業界別CXマネジメントのポイント【地方銀行編】

前回CXを向上させるためのPDCA実践編のコラムでは、CX(顧客体験価値)マネジメント(以下CXM)を実践するためのステップと部門ごとの活用方法について解説をしましたが、今回から業界別にCXM導入のポイントを紹介していきます。

前回コラム:CXを向上させるためのPDCA実践編

目次

1.地方銀行のCXMの状況
2.NPS指標とCXMの関係性
3.地方銀行におけるCXMのポイント
 3-1.CXの範囲
 3-2.CX設計上の課題
 3-3.全体CX設計
 3-4.商品やサービスごとのCX設計
 3-5.リレーショナル調査とトランザクショナル調査の関係性
4.銀行でCXMを導入する部門
 4-1.CXMを最大限に活用するために導入を検討すべき部門
 4-2.CXMに親和性がありスムーズに導入できる部門
5.まとめ

1.地方銀行のCXMの状況

平成30年9月26日に金融庁から公表された 「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~」 における「顧客本位の業務運営の確立と定着」(※1)の発表をきっかけに、顧客ロイヤルティ指標としてCXMでも代表的な指標として利用されているNPS(R)(※2)を採用する銀行が増え始め、現在では多くの地方銀行で従来のCS指標に代わって活用されています。ただし、一部大手地方銀行ではNPS指標を採用しながらCXMに着手し始めている一方で、単純にNPSをとっているだけの地方銀行がまだまだ多いのが現状です。

(※1)金融庁 https://www.fsa.go.jp/news/30/20180926.html
(※2)NPS(R)はBain&Company, Fred Reichheld, Satmetrix Systemsの登録商標です

2.NPS指標とCXMの関係性

NPSは顧客ロイヤルティを測る指標となりますが、こういった指標を正しく顧客視点でとらえて向上させるためにはCXMの考え方が必須となってきます。CXMを導入することにより、従来のCS調査では見えなかった顧客課題が見え、その後顧客課題を改善する取組みにつなげることが可能となります。

3.地方銀行におけるCXMのポイント

銀行は提供するサービスが多岐にわたるため、ひとつのカスタマージャーニーでCX全体を網羅しようとすると複雑な設計になってしまう傾向があります。そのため、全体のCXを把握するジャーニーとともにサービスや商品カテゴリーごとのジャーニーなどを作成してCXMを実施することがポイントとなります。銀行でのCX設計の課題を整理し、具体的なCXMの設計方法を説明します。

3-1.CXの範囲

「顧客本位の業務運営」の観点から特に店舗(窓口業務)や営業員、投資信託などのリスク性商品に関連するCXを設計するケースが多いようです。また、住宅ローンのようなローン商品に活用する事例も見受けられます。ただし、全体を見渡して評価するCXは描ききれていない銀行が多いのが現状です。

◆銀行(投資信託)のCX設計例

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3-2.CX設計上の課題

前述のように、銀行のCX範囲は多岐にわたるため、さまざまな部門で顧客調査を実施するケースも見受けられますが、大抵の場合個々の調査が独立して行われているため、顧客体験視点で見た場合に顧客にとってその銀行のなにが一番重要なのか?という点がとらえづらい構造になってしまっています。

3-3.全体CX設計

顧客にとってその銀行の「どの体験が重要なのか?」「どの体験が課題なのか?」を見るためには、まず銀行全体のCXを設計します。

◆銀行全体のCXでカスタマージャーニーを作成した例

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次に設計したCXに対し、アンケートなどでスコアリングすることによって、銀行全体としての重要なポイント、課題のあるポイントを抽出していきます。このような全体のCXを元にアンケート調査を実施し、強みや課題を俯瞰で見るような調査を「リレーショナル調査」といいます。この調査は年1~2回なるべく多くの顧客に対して実施する比較的大規模な調査になり、多くの銀行ではCS調査という名目でこの種の調査を実行しています。

顧客によって利用サービスはさまざまですが、アンケートによる定量データを用いることにより、「住宅ローンを契約しているお客さまへの強みや課題」「投資信託を利用されているお客さまの強みや課題」といったように個別商品やサービス利用者の特徴をとらえることも可能です。

3-4.商品やサービスごとのCX設計

銀行全体を見るリレーショナル調査で個々のサービスや商品について細かく聞いていこうとすると、アンケート自体は膨大な設問数になってしまうため、お客さまへのアンケートの負荷が高くなってしまいます。結果としてこのような調査は回答率や回答精度の低下につながり、調査本来の役割が果たせなくなってしまいます。そこで、全体を見るリレーショナル調査とは別に、個々のサービスや商品に対する深堀りができる調査「トランザクショナル調査」を設計し、実施していくことになります。

◆リレーショナル調査とトランザクショナル調査例

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3-5.リレーショナル調査とトランザクショナル調査の関係性

リレーショナル調査はトランザクショナル調査の関係は以下のとおりです。
リレーショナル調査:銀行全体の強みや弱みを俯瞰で見る(年1~2回)
トランザクショナル調査:リレーショナル調査で出た個別商品、サービスの課題の深堀りと改善PDCAの実践(日次、週次、月次など)

◆リレーショナル調査とトランザクショナル調査の関係性

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ここで、留意すべき点は、トランザクショナル調査にあたっては抽出された課題への改善アクションを実施するということです。NPSなどの指標を上げるためには課題を改善していくほかありません。従って、改善を実施しながら改善効果を検証、改善策を修正といったPDCAを回していくことが重要となります。そして、この改善効果を検証するためには、年1度の調査ではなく、少なくとも月単位で改善効果を確認していくことがあるべき姿になります。

4.銀行でCXMを導入する部門

4-1.CXMを最大限に活用するために導入を検討すべき部門

経営企画、CX部門などは銀行全体を俯瞰で評価するのに適している部門です。俯瞰で見ることでどのセクションの対策を強化すべきかを把握し、関連部門も支援しながらCX全体の向上をめざします。

4-2.CXMに親和性がありスムーズに導入できる部門

お客さま相談室などの従来からCS調査を実施している部門はもっともCXM導入が最もスムーズに進む部門です。NPSを有効活用するためにも、まずは自部門の範囲内からCXMを導入し、効果が確認できたらトップマネジメント層も巻き込んで全社的な取組みに広げていくのがセオリーです。

5.まとめ

顧客との接点が多岐にわたる銀行では、銀行全体と重点領域の複数のCXMを関連付けた上で、改善PDCAを回していくことが求められています。部門ごとにバラバラに実施されている現状の調査を体系立てて見直し、CXMを組織的に運用していきましょう。

※2021年9月時点の情報です。

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