リサイクルのあるべき姿を問う(前編) 「再生紙と暮らす」展に込めたDNPの想いとは?
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2023年1月20日~4月22日に、東京・市ヶ谷のオープンイノベーション施設「DNPプラザ」で開催した企画展「再生紙と暮らす」は、付近に活動拠点を置くDNP・株式会社良品計画・武蔵野美術大学による産学共創プロジェクト。三者のクリエーターがめざしたのは、「素材を活かす」「不便も楽しむ」という発想をもとに、新たな暮らしのかたちを体現することでした。「再生紙と暮らす」展で基本素材である紙再生ボードの製造・提供を担当し、長年、店頭のPOPや什器の製造で紙に携わってきたDNPエスピーイノベーションの村上浩が、同展にかける想いや再生紙の未来について語りました。
目次
DNPエスピーイノベーション
SPビジネス本部 部長
村上浩
長きにわたり、店頭の販促用什器の企画・製造を行ってきました。2021年頃より、製造工程で出る用紙の端材を活用してアップサイクルする活動を始動。「紙再生ボード」など再生素材を活用したデザインソリューションに取り組み、具現化に向け、各企業と連携したプロジェクトを進めています。
リサイクルしても、すぐに捨てるのでは意味がない
——DNP・株式会社良品計画・武蔵野美術大学の共創で開催した企画展「再生紙と暮らす」の概要を教えてください。
東京・市ヶ谷に活動拠点を置く三者が、同地域を文化都市として盛り上げ、生活者との交流を深めていくために「つながる楽しい楽市」というプロジェクトを立ち上げました。DNPプラザで開催した「再生紙と暮らす」展は、その活動の一環です。
DNPが提供した「紙再生ボード」を素材に、三者のクリエーターが共同で「再生紙の小さな家」を制作。その過程の動画とともに展示しました。総合プロデュース的な役割を武蔵野美術大学の若杉教授が担い、インテリアデザインを良品計画さんとDNPが担当しました。
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「DNPプラザ」のご紹介
「DNPプラザ」は、DNPが運営するオープンイノベーション施設です。社会が抱えるさまざまな「問い」に対し、この場に集う人・企業・大学とDNPが共創していきます。未来の技術や製品・サービスへと「問い」を育て、つなげる活動を行うことで、持続可能なより良い社会、より心豊かな暮らしの実現をめざしています。
DNPプラザは、どなたでもご入館いただけます。
詳しくはこちら:https://dnp-plaza.jp/
——今回の企画展に至ったDNPの再生紙に関する取り組みについて教えてください。
DNPは2021年頃から、販促用什器の製造工程で出る用紙の端材を活用してPOPツールなどにアップサイクルできないかと試行錯誤していました。
しかし、再生紙からPOPツールをつくったとしても、役割が終われば捨てられます。紙のリサイクル環境は整っていますが、一方で、紙のリサイクルの出口として、一過性ではなく、長く使い続けられるプロダクトをつくりたいと考えるようになりました。
そこで、2022年にスタートさせたのが、用紙端材などの再生素材から家具をつくる取り組みでした。当初は災害時に避難所で使える段ボール製の家具のプロトタイプなどをつくっていました。
こうしたなかで、協力企業から見せてもらったサンプルが、不要となった繊維を固めてつくった「繊維再生材ボード」です。ここからヒントを得て、協力企業とともに用紙端材を粉砕して固めてつくる「紙再生ボード」のアイデアを生み出しました。一定の硬度があり加工しやすいボードにすることで、さまざまなプロダクトの材料にすることができて、デザインの自由度も高められると考えました。
同年12月に幕張メッセで開催された「サステナブルマテリアル展」には、DNPの取り組みとして、この紙再生ボードでつくったアンケート回答用のテーブルと配布資料のラックを出展しました。 製造工程で出る用紙端材を資源として有効利用する取り組みとして、紹介することができました。
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長く使い続けられる再生紙プロダクトをめざして
——三者の取り組みはどのように進み、そのなかでどのような発見がありましたか?
「紙再生ボード」を使ったテーブルや椅子などを試作していた頃、DNPと良品計画さん、武蔵野美術大学さんとの産学共創プロジェクトが立ち上がることを聞き、参加することにしました。
まず着手したのが、素材の製造です。紙再生ボードの話を共有したところ、良品計画さんから「ノートの製造過程で出る用紙端材で紙再生ボードをつくれないか」とご提案いただきました。すぐに実際の端材を提供してもらって紙再生ボードをつくったところ、無印良品ブランドらしい茶色の風合いが印象的な仕上がりになりました。
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この“MUJI版の紙再生ボード”をベースに、良品計画さんの日用雑貨系デザインチームの皆さんにインテリア関連のデザイン案を検討してもらいました。日頃から「素材を活かす」という視点で製品開発に取り組まれている方々だけあって、すぐに高い完成度の案が届き、非常に頼もしかったです。
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一方、武蔵野美術大学の若杉浩一教授率いるクリエーターチームは、従来の再生紙の活用方法から大きく視点を変え、“長く使い続けることが求められる素材”として、建材をモチーフにした設計・制作を行いました。再生紙からつくったボードならではの風合いを活かした「ペーパーブロック」をベースとした空間設計や、ポスト・棚のプロダクト化など、たくさんのアイデアをいただきました。
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私自身もプロトタイプ制作は手掛けていましたが、単体ではなく、複数のプロダクトで空間を構成する“立体カタログ的なアプローチ”は初めての経験でした。加えて、展示を通じて、多くの生活者の皆さんに広く見ていただいて、貴重な感想や意見を得られたことにも大きな意義がありました。
*後編では、「再生紙と暮らす」展で伝えたかった想いについてお話しします。
コラム:「再生紙と暮らす」展 パートナーの声
学校法人武蔵野美術大学・若杉浩一教授
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「地域」の果たすべき役割があらためて問われている現在、行政・企業・学校といったステークホルダーが個別の点として存在するのではなく、「新しい市民」となって連携しなければならない。そのロールモデルとして、市ヶ谷エリアに共存する三者が共創し、市民とつながる企画展を開いたという事実は、非常に意義深いと思います。
初回のテーマ「再生紙」を考えるうえで建材をモチーフとしたのは、紙の持つ刹那的でチープなイメージをくつがえしたかったからです。そして紙再生ボードを「ブロック」にしたのは、壁材にも家具にもなるし、何にでもなるから。可能性を持つマテリアルは、皆さんにいろんな夢を見てもらうことができます。未来はこうありたいという想像と現実の間を解決するポイントはいっぱいあって、それを言ってもらいたい。今回の企画展で、DNPさんとのコラボレーションで生まれた「ペーパーブロック」によって、課題は課題としてあえて残しつつも、デザインがめざすべき夢や道筋をある程度示せたと思います。
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