ケミカルリサイクル普及のメリットと推進における課題を考察
2022年の日本のプラスチック廃棄物のリサイクル率は下表のようにマテリアルリサイクルが180万トン(21.9% )、ケミカルリサイクルが28万トン(3.4%)で、合計で208万トン(25.3%)となっています。プラスチック廃棄物のリサイクルを推進するためには、ケミカルリサイクルの普及が重要ですが、それにはいくつかの課題が存在します。
この記事では、プラスチック廃棄物を化学的に分解し、原料に変えて再利用するケミカルリサイクルとは何か、またそのメリットや課題などについて解説します。
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※こちらのページに記載されている内容は、2024年1月時点の情報です。
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目次
ケミカルリサイクルとは
ケミカルリサイクルは、プラスチック廃棄物をモノマーなどのプラスチック原料レベルにまで分解し、新しいプラスチックに作り替えて再利用するリサイクル方法です。
ケミカルリサイクルの手法
ケミカルリサイクルの代表的な方法を以下に紹介します。
熱分解(油化)
熱分解(油化)は、プラスチック廃棄物を無酸素状態で加熱分解し、生成油(炭化水素油)を製造する手法です。通常の熱分解とは異なり空気(酸素)を遮断するため、炭素成分のみを残すことができます。熱分解により得られた生成油は、燃料や各種プラスチック原料などとして利用することが可能です。
プラスチック廃棄物からプラスチックを製造するプロセスとしては、PE(ポリエチレン)/PP(ポリプロピレン)/PS(ポリスチレン)などの混合プラスチック廃棄物を無酸素状態で熱分解し、熱分解油(ナフサなど)を生成します。次に熱分解油をさらに高温熱分解して、エチレン、プロピレン、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)を作ります。その上でこれらを原料として、PE、PP、PSなどのプラスチックを製造します。
ガス化(化学原料化)
ガス化プロセスでは、プラスチック廃棄物を破砕後、ガス化原料に成形して低温ガス化炉に投入します。
低温ガス化炉では600~800℃に熱し、プラスチック廃棄物を一酸化炭素、水素、炭化水素、チャー(炭化固形物)に分解します。次の高温ガス化炉では、低温ガス化炉から排出されたガスを1300~1500℃に熱して、酸素および蒸気と反応させて一酸化炭素と水素主体の合成ガスに変えます。
その後、高温ガス化炉の排出口で合成ガスを冷却し、ガス洗浄装置を通した後、水素、メタノール、アンモニア、酢酸などの化学原料になります。
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他リサイクル法との比較
ケミカルリサイクルと他のリサイクル法の比較としてマテリアルリサイクル、サーマルリカバリーを紹介します。なお、DNPは廃プラスチック由来の熱利用については「サーマルリカバリー」と呼び、リサイクル手法に含めないと考えていますが、使用済プラスチックの有効利用という観点で合わせて紹介します。
マテリアルリサイクル
マテリアルリサイクルは、使用済のプラスチックを原料として新たな製品に作り替える方法です。
日本において、プラスチック廃棄物の総排出量に対するマテリアルリサイクルの割合は、表1から算出すると2022年実績で21.9%です。一方でケミカルリサイクルは3.4%と低いのが現状です。
マテリアルリサイクルについては、詳しくは下記のコラムで解説しています。
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マテリアルリサイクルとは、プラスチック廃棄物をプラスチックの性質を変えずに新たな製品の材料として再利用する技術です。この記事では、プラスチック廃棄物を再利用するマテリアルリサイクルとは何か、またその基本的なプロセスと製品例などについて詳しく解説します。 |
サーマルリカバリー
サーマルリカバリーは、使用済プラスチックをごみ焼却炉で燃やし、熱エネルギーとして発電や温水製造に利用する方法です。
日本において、プラスチック廃棄物の総排出量に対するサーマルリカバリーの割合※は、表1から算出すると2022年実績で61.9%です。日本でのプラスチックリサイクルの過半はサーマルリカバリーであると言えます。
※「サーマルリカバリー」を「サーマルリサイクル」と表記した表1のデータを元に算出しています。
サーマルリカバリーについては、詳しくは下記のコラムで解説しています。
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2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする目標を掲げる中、廃プラスチックから排出されるCO2の割合としてサーマルリサイクルは全体の56.5%を占めています。この記事ではサーマルリサイクルの問題点とサステナビリティについて解説します。 |
ケミカルリサイクルのメリット
リサイクル材の品質維持
ケミカルリサイクルは、マテリアルリサイクルが難しい汚染されたPET(ポリエチレンテレフタレート)廃棄物やPS廃棄物、混合プラスチック廃棄物(PE/PS/PP主体)に対して有力なリサイクル方法です。
この方法で得られた再生材は、バージン原料を使って製造した材料と遜色ない品質が得られ、食品用途などにも使用できることが特徴です。
リサイクルの範囲拡大
ケミカルリサイクルでは、化学的に分解した資源を再利用するため、リサイクルする対象およびリサイクルによって製造する対象の範囲を広くできます。
例えば、ペットボトルの水平リサイクルでは現在市町村などで分別回収されるペットボトルを対象としたマテリアルリサイクルが主流ですが、自販機横で回収される事業系の汚れが付着しごみなどの混ざったペットボトルを対象とする手段としてケミカルリサイクルが注目されています。
リサイクルによって製造する対象の例としては、プラスチック廃棄物を熱分解やガス化すると多様な原料(水素、メタノール、アンモニア、酢酸など)として回収できるため、再利用により製造できる範囲が拡大します。
資源の有効活用
ケミカルリサイクルは、プラスチック廃棄物を水素、メタノール、アンモニア、酢酸などの化学原料に分解します。製鉄所で使用する還元剤や、可燃性ガス、油などの燃料としても利用できるのです。
その結果、石油から作られるプラスチックをリサイクルでき、化石燃料の使用を抑えることにつながります。
日本におけるケミカルリサイクル推進の課題
日本でケミカルリサイクルを推進するに当たっては、以下のような課題があります。
- 1.コストの問題
- 2.技術的課題
- 3.エネルギーの問題
上記の課題について以下に説明します。
コストの問題
経済産業省ではケミカルリサイクルの課題として、多額の設備投資が必要なことを指摘しています。ケミカルリサイクルでは、プラスチック廃棄物を分解するプロセスが大規模になるため、設備投資費用がかかります。特に処理プロセスの中心となる熱分解(油化)は、設備が大規模で運用コストも高くなり、コスト競争力が低下する傾向にあります。
技術的課題
高品質な廃プラ原料確保
廃プラスチックの安定的な処理には、均一な廃プラスチックの確保が重要です。この理由は、様々な種類のプラスチックが混ざり合った廃棄物を熱分解する際、生成される油に有害物質が含まれる可能性があるからです。その結果、生成された油の精製工程と有害物質の処理が必要になります。このような処理を不要にするためには、熱分解処理前に機械的な選別を行い、廃棄物の品質を向上させ、さらに洗浄することが必要です。
複合材フィルム燃焼時の廃プラ処理施設への影響
「ケミカルリサイクルの代表的な方法」で紹介した熱分解(油化)技術において、安定的に処理できるプラスチックは、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)の3種類に限られます。この方法では、様々な樹脂を重ね合わせた複合材料である複合材フィルムのリサイクルが困難である点に注意が必要です。その理由は、複合材フィルムに使われる一部の樹脂から発生するガス(熱分解時)により、リサイクル用処理装置に腐食などの悪影響を及ぼすためです。
エネルギーの問題
リサイクル処理で使用されるエネルギーの問題
ケミカルリサイクルには熱分解、ガス化、化学分解などの方法があり、それぞれエネルギーが必要になります。
例えば、プラスチック廃棄物を熱分解する場合、高分子のプラスチックを低分子に戻すところからスタートしますが、この処理には電力や燃料が必要です。
ケミカルリサイクルは化石燃料の使用を抑える役割を果たします。しかし選択する方法によっては、資源の節約にはならず資源を消費することになります。
ケミカルリサイクルの課題払拭になる可能性を秘める「モノマテリアル」とは
以上のような課題を払拭する可能性を秘める素材としてモノマテリアルが注目されています。モノマテリアルとは、単一の意味で使用される「モノ(mono)」と原料や素材を示す「マテリアル(material)」に由来する造語です。工業用製品としての「モノマテリアル」は、製品が「単一素材」で作られていることを意味します。
「モノマテリアル」が求められる理由は、使用後の廃棄・回収、(素材ごとに分別の必要がないため)分解処理が容易で、リサイクルしやすいためです。
ケミカルリサイクルの推進に貢献するモノマテリアル
ケミカルリサイクルを推進するためには、単一素材で作られた「モノマテリアル」を使用することが有効です。その理由は、特に「熱分解」プロセスにおいて、熱分解前に行う混合プラスチック廃棄物内の異物(有害物質)除去が不要となりリサイクルに必要なエネルギーを抑え、安全性が高いプラスチック原料を得ることができるためです。
法律面の整備
容器包装リサイクル法(1997年施行)と改正容器包装リサイクル法(2006年施行)により、事業者、自治体および消費者の役割を規定し、使用済プラスチックの収集・分別とリサイクルの推進を促しています。
その後、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラ新法)(2022年4月施行)により、プラスチック製品の設計・販売、廃棄などの製品ライフサイクルの中でプラスチック資源循環の取り組み(3R+Renewable)の促進が法制化されました。
特にプラスチック製品の設計面では「単一素材の採用」を優先する素材採用の方針や、各自治体・製造事業者による収集分別から再商品化までのフローが規定されました。
以下にプラ新法に基づき定められた「プラスチック使用製品設計指針」より、「2 プラスチック使用製品製造事業者等が取り組むべき事項及び配慮すべき事項」としての「(1) 構造」の「⑤ 単一素材化等」を引用します。
"⑤ 単一素材化等
プラスチックの再生利用を促進するために、単一素材により又は使用する素材の種類等が少なく設計されたプラスチック使用製品は、複合素材で設計されたプラスチック使用製品に比べて、より多様な再資源化が実施しやすいこと等を踏まえ、設計に当たっては、製品全体又は部品ごとの単一素材化等の実施について検討すること。"
出典:内閣府、厚生労働省、経済産業省、財務省、農林水産省、国土交通省「プラスチック使用製品設計指針」
包装パッケージのモノマテリアル化に貢献するDNP
DNPは循環型社会の実現に向け、独自技術によって一般消費財に使われる包材のモノマテリアル化を実現しました。
DNPのモノマテリアル技術
従来の包材は、耐熱性、耐衝撃性などパッケージに要求される性能に対して、それぞれの機能を持った複数の素材(アルミ蒸着PET、ナイロンなど)を組み合わせて作られてきました。優れた機能を備える一方、分離(分別)が難しくリサイクル時の負荷は大きくなっていました。
DNPでは、コンバーティング技術、成膜技術、蒸着技術など、これまで培ってきた独自の技術によって、複数素材で作られた包材に匹敵するパッケージ性能を備えたモノマテリアル包材を開発しました。例えば、ナイロンフィルムとPEフィルムという2種類の素材が使われている包材を、PEフィルムのみという単一素材(PE)の構成の包材に置き換えます。
DNPのモノマテリアル技術には2つの特長があります。ひとつはモノマテリアル化によって分別処理を不必要にするリサイクルのしやすさです。リサイクル処理にかかる負荷を下げ、リサイクル材の品質も向上させやすくなります。
もうひとつは、製品パッケージ内の中身をしっかりと守ることです。「DNPモノマテリアル包材」は、独自のコンバーティング技術で従来の複合素材(マルチマテリアル)に代わる性能を発揮します。例えば、アルミ蒸着PETフィルムと同等のバリア性能(酸素や水蒸気を遮断する性能)を、PEフィルムのみで可能にします。
DNP モノマテリアル包材のラインアップ
「DNPのモノマテリアル包材」は独自のコンバーティング技術を活かして、必要な機能を付与することで、PEまたはPPのモノマテリアル化を実現したパッケージです。
液体や重量のある内容物に最適なPE仕様と、耐熱性やバリア性が必要とされるパッケージに最適なPP仕様があります。用途に応じて、パウチ、チューブ容器などの製品など幅広く使用できます。
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