが良いでしょう。

なお、認証申請をするだけであれば、ZEBプランナーは必須ではありません。しかし、補助事業を活用する場合は、ZEBプランナーの関与が必須となる点には注意が必要です。

認証後の維持と更新

ZEB認証を取得した建築物は、その後も、認証された状態を維持することが重要になります。そのために必要な運用は、主に次のとおりです。

・定期的なメンテナンスと監視:主要設備の定期点検
・エネルギー消費のモニタリング:エネルギー管理システム(EMS)の活用
・データの検証と報告:定期的な基準適合確認
・従業員やテナントの協力:省エネ意識の啓発
・技術の更新:新技術の導入検討

認証後の継続的な管理と改善を行うことで、ZEB認証を取得した建築物の持続可能性と省エネ性能は、長期にわたり維持できます。

ZEB認証取得建築物の事例

ZEB認証の取得には、構造躯体(こうぞうくたい)や材料の省エネ性の確保が重要です。しかし、建造物をより魅力的にするには、景観を彩るデザイン性も欠かせません。建物の外観は、周辺環境との調和や企業イメージの表現など、多様な役割を担っています。高い環境性能と魅力的なデザインの両立は、現代の建築において重要な課題といえるでしょう。

その願いをかなえる建材が、「DNP内・外装焼付印刷アルミパネル アートテック®」です。アートテックは、自然素材が持つ風合いの再現や独自の質感表現が可能で、耐候性、意匠性、加工性、環境配慮性に優れた注目の建材です。

ここでは、ZEB認証を取得、かつアートテックを活用した建築物の事例として、池田煖房工業本社ビル(Iビル)を紹介します。

池田煖房工業本社ビル(Iビル)

ZEB認証を取得したIビル

2022年11月に新築・移転した池田煖房工業本社ビル(以下、Iビル )は、寒冷地型『ZEB』の実証施設として建設されました。再生可能エネルギーを含む一次エネルギー消費量の削減量104%を達成し、『ZEB』認証を取得しています。また、BELSの最高評価である5スター認証も獲得しました。

札幌市の「第2次都心まちづくり計画」にもとづき、環境に配慮して建設されたIビルには、ウォールナット柄の曲げ加工技術を用いたアートテックが使用されています。直接印刷による鮮明な色柄と上品なサテン仕上げにより、温かみと高級感を演出した建築物となっています。

まさにIビルは、環境配慮と美的デザインを融合させた先進的な事例のひとつといえるでしょう。

本コラムは、壁材・床材など住空間向け製品を扱っているDNP生活空間事業部が編集しています。以下のバナーよりDNP製品・採用事例等をご覧いただけます。

まとめ

ZEB認証は、日本のカーボンニュートラル実現に向けた重要な取り組みのひとつです。建築物のエネルギー効率を大幅に向上させることで環境負荷を軽減しつつ、快適性との両立も実現しています。環境貢献、コスト削減、建物価値向上などの多面的なメリットを持つことから、今後の建築業界のスタンダードとなる可能性が高いでしょう。ZEP認証の普及が進むめば、カーボンニュートラルの実現と持続可能な社会の実現にも大きく寄与すると期待されています。

環境への配慮という観点は、建築物に使用される材料にも求められるようになると考えられます。アートテックは、建築業界における環境配慮の流れに沿った革新的な建材ソリューションです。環境負荷を抑えつつ、建築物の美観と機能性を高められる次世代型の建築材料といえるでしょう。

【参考】出典元
2050年カーボンニュートラルの実現に向けたZEB化の必要性 環境省
ZEBに関連する評価・認証・表示制度 環境省
建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報 国立研究開発法人建築研究所
ZEBの計算方法やWEB計算プログラムとは Zenken株式会社
2022年11月、本社ビルを新築し移転しました。 池田煖房工業株式会社

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  • *2024年8月現在の情報です。
    *アートテックは、DNP大日本印刷の登録商標です。

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