半導体の発熱をコントロールする熱設計とは

電子機器の小型化で重要度が増す設計時の発熱対策

一般的に電子部品、とりわけ半導体部品は高温に弱いと言われます。温度が一定以上に高くなると性能(その半導体部品に求められる特性)が維持できなくなります。高温になると抵抗が減少するため、発熱量が増え、さらに……という発熱のループに陥ることもあります。最近は電子部品が小さくなり、基板も小型化、それらを使った電子機器も小型になっていますが、これは放熱の観点では厳しい条件です。かつての電気電子機器は、部品間隔も広く、筐体にも空間の余裕があったため、それほど深刻に考えなくても後付けの対策でなんとかなっていた熱設計、熱対策を、現在では早い段階からしっかりやっていく必要があるのです。

目次

なぜ熱対策が必要か、背景と理由

一口に言えば、抵抗に電流を流すと熱が発生するわけですが、半導体部品は多かれ少なかれ抵抗と考えられ、動作時に発熱します。昔の半導体部品はパッケージサイズが大きいため表面積も大きく、部品周辺の空気の温度を管理しておけば部品表面からの熱放射(輻射)で十分に熱対策ができていました。

しかし、1980年頃から半導体部品を含むあらゆる部品の小型化が進み、プリント基板は多層化して、電子部品は高密度な表面実装が当たり前になりました。これは半導体部品の放熱という観点で見ると、パッケージが非常に小型化したことで部品表面からの熱放射の量が減り、放熱の大部分は端子と配線を介した基板への熱伝導に依存するようになったと言えます。基板に伝わった熱は基板から空気への熱伝達(対流)と熱放射によって放熱するわけですが、熱源である電子部品が高密度に配置された小さな基板が、小さな筐体に収められているのですから、そのままでは部品周辺の温度はどんどん上がってしまいます。このような状態では、発熱の少ない部品までもが、空気や他の部品から伝わってくる基板の熱で温度が上がってしまうのです。

半導体部品は、パッケージ内の素子接合部の温度に、絶対最大定格が決められていて、これを超えると本来の性能が出せないだけでなく、半導体部品が壊れることにもつながります。例えば特に熱に弱い半導体部品のひとつ、アルミ電解コンデンサでは、温度が10℃上がると寿命が2分の1になり、10℃下がると寿命は2倍に伸びる(アレニウスの法則)と言われます。またスマートフォンのように、手に持ったり肌に密着させたりして使用するような電子機器では、内部の温度が一定以上になると動作をストップするような保護回路が組み込まれており、適切な熱設計をしていなければ製品としての機能が提供できないということにもなります。さらにはユーザーが低温やけどをするといった事態も考えられます。

半導体の熱設計

熱対策、熱設計の考え方

電子部品の小型化によって、熱伝達、熱放射では部品に発生する熱を逃がすのに十分ではなくなり、放熱は基板への熱伝導が大きな割合を占めるようになりました。つまり、回路や基板の設計段階から、実装される部品の発熱量や熱の移動、また発熱の少ない部品も含めたそれぞれが性能を維持できる温度の上限を考慮しなくては効率よく製品開発することはできないということです。

最近は、電子部品の発熱特性や耐熱性、パッケージや基板、そのほか部材の熱伝導特性といったデータを考慮した電子回路の熱量解析、熱流体解析によって、試作を始める前に部品の配置や基板の銅配線設計、吸気口や冷却ファン、筐体内の空気の流れ、放熱部材の使用などを検討することができるようになりました。解析結果が電子部品の上限温度を超えているようなら、下回るまで部品や部品の配置、放熱部品(ヒートシンク、ヒートパイプ、ベイパーチャンバー、ファンなど)の追加、機器筐体の材質や形状などの対策を行って、繰り返し解析します。

熱対策の方法

具体的な熱対策の方法としては、例えば部品配置で発熱する部品と耐熱性の低い部品と離して配置したり、発熱部品は筐体内の風下側に配置したりします。筐体内のスペースに余裕があればヒートシンクの使用も有効ですが、取り付けるべき発熱する部品自体が小さくなっているので、高い放熱効果を得るには難しい場合もあります。基板に伝わった熱を、さらに筐体に伝えて放熱するといったことも考えられます。

多く発熱する電子部品の熱を、別の場所に移してそこでヒートシンクなどを使って放熱する手段もあります。非常に高い熱伝導率を持ち、ある場所の熱を別の場所に高速で移す(伝える)ことができる、ヒートパイプやベイパーチャンバーを使う方法です。

放熱性能に優れ薄く軽いベイパーチャンバー

熱伝導率の高さでは、ヒートパイプとベイパーチャンバーは同等ですが、ヒートパイプは金属製のパイプで作られているので狭い場所や入り組んだ場所に適用するのが難しく、また重いので小型電子機器には使いにくい面があります。

その点、ベイパーチャンバーは、動作原理はヒートパイプと同じですが、熱伝導率が高い金属で作った薄いシート状の放熱部品で、ヒートパイプよりもずっと薄くできるので、小型の電子機器などでの使用にも適しています。

一般的な、メッシュを用いたベイパーチャンバーは、内部に微細に形成された毛細管構造(ウィック)があり、純水などの作動液が封入されています。一方DNPのベイパーチャンバーでは、内部の毛細管構造をエッチングによって極めて微細かつ精密に形成していることが特徴です。ベイパーチャンバーの一端を熱源に密着させると、作動液が蒸発することで潜熱として吸収し、低温部に移動して、熱を放出して液体に戻ります。作動液は毛細管現象によってウィックを伝って熱源部分に戻ります。この動きは非常に短時間かつ連続的に起こり、外部動力は必要ありません。

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