相対的貧困の子どもに選択肢を! 放課後の教育格差を解消する「スタディクーポン」とは
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DNPでは、東日本大震災の復興支援として、現地ボランティアをはじめとしたさまざまな活動を継続して行っています。 その一環として、2011年から全国のDNPグループの社員食堂で東日本大震災の「復興応援メニュー」を提供。その売り上げの一部に会社が同額を上乗せして、復興支援を行う団体に寄付をしており、2016年からは被災地で教育支援活動を通じ、教育格差解消に取り組む「公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(以下、CFC)」に寄付をさせていただいています。 そこで今回は、CFCが行っている子どものたちの教育格差解消への取り組みについて、代表理事の今井悠介氏にお話を伺いました。
目次
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公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン 代表理事
今井 悠介さん
小学2年生の時に阪神・淡路大震災を経験。関西学院大学在学中、NPO法人ブレーンヒューマニティーで不登校生徒支援に関わる。KUMONで教室コンサルタントとして勤務。その後チャンス・フォー・チルドレンを設立し代表理事に就任。
相対的貧困による教育格差の解消を目指す
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Q:現在、子どもの教育環境でどういったことが課題となっているのでしょうか。
今井:意外に思われるかもしれませんが、現在、日本の子ども(17歳以下)の7人に1人が貧困状態で生活をしていて、その数は約300万人いるといわれています。先進国の中でも貧困率がかなり高い状況です。
貧困には「絶対的貧困」と「相対的貧困」があります。「絶対的貧困」とは、生きるために必要な衣食住が満たされていない状態のことで、7人に1人と言われているのは、もうひとつの「相対的貧困」です。
「相対的貧困」とは、日本の標準的な文化水準、生活水準において、ほとんどの人が受けられる“普通の生活”を送れない状態をいいます。
塾やスイミングなどの習い事など、放課後の学校外での教育にかける年間の平均的な費用は公立の小学生で約20万円、中学生で約30万円です。経済的に厳しい家庭ではこうした教育にかけるお金が捻出できないため、子どもたちの間で教育格差が生まれているのです。周囲のみんなが通っている塾や習い事に通えず、コミュニティに参加できないというのは、教育格差ができるだけでなく、子どもたちの心に大きな傷を残すことになります。
CFCでは、これらの「相対的貧困」にある子どもたちの支援活動を行っています。
Q:CFCを立ち上げるまでの経緯について教えてください。
今井:1995年に阪神淡路大震災が起きた後、関西学院大学の学生を中心に、避難所の子どもたちに無償で家庭教師を派遣する活動を行う団体が発足しました。その後その団体は、「特定非営利活動法人ブレーンヒューマニティー」として、子どもたちへの学習支援やキャンプ体験、不登校の子どもの支援といった活動を行なっています。私は神戸出身で小学2年生の頃に被災し、大学生になってからこの団体にボランティアとして参加していました。
ただ、リーマンショックの後、金銭面の事情で活動に参加できない子どもたちが増えてきました。その際に、子どもたちの学校外教育費用を募金活動で集めるために発足したプロジェクトが「チャンス・フォー・チルドレン」です。
そして、2011年3月に東日本大震災が発生したのを契機に、経済的な理由から十分な教育が受けられない被災地の子どもたちを支援する活動を行うため、独立して法人化したのが「公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン」となります。
スタディクーポンを通じて学校外教育を受ける機会を提供
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Q:具体的にCFCではどういった活動をされているのでしょうか。
今井:CFCでは、企業や個人の皆さまからの寄付を原資に、相対的貧困にある子どもたちにスタディクーポンを発行しています。スタディクーポンとは、塾や習い事などの学校外教育に使途を限定した、クーポン券です。
現在の子どもたちの間で教育格差が生じている要因の大きなものとして、放課後の学校外教育を受けられるかどうかがあげられます。
スタディクーポンを受け取った子どもたちは、塾や習い事を自分で自由に選んで通うことができます。そして、スタディクーポンを受け取った塾や習い事を運営する教育事業者は、クーポンをCFCで換金するという仕組みです。
現金での支援と異なり、スタディクーポンは集めた資金を確実に子どもたちの教育に使ってもらえて、子ども自身がやりたいことを自分で決められる選択肢がある点が大きなメリットです。被災地支援という面では、スタディクーポンの活用は被災した地域の教育事業者の事業や雇用を維持することにも役立っています。
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現在は、東日本大震災で被災した小学生から高校生と、関西地域の生活保護世帯の小学生から高校生をメインに支援を行っています。2018年は西日本豪雨で被災した岡山県の中高生を対象に緊急支援としてスタディクーポンを提供しました。
これまでの実績として、2019年3月までに約5億6000万円分のスタディクーポンを約2700人の利用者に提供しています。提携している教育事業者の数は1133教室にまで増えました。
このほか、CFCの事業で特徴的なのがブラザー・シスター制度です。学生ボランティアがメンターとなり、定期的に支援を受けている子どもたちと面談をして、さまざまな面で相談にのっています。学生ボランティアは専門家による養成研修とサポートを受けておりますので、子どもたちの悩みを解消して、安心してスタディクーポンを利用できるような体制を整えています。
Q:活動を行ううえで苦労されている点はありますか。
今井:資金集めには毎年苦労していますね。スタディクーポンの利用申請には、今年も定員の8倍の応募がありました。そのため現状では、支援を必要としている人たち全員にクーポンを届けられないという課題があります。東日本大震災から月日が経つにつれ企業からの寄付が減っていますが、個人の方からの寄付が増えてきて支えていただいている形です。
Q:スタディクーポンなどの活動を通じて感じた手応えや今後の展望を教えてください。
今井:東日本大震災の後、支援を始めた年に中学3年生だった子が4年間スタディクーポンを使って大学に進学し、在学中はブラザー・シスターとして活動していました。彼女は避難所で支援活動をしていた管理栄養士に憧れて、「管理栄養士になる」という夢に向けてクーポンを活用して勉強をして、この春その夢を実現しました。大学卒業後、地元に帰り、管理栄養士として活躍しています。そのほかにもクーポンを利用した子どもたちが成長し、さまざまな企業に就職して活躍をしはじめています。
ボランティアとして活動に参加した学生たちも、子どもと一緒に学びながら成長していって、通常の企業に就職した人もいれば、学校の先生になった人、当時の経験を活かして被災地で福祉関係や看護の仕事に就いた人などもいます。
東日本大震災から8年、継続的に支援をしているなかで、このような支援の循環や地域に貢献していくケースが生まれて来ていることに手応えを感じています。
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スタディクーポンを利用することにより子どもたちの学力がアップするエビデンスも出ているため、本事業をベースにスタディクーポンを政策導入する自治体もでてきています。現状では東京都渋谷区や千葉県千葉市、大阪府大阪市、佐賀県上峰町などです。こうした動きが出てきたのも活動を続けてきた成果ですので、今後、さらに全国の自治体との協働を進めていきたいと考えています。
継続的な支援が被災者の心の支えに
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Q:DNPの支援方法に対してのご意見や現在、支援いただいている企業や個人の方に向けてのメッセージをお願いします。
今井:震災の記憶が風化して支援が減りつつあるなか、DNPさんをはじめとした継続的に応援いただいている企業や、個人で寄付をしていただいている方々の存在は非常にありがたいですね。
日頃、ボランティア活動や寄付に携わっていない人にとって、被災地支援に関わることはハードルが高いと思います。その点、DNPさんの取り組み方はスマートで、社内の食堂という身近な場所において復興応援メニューという形で社員がカジュアルに参加して、支援経験を得られるというのは、自然な形で社会課題に関心を持つきっかけにもなります。また、復興応援メニューの食材の一部を被災地から購入しているとのことで、地域の産業を支えるという面でも、私どもの活動コンセプトとも一致していると感じています。
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被災した方から、「復興が進んでいくなかで取り残されているように感じて、震災直後よりも今のほうが辛い」という声を聞くことがあります。継続して支援いただいている企業や個人の方の存在はありがたく、今後も続けて支援していただけることが被災者を勇気づけることにもつながります。興味をもたれた方はぜひ、CFCのマンスリー寄付会員になって継続的な寄付をいただけるとありがたいです。
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CFCの取り組みは、国連の2030年までに達成を目指すSDGsのゴール4「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」をはじめ、ゴール1「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」、ゴール10「国内および国家間の不平等を是正する」など、さまざまな社会課題の解決に大きく貢献するものです。生まれながらの環境や災害によって相対的貧困の状況に置かれた子どもたちに教育の選択肢を提供し、将来の可能性を引き出す活動は、日本の持続的な成長にも必ずつながるものといえるでしょう。
創業当時の舎則に「文明ノ営業」という言葉を掲げ、現在、社会課題を解決するとともに、人々の期待に応える新しい価値の創出に取り組んでいるDNPも、教育にかける想いは非常に強く、子どもの教育格差を解消することを目標としたCFCの活動に賛同いたしました。社員食堂の復興応援メニューによる寄付活動を通し、グループ社員一人ひとりがこの課題解決に貢献していきたいと考えています。
「チャンス・フォー・チルドレン」支援の方法
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