放熱設計と電子機器
冷却システムに使用される放熱素材や放熱部品の特徴や注意点を解説
電子機器に使用される電子部品の中には、動作中に素手では触れないほど、またそのレベルを超えてかなりの高熱になる物があります。高熱になると、その電子部品の動作(特性)に影響が出るのはもちろん、電子基板を伝った熱が他の電子部品の動作にまで影響したり、電子基板や電子部品が熱で変形し回路が破壊されたり、ユーザーがやけどしたり、さらには発火して事故になることもあります。こうしたことが起こらないよう、それぞれの部品や基板を一定の温度以下に抑えるための放熱を考慮した設計(放熱設計、熱設計)が求められます。
目次
電子回路の放熱
電子部品が実装された電子基板で、ある部品が発する熱はどのように放熱される(伝わっていく)のでしょうか。放熱には3種類あり、1つ目は電子部品からリードやはんだなど接触している部分を通じて温度の低い電子基板に伝わっていく「熱伝導」、2つ目は電子部品の表面から空気に熱が伝わる「熱伝達(対流)」、3つ目は熱エネルギーが電磁波(赤外線)となって電子部品の表面から放出される「放射(輻射)」です。
この3種類の放熱のうち、電子部品においては一般的に放射による放熱はわずかで通常は考慮されません。熱伝達による放熱は空気との接触面積が重要でこれが大きいほど、また空気が流れているほど有利です。しかし一般的に小型の電子機器においてはそれほど多くの放熱にはつながりません。電子部品、特に小型の電子部品においては基板に熱が伝わっていくことによる熱伝導が、放熱の大半を占めています。
放熱設計の考え方
以前の電子機器では、基板上の電子部品は比較的余裕のある配置になっていたので、特別に発熱の多い部品などを除けば、設計段階から熱対策を考慮する必要はあまりありませんでした。しかし、電子機器の小型化、高性能化が進んだ現在では、電子部品は小さくなり、実装密度も高くなっているため、設計時から放熱を考慮すること(放熱設計、熱設計)が求められています。
放熱設計ではまず各電子部品が正常に動作する上限温度を設定します。上限温度設定の際には、その電子機器を使用する環境の温度や、電子機器の表面の温度も考慮する必要があります。なお、発熱する部品から基板を伝わってくる熱は、発熱が小さい部品にとっては、放熱どころか加熱されることに他なりませんので、これも注意が必要です。
次に、実装する電子部品と電子基板の発熱特性、熱伝導特性のデータをもとにした熱量解析(シミュレーション)を行い、設定した上限温度を超えないことを確認します。マイクロプロセッサや電源関係の部品は特に発熱するので注意が必要です。解析結果が上限温度を超えているようなら、下回るまで部品や部品の配置、放熱部品(ヒートシンク、ヒートパイプ、ベイパーチャンバー、ファンなど)の追加、機器筐体の材質や形状などの対策を行って、繰り返し熱量解析を実施します。
放熱設計における熱対策ですが、例えば部品配置では発熱する部品を耐熱性の低い部品と離して配置したり、筐体に収めた時の空気の通り道を考えて発熱部品は風下側に配置したりします。このほか、電子基板に伝わった熱をさらに筐体側に伝えて逃がすために、電子基板と筐体を固定する部分の場所を移すまたは増やす、固定する部品の材質を変える、筐体の材質を変えるといった方法もあります。
さらに効果的なのは、電子基板とは別に熱を逃がすための放熱部品を使用することです。小型電子機器で使われる放熱部品には、小型ファン、ヒートシンク、グラファイトシート、ヒートパイプ、ベイパーチャンバーなどがあります。それぞれに長所と短所がありますが、熱を伝える(温度が高いところから低いところに移動させる)能力が最も高いと言えるのはヒートパイプとベイパーチャンバーです。
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放熱性能に優れ薄く軽いベイパーチャンバー
薄くて軽く、高い熱伝導率を持つ放熱部品としては、グラファイトシートがありますが、それに近い薄さと軽さを持ちながら、その数倍以上の高い熱伝導率という特徴を持つのがベイパーチャンバーです。熱伝導率の高さでは、ヒートパイプも同等ですが、ヒートパイプは金属製のパイプで作られているので狭い場所に適用するのが難しく、また重いので小型電子機器には使いにくい面があります。
ベイパーチャンバーは、熱伝導率が高い金属で作った薄いシート状の放熱部品で、動作原理はヒートパイプと同じです。一般的なベイパーチャンバーは、内部に微細に形成された毛細管構造(ウィック)があり、純水などの作動液が封入されています。ベイパーチャンバーの一端を熱源に密着させると、作動液が蒸発することで潜熱として吸収し、低温部に移動して、熱を放出して液体に戻ります。作動液は毛細管現象によってウィックを伝って熱源部分に戻ります。この動きは非常に短時間かつ連続的に起こり、外部動力は必要ありません。