セミナー開催レポート「DNP P&Iセミナー デジタルアーカイブを活用した探究的な学習デザイン~『みどころキューブ®』をつかった学校授業の事例から~」
2023年2月24日、「デジタルアーカイブを活用した探究的な学習デザイン~『みどころキューブ®』をつかった学校授業の事例から~」と題したオンラインセミナーを開催しました。セミナーでは、DNPが開発する鑑賞システム「みどころキューブ」を活用した三重県伊賀市立成和西小学校での実践授業の事例について紹介しながら、デジタルアーカイブを活用した学習における可能性や今後の課題について議論しました。本稿ではセミナー内容のサマリーをご報告します。
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作成日:2023年3月22日
目次
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セミナー実施概要
DNPでは、2022年12月7日、独自に開発するミュージアム向けの鑑賞システム「みどころキューブ」を小学校授業で活用し、子どもたちの探究力向上に向けた学習効果を検証するための実証実験を行いました。この実証実験は、三重県伊賀市立成和西小学校におけるデジタルアーカイブを活用した公開授業の枠組みの中で実施され、授業をコーディネイトした東京大学大学院情報学環・TRC-ADEAC株式会社の特任研究員である大井将生氏に「みどころキューブ」を教材として提供する形で実現しました。
なお、公開授業以降も、子どもたちは継続してテーマに関する調べ学習を進め、集めた資料を「みどころキューブ」に追加していき、最終的には「みどころキューブ」を使った調べ学習の成果発表会まで行いました。本セミナーでは、こうした一連の「みどころキューブ」を活用した実践授業の事例について紹介し、デジタルアーカイブを活用した学習における「みどころキューブ」の可能性や今後の課題についてディスカッションを行いました。
ゲストスピーカー
- 大井 将生 氏/TRC-ADEAC株式会社特任研究員・東京大学大学院情報学環特任研究員
<プロフィール>「デジタルアーカイブの教育活用」をテーマとして情報学やデジタルヒューマニティーズの視座から学校教育を対象とした実践的研究に従事。主な研究に「ジャパンサーチを活用したキュレーション学習」「S×UKILAM(スキラム)連携」「学習指導要領LOD」など。
プログラム
①「みどころキューブ SaaS型」のご紹介
➁ 伊賀市立成和西小学校での学習デザイン
③ デジタルアーカイブ活用における「みどころキューブ」の可能性
みどころキューブとは?
「みどころキューブ」は、独自のキューブ(立方体)状のインタフェース※に資料の情報を立体的に配置し、それらの複雑な関係性を視覚的にわかりやすく表現することができる新しいビューアです。インタラクティブな操作で資料との”偶然の出会い”を創出するためのさまざまな機能を有しています。
当初、「みどころキューブ」はミュージアム向けの鑑賞システムとして、資料や作品などのコレクションのデジタルデータを魅力的に表現する目的で開発されました。ところが、そのインタフェース上の特長から、子どもたちの学習に対する問いを誘発し、さまざまな資料・情報を活用した主体的な調べ学習を促し、継続的な探究学習を実現する補助教材としての可能性も期待されています。
- ※特許出願済み
なぜ、現在の教育に多様なデジタル資料が必要なのか?
まずは、今回の実証実験の背景として、デジタルアーカイブの教材活用の重要性について、ゲストスピーカーの大井氏より発表がありました。
注目を集めるデジタルアーカイブの教育活用
大井氏:現在、デジタルアーカイブ社会の実現が国の方針として示される中で、ストックされた資料をどのようにフロー化し、活用していくかを検討すべきであると議論されています。そんな中、デジタルアーカイブの学校教育授業での活用が注目されています。
教育現場の目線からは、以下のような課題があります。
- 国内外の調査結果より、日本の子どもたちは多様な資料・情報の中から問題を理解し考える力に課題があるということが長年指摘されている。
- 新しい学習指導要領では、図書館や博物館などの資料をもっと活用し、子どもたちの問いに即して資料を集めて、ICT技術を活用していくことが掲げられている。
- 情報化、多様性、持続可能性などさまざまな文脈で学びの変革が求められている。
- GIGAスクール構想の推進により、一人一台端末の導入でハードは普及したものの、ソフト面では何を使ってどのように学ぶのか、どうしたらよいのか分からないという現場の声がよく聞かれる。
- 新しい学習指導要領では、「探究学習」が教科横断的に重要な位置づけをされており、子どもたち自身が問いを設定して、子どもたち自身が資料・情報を集めることが学習の前提条件となっている。
以上から、子どもたちが立てる多様な問いにひもづく多様な資料を収集・活用できる学習環境として、Web上で多様な資料を活用できるデジタルアーカイブが現代の課題を解決する際の重要な基盤となると言えます。
デジタルアーカイブ教材化における課題
一方で、デジタルアーカイブの教材化に関しては以下のような課題もあり、それぞれに対して解決策が求められています。
- デジタルアーカイブの資料について、学校教育現場の目線に基づいたメタデータの付与、活用事例が蓄積されていない➡実際に教材化し教育目線でのメタデータを付与していき、その事例を蓄積して共有していくことが必要
- 資料が並列的に並べられているだけでは、子どもたちの「問い」の創発につながらない➡子どもたちの「問い」の創発や「見方・考え方」の拡張につながる、可視化・視覚化といった支援が必要
- 教育現場で求められるリテラシー育成がなされていない➡「多面的多角的な視座」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学びに向かう力」の育成につながる教材のUI上の工夫が必要
デジタルアーカイブ資料の教材化と「みどころキューブ」の活⽤法
大井氏:昨年度より、公立小学校における地域デジタルアーカイブ活用法の開発、学習指導案や学習指導要領コードとの接続についてプロジェクトとして研究を進めており、その中でみどころキューブを使用しました。今回、前述の子どもたちの「見方・考え方」を育成に寄与するために、みどころキューブを以下の3つ目的で活用しました。
- 1.興味関心・「問い」の創発ツール
- 2.見方・考え方の拡張ツール
- 3.考察・表現・発信ツール
この3つの目的について、1点目と2点目については「導入キューブ」、3点目については「表現キューブ」とそれぞれ名付けた2段階の「みどころキューブ」を準備して活用しました。
まずは、子どもたちの問いを創発する初期段階のツールとして、縦軸を年代、底面を地図とし、三重と東京のつながりについて歴史的に考える内容の授業を実施しました。キューブの中には時代・地域ごとに関連する資料を配置し、あえてキューブの第4面を空白にする、という工夫をしました。
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授業では、服部半蔵の資料を使用しながら、子どもたちの「問い」をどんどん引き出していきました。「みどころキューブ」がモニターに登場した瞬間に、子どもたちが大歓声を上げました。なかなか普段の授業で歓声を上げる場面はありませんので、これだけで子どもたちがぐっと学びに引き付けられた、そこに価値があったのかなと思いました。
その後、「みどころキューブ」を使って、先生が準備してきた資料を提示していき、子どもたちに投げかけながら、子どもたちの「問い」と興味関心を引き出しつつ、資料を探究的に潜っていくような場面がありました。資料をどんどんたどっていく中で、学習内容も深いところに潜っていき、服部半蔵から徳川家康という子どもたちも良く知る人物につなげていく、少し難しい資料も活用しながら深い学びにつなげていくような授業展開で構成されました。
授業の終わりに、あえてキューブの第4面が空白になっていることについて、「これからみんながこの4面目を完成させていくんだよ」と投げかけるところで授業が終了します。子どもたちは戸惑いながらもワクワクしながら次の授業に進んでいきました。
考察・表現・発信ツールとしては、空白にしておいた第4面「みんなで考える第4の見方・考え方」を活用し、子どもたちの学習成果が資料とひもづいた形で入っている「表現キューブ」を作成しました。こちらのキューブには、学習を終えたあとのキューブの様子として、子どもたちの中間感想、最終感想が述べられています。また、ある児童が載せた写真は、自分が近所を歩いて撮影した写真を使用していました。まさに、時間軸、空間軸をもつ一つの空間上に、「子どもたちの学びの情報」という新しい知識がプロットされ、新しいデジタルアーカイブが完成した瞬間でした。
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以降のセミナー内容については、下記よりダウンロードして全文をお読みいただけます。
実践授業を実施した結果・考察、実際に授業を担当された先生方の声、デジタルアーカイブの教育利用における「みどころキューブ」の可能性について、詳細にレポートしています。
DNPのデジタルアーカイブソリューション
DNPでは地域の文化資源情報のデジタル化とその利活用を推進しており、今回の実証実験における「みどころキューブ」の学校教育への展開は、この取組みの一環となります。今後も「みどころキューブ」などICT技術を活用して、地域の文化資源デジタルアーカイブを学校教育に活用することで、MLA施設と教育機関の‟博学連携”を促進し、ふるさとに愛着と誇りを持つ心豊かな子どもの育成の支援を行っていきます。
- ※「みどころキューブ」は、DNP大日本印刷の登録商標です。
関連事例
「みどころキューブ」を小学校の授業で活用し、子どもたちの探究力向上に向けた学習効果を検証する実証実験を行いました。
入間市博物館 ALITが所蔵している多種多様な「くらしの道具」を、キューブ型のインタフェースを用いてさまざまな切り口から提示することによって、博物館収蔵品への興味・関心を喚起します。
関連ソリューション
「みどころキューブ SaaS型」はWebサーバーを施設で用意するなどの手間がなく、素早く、簡単に利用を開始することができるミュージアム向けのサービスです。
関連ページ
「そもそもデジタルアーカイブとはどんなものか」といったことをテーマに、デジタルアーカイブの定義、課題点や可能性についてご紹介します。
デジタルアーカイブ構築の流れを紹介します。設計から公開後の利活用まで、デジタルアーカイブを立ち上げるために必要なことや、各段階におけるポイントについてまとめています。
「デジタルアーカイブ化に関する博物館評価」というテーマについて、デジタルアーカイブの導入効果をいかに評価するか、という問いに対し博物館評価との関りから考察します。
- 「文化財のデジタルアーカイブソリューション」コラム編集部
DNPのメンバーが、「文化財のデジタルアーカイブ」に関するコラムを発信。デジタルアーカイブの今と、未来について考えていきます。
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