熱を瞬時に伝えるヒートパイプ、その歴史と仕組み

ヒートパイプの歴史、構造、動作原理、特徴の詳細について紹介

温度差が小さな場合でも、大きな熱量を素早く移送することができて、しかも動力源を必要とせず、長寿命という特徴を持つヒートパイプは、放熱しにくい場所で発生した熱をほかの場所に伝えることができるため、小型化/高密度化が進む電子機器の熱対策として利用が広がっています。ヒートパイプの歴史、構造、動作原理、特徴の詳細について紹介します。

目次

ヒートパイプの概要と歴史

ヒートパイプは、液体が気体になるときに吸収、または気体が液体になるときに放出する熱エネルギー(潜熱)を利用して、ある場所の熱を離れた別の場所に高速で伝えることができる部品です。金属で作られた管(パイプ)の中に液体(作動液)が封入されており、動力なしに動作し、長寿命です。一般的に、熱を伝える部品や装置では、伝える場所の温度差が小さいと効率が下がりますが、ヒートパイプは温度差が小さい条件でも動作します。熱伝導率(熱の伝えやすさ)は、高い熱伝導率で知られる銅や銀の数倍~数十倍で、全物質中最高の熱伝導率であるダイヤモンドをも上回ります。

ヒートパイプは、1942年にアメリカで特許が出願され、1963年に”Heat Pipe”(ヒートパイプ)と名付けられました。1960年代後半、NASA(米航空宇宙局)が人工衛星の熱対策にヒートパイプを使用し、このころからさまざまな用途開発が行われるようになりました。

日本では1970年代の第1次オイルショックの影響による省エネ需要を背景に、ボイラーや乾燥機向けにヒートパイプを利用した熱交換器が開発されました。1978年に電機メーカーがオーディオ用アンプのパワートランジスタの熱対策にヒートパイプを使用したことを皮切りに、1980年代にインバータなどエレクトロニクス分野での応用・普及が進みました。1994年にノートパソコンのCPUの熱対策として小型ヒートパイプが初めて採用され、これ以降ノートパソコンのCPUなど高発熱素子の熱対策として小型のヒートパイプの利用が広まりました。その後、スマートフォンに代表されるような小型で高性能の通信機器の登場に伴って、ヒートパイプもより小型のものが登場しています。

ヒートパイプの利用例

ヒートパイプの仕組みと構造

ヒートパイプは、銅やアルミなど熱伝導率が高い金属などで作ったパイプの中に、作動液と呼ぶ少量の液体(純水など)が密封されたもので、パイプの内側には毛細管構造(ウィック)が作られています。パイプの中は、作動液とその蒸気以外が含まれないよう真空状態になっており、作動液の蒸発・凝縮が起きやすくなっています。

ヒートパイプの一端を熱源に密着させて熱を得ると、その部分にある作動液が蒸発して気体となり、熱を潜熱として吸収して、パイプの低温部に移動します。低温部に移動した作動液は凝縮し、熱を放出して液体に戻ります。この仕組みによって高温部の熱を低温部に運ぶ(伝える)働きをします。液体となった作動液は、ウィックの毛細管現象によって元の熱源部分に戻っていきます。作動液の気化と液化、移動は非常に高速で、かつ連続的に起こります。動力はまったく必要とせず、メンテナンスも不要のためランニングコストはかからず、長期間にわたって動作できます。

ヒートパイプの仕組みと構造

ヒートパイプの仕組みと構造

ヒートパイプのバリエーション

ヒートパイプは、一般的には細長い円筒(チューブ)形状をしており、ある程度の大きさの製品が多いのですが、最近は電子機器の小型化、薄型化、軽量化に伴って、小型、薄型(パイプをつぶしたような偏平型)のものが増えています。一般的には、熱を運ぶ能力としてはパイプの直径が太いほど、また扁平にしたものより丸い方、曲げたものよりも曲がっていない方が有利とされますが、大きくなればスペースが必要ですし重くもなります。熱源の発熱量や用途などの条件によって最適な製品を選びましょう。ここでヒートパイプのバリエーションをいくつか紹介します。

作動液のバリエーション

・水(純水)
電子機器に使われるヒートパイプの作動液として最も一般的
使用できる温度範囲:室温~約200℃(0℃以下になる環境では使用できない)

・エタノール
水では凍結するような低温で使用できる
使用できる温度範囲:約-10℃~約百数十℃

・ナフタリン
水が使えない高温(のみ)で利用できる
使用できる温度範囲:約200℃~約400℃

パイプ材料のバリエーション

・銅パイプ
銅パイプは曲げ加工や偏平加工が容易
種類が多くさまざまなサイズの製品が容易に入手できる

・アルミパイプ
アルミ自体が銅よりも軽いので軽量
銅パイプよりもさらに加工が容易

・ステンレスパイプ
作動液にナフタリンを使用できる
銅やアルミよりも重く、加工にやや難あり

このほかに、ヒートパイプよりもさらに薄型でシート形状のベイパーチャンバーも登場しました。ヒートパイプが“線”として2点間で熱を伝えるのに対して、ベイパーチャンバーではそれに加え、“面”として熱を周辺に広げるという働きもします。また、ヒートパイプを使用する場合、熱源を下方に置き、熱を送る先(放熱部)を上方に置かなければ効率が下がるのが一般的ですが、ベイパーチャンバーはそうした制約がありません。

ヒートパイプに別の価値を加えるベイパーチャンバー

ヒートパイプとベイパーチャンバーは同じ基本原理で動作しますが、ヒートパイプは金属製のパイプで作られているので狭い場所に適用するのはやや難しく、また重いので少しでも軽くしたい電子機器には使いにくい面があります。その点で、ベイパーチャンバーは1mm以下という薄さと軽さにもできるという長所があります。

ベイパーチャンバーは、熱伝導率が高い金属で作った薄いシート状の放熱部品で、動作原理はヒートパイプと同じです。一般的なベイパーチャンバーは、内部に微細に形成された毛細管構造(ウィック)があり、純水などの作動液が封入されています。

DNPのベイパーチャンバー

ベイパーチャンバーの一端を熱源に密着させると、作動液が蒸発することで潜熱として吸収し、低温部に移動して、熱を放出して液体に戻ります。作動液は毛細管現象によってウィックを伝って熱源部分に戻ります。この動きは非常に短時間かつ連続的に起こり、外部動力は必要ありません。

DNPは、これまで培ってきた超微細精密金属加工技術を使って、厚みが0.20mmという熱伝導シート並みのベイパーチャンバーを開発しました。ある程度の柔軟性もあり、曲面や段差のある部分にも適用できます。
※2022年2月時点の情報です

DNPのベイパーチャンバー

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