本当に使えるカスタマージャーニーマップの作り方
お客さまをよく知り、最適なタイミングで、最高の体験価値を提供することで、自社のファンになってもらう・・・。
今、企業のマーケティングにおいて、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験、以下CX)の重要性が高まっています。エンドユーザーに寄り添い、満足度を高める施策を検討するのに使われるのが、カスタマージャーニーマップ(以下ジャーニーマップ)。エンドユーザーの属性や行動特性、その時々の感情など、一連の購買行動を「見える化」するツールであり、作成したことのある人も多いでしょう。
しかし、ジャーニーマップを作ったものの、具体的な施策に活かせていない、CXの向上に役立っていない、という企業は少なくありません。
本コラムでは、「本当に使えるジャーニーマップ」とはどのようなものかをテーマに、作成のポイントやマーケティングへの活かし方をお伝えします。
目次
1.ジャーニーマップは、実は3種類ある
2.ジャーニーマップの根底にある概念
3.マーケティングの全体像を俯瞰するための「マクロ型ジャーニーマップ」
4.顧客体験上の問題点を抽出するための「ミクロ型ジャーニーマップ」
5.MAなどに登録するための「シナリオ型ジャーニーマップ」
6.ジャーニーマップを参考にして、デジタルマーケティングツールを選ぶ
7.まとめ
1. ジャーニーマップは、実は3種類ある
「カスタマージャーニーマップはすでに作った」「作ったことがある」という方もいらっしゃるでしょう。では、作成したジャーニーマップは、何を目的に作られましたか?
ジャーニーマップは、実は目的別に、
A:戦略立案フェーズ向け
B:施策実行フェーズ向け
の2つのタイプがあります。
「戦略立案フェーズ向け」にはさらに、マーケティング全体の優先課題を俯瞰して見るための「マクロ型ジャーニーマップ」と、顧客体験上の問題点を抽出するための「ミクロ型ジャーニーマップ」があります。
「施策実行フェーズ向け」の「シナリオ型ジャーニーマップ」は、MA(マーケティングオートメーション)やコンテンツ出し分け機能付きCMS(コンテンツマネジメントシステム)などのデジタルマーケティングツールに登録する、顧客育成シナリオの策定を目的とします。それぞれ、目的に合わせて作成方法が異なります。
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ジャーニーマップは、「なんとなく顧客のことがわかった」で終わるものではなく、マーケティングに活かすもの。はじめに「目的」ありきでスタートしなければ、その後の施策に活かせません。では、目的はどこから導き出されるのか。そのカギを握るのがCXM(カスタマーエクスペリエンスマネジメント)です。
2. ジャーニーマップの根底にある概念
顧客体験価値を最大化するための新しい戦略概念として、CXMが注目されています。これは、エンドユーザーが常に良質な顧客体験を得ることができるように、企業目線で管理しよう、という取り組みです。
例として、20代のOLが同級生との女子会で、あるレストランを利用した時の体験と期待値の関係をつくってみました。時系列に追ってみましょう。
事前に飲食店のクチコミサイトなどで下調べをし、パスタが高評価なイタリアンレストランで女子会を企画したOL。期待いっぱい、ワクワクした気持ちで店に向かっています。
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1.入店時:スタッフが素敵な笑顔で迎え入れてくれた! 体験>期待値 ○
2.食前酒:お勧めのワインがあまり好みの味ではなかった…。でも、元々ワインに期待していないから、それほど気にならない。 体験<期待値 △
3.食事:人気のパスタは想像を超えて美味しい! 体験>期待値 ◎
4.会計:クーポンを提示したのに理不尽な理由で使えなかった! 体験<期待値 ×
4での体験が期待値を大幅に下回り、彼女は「美味しかったけれど、クーポンが使えずとっても残念。なんかモヤモヤ…」とした気分で、店を後にすることになりました。その後、彼女がこの店を再び利用するか、誰かに薦めるかは、微妙なところでしょう。
満足度が低下した原因は、あきらかに「4.会計」でしょう。期待値が高いところで、体験が大きく下回ってしまった場合、がっかり感と共に大きく顧客満足度を低下させてしまいます。
「2.食前酒」でも体験が期待を下回りましたが、元々期待がたいして大きくないので、顧客満足度への影響はあまりありません。
顧客満足度=体験-期待値(体験から期待値を差し引いたもの)とするならば、CXMを下記のように定義することができます。
CXM = 「体験」が「期待値」を上回る状態をキープすること
CXMでは、顧客体験の中で、体験が期待を大きく下回っている箇所(ボトルネック)がないか、を確認することが、とても重要です。
ここで役立てたいのが、3つの目的別ジャーニーマップです。
A1:マーケティングの全体像を俯瞰するための「マクロ型ジャーニーマップ」
A2:お客さまの満足度をイメージしながら、各タッチポイントで期待値を下回りそうな問題点を探る「ミクロ型ジャーニーマップ」
B:高い体験価値をキープするための施策を設計する「シナリオ型ジャーニーマップ」
ジャーニーマップ種別 | 作成タイミング | 用途 | 視点 |
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1.マクロ型ジャーニーマップ | 戦略立案フェーズ | 商品・サービスのマーケティングの中で、優先課題(特に大きな課題)が、大体どのあたりに内在しているのかを把握する。 |
鳥の目で視る。
商品・サービスのマーケティングの全体像を鳥瞰的に捉える。 |
2.ミクロ型ジャーニーマップ | 戦略立案フェーズ | エンドユーザーの体験上のボトルネック(お客さまの満足度を引き下げている要因のうち、特に大きいもの)を詳細に把握する。 |
虫の目で視る。
商品・サービスの体験価値を細かい粒度で捉える。 |
3.シナリオ型ジャーニーマップ | 施策実行フェーズ | デジタルマーケティングツール(MA、CMSなど)に登録するための、顧客育成シナリオを策定する。 |
マーケターの目で視る。
CXM上有効と思われる施策をマーケターの視点で検討し、エンドユーザーのジャーニーに合わせて組み合わせる。 |
CXMを実現するのに、これらのジャーニーマップが大きな役割を果たします。それでは、目的別にそれぞれのジャーニーマップの特長を解説していきましょう。
3. マーケティングの全体像を俯瞰するための「マクロ型ジャーニーマップ」
ジャーニーマップを作成する際に注意しなければいけないのは、「木を見て森を見ず」の状況に陥らないようにすることです。
マクロ型ジャーニーマップを描く目的は、森の全貌、すなわちマーケティング全体像を把握することです。購買に至るプロセス、タッチポイント、KPIなどを、鳥の目で俯瞰するように、マーケティングファネル(※)を使ってなぞり、ファネル上のどのあたりに優先課題があるのか、を探っていきます。
※ファネル(漏斗)とは、広く集客した見込み顧客が、検討・商談、そして成約へ流れるなかで、段々と少数になっていくことをいう。一般に、商品・サービスの購買過程をフェーズ分けしたものをモデル化したもの。
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ポイントは下記の通りです。
1.ファネル:左から右へ時系列になるように、マーケティングファネルとKPIを描きます。シングルファネルではなく、ダブルファネルにした方がKPIを記載しやすくなります。
2.タッチポイント:リアル・デジタルに分けて、エンドユーザーとのタッチポイントを漏れなく記載します
3.コンテンツ・訴求ポイント:各タッチポイントにおけるコンテンツや訴求ポイントを記載します。
4.仕組み・ツール:各タッチポイントで活用しているデジタルツールなどの仕組みを記載します。
5.KPI:最後にマーケティングファネル上のKPIを比較し、とくに歩留りが低そうなもの(問題箇所)を特定し、そのKPIを優先課題と位置づけます。そしてなぜそのような問題が生じているのかを検討し、左下に記載します。
4. 顧客体験上の問題点を抽出するための「ミクロ型ジャーニーマップ」
課題解決の視点から見ていくジャーニーマップです。顧客体験を、虫の目で細かく視て、体験が期待値を大きく下回っている箇所=ボトルネックを探すのに用います。
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ポイントは下記の通りです。
1.時系列:AIDMA、AISASなどを意識しながら、左から右へ時系列に記載します。一番右側は「今後このような体験をしていただきたい」という思いを記載します。
2.タッチポイント:リアル・デジタルに分けて、エンドユーザーとのタッチポイントを漏れなく記載します。
3.お客さま評価推移:段階ごとに、NPS(※)や顧客調査の値を記載し、評価の推移がわかるようにします。
4.ボトルネック:1、2、3を鑑みて、エンドユーザーの体験が期待値を大きく下回っている箇所(ボトルネック)はどこなのか、を仮説ベースで記載します。ボトルネックが複数挙げられた場合は、インパクトの大きい順に順位付けを行います。
※NPS(ネット・プロモーター・スコア)は、顧客ロイヤルティを数値化する指標。
5. MAなどに登録するための「シナリオ型ジャーニーマップ」
MA(マーケティングオートメーション)やコンテンツ出し分け機能付きCMS(コンテンツマネジメントシステム)などのマーケティングツールに登録することを目的とした、顧客育成シナリオのことです。
ポイントは下記の通りです。
1.時系列:時系列:AIDMA、AISASなどを意識しながら、左から右へ時系列に記載します。
2.タッチポイント:リアル・デジタルに分けて、エンドユーザーとのタッチポイントを漏れなく記載します。
3.施策:タッチポイントごとに、どのようなオファーを出すのか、をタイミング・コンテンツなどと共に記載します。精度の高い仮説の下でPDCAを回していくことが重要ですので、ここでは関わるメンバーが頭に汗をかいて、しっかり議論をしながら進めていく必要があります。
6. ジャーニーマップを参考にして、デジタルマーケティングツールを選ぶ
CXMをより効率的・効果的に運用するには、デジタルマーケティングツールの導入も重要です。デジタルマーケティングツールといえば、MA、DMP、CMS、DAM、BI、解析ツールなど、多種多様なツールがあります。しかし、これらをすべて導入するとコストが莫大になってしまうかもしれません。
それを避けるために、まず「マクロ型ジャーニーマップ」を描いてみましょう。ジャーニー上の優先課題を特定し、その課題に対応したツールから検討するのがおすすめです。
目的やステージ、顧客構造や特性によって、必要なマーケティングツールは全く異なります。自社の最優先課題を見つけ、課題解決の「目的」から、最大の効果を上げるツールを導き、選定していくのが効率的です。ツールありきで施策を進めても、目的が明確でなければ、どんなに優秀なツールも役に立ちません。無駄な投資になりかねないので注意が必要です。
7. まとめ
本当に使えるジャーニーマップについて解説してきましたが、ここでポイントをおさらいします。
そもそもジャーニーマップは、目的によって3種類の使い分けが必要です。
(1)「マクロ型ジャーニーマップ」で、マーケティング全体の優先課題を抽出する
鳥の目でマーケティング全体を俯瞰することで、エンドユーザーをゴールに導くための工程、タッチポイント、訴求ポイントなどを整理し、マーケティング全体のどのあたりに優先課題が内在するか、を可視化します。
また、デジタルマーケティングツール選定の優先順位付けにも活用できます。
(2)「ミクロ型ジャーニーマップ」で、体験価値内のボトルネックを発見する
体験が期待値を大きく下回る箇所(=ボトルネック)を見つけ出すのに有効です。具体的な改善策を企画・検討する際の羅針盤的な役割を果たします。
(3)「シナリオ型ジャーニーマップ」で、顧客育成シナリオを作る
MA、CMSなどに設定するための、具体的な顧客育成シナリオ作成を作るのに有効です。
流れとしては、まず、マクロ型ジャーニーマップで森全体(商品・サービスのマーケティング全体)を見渡して、どのあたりに問題があるのか、をざっと把握します。つぎに、ミクロ型ジャーニーマップで木1本(エンドユーザー1人)を細かく視て、顧客体験のどこにボトルネックがあるか、を把握します。最後にマクロ型・ミクロ型ジャーニーで得られた気づきをもとに、シナリオ型ジャーニーマップを描いていきます。
また、業種、業態、事業規模によって、必要なジャーニーマップや作成方法は異なります。本記事で、自社に有効な目的別ジャーニーマップを作りたい、CXMを実現するためのもっと精度の高いジャーニーマップを作りたい、マーケティング予算を最適な場所に投資したい、そんなお気持ちになられたのであれば、ぜひ当社の体験セミナーにお越しください。経験豊富なコンサルタントが、本当に使えるジャーニーマップの作り方やツール選定などをサポートいたします。
この記事の作者
江里 英之
大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部
C&Iセンター デジタルマーケティング本部
コンサルティング部 コンサルティンググループ
※2018年3月時点の情報です。
「マクロ型ジャーニーマップ」、「ミクロ型ジャーニーマップ」の書式データをご用意しましたので、ご自由にダウンロードしてお使いください。