モノマテリアルとは|日本における普及の鍵とグローバル比較
2019年5月10日に国連において「各国政府、プラスチックごみを含む有害な化学物質と廃棄物から人間と地球を守るための画期的な決定」が行われました。2019年時点で海洋には1億トンのプラスチックが投棄されており、その大半が陸上を発生源としています。
このようなプラスチック製品はどのような材料で作られ、どのようなリサイクルや廃棄処理が実施されているのでしょうか。また、プラスチックごみの削減や環境負荷の低減はどのように進められているのでしょうか。
本記事では、プラスチック製品の課題とリサイクル方法について詳しく解説します。
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※2023年9月時点の情報です
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目次
モノマテリアルとは
モノマテリアルとは、単一の意味で使用される「モノ(mono)」と原料や素材を示す「マテリアル(material)」から成る造語です。工業用製品としての「モノマテリアル」は、製品を構成している材料が「単一素材」であることを意味します。
例えば、多くのスナック菓子やレトルト食品のパッケージ(軟包装)は、印刷のしやすさ、酸素バリア性、遮光性、耐熱性、シール性といった機能が求められるため、アルミ箔やPP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)など複数の素材を組み合わせて作られています(複合素材)。
モノマテリアルが求められる理由は、再生工程においてリサイクルしやすいためです。
複数の素材を組み合わせられた従来の仕様は分離が難しいため、リサイクル以外の廃プラスチックの利用方法(埋め立て、焼却)で処理されています。
今後、「持続可能な開発目標」(SDGs)を中核とする循環型社会をめざす上で、モノマテリアルの開発は、限りある資源を大切にして地球の環境悪化を防ぐ「3R(リデュース・リユース・リサイクル)+Renewable(リニューアブル)*」を推進するためには避けて通れません。
- *Renewable(リニューアブル)再生可能な資源に置き換えること。
モノマテリアル化とは
「モノマテリアル化」とは、従来、複数の異種材料で構成されていた製品を単一素材で製造することです。
先に挙げた、複合素材で構成された軟包装は、必要な機能を実現するために印刷用の基材、バリアフィルム、シーラントを作り、それらを貼り合わせて製造しています。一つの素材を使って、要求される性能を満たすことがモノマテリアル化です。
マテリアルリサイクルに貢献するモノマテリアル
廃棄物を、その性質を変えずに新たな素材として再利用するリサイクル方法を「マテリアルリサイクル」と呼びます。プラスチックごみを熱や化学的処理によって水素や二酸化炭素などにまで分解し、それを原料として別の素材に作り替えるリサイクル法(ケミカルリサイクル)と比較すると、マテリアルリサイクルでは再利用できる素材にするために必要なエネルギーが大幅に少なくて済む利点があります。
環境問題に対応して積極的な施策を進めるEUでは、循環型経済(サーキュラーエコノミー)をめざして、使い捨てプラスチック容器の廃止やリサイクルを義務づける規制が施行されています。日本でも2022年4月にプラスチックごみ削減やリサイクル推進をめざす「プラスチックに係わる資源循環の促進等に関わる法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行されました。こうした世界的な動きを背景に、マテリアルリサイクルとそれを容易にするモノマテリアルが注目されているのです。
日本におけるモノマテリアル化の課題
リサイクルインフラの整備不足
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2021年の「プラスチック製品の廃棄・再資源化状況」(プラスチック循環利用協会)によれば、日本の廃プラ総排出量824万トンの内、マテリアルリサイクル177万トン(21%)、ケミカルリサイクル(廃プラを分解し製品原料として再利用)29万トン(4%)、サーマルリカバリー(廃プラを燃やした熱をエネルギーとして回収)510万トン(62%)、未利用108万トン(13%)となります。
現状のマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリカバリーを合わせた有効利用の廃プラは717万トン(87%)です。また未利用の廃プラ(焼却・埋め立て)は107万トン(13%)です。
特にマテリアルリサイクルは21%と低く、今後、リサイクルインフラ拡大のためモノマテリアルの比率をもっと引き上げる必要があります。
諸外国に比べモノマテリアルの認知不足
日本政府は、2019年「プラスチック資源循環戦略」、2021年「マテリアル革新力強化戦略」を策定し、2022年この戦略をもとにプラスチック資源循環促進法を制定しています。
「マテリアル革新力強化戦略」における「リユース・リサイクルを前提とした材料・製品設計技術」ではモノマテリアルの使用方針が示されました。しかし、この方針策定は欧米等の諸外国に比べて遅い対応となっています。
複合材料を使用した包装材の普及・浸透
包装用材料には従来、ガラス、金属、紙、プラスチックなどが使われてきました。化学工業の発展に伴い、いろいろなプラスチック材料が利用されています。プラスチック材料は軽量で加工が容易であるため、現代社会では大量に使用されています。また、種々の異なる特性を組み合わせた複合素材は多層化し製品に組み込まれています。
例えば、レトルト食品用パックでは、複数のフィルムとアルミ箔を組み合わせた包装材が開発されています。
グローバルトレンド
欧州におけるモノマテリアルの取組み
EU(欧州連合)は、循環型、資源効率的な経済への移行をめざし、プラスチックの生産、使用、廃棄の方法を全面的に見直しています。
特に、欧州グリーン・ディール、循環経済行動計画、EUプラスチック戦略、および汚染ゼロ行動計画では、2030年までに海のプラスチックごみを50%削減し、環境中に放出されるマイクロプラスチックを30%削減することをめざしています。
こうした状況下で、多くの法律や戦略が施行または発表されています。それらから重要な指令や戦略を5つ紹介します。
- EU:サーキュラーエコノミーパッケージ
- EU:欧州プラスチック戦略
- EU理事会:使い捨てプラスチック指令
- EU:使い捨てプラスチック製品の新規制
- スペイン:使い捨てプラスチック容器税
●EUは2015年12月2日に、2030年に向けた成長戦略「サーキュラーエコノミーパッケージ」を採択しました。
プラスチックに関係する主な内容は、下記となります。
1) 食品廃棄物を2030年までに半減するための測定ツール開発
2) 生分解性・再生可能性プラスチックに含まれる有害物質や海洋プラスチック放出を削減
●EUは2018年5月28日「欧州プラスチック戦略」を発表し、循環経済への移行に向けて「プラスチックのより持続可能で安全な消費と生産方法」の方向性を示しました。
具体的には2030年までの数値目標を以下のように定めました。
1) EUに上市するプラスチック製容器包装は、リユース、またはリサイクル可能
2) EUで発生した廃プラスチックの半分以上をリサイクル
3) EUのプラスチック分別回収・リサイクル能力を2015年比で4倍に拡張・近代化
●EU理事会は、2019年5月21日に海洋プラスチックの原因となる使い捨てプラスチック(10品目)の使用を禁止する「使い捨てプラスチック指令」を発表しました。
また、ペットボトルについても、2029年までに分別回収率90%と決定しました。さらにペットボトル製造では再生ペットボトルの素材比率25%(2025年まで)、30%(2030年まで)との目標設定を行いました。
●EUは2021年7月3日に「使い捨てプラスチック製品の新規制」を施行しました。その内容は、「特定の使い捨てプラスチック製品とオキソ分解性プラスチック*による全製品の市場流通禁止」などを盛り込んだ新規則です。
この法案は、2030年までにEU域内の全プラスチック容器・包装材の再利用とリサイクルをめざすEUプラスチック戦略の一部ととらえられています。
オキソ分解性プラスチック:材料の酸化を促進する添加剤を含んだプラスチック。マイクロプラスチックによる環境汚染の原因になり得るとされる。
●スペインでは、環境保護を促進する目的で「使い捨てプラスチック容器税」が2023年1月1日に施行されました。この法律は、EUの「廃棄物枠組み指令」と「特定プラスチック製品の環境負荷低減指令」をもとに整備された国内法です。具体的には、リサイクルされていないプラスチック容器包装について1kgあたり0.8ユーロが課税されます。
最後に、プラスチック廃棄物に関係するEUの主な活動を次表にまとめましたのでご確認ください。
制定/発表年 | 指令・規制および戦略類 | 情報タイプ |
---|---|---|
1999 | 1999/31/EC:廃棄物の埋め立てに関する指令 | 指令 |
2018 | 指令1999/31/ECの改正 | 改正指令 |
2006 | 1013/2006:廃棄物出荷規制 | 規制 |
2020 | 規則1013/2006の改正 | 規制(改正) |
2006 | 1907/2006:化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則(REACH) | 規制 |
2008 | 規則1907/2006の改正 | 規制(改正) |
2008 | 廃棄物に関する指令廃棄物枠組指令(WFD) | 指令 |
2018 | 指令2008/98/ECの改正 | 指令(改正) |
2011 | 食品と接触することを意図したプラスチック材料および成形品に関する規制、改正2020/1245 | 規制と改正 |
1994 | 94/62/EC:包装および包装廃棄物に関する欧州議会および理事会指令 | 指令 |
2018 | 指令94/62/ECの改正 | 改正指令 |
2020 | よりクリーンで競争力のある欧州のための新循環経済行動計画(GREEN DEAL) | 伝達 |
2018 | 循環型経済におけるプラスチックの欧州戦略 | 伝達 |
2018 | 循環型経済のモニタリング枠組みに関するコミュニケーション | 伝達 |
2018 | 循環経済パッケージの実施に関するコミュニケーション:化学物質、製品、廃棄物に関する法律間のインターフェースに対処するための選択肢 | 伝達 |
2018 | 共通連結法人税基盤、欧州連合排出量取引制度、リサイクルされないプラスチック包装廃棄物にもとづく自主財源を利用できるようにするための方法と手続き、およびプラスチック税( GREEN DEAL)の現金要件を満たすための措置に関する欧州連合規則(COUNCIL REGULATION)の提案 | 規制案 |
2019 | 特定のプラスチック製品が環境に与える影響の削減に関する指令:使い捨てプラスチック製品(SUP)に関する指令 | 指令 |
2020 | 指令(2019)/904に記載されたSUPの調和マーキング仕様に関する規則 | 規制 |
2022 | マイクロプラスチックの使用制限と環境中への放出を減らすための対策 | 提案(2022年第4四半期) |
2022 | バイオベース、生分解性、堆肥化可能プラスチックの政策枠組み | 提案(2022年第2四半期) |
米国におけるモノマテリアルの取組み
米国は、2022年2~3月に開催された国連環境総会(UNEA/5.2)を前に、プラスチック汚染に対する行動計画を発表しました。この節では、モノマテリアルに関係のある主な活動について紹介します。
- 米国環境保護庁(EPA):国家リサイクル戦略とWasteWiseプログラム
- 米国エネルギー省(DOE):プラスチックイノベーションチャレンジ
- 米国農務省(USDA):BioPreferredプログラム
- 米国食品医薬品局(FDA)
●米国環境保護庁(EPA)
・国家リサイクル戦略:2021年11月に国家リサイクル戦略を発表し、2030年までに米国のリサイクル率を50%に高める目標を再確認しました。リサイクルでは、EPAによる資源回収保存法(RCRA)の持続的な材料管理(SMM)アプローチを行います。
・WasteWiseプログラム:EPAは企業、政府、非営利団体と協力して、ライフサイクル全体にわたって材料のより生産的な使用と再利用を促進します。パートナーは、どのように廃棄物を削減し、環境管理を行い、廃棄物処理プロセスを含むビジネスモデルに持続的可能な材料管理を組み込んでいるかを実証します。
●米国エネルギー省(DOE)
・DOEは、プラスチックのリサイクル、劣化、アップサイクル(廃棄予定のものに手を加え、付加価値を付けて新製品へと生まれ変わらせること)、循環設計(資源を使い捨てせず、循環させることを前提とした製品デザインや設計)に関する部門全体を調整するため「プラスチックイノベーションチャレンジ」を2018年に立ち上げました。50%以上のエネルギー節約をめざすものです。また90%以上のプラスチックに対応して、温室効果ガス排出量を50%削減します。
USDA認定バイオベース製品ラベル(サンプル) 引用元:米国農務省(USDA)ホームページ |
●米国農務省(USDA)
・USDAは、バイオプラスチックの研究、開発と購入者・消費者にその認識を高めるため活動しています。BioPreferredプログラムは、連邦調達と認証およびラベル表示を通じて、バイオベース製品の購入や使用を増やすための活動です。このプログラムのUSDA認定バイオベース製品ラベルは、消費者と購入者の認知度を高め、バイオベース製品の購入を増やすための市場開発を促進します。
●米国食品医薬品局(FDA)
・食品包装用の再生プラスチック:FDAは、製造業者が食品と抵触する物品に再生プラスチックが使用できるように支援しています。
グローバル企業の取組み
先進的な包装パッケージのモノマテリアル化に取り組むグローバル企業の取組みを以下に紹介します。
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消費財メーカー事例1. ペットフード用パッケージ
ペットフード用パッケージに、業界初となるモノマテリアル・レトルトパウチを採用しました。このパウチは生産ラインでの加熱・殺菌プロセス全体で使用でき、また一般的な使用に耐える製品品質になっています。この新しいパウチ(ポリプロピレン製)は単一素材のためリサイクルを容易にします。
消費財メーカー事例2. 離乳食用パウチ
離乳食用パウチとしてモノマテリアル製品を採用しました。近い将来、全ての製品の70%以上を完全リサイクル可能な製品にすると計画しています。また、低温殺菌食品の全ての包装材からアルミを除去し、パッケージのリサイクル性を向上させようとしています。
消費財メーカー事例3. 食品フィルム用パッケージ
食品フィルム用パッケージにモノマテリアル素材を採用しました。従来はアルミ箔など複数の素材で構成されたパッケージでしたが、アルミ箔を使用しないモノマテリアル製に置き換える計画です。
包装パッケージのモノマテリアル化に貢献するDNP
DNPのモノマテリアル技術
「DNPのモノマテリアル技術」は2つの特長で、資源の循環と環境負荷の低減に貢献します。
一つはリサイクルしやすい素材となることです。モノマテリアルを使用することでリサイクル時に必要な工数やエネルギーを抑えます。もう一つの特長は、製品パッケージ内の中身をしっかりと守ることと、パッケージを使用するユーザーの製造効率をできる限り落とさないことです。
DNP モノマテリアル包材のラインアップ
「DNPのモノマテリアル包材」は独自のコンバーティング技術を活かして、必要な機能を付与することで、PE(ポリエチレン)またはPPのモノマテリアル化を実現したパッケージです。
液体や重量のある内容物に最適なPE仕様と、耐熱性やバリア性が必要とされるパッケージに最適なPP仕様があります。用途に応じて、パウチ、チューブ容器などの製品など幅広く使用できます。
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