マテリアルリサイクルとは|日本における普及の課題と解決策
EU加盟国は、プラスチック廃棄物を原材料レベルに戻して再生利用をする「マテリアルリサイクル」に積極的に取り組んでいます。EU推計(ユーロスタット、2021年)によると、プラスチック包装廃棄物のマテリアルリサイクル率は39.7%(EU27カ国平均)です。最高はスペインの56.4%、最低はマルタの20.5%です。EUのマテリアルリサイクル目標22.5%を達成している国は、27カ国中26カ国であり全体の96%となっています。
一方、日本で生産されたプラスチック樹脂の内、マテリアルリサイクル率(2021年)は21%です。EUと日本双方の公表数字の算出方法には違いがあるため、数字の単純比較はできませんが、EU加盟国は日本よりも高いマテリアルリサイクル率を維持しています。
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この記事では、プラスチック廃棄物を再利用するマテリアルリサイクルとは何か、またその基本的なプロセスと製品例などについて詳しく解説します。
※こちらのページに記載されている内容は、2024年1月時点の情報です。
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目次
- マテリアルリサイクルとは
- マテリアルリサイクルのメリット
- マテリアルリサイクル普及における日本の課題
- マテリアルリサイクル普及に貢献する技術「モノマテリアル」とは
- 包装パッケージのモノマテリアル化に貢献するDNP
マテリアルリサイクルとは
マテリアルリサイクルとは、廃棄物をその性質を変えずに新たな製品の材料として再利用することです。プラスチック廃棄物の場合は、プラスチック廃棄物を溶かしてプラスチック原料に戻した後、新たな製品に加工します。以下、本コラムではプラスチック廃棄物のマテリアルリサイクルについて「マテリアルリサイクル」と記述します。
マテリアルリサイクルは、産業系プラスチック廃棄物を中心に行われてきました。プラスチックの製造加工段階で発生する産業系廃棄物は、樹脂の種類が正確に分かっており、異物の混入なども少なく原料に利用しやすいためです。
産業廃棄物系のプラスチックを原料とした再加工品は、過去には物性低下などの懸念もありました。それを克服するため、プラスチック廃棄物の品質管理や製造加工技術の改良を進め、現在ではさまざまな部材に使用されています。
マテリアルリサイクルの基本的なプロセスと技術
マテリアルリサイクルの基本的なプロセスは、廃棄物の収集から製品化まで以下の4つです。
1. 収集:一般家庭や製造販売事業者から排出される廃棄物を定期的に収集し、ごみ処理施設へ移送します。
2. 分別:廃棄物は、異物などを除去して同じ種類のプラスチックごとに分別します。
3. 処理・再生:分別した廃棄物は、そのプラスチックの種類に応じたプロセスで再生処理します。例えば、ペットボトルでは粉砕や洗浄、高温処理などを実施します。
4. 製品化:再生した材料は、新たな製品に作り替えられて市場に販売されます。
マテリアルリサイクルにおける再生プロセスには以下の2つの方法があります。
メカニカルリサイクル
物理的リサイクルとも言います。使用済のプラスチック廃棄物を、収集後に洗浄分別して原料として使用する方法です。
メカニカルリサイクルは技術が確立しており、ケミカルリサイクルと比較すると大がかりな設備を必要としないため製造コストや環境負荷が低い、品質管理しやすいといったメリットがあります。
ケミカルリサイクル
化学的リサイクルとも言います。使用済のプラスチック廃棄物を収集後、プラスチックの原料レベルまで化学的に分解して再利用する方法です。ケミカルリサイクルは、回収したプラスチックを別のプラスチックとして作り替えることができるため、原料の再利用における可能性が広く、品質はリサイクルしていないプラスチックと遜色ないため、技術開発が進んでいる段階にあります。
また、マテリアルリサイクルには、さらに以下の2つの方法があります。
レベルマテリアル(水平リサイクル)
再利用可能なプラスチックを、そのまま同じ製品の原料としてリサイクルする方法です。プラスチック廃棄物から、同じ種類のプラスチックの製品が出来上がります。
ダウンマテリアル(カスケードリサイクル)
プラスチック廃棄物からリサイクルしたプラスチックが、元のプラスチック原料と同じレベルの品質を保てない場合に、要求される品質レベルが低い別の製品の原料としてリサイクルする方法です。(例:ペットボトルから衣料繊維の材料へ転換)
マテリアルリサイクルが推進されている製品例
ペットボトル
マテリアルリサイクルのひとつの方法として、ペットボトルのメカニカルリサイクルの例を挙げます。
家庭から分別後廃棄されたペットボトルは、各自治体が収集・圧縮梱包した後、リサイクル工場(再商品化事業者)に運ばれます。リサイクル工場で樹脂選別や不純物除去後、粉砕・洗浄したもの(フレーク)や、フレークを造粒機で溶融し粒状にしたもの(ペレット)を再生原料として製品にしています。
かつて、飲料用ペットボトルには衛生面や匂いなどの懸念により再生原料は使用されていませんでした。しかし2011年に、マテリアルリサイクルの加工方法のひとつとして、真空高温下でプラスチックのフレークから不純物を除去し、高分子化したものを飲料用ペットボトルの原料として使う方法が確立され、使用済ペットボトルから再生ペットボトルへの転換(ボトルtoボトル)が可能になりました。
アパレル(繊維)
古着などは(1)裁断し布状にばらして、雑巾や工場の油拭き用の布として利用する方法(ウエス)、(2)また古着を細かく裁断した後、無数の針で引っ掻き、布から繊維を綿状にほぐして再利用する方法(反毛)、(3)合成繊維100%の場合は加熱溶解後にプラスチックなどの原料として利用する方法(再溶解)が採用されています。
反毛によってフェルト状にしたものは、自動車の防音材などに使用されています。また、ポリエステル製衣料製品の場合は、再溶解してボタンやファスナーなどのプラスチック原料として使われています。
PVC (ポリ塩化ビニル)
PVCは「塩ビ」または「塩化ビニル樹脂」と呼ばれています。PVCには軟質PVCと硬質PVCの2種類があります。
軟質PVCは自動車や家具などの人工皮革に使用されています。また硬質PVCは水道管などのパイプや継ぎ手などの建築・建設用資材に利用されます。
PVCは、塩素を含むため焼却するとダイオキシンを発生する恐れがあり、熱処理はできません。そのため以下のようなマテリアルリサイクルが実施されています。
塩ビ製パイプ:プラスチック廃棄物をリサイクル工場で粉砕し再生パイプとして利用
農業用ビニルフィルム:ビニル廃棄物を洗浄・破砕処理後、再生樹脂に戻し床材として使用
床材:新築施工端材などを粉砕し床材に利用
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マテリアルリサイクルのメリット
資源の保全
マテリアルリサイクルには、化石燃料(石油、天然ガスなど)の使用を抑えられるというメリットがあります。
ポリプロピレン、ポリエチレンなどの各種プラスチックは石油から化学合成によって製造されていますが、マテリアルリサイクルでプラスチック廃棄物がリサイクル可能となれば、これらを作るための石油の消費を低減できます。
廃棄物を減らすことができる
マテリアルリサイクルは、プラスチック廃棄物を再利用するため、廃棄物の減量にもつながります。
例えば、ペットボトルをマテリアルリサイクルすることによって、ペットボトルの廃棄量を減らせます。
エネルギーの節約
マテリアルリサイクルにおける再生プラスチックの使用は、再生材料の割合が増えバージン材の使用が減るため、エネルギーの削減効果が大きいと期待されています。リサイクルの処理に必要なエネルギー消費は、新たな原料から製品を作るプロセスに必要なエネルギー消費と比べて少ないためです。
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環境保護
「2016年低炭素型3R技術・システムの社会実装に向けた素材別戦略マップ検討会」(環境省主導)によれば、プラスチック廃棄物は、年間排出量が約1,000万トンに対して、大部分が焼却(エネルギー回収含む)されており、それに伴い約1,800万トンのCO2(温室効果ガス)排出があると報告されています。
焼却されているプラスチック廃棄物を、マテリアルリサイクルへ転換できれば熱焼却に伴うCO2排出を削減できます。そのための方法として、「単一樹脂(モノマテリアル)の導入による高品質な再生プラスチックへのリサイクル」が提言されています。
マテリアルリサイクル普及における日本の課題
日本のマテリアルリサイクル普及においては、3つの課題があります。
1. 分別や再利用のための設備の不足
2. リサイクルされた材料の品質が劣化すること
3. リサイクルコストがかさむこと
冒頭で紹介したように、日本のマテリアルリサイクルの割合は21%(2021年実績)と低レベルです。これはリサイクルの分別や再利用のための設備が不足しているためであり、多くのプラスチック廃棄物が焼却処理されています。また、リサイクルしたプラスチックの品質低下や、リサイクルにかかるコストも普及促進の障害となっています。
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コストの問題
マテリアルリサイクルにはプラスチック廃棄物の収集、分別、再生処理、製品化、輸送などのプロセスがあります。このプロセスには、加工する装置や人的な手間が必要となります。リサイクル用設備の設置費用や維持コスト(人件費や電気代など)もかかります。これがマテリアルリサイクルの普及を阻む一因になっています。
リサイクル技術の限界
一部のプラスチック素材、特に複合素材を使用したプラスチックや汚染されたプラスチックは、現在の技術ではリサイクルが難しい場合があります。
複合素材のプラスチックをマテリアルリサイクルするには、同一素材の種類のものを大量に集めることが必要ですが、現状では困難です。また、汚れたプラスチックの汚染除去(異物除去を含む)には、粉砕・分級・洗浄など多大な手間が必要となります。
従って今後の方向性としては、よりマテリアルリサイクルを容易にできる、モノマテリアルの利用推進が重要となります。
プラスチックがモノマテリアルではなく、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの多種類の樹脂が混ざっている場合、原料として同一種類のものを多量に集める必要があります。
そのため、リサイクルを行う場合の前処理が必要となります。この前処理はプラスチック廃棄物の(1)切断・破砕・粉砕、(2)分離・分別、(3)洗浄、(4)脱水・乾燥、(5)配合・混合です。
リサイクル材の品質
マテリアルリサイクルに使用されるリサイクル材の課題は、リサイクルによって品質(物性)が低下する恐れがあることです。再生素材の品質は、新規に製造された素材の品質と比較して低下する傾向があるため、敬遠されがちなのです。
品質が低下しやすい原因は、以下の2つです。
1. 熱履歴(材料が受けた温度変化の履歴)による劣化
2. 材料管理の不備による影響
1. 熱履歴による劣化
プラスチックは、高温環境に放置されると一般的に熱劣化や加水分解を起こし、物性が変化します。プラスチックの素材によっては、熱劣化により高分子が切断され分子量の低下を引き起こします。それに伴い材料の変形量が小さくなり、もろくなります。
2. 材料管理の不備による影響
端材や廃材、及び再生材の材料管理が不十分な場合、工場内の油分、粉塵などが成形中に素材に入り込み、成型後の製品が強度低下を起こす恐れがあります。
また、加水分解を起こしやすい材料(ポリカーボネートなど)の場合は、再生材の乾燥が不十分だと水分を吸収して加水分解を起こし、機械的強度が低下します。
マテリアルリサイクル普及に貢献する技術「モノマテリアル」とは
モノマテリアルとは唯一の意味で使用される「モノ(mono)」と原料や素材を示す「マテリアル(material)」の造語です。工業用製品としての「モノマテリアル」は、製品で構成される材料が、「単一素材」で使用されることを意味します。
製品製造においてモノマテリアルが求められる理由は、使用後にリサイクルする際の分離処理が不要であるからです。モノマテリアルでない複合素材(マルチマテリアル)で作られた製品は、使用後の分離が難しいためリサイクルしにくく、その多くは埋め立てたり、焼却場で燃やしたりして処理されています。
マテリアルリサイクルの推進に貢献するモノマテリアル
マテリアルリサイクルを推進するためには、ひとつの素材で作られた「モノマテリアル」を使用することが有効です。その理由は、使用後にプラスチック種類ごとに分別する作業が不要であり、さらに分解しやすく、再利用がしやすいためです。
包装パッケージのモノマテリアル化に貢献するDNP
DNPは循環型社会の実現に向け、独自技術によって一般消費財に使われる包材のモノマテリアル化を実現しました。
DNPのモノマテリアル技術
従来の包材は、耐熱性、耐衝撃性などパッケージに要求される性能に対して、それぞれの機能を持った複数の素材(アルミ蒸着PET、ナイロンなど)を組み合わせて作られてきました。優れた機能を備える一方、分離(分別)が難しくリサイクル時の負荷は大きくなっていました。
DNPでは、コンバーティング技術、成膜技術、蒸着技術など、これまで培ってきた独自の技術によって、複数素材で作られた包材に匹敵するパッケージ性能を備えたモノマテリアル包材を開発しました。例えば、ナイロンフィルムとPEフィルムという2種類の素材が使われている包材を、PEフィルムのみという単一素材(PE)の構成の包材に置き換えます。
DNPのモノマテリアル技術には2つの特長があります。ひとつはモノマテリアル化によって分別処理を不必要にするリサイクルのしやすさです。リサイクル処理にかかる負荷を下げ、リサイクル材の品質も向上させやすくなります。
もうひとつは、製品パッケージ内の中身をしっかりと守ることです。「DNPモノマテリアル包材」は、独自のコンバーティング技術で従来の複合素材(マルチマテリアル)に代わる性能を発揮します。例えば、アルミ蒸着PETフィルムと同等のバリア性能(酸素や水蒸気を遮断する性能)を、PEフィルムのみで可能にします。
DNP モノマテリアル包材のラインアップ
「DNPのモノマテリアル包材」は独自のコンバーティング技術を活かして、必要な機能を付与することで、PEまたはPPのモノマテリアル化を実現したパッケージです。
液体や重量のある内容物に最適なPE仕様と、耐熱性やバリア性が必要とされるパッケージに最適なPP仕様があります。用途に応じて、パウチ、チューブ容器などの製品など幅広く使用できます。
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