熱対策の基礎知識

熱とは何か、電子機器の性能を十分に発揮するための熱対策について解説

ノートパソコンを膝の上に乗せて使っていたら、ノートパソコンの裏側が熱いと感じたり、スマートフォンでゲームをしていたら持っている手のひらが汗ばむほど暖かくなったりした経験はないでしょうか。電子機器は小さく軽くなり、消費電力も下がっていますが、電子部品の小型化、高性能化、基板実装の高密度化によって、発生する熱を逃がすこと(放熱)は難しくなっています。きちんと放熱ができなければ、機器が設計通りの性能(機能)を発揮できないだけでなく、故障や製品寿命の低下、ひいては使用者がやけどしたり発火につながったりする最悪の事態も起こり得ます。そのため熱対策は、電子機器にとって非常に重要な課題となっています。本記事では熱とは何か、電子機器においてどのように考え、どのようにして扱えばいいか、どうやって対策すればいいのかを解説します。

目次

熱と温度

我々の世界を作っている物質を構成する、原子や分子は常に不規則に振動(熱運動)していますが、その運動エネルギーが「熱」の正体です。振動(運動)にも種類があるのですがここでは触れません。そしてその熱運動の大きさ(程度)を表す尺度が「温度」です。
複数の物体があって、それぞれの温度が異なる場合、熱は高い方から低い方に移っていくという基本的性質を持っています。物体を移動する運動エネルギー(熱)の量を表すための尺度が「熱量」です。ある物質の熱量は、その物質が持つ運動エネルギー量に相当します。
また、ある物質1gの温度を1℃上げるために必要な熱量を「比熱」と呼び、さらにある量の物質の温度を1℃上げるために必要な熱量を「熱容量」と呼びます。熱容量はその物質の比熱に重さを掛けることで算出されます。

熱と温度,熱容量と温度の関係について

外部から与える熱量を水で表現しています。器にたまった水は物質が持つ熱量です。同じ熱量を与えたとき、熱容量が大きければ温度の上昇は小さく、熱容量が小さければ温度がより高くなることを示しています。

熱の性質と伝わり方

熱には高い方から低い方に移る性質があると書きましたが、物質から物質へ熱はどのように伝わる(熱量が移動する)のか、その伝わり方には「熱伝導」、「熱伝達」(対流)、「放射」(輻射)の3種類あります。
熱伝導は、物質内や接触する物質間で熱量が移動するものです。
熱伝達(対流)は、固体から流体への伝わり方です。固体の熱量が流体(液体、気体)に移動する際、温度が高くなった流体は温度の低い流体と入れ替わりながら伝わっていきます。
放射(輻射)は、熱が電磁波(赤外線)となって放出されるものです。

なお、物質内の温度が均一になったり、物質間の温度差がなくなったりしたところで、熱量の移動は止まります。この状態を「熱平衡」と呼びます。また熱の伝わりやすさ(伝えやすさ)は物質によって異なりますが、これを数値で示すのが「熱伝導率」です。熱伝導率は、厚さが1mある板状の物質で、その両端に1℃の温度差がある場合に、その厚さ1mの物質1m2を通じて1秒間に移動する熱量と定義されます。熱伝導率は気体より液体、液体より固体のほうが大きく(熱が伝わりやすく)なります。例えば金属では、鉄、アルミ、金、銅、銀、ダイヤモンドの順に熱伝導率が高くなります。ダイヤモンドは全物質中で最高の熱伝導率があります。
物質の熱の伝わりにくさを「熱抵抗」で示す場合がありますが、熱抵抗はその物質の厚さを熱伝導率で割ったものになります。

熱の性質と伝わり方

外部から与える熱量を水で表現しています。左側の器が熱を発生する部品、右側の器は周辺の環境、2つの器をつなぐパイプを流れる水は熱伝導や熱伝達による熱の移動を示しています。

熱をどう逃がすか

電子機器の放熱を考える場合、放射(輻射)で逃げる(伝わる)熱量は少なく、あまり考慮する必要はありません。電子基板上の電子部品の熱の多くは、熱伝導によって基板を伝わり、電子部品や基板から空気に伝わる熱伝達(対流)によって放熱されるものが大部分を占めます。

電子部品が高密度に実装された基板では、各部品からの熱量が基板に伝わっていくと、熱平衡はしないまでも部品と基板の温度差が小さくなり、電子部品の熱が逃げにくくなります。そのため、放熱部品や放熱部材を使って放熱を助ける必要があります。

電子機器によく使われる放熱部品としては、ヒートシンク、グラファイトシート、ヒートパイプ、ベイパーチャンバーなどがあります。ヒートシンクは空気に触れる面積を増やして熱伝達(対流)の効率を上げる放熱部品です。グラファイトシートは熱伝導率の高いグラファイトをシート状にした放熱部品で、熱を素早く面で拡散させて、特定の場所が高温になることを防ぐのに役立ちます。ヒートパイプとベイパーチャンバーは、グラファイトシートと比べても熱伝導率が高いことが特徴で、特に高い熱を発する部品の熱を、部品から離れた場所に設置したヒートシンクに伝えるといった使い方ができます。

熱対策に効果的なベイパーチャンバー

ヒートパイプとベイパーチャンバーは同じ基本原理で動作し、熱伝導率も同等ですが、ヒートパイプは金属製のパイプで作られているので狭い場所に適用するのは難しく、また重いので小型電子機器には使いにくい面があります。その点で、ベイパーチャンバーは薄さと軽さという強みを持っています。

ベイパーチャンバーは、熱伝導率が高い金属で作った薄いシート状の放熱部品で、動作原理はヒートパイプと同じです。一般的なベイパーチャンバーは、内部に微細に形成された毛細管構造(ウィック)があり、純水などの作動液が封入されています。ベイパーチャンバーの一端を熱源に密着させると、作動液が蒸発することで潜熱として吸収し、低温部に移動して、熱を放出して液体に戻ります。作動液は毛細管現象によってウィックを伝って熱源部分に戻ります。この動きは非常に短時間かつ連続的に起こり、外部動力は必要ありません。

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