組織を飛び出し、新たな経験を。都庁×DNPのデジタル人材を育成する 「交換留学」
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DNPでクラウドサービス推進のハブを担う組織=CCoE(Cloud Center of Excellence)は、デジタル人材の育成を促進するため、2022年4月から1年にわたり、DNP社員1名と都庁職員1名の人事交流を実施。それぞれの環境で新たな経験を積む交流を通じた「交換留学」のようなかたちで、個のスキルアップはもちろんのこと、組織の活性化にもつなげています。人材の派遣を決めたCCoEのリーダー・和田剛とDNPから都庁に行った堀江直人、都庁からDNPにいらした山田篤志さんが、それぞれの立場から人事交流で得たことや意義を語り合いました。
目次
- 外部の環境に身を置き、自らの強みと弱みを知る
- 都庁で学んだ「多様な価値観」と「幅広い視点に立ったサービス開発」
- DNPで気づいた「横の連携」と「仲間づくり」の重要性
- 外部との交流を推し進め、デジタル企業としての信頼を獲得していきたい
大日本印刷 情報イノベーション事業部ICTセンター
システムプラットフォーム開発本部
部長 和田剛(写真左)、堀江直人(写真右)
東京都デジタルサービス局
山田篤志さん(写真中)
外部の環境に身を置き、自らの強みと弱みを知る
——2022年4月から1年間、都庁のデジタルサービス局とDNPのCCoEがデジタル人材の人事交流を実施しました。どのような経緯でスタートしたのでしょうか。
DNP・和田剛:最初は、都庁をクライアントとして担当する社内の部署から、民間企業の人材を受け入れる「東京都行政実務研修員制度」を紹介されたことがきっかけです。ちょうど都庁のデジタルサービス局から、デジタル人材を派遣したいとの相談が来ているとのことで、これはぜひ自分の部署で実施したいと思いました。
2021年12月に打診があってすぐに、誰を都庁に派遣するかという検討を社内のメンバーで始めました。
——実施を決めた背景には、どのような狙いがあったのですか。
和田:DNPは、販売・購買・在庫管理などの基幹システムが稼働する社内基盤について、自社で保有するオンプレミスから拡張性・柔軟性の高いクラウドへの移行を2022年11月に完了させました(※1)。
クライアント向けのビジネスにおいても、柏データセンターを使って独自のシステム構築をしていたのを方向転換し、AWSなど世にあるクラウドサービスが提供する新しいサービス・ツール活用することにしました。
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※1:ニュースリリース 2023年1月17日
社内基幹システムのクラウド移行により“攻めのIT”を推進
我々が所属するCCoEは、Microsoft AzureやAmazon Web Service、Google Cloudなどのパブリッククラウドの利用を全社的に推進し、クライアント向けのサービス開発においても社内でサポートするような部署で、関連する技術やノウハウを蓄積するとともに、ガイドラインや共通サービスの作成、人材育成、技術支援などを行っています。
新しい価値観を第三者に広めていく活動は、単に知識があればできるものではありません。意見の衝突や誤解が生じるケースも多いので、多彩な視点を受け止めるマインドの醸成が欠かせないと思います。そのため、社外に出てさまざまな経験ができる「東京都行政実務研修員制度」は良い機会になると考えました。
もうひとつ、DNPが、パブリッククラウドに代表される多くの知見や実績を持つデジタル企業であることを、もっと世の中に知ってもらいたいという狙いもありました。
デジタル企業としてのプレゼンスを高めることで、ビジネスをより拡大させすることはもちろん、私たち自身の知識やノウハウをアップデートするメリットも生み出していく。この観点からも、この研修制度に期待しました。
こうした狙いもあり、送り出す社員はDXの専門的な知識を身に付けており、チャレンジ精神や好奇心の旺盛な人材であるべきだと思いました。そこで声をかけたのが、当時入社6年目で、クラウドシステムやサービスの設計を手掛けていた堀江でした。
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——堀江さんは、和田さんから打診を受けて、どう思いましたか。
DNP・堀江直人:声がかかったことに驚きました。まだ社内で学ぶべきことが多いと感じていましたし、でも一方で、新卒からDNPの中のことしか知らなかったことにも気づいて、せっかく声をかけていただいたからには別の環境で新しいことを吸収してこようと思い、すぐに受諾しました。
——一方、都庁からDNPのCCoEにいらっしゃることになったのが、当時入庁2年目の山田篤志さんでした。
東京都・山田篤志さん:都庁ではデジタルサービス局の各局支援担当の部門で、都庁内のDXを支援する仕事をしていました。例えば、庁内の各部署の業務の効率化を図るため、RPAやOCR(※2)といったツールを庁内で利用できるように機器調達やライセンスの管理、また各部署の職員がそのツールを業務で使いこなすための体験学習や、導入する際の技術的なサポートなどです。
- ※2 RPA(Robotic Process Automation)は、人が対応している高度な作業をソフトウェアで自動化すること。OCR(Optical Character Reader/Recognition)は、手書きの文字を光学的に読み取ってテキストデータ化すること。
2022年3月に「4月から1年間DNPでいろいろ学んできてほしい」という話がありました。都庁と民間企業では異なる点も多く、外の世界を知るのも面白そうだと思って、「私でよければ」と返事しました。
都庁で学んだ「多様な価値観」と「幅広い視点に立ったサービス開発」
——研修派遣中の堀江さんは、都庁でどのような業務を担当してきたのですか。
堀江:私はDX推進の専門家として都庁に技術を提供するために派遣されたので、都庁内のDX推進に取り組んできました。デジタルサービス局が都民向けの事業として推進している案件にも参加しました。
ひとつは、官民共創を促進する取組みです。都庁では、地域が抱える課題に対し、市民自身がテクノロジーを活用して改善していく「シビックテック」を推進しています。さまざまな課題解決に取り組む自治体と、シビックテックに取り組む市民を繋ぐプラットフォームの構築を進めようとしています。
もうひとつは、都民にとって使いやすいデジタルサービスを開発する東京都職員のためのガイドラインの作成です。どんなガイドラインが必要かを検討し、都としてのUI/UXやデータ利活用に関する統一した基準づくりを進めてきました。
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——都庁での業務を通して得た気づきや新しい学びはありましたか。
堀江:ひと言で言うと、視野が広がったことですね。
都庁でデジタルサービスを開発する際は、公共サービスとして「誰ひとり取り残さない」ことが前提になります。例えば、「Webで登録できます」だけでなく、FAXや郵送の受付窓口もきちんと用意するといったような。こうした視点は、「利益を生み出すことをより効率的・効果的にするためにターゲットユーザーを絞る」ことも検討する民間企業とはやや色合いが異なります。
ただ、官・民いずれのサービスにおいても、エンドユーザーが日々の生活を営んでいる方という点では同じです。DNPに戻ってDXを推進したり、サービスをデザインしたりする際に役立つヒントをもらえた気がします。
また、都庁では、庁内、政策連携団体、区市町村、関連市場や企業などの声にも耳を傾け、配慮していく必要があります。もちろん、民間企業でもステークホルダーへの配慮は欠かせませんが、都庁はその対象が非常に広いです。手間がかかっても都に関係するすべての人々に理解・賛同してもらえなければ、そのサービスの存在意義がゆらいでしまいます。こうした広い視点で物事を考える姿勢も参考になりました。
視野が広がるという点では、同時期に研修生として来られていた他の企業の方々との交流も刺激になりました。マネジメント、デザイン、ネットワークなどさまざまな専門領域の人たちと活発に意見を交換し、時に助言をもらい、時に助言を与える。DNPで自分が学んできたことを相対化しつつ、より高めるという点で、貴重な経験でした。
DNPで気づいた「横の連携」と「仲間づくり」の重要性
——山田さんは都庁からDNPに来て、どのような業務に取り組んできたのですか。
山田さん:何もわからない状態でCCoEに来たので、最初の1か月は研修を受けました。その後も週1回、グループのメンバーが私のために会議を設けていただきました。
研修後はCCoEのメンバーとして、社内でクラウド導入の支援を主に担当しました。どのように活用したいかを聞いて、実際にシステムを構築する業務も経験しました。
こうしたCCoEの業務は、都庁のDXを進めるデジタルサービス局の業務と共通する部分があります。しかし、都庁ではシステム自体を触るのは委託事業者の方にお願いしていたので、クラウドサービスを自分で直接触るのは初めてでした。都庁に戻ってシステムを評価する側になった際に役立つと思います。
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——働く中で、DNPの良さを感じることはありましたか?
山田さん: DNPではクラウドを活用する際に、クラウドを利用する部門の担当者から、セキュリティの専門部署である情報セキュリティ本部にどういったセキュリティ対策を施すか説明し、承認を得る必要があります。CCoEとしてその説明の場に同席した際により厳重なセキュリティ設計を踏まえた利用部門に対して、情報セキュリティ本部から「厳しすぎるのでは」という助言を受ける場面がありました。担当者に知識や自信があってのことと思いますが、守る側の人から、そうした指摘をくれることに、自由闊達に意見を言い合い、より良いものを一緒に作り上げる姿勢を感じました。
——都庁とDNPのカルチャーの違いを感じた部分はありましたか。
山田さん:良いカルチャーと感じたのが、横の連携があるところです。もちろん都庁でもプロジェクトに応じて連携する機会はありますが、DNPでは、連携する領域が広く、関わる人数も多い気がしました。例えばCCoEにはクラウド推進に関心のある人々が集まるネットのコミュニティがあるのですが、部署を問わず1,000人以上が参加し、事例を共有しています。それぞれの業務がある中で他の業務にも積極的に関わろうという人がこれほどいることに、とても驚きました。和田さんもよく、「仲間づくりが大事」と言うのですが、コミュニティのみなさんが活発に意見を出したり、連携したりしている姿を見ると、まさにそのとおりだなと実感しています。
都庁には現在、「東京都行政実務研修員制度」でさまざまなスキルを持つ民間企業のプロフェッショナルに来ていただいていますが、研修期間を終えると元の企業に戻ってしまいます。人材交流によって得た知見をより庁内に根付かせて活用できるようにするためにも、DNPさんの横の連携力、コミュニティのつくり方などはぜひ参考にしていきたいと思います。
——受け入れた側のCCoEとしては、山田さんが都庁から来たことによって起きた変化はありましたか。
和田:たくさんありますね。例えば、都庁の業務は基本的に達成すべきゴールや予算が決まっているので、そこから逆算してプロジェクトを推し進め、確実に成果を上げることが求められます。そのカルチャーをもつ山田さんは、与えられた業務の大局を把握し、マイルストーンを決め、きっちり進行していく能力が抜きん出ていました。主体的に「やると決めたらやる」という山田さんの意識は、CCoEのメンバーにも良い影響を与えていると思います。
また、山田さんが「横の連携があるのがいい」と言ってくれましたが、社内にいるとなかなか自分たちの良さに気がつけないものです。外から来た方に指摘されることであらためて自分たちがどういう組織で、どんな価値を提供していくのかを再定義できたことも、収穫だと思います。
外部との交流を推し進め、デジタル企業としての信頼を獲得していきたい
——DNPでは今後も東京都との人事交流を進めていくのですか?
和田:この1年間の山田さん、堀江さんに対する社内評価が高く、来年度も人事交流を行うことが決まりました。
山田さんは入庁2年目だったとは思えないほど頑張っていただき、入社6年目の堀江さんに匹敵する技術力を身につけてくれました。受け入れたCCoE側としても、しっかりと人を育てることができる組織であると自信を持つことができました。
堀江さんには、都庁で学んだ経験をCCoEでのサービス開発などに活かしてほしいですし、今後チームのマネジメントをする立場になった時、外部のさまざまな人たちと仕事をしてきた経験は必ず活きると思います。
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——今回の人事交流を総括していただけますか。
和田:DNPは事業の広がりを見てもわかっていただけると思いますが、常に新しいことにチャレンジしている、「未来のあたりまえ。」になるようなサービスを常に考えている会社です。「文明の業を営む」といって創業当時から文明社会の発展に貢献することを志してきた社風が根底にあり、時代時代の文化やテクノロジーの魅力を世の中に伝えようとしています。そうした企業姿勢を広く知っていただくには、「DNPのファンをつくる」ことが大切だと思っています。なぜなら、企業の価値や文化は「人」を通じて一番伝わるものだからです。
そうした意味で人事交流は、大きな可能性を秘めています。外から来た人材はDNPの文化や提供価値を体感し、持ち帰って広めてくれる一方、外に出た人材はDNPの強みを自らの行動で示してくれます。後者は、自分たちの取組みを、視点を変えて見つめ直すことで、より良い組織へと高めるキーパーソンともなるはずです。
今後は都庁との人事交流だけでなく、他の自治体や民間企業との人材交流も検討したいと考えています。そのためにも、外部から人材交流の依頼がくるような組織であり続けたいですし、受け入れる側としても、より多くのものを持ち帰っていただける体制を整備していきたいと考えています。
CCoEとはどんな組織?
CCoEは、Cloud Center of Excellenceの略で、パブリッククラウドに関するコミュニケーション・ハブとしての役割を果たしています。
Microsoft AzureやAmazon Web Service、Google Cloudなどのパブリッククラウドの活用にあたり、新たな技術・ノウハウを集中化することで、DNPグループ全社に対して、事務的・技術的な支援を行なっています。
活動を行ううえで、社内コミュニティを大切にしており、他部署でありながらもクラウド活動を牽引する社員を「CCoEアンバサダー」として登録したり、人材育成のための資料の共有や情報発信、勉強会の開催などを行うCCoEポータルサイトには1000名以上が参加しています。
こうしたコミュニティづくりは社外からも評価され、黒須義一氏著の『成功するコミュニティの作り方 - 企業の成長・変革のための実践ガイド』
でも取り組み事例として紹介されました。
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