サステナブルな暮らしとデザイン Vol.5イギリス 後編
DNP生活空間事業部ではこれまで、イタリアや北欧、アメリカのライフスタイル、デザイントレンドを発信してきました。今回は、イギリス ロンドンを視察したレポートを前編・後編に分けてご紹介いたします。
前編では、DNP生活空間の社員がロンドンの話題の商業施設を視察した様子をご紹介しました。後編では同じくロンドンから話題のホテルやデザインスポットをご紹介します。
デザインが魅力的な話題のホテルデザイン
イギリスの有名インテリアデザイナーKit Kemp氏のデザインを体感するため、Haymarket Hotelを視察しました。「部屋はストーリーを語るもの」と考え、絵を描くように飾りつけをし、インテリアは数年で入れ替えられるそうです。大胆なカラーやパターンを複数組み合わせ、あたたかく楽しい空間を作り上げていました。
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こちらは同ホテルのレストラン。ユニークな傘の照明のほか、ひとつずつ異なる種類の犬のアップリケを施したダイニングチェアなど、空間全体がアクティブで楽し気な設えになっていました。食器もイギリスの有名食器ブランドWEDGWOODのためにKit Kempt氏がデザインしたものです。空間全体が醸し出すポジティブな雰囲気を感じながら、ゆっくりとくつろげる場所でした。
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可愛らしいモチーフに溢れていて、幸せな気持ちになれる空間でした。
ロンドンのなかでも手ごろな価格のアフタヌーンティーが提供されていますよ。
次にご紹介するのは、歴史漂う重厚感のある外観のホテルKimpton Fitzroy Londonです。1898年に完成したこの建物はいくつかのホテルを経て、2018年からKimpton として運用されています。イギリスの建物にはよく見られますが、手前に半地下のようなドライエリアがあり、階段を上がると1階のフロアレベルになります。こちらのホテルは車いすユーザーにも配慮し、階段が昇降機に変容する仕組みも備えられていました。
ホテル内部に入ると、荘厳なラウンジが広がり、圧巻の空間でした。複数の種類の大理石で囲まれたロビーエントランスは、歴史の重みを必然的に感じます。Kimpton Fitzroy Londonとして開業する際、既存の大理石を磨き、欄干や天井の大理石は新しく設えたそうです。フロアのモザイクタイルは12星座を描いています。
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このホテルはイギリスを代表するデザイナーであるTara Bernerd & Partnersがインテリアデザインを担当しています。同デザイン事務所がデザインした日本国内のホテルとしては、Zentis Osakaが有名です。Zentis Osakaについては、こちらのコラムでご紹介していますので是非ご覧ください。
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ラウンジにあたるPalm Court(上の画像)はホテルのソーシャルハブとして位置づけられています。室内にありながら、外光が降り注いでいる中庭に居るかのような空間デザインでした。アールを描いた天井はガラスのパネルで構成されています。
ソーマーク加工のラスティックな質感のテーブル、東南アジアを想起させるような家具やデザインモチーフ、赤い大理石のカウンターテーブルなど、さまざまな国や時代のエッセンスを感じる空間でした。
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各客室扉は、ボリュームのあるモールディングのドア枠で囲まれ、ルームナンバーが赤いタッセルに設えられています。客室はベージュ基調の空間で、木質、レザー、ファブリック、ミラーなどマテリアルミックスが取り入れられています。Kit Miles氏デザインのクッションと、赤いレトロな電話機がアクセントになっていました。
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地下にあるバンケットルームもエレガントでヨーロッパらしいクラシカルな空間です。ダークなカラーでデコラティブな空間ですが、重々しくなりすぎず、洗練された印象でした。
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ラグジュアリーではありながら、Kimptonブランドの遊び心も感じられる素敵なデザインのホテルでした。
続いてご紹介するのは、前編でご紹介した話題の再開発地域バタシーに開業したart‘otel London Battersea Power Stationです。波打つ形状の外観は、Foster + Partnersが設計し、2022年冬に開業しました。
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このホテルブランドは、アートコレクターによって創設され、絵画や彫刻が点在するギャラリーのようなホテルです。イギリス初進出になるart‘otel London Battersea Power Stationでは、内装や展示のキュレーションをスペイン人アーティストのJaime Hayonが手掛けています。
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上段左側からラウンジ、ジム、廊下の写真です。ユニークなモチーフとパターンに、惜しげもなくさまざまなカラーを組み合わせた空間は、Jaime Hayonらしいダイナミックな空間を生み出していました。
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楽しいデザインに溢れ、これから注目度が高まるホテルに間違いなくなるでしょう!
次にご紹介するのは、パディントン駅の近くにあるInhabit Hotel Queens Gardenです。建築事務所のHolland Harveyが立ち上げたホテルブランドで、ロンドンでは2件目となります。このホテルブランドはマインドフルネス、健康的な習慣、より良い睡眠を促進する“Restore”にフォーカスしたアーバンウェルネスホテルです。環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられるB Corporationの認証を、ロンドンのホテルで初めて達成しています。
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インテリアデザインはCaitlin Hendersonが手掛けています。グレイッシュなブルーやグリーンをベースにしたデンマークスタイルで、木材やファブリックのあたたかみが際立つコーディネートでした。また館内に設えられているアイテムは持続可能な取り組みを促進するブランドのものが使われ、家具はGoldfingerの製品を採用しているそうです。
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上の画像左はラウンジにあるメディテーションスペースです。ボールチェアが置かれ、いつでも自由に使えるスポットです。画像右はライブラリースペースです。こちらはブルーやネイビーをベースにした落ち着いた空間でした。
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客室(上の画像)はライトカラーのオークとグレイッシュなグリーンカラーをベースにした爽やかな空間でした。非常にコンパクトな間取りですが、ベッド下にトランクの保管スペースがあったり、機能的な家具デザインで構成されています。ベッドサイドには木箱があり、スマートフォンを収納するボックスで、眠りに集中できるよう促しています。また客室にはガラス製のボトルがあり、自由にサーバーから水か炭酸水を持っていくことができます。プラスチック削減と水の保全を目的としているそうです。
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オールデイダイニングは植物由来の食材をベースにしたフードを提供しています。そのほかこのホテルではヨガや地元のコミュニティに貢献する活動など多様なアクティビティが開催され、さまざまな視点からウェルビーイングなライフスタイルを提案しています。
スタッフの方もフレンドリーで、とても居心地の良いホテルでした。具体的にさまざまなウェルビーイングなアプローチをしていて、それを体験できるのが楽しかったです。
次にご紹介するのは、ノッティングヒルに2023年に開業したRuby Zoe Hotel & Barです。ノッティングヒルといえばポートベローマーケットや、カリブ海からの移民を中心に1960年代から始まったノッティング・ヒル・カーニバルが有名なエリアです。このような背景から、さまざまなカルチャーが交錯した華やかな雰囲気がホテルのインテリアにも反映されています。デザインはMatthew Balon とSquire & Partnersが担当し、カリブ海のイメージである色彩の豊かさや賑やかさからインスピレーションを得ているそうです。
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ポートベローマーケットにはヴィテージ家具やユニークな雑貨が溢れていますが、ロビーラウンジはまさにマーケットでお宝探しをして購入してきたようなインテリアで構成されています。さまざまなテイストの家具、トランペットのシャンデリア、地元のアーティストがキュレーションした多数のレコードが並んでいます。音楽にまつわるショップがこのエリアには沢山あるという背景を反映しています。そして大胆にも空間に配置されたフォード・プリフェクトは1960年代ものだそうです。
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さまざまなカラー・デザインの建具が壁面装飾として設えられていたのが印象的でした。そのほか家具はサステナビリティを考慮し、INSIDE OUT CONTRACTSのものが使用されています。リサイクルウッドを使ったテラゾーやパレット材を活用したヘリンボンパターンの天板テーブルが採用されていました。フロアはダークカラーのクルミ材で華やかなインテリアエレメントを惹きたてています。
華やかな共有部から一転、客室はLean Luxury(リーンラグジュアリー)をテーマにした静かな空間です。リーンラグジュアリーとは欧州におけるホテルトレンドの一つで、客室のサイズやアメニティは必要最低限にし、好立地でデザイン性が高く、上質な素材を追求した空間を提供するホテルを指します。
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客室奥にある小さなデスクスペースから、手前の洗面エリアにかけてカウンターテーブルが有機的な曲線を描きながら続いています。またトイレとバスルームは別になっていて、バスルームはガラスの壁面で空間がしきられているため、カーテンを開くと空間を広く感じます。客室扉に設えられたミラーも空間を開く感じさせるポイントでした。コンパクトな客室でありながら、機能的なデザインはまさしくリーンラグジュアリーを感じるポイントでした。
フロアはアッシュ材のホワイト塗装、扉はホワイト単色の鏡面材が使われています。そして腰壁はダークカラーの木材を使ったリブデザインで、木質の質感やあたたかみが際立っています。客室内にはMarshallのスピーカーとギターアンプが置かれています。客室は防音性に優れていて、ロビーにあるエレキギターを借りて、演奏を楽しむこともできるそうです。
最新デザイン・イギリスデザインに触れられるスポット
ロンドンで最新のデザインに触れられるスポットを3つご紹介します。ひとつ目はチェルシーハーバーにあるDesign Centre Chelsea Harbour。家具やファブリックなど世界中のさまざまなブランドのショールームが一堂に会し、その規模はヨーロッパ最大と言われています。吹き抜けのアトリウムにあるカフェには、パーティションやテーブル天板、椅子の座面にさまざまなパターンが使われていました。季節によって入れ替わるそうです。
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2つ目にご紹介するのはKensingtonにあるデザインミュージアムです。2016年にこの場所に移転され、設計デザインはJohn PawsonとOMAが手掛けています。ロンドンは無料で入場できる美術館・博物館が沢山あるのが魅力の一つですが、こちらのミュージアムも一部特別展を除き、無料で楽しむことができます。
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私が訪問したときは、二酸化炭素の放出を最小限にする設計や建築資材に着目し、石、木、藁による建築を紹介する展示を行っていました。そのほかプロダクトやロンドンデザインの歴史を振り返るような展示もありました。
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デザインの変遷を感覚的に理解できるディスプレーでした。
楽しみながら、デザインの知識を得られるミュージアムです。
3つ目にご紹介するのは、日本でも人気のファブリックLibertyによる百貨店です。ロンドンの中心地にあるこの建物は、Edwin T. Hall とその息子 Edwin S. Hallによる設計で1922年に完成しました。英国海軍の古い戦艦を解体した木材を活用して建設された、チューダー様式の3階建て木造建築です。アーツ・アンド・クラフツの歴史的建築物としても知られています。
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Libertyは1875年にArthur Lasenby Libertyが創業し、イタリアのアールヌーボー時代にまで影響を与え、リバティスタイルと呼ばれていました。リバティプリントのアーカイブは1800 年代から現在までの 45,000 点を超えるデザインがあるそうです。この百貨店ではそのさまざまなプリントデザインのファブリックや壁紙を見ることができるほか、アンティークの家具や最新のロンドン雑貨など幅広いデザインに触れ、購入することができます。
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イギリス文化を象徴する植物の存在
イギリスのデザインには植物や花の存在が欠かせません。春が訪れるとロンドンの街中にもさまざまな花がいたるところで咲き乱れ、イングリッシュガーデンらしい自然や景観に馴染む植物が街中や室内空間を彩っていました。
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左2つの画像は、カラフルなタウンハウスが並ぶNotting Hillの写真です。彩り豊かな建物の外観色と活き活きとした植物が融合しています。右の画像はロンドンの大型百貨店SELFRIDGESにある話題のフレンチレストランAUBAINEです。無数の藤の花が天井を彩り、エレガントな店内のデザイン、さらに窓から見えるロンドンの街並みと調和していました。
イングリッシュガーデンは自由で活き活きとしたスタイルだからこそ、カラフルな街並みと違和感なく融合しているのだろうと思いました。
こちらはロンドンの線路跡地を活用したコミュニティガーデンのDalston Eastern Curve Gardenです。 Dalstonはロンドンのなかでも人口が多く、ほとんどの人たちが十分なガーデンスペースのないアパートメントに住んでいると言われています。そういった人々に自然に触れられるガーデンを提供したいという思いで、J&L Gibbons Landscape Architectsの設計で2010年に開業しました。建築資材のほとんどをリサイクルで調達し、地元住民と協力して作り上げたそうです。室内スペースでは、料理教室などのコミュニティイベントが開催されています。併設されたカフェでは、自家製のスープなどを提供し、多くの人で賑わうスポットとなっています。
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イギリスの人々にとってガーデンや植物の存在が生活に欠かせないのだなと感じたスポットでした。
イギリス ロンドン視察をふりかえって
古い歴史を持つイギリスは歴史的な景観や建物を活かしながら、モダンな要素を融合させていることがさまざまな建築物や空間から感じることができました。これまでに培ってきた歴史、建築、風景やデザインに敬意を払い、現地の人々もそれらを大事にしながら誇りをもって生活している意思を感じます。
また19世紀に活躍したウィリアムモリスやリバティプリントから見られるように、植物や動物をモチーフにしたエレガントで活き活きとしたパターンが、現代のロンドンにも色濃く継承されていることを感じました。北欧ほどではありませんが、イギリスも年間を通じて雨や曇りの日が多いと言われています。そのような気候であるからこそ、室内のデザインに自然のモチーフや色どりを取り入れる文化が発達した、という北欧デザインの特徴がイギリスにも見られるのではないでしょうか。さらに近年おいては、ロンドンを中心に中東や南アジアにルーツを持つ人々が増加していることもあり、中東・南アジア文化の持つ華やかな色彩感覚が融合し、より鮮やかでフォトジェニックな空間が新たなトレンドとして出現しているように思います。
同じ英語圏の国であり、世界最大都市であるロンドンとニューヨークにどのような違いがあるのか、とても興味があったのですが、当然ではありながら2都市は大きく異なり、それぞれに魅力ある街並みが広がっています。以前ご紹介したコラム「サステナブルな暮らしとデザイン Vol.4 アメリカ 前編」もあわせてご覧いただき、ライフスタイルやデザインの違いを体感いただければ幸いです。
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Editor紹介
- Chihori Kunito(大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネイト提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター
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ロンドンの北西に位置するオックスフォードにも足を運びました。オックスフォード大学が有名なこの場所は、ハリーポッターのロケ地としても人気の場所です。特に、クライスト・チャーチカレッジにあるグレートホールはホグワーツの大食堂として見覚えのある方も多いのではないでしょうか。この食堂は、現在でも学生たちが食堂として使用しています。またオックスフォードはルイス・キャロル著「不思議の国のアリス」のモデルになった街とも言われています。歴史あるマーケットCovered Marketには、アリスやウサギのオブジェを見つけることができました。
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