教育CSRの基礎知識
取り組むメリットから具体的な手法、事例紹介までやさしく解説

短期的な視点において、CSR活動は時間、費用、人的リソースなどコストの増加ととらえられます。だからこそ、失敗しない教育CSRを実現するために、まずはしっかりと全体を理解することが大切です。
本記事では、教育CSRを改めて体系的に知りたい方向けに、教育CSRの概要や取り組むメリットと課題、具体的な成功事例など、教育CSRの基礎知識を解説します。
2024年1月公開

1.教育CSRに注目すべき理由

そもそも、CSR(Corporate Social Responsibility)とは「企業の社会的責任」のことであり、経済産業省は以下のように定義しています。

「企業の社会的責任」とは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方を指します。

【出典】経済産業省 価値創造経営、開示・対話、企業会計、CSR(企業の社会的責任)について

世界的な潮流トレンドでもあるSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)やサステナビリティ 発想の盛り上がりを後押しに、 CSR 活動は活発になっています。

また、ESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(統治))に配慮する企業への投資が本格化し、CSRはIR(Investor Relations)と切っても切れない活動ととらえられ、「攻めのCSR」が求められるようになりました。

その流れの中、なぜ今、教育CSRに注目すべきなのでしょうか。

1-1.データで見る!CSRと教育CSRの広がり

経団連の調査によると、CSRの社会貢献活動への1社平均の支出額は増加傾向にあります(図1)。
また、2015年度・2016年度に連続して回答した企業の動向を見ると、支出額を増やした企業がおよそ3分の2にのぼります。2014年度から2015年度にかけて支出額を増やした企業が半数だったことと比較すると、企業の一般的な傾向として社会貢献支出を増やしているといえます(図2)。

さらに、社会貢献活動費用の内訳をみると、「教育・社会教育」がトップに。教育CSRへの注目度の高さが伺えます(図3)。

【図1:社会貢献活動支出額(1社平均)の推移】

社会貢献活動支出額(1社平均)の推移

【図2:2年連続回答企業の支出額の変化】

2年連続回答企業の支出額の変化

【図3:分野別支出額の支出総額に占める割合】

分野 16年度
1.教育・社会教育 19.4%
2.文化・芸術 17.2%
3.健康・医学、スポーツ 14.4%
4.学術・研究 8.9%
5.地域社会の活動、史跡・伝統文化保全 7.8%

【出典】経団連「2016年度 社会貢献活動実績調査結果」より

1-2.教育CSRの必要性

若い時の体験は好意形成への影響が大きく、大人になっても、好意の継続や商品購買・サービス体験のリピート・習慣化につながることが見受けられます。

例えば、後に事例としても紹介するサントリーの「水育」では、親子で自然体験を行いながら水や森の自然の大切さを学びます。その体験の記憶は、大きくなるまで残り、水を購入する度に想い出として蘇り、サントリーへの好意形成にもつながる可能性があります。

教育CSRは「選ばれる商品・企業」となるための「未来への投資」といえるでしょう。

特に、以下の理由から、小学生時期の教育CSRは効果があると考えられています。

・ライフスタイル(性格)の基本は、8〜10歳までに形成。※1
・小学生の8割が、学校で受けた授業について親と共有。※2
・脳のゴールデンエイジは小学校中・高学年3~6年生(7歳9歳の誕生日から12歳)12歳の誕生日。※3

※1 出典:【アドラー心理学】性格が決まる年齢は?ライフスタイルの形成 | NPO法人ギブキッズザドリームより
※2 出典:バンダイこどもアンケートレポート Vol.249 「親子のコミュニケーションに関する意識調査」より
※3 出典:勉強がどんどん身に付く、脳の“ゴールデンエイジ”っていつ?【理系博士の子育て第25回】より

2.教育CSRのメリットと課題

社会的責任を果たすための取り組みは、企業が利益を追い求める取り組みとは異なります。教育CSRは短期的な利益にはつながらない可能性が大きいですが、さまざまなメリットもあるのです。
まずは、教育CSRに取り組むにあたっての課題を事前に知り、自社にあった取り組みをイメージしてみましょう。

教育CSRのメリット

2-1.教育CSRのメリット 6つ

1.企業価値・ブランドイメージが向上
SDGsの目標の中には「4.質の高い教育をみんなに」、つまり、全ての人が男女の区別なく、無理なく払える費用で技術や職業に関する教育を受けられること、という目標があります。
このSDGs目標はまさに教育CSRで実現できます。

電通の生活者調査によると、積極的にSDGsに取り組む企業に対しては「イメージが良くなる(40.0%)」「好感が持てる/応援したくなる(35.2%)」「信頼がおける(26.6%)」などと評価が高いことがわかりました(図4)。

2.顧客やファンを作り出せる
同じく電通の調査によると、積極的にSDGsに取り組む企業に対しては好印象だけでなく、「その企業の商品やサービスを利用したくなる(18.1%)」という回答も2割近く見られました(図4)。

【図4:積極的にSDGsに取り組む企業のイメージ】

積極的にSDGsに取り組む企業のイメージ

【出典】電通 第5回「SDGsに関する生活者調査」

1.投資家にアピールできる
ESGを重視する投資が盛り上がる中、CSR 活動は投資家にとって、投資の判断材料になります。

2.優秀な人材を採用できる
優秀な人材ほど、ESG の視点で企業を選ぶことも。
また、企業・ブランドとの最初の出会いが素敵なものほど、企業・ブランドへの好意度は高く、出会う年齢が早いほど、第一想起される企業・ブランドになると考えられます。
子どもたちが将来、成長したあかつきには、就職先として選びたくなる可能性も高まります。

3.社員が自分の仕事に誇りを持てるようになる
電通の調査によると、就業者のうち、自社のSDGsの取り組みを認知している社員は、「取り組んでいることを世の中や人に伝えたいと思った(19.1%)」「将来性を感じた(16.3%)」などポジティブな感想の割合が61.8%という結果に。

なかでも、30代男性では「誇りに感じた(21.7%)」、「働き続けたいと思った(21.1%)」「仕事に対するモチベーションがあがった(20.7%)」などの割合が高くなります(図5、6)。

【図5:自社のSDGsに関する取り組みを知った感想】

自社のSDGsに関する取り組みを知った感想

【図6:自社のSDGsに関する取り組みを知った感想(内訳)】

自社のSDGsに関する取り組みを知った感想(内訳)

【出典】電通 第5回「SDGsに関する生活者調査」

6.顧客の声を受け止めるきっかけになる
特に、顧客と接する機会が少ない職種の社員にとっては貴重な機会になることも。
顧客の声を聞くことで、どのようなところが喜ばれ、どのようなところに改善点があるのかなど、今まで思いもよらなかった発見につながり、新たな商品・サービス開発のきっかけになるかもしれません。

2-2.教育CSRの3つの課題

1.人的リソースの確保
働き方改革が広がる一方、人手不足が問題になる企業も。直接的な利益につながらない活動へ十分に人員が配置されることが難しい状況も多くあります。

2.教育現場とのつながり
教育現場へコンタクトを取ろうとしても、どこへ、誰に、どのように連絡をとれば良いかがわからない場合があります。地元のつながりや自分の出身校などのツテを駆使できたとしても、CSR戦略に必要な対象にマッチするとは限りません。

3.求められる教育コンテンツ開発
教育CSRにおいて、企業と教育現場がWin−Winの関係になるには、学習指導要領など、教育現場が求めている内容と合致するコンテンツを提供できるかがカギとなります。そのためには、学校カリキュラムへの知見が必要です。

上記の課題を解決するには、教育CSRの知見を持っているマーケティング支援企業などに相談することが有効です

3.教育CSRの6つの手法

教育CSRには、色々な手法があります。ここでは、代表的な6つの手法を紹介します。

教育CSRの手法

3-1.出張授業

企業の社員が講師として学校に出向いて 授業を行うタイプの教育CSRです。

企業の特徴を活かした内容で、企業の理念や活動内容などを楽しんで体験・理解できるように伝えます。
交渉、授業の企画、授業に必要なテキストや映像などの準備、学校訪問と負荷の大きい手法ですが、非日常的な体験は子どもたちに強いインパクトを与えます。

3-2.サンプリング(教材提供)

自社の商品そのものや、企業からのメッセージを伝えるために特別につくった冊子等を提供し、配布する手法です。

家庭に持ち帰って体験してもらうことで、家族にも体験やメッセージを届けることができます。

3-3.職場/工場の見学

学生たちが職場や工場を見学する機会を提供するタイプの手法です。

実際に働く姿やものがつくられる工程を目にすることで、好奇心や想像力を刺激します。普段入ることができない場所での体験はこどもたちに強いインパクトを与えます。

3-4.インターンシップ(職場体験)

学生たちが職場体験する機会を提供するタイプの手法です。

普段接することのない大人とのコミュニケーションを通じて、自分の得意なこと、不得意なこと、やりたいことなどを知り、職業観を育むきっかけとなります。

3-5.コンテスト実施

作品を募集したり、プレゼンテーションしたりする機会を与えるタイプの手法です。

企業が伝えたいメッセージに基づいたテーマで、絵などの作品を応募してもらいます。培ってきたスキルを発揮する場所を提供することで、想像力を刺激し、創造力を高めるきっかけとなります。

3-6.奨学金

学生が学びたい場所で学べる機会を金銭的に援助するタイプの手法です。
望む教育を受け、得られた知見が将来的に社会や企業に還元されることにつながります。

DNPでは、これらの6つの施策の一部を支援することが可能です。

関連商材

4.教育CSRの成功事例 3選

文部科学省の令和4年度 青少年の体験活動推進企業表彰で選ばれた事例を紹介します。
※DNPの事例ではありません。
【出典】令和4年度 青少年の体験活動推進企業表彰:文部科学省

4-1.有限会社 人事・労務 よみがえれ!浅草田圃プロジェクト

自分が暮らす街でこどもたちが米づくりを体験する教育CSR。
現在農地0%の台東区で、農と食を通じて、自然や地域とのつながりや、生産・流通・販売まで一貫したはたらく場を体感してもらうことで、暮らしから生まれる“はたらく豊かさ”を培う力を育み、子どもたちの主体性を取り戻す狙いです。

【出典】次世代を担う子どもたちのはたらく豊かさを―よみがえれ!浅草田圃プロジェクト

4-2.サントリー 「水育」

親子で自然体験を行う「森と水の学校」と、小学校で行う「出張授業」の教育CSRです。
子どもたちが、水や、水を育む森や自然の大切さに気づき、未来に水を引きつぐために何ができるのかを考える、サントリーが独自に開発した教育プログラムを提供しています。

【出典】サントリー「水育」

4-3.清水建設 東京木工場における木育活動

職場体験タイプの教育CSRです。
「木育」とは、清水建設の東京木工場が実施している木工教室。日本の森の維持・木に対する親しみや、文化への理解を深め、原体験として木に触れることで、「子どもたちの豊かな心を育てる」機会を提供しています。

【出典】木育活動 清水建設株式会社 東京木工場

関連商材

DNP は教育CSRによる企業のブランディングを支援するサービスを提供しています。
企業価値・ブランドイメージの向上、顧客・ファンの育成など、自社に合った教育CSRを、DNPだからできるさまざまな手法を通じて支援させていただきます。
まだ施策内容が決まっていなくても、「イメージを持つ」段階からご相談ください。

未来のあたりまえをつくる。®