【シリーズコラム】DNPのデジタルアーカイブ 第4回 高精細3Dデジタルアーカイブの技術

本コラムでは「DNPのデジタルアーカイブ」というシリーズで、近年注目されるデジタルアーカイブについてDNPの視点から解説を行ってまいります。第4回は、3次元情報をアーカイブする3Dデジタルアーカイブの技術のうち、DNPが多数の実績を持つフォトグラメトリ技法について、専門技術を有し最前線で活動するチームメンバーへのインタビューを通して紹介します。DNPでは、文化財や文化資源のデジタルアーカイブに関する多様なソリューションを展開しています。

作成日:2023年3月15日

目次

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メンバー紹介

フォトグラファとして入社。CG制作部門や営業職を経て、現在はCGを中心とした画像や映像、VR等のデジタルコンテンツ、フォトグラメトリによる3Dスキャン等の実制作を担当。

3Dデジタルアーカイブコンテンツ制作を担当。システム開発、3DCG制作に従事した経験をもとに、撮影現場での環境構築、XRコンテンツ制作・開発を担当。

さまざまな3Dデジタル化の技術

石井:物体を3次元でとらえるには、どのような手法が有効でしょうか。その解のひとつとなるのが、3Dスキャン技術です。3Dスキャンをして3次元の立体形状の情報を取得するには、レーザー計測やフォトグラメトリ(写真計測)といった技法があります。近年では小型のハンディスキャナや建築用のレーザースキャナ、人物用のフォトグラメトリ・スタジオなど、対象物によってさまざまな手法が広がってきています。

大貫:DNPでは、これまで多くの文化財などの3Dデジタル化に取り組んできました。対象物によって手法はさまざまですが、DNPで多数の実績があるのは高解像度写真から3Dデータを生成するフォトグラメトリ。写真を複数の角度から撮影することで3Dの形状情報を取得し、3Dデータの作成を行う技術です。

フォトグラメトリ技法とは

石井:フォトグラメトリによる3Dデータの制作方法について、簡単に説明します。

1.対象物をさまざまな角度から撮影
被写体をさまざまな角度から撮影します。

撮影

©David Paul Carr / BnF

撮影アングルの確認

#1

2.専用ソフトウエアを使用して3Dデータを生成
撮影した写真を専用ソフトウエアが解析し、絵柄などの特徴点から撮影アングルを認識して点群データが生成されます。そこに三角形で構成される面が貼りつけられることで立体的な形状となります。

ソフトウェアによる解析

#2

点群データ生成

#3

立体データ生成

#4

三角形で構成される面

#5

テクスチャ設定
#6

3.色(テクスチャ)の設定
ソフトウエア上で、認識された撮影角度から見えるテクスチャ画像が3Dデータの上から貼りこまれます。撮影時に高精細カメラを使用すると、テクスチャの精度が上がります。

質感設定
#7

4.質感設定
3Dデータをビューア上で閲覧する際に本物らしく見えるよう、光の反射や陰影の付き方など質感を設定します。

  • *#1~7 ©DNP Dai Nippon Printing Co., Ltd. 2021, with the courtesy of the Bibliothèque nationale de France.

石井:フォトグラメトリ技法のメリットは、3Dレーザースキャナ等では取得することのできない高精細なテクスチャ画像を取得することができる点です。一方で、撮影画像の絵柄の特徴点を認識して3D形状を作るため、まったく模様のないものは形状の再現が出来ません。また、これはレーザー計測も同様ですが、ガラスのように透明なもの、鏡のように反射する素材、極度に細い形状のものなどはデジタル化が難しいと言われています。DNPでは、3Dデジタル化が抱える課題に挑戦し、さまざまな事例に取り組んできました。

超高精細フォトグラメトリへの挑戦

地球儀、天球儀のデジタル化

石井:DNPが初めてフォトグラメトリに取り組んだのは、2015年フランス国立図書館(BnF)との「DNPミュージアムラボ(*1)」における地球儀、天球儀のデジタル化でした。高画質カメラを使用して、地球儀・天球儀1点あたり何百枚もの写真を撮影することにより、どこまで拡大しても明瞭に表示させることのできる超高精細な3Dデータをつくりました。データを活用してVR体験を開発するなど、当時としては先進的なさまざまな取組みを実施しました。

大貫:再びBnFと取り組んだ「リシュリュー・プロジェクト(*2)」では、BnFの歴史的なコレクションのうち複雑な形状や反射する素材の作品の3Dデジタル化に挑戦しました。穴が空いたり入り組んだ形状をしていたり、複雑な形状の部分の構造が良く見えるよう、あらゆる角度から写真を撮影する必要があります。照明やカメラの角度を調整するなど撮影方法の工夫により、3Dデジタル化は困難と思われた作品のデジタル化に成功しました。

石井:「リシュリュー・ルネサンス・プロジェクト」ではBnFの歴史的建造物であるマザランギャラリーのデジタル化も行っています。高画質カメラで広角レンズを使用し、1000枚を超える写真を撮影しました。その結果、3Dデータを活用した空間体験を行う「みどころウォーク®(*3)」の開発につながりました。

“本物らしさ”へのこだわり

大貫:質感設定にもこだわりがあります。国立工芸館での事例では、展示場所の照明下で実際に使用するモニター上でどのように見えるかなど、学芸員に確認いただきながら納得いくまで議論を重ねて3Dデータをつくっていきました。

国立工芸館の所蔵作品3Dデジタルアーカイブ

国立工芸館の所蔵作品3Dデジタルアーカイブ

石井:DNPはCGの技術はもちろんのこと、文化財や美術品を扱ってきた実績・ノウハウ、印刷分野で培ってきたカラーマネジメントの技術ノウハウなどを駆使して、本物を伝えるための表現をしています。

これからの3Dデジタルアーカイブ

大貫:最近では、3Dデータがメタバースへ展開される事例もあります。DNPが構築するメタバース空間「バーチャル秋葉原」から接続する神田明神CG空間も、フォトグラメトリとレーザー計測を組み合わせて取得したデータをもとに構築しました(*4)。

「神田明神CG空間」での御神殿高精細CG

世界遺産 仁和寺 国宝「金堂」 高精細8K VR コンテンツを制作

石井:フォトグラメトリとレーザー計測を組み合わせて3Dデータを作った事例として、世界遺産の仁和寺金堂の事例もあります。このようにシーンや用途によってさまざまな手法を組み合わせることを提案しています。

大貫:最近では、スマートフォンでも簡単に3Dデータが作れます。しかも精度も高く、「DNPの技術は何が違うのか?」と聞かれることもあります。ですが、いざコンテンツとして活用しよう、アーカイブとして保存しようとすると、スマートフォンで作成したデータでは物足りないということもあり、そこから品質を上げようと思っても意外とハードルが高いことがあります。

石井:3D計測をして形状を作って終わりではなく、そのデータをどう活用するのかが最も重要ではないでしょうか。3Dデータをどう生かしていくか、用途やコンテンツの提案からできることもDNPの強みです。これからも3Dデータをより日常的なものにしていくための提案をしていきたいですね。

DNPのデジタルアーカイブソリューション

 DNPでは、膨大な資料のデジタル化やデジタルアーカイブシステム構築に関する多数の実績を有するのはもちろんのこと、貴重な文化財の超高精細撮影や、高精細データを活用した複製の制作、3DCG、VR、ARといった最先端技術によるコンテンツ制作や、独自の鑑賞システム開発に強みがあります。さらに、デジタルデータの利活用については、イベントやワークショップの企画開催、商品開発など幅広いご提案が可能です。デジタルアーカイブの設計から、資料や文化財のデジタル化、システム構築、利活用に至るまで総合的なサポートを行っています。

関連ソリューション

立体的な形状の文化財に対して、再現性の高い3Dデータ作成とアーカイブ化のサービスを提供します。長年のデジタルアーカイブ化の取組みで培った高精細撮影ノウハウ、カラーマネジメント技術等を有しています。

ヘッドマウントディスプレイを装着し、手すりをたどりながら実際に移動することでVR空間内を動き回ることができる鑑賞システムです。映像で錯覚を起こすことで仮想的に物理空間を拡張し、限られた展示空間内でも、広大な仮想空間を移動する体験が行えます。

文化財の3Dデジタルアーカイブデータを直感的に操作ができる3Dビューアです。作品を細部まで観察ができ、興味のきっかけをつくり知識の幅を広げます。8K出力などの高精細表示へも対応可能です。

  • 「みどころウォーク」「みどころビューア」は、DNP大日本印刷の登録商標です。

関連事例

高精細デジタル化技術を用いて、対象作品を写真計測し、3Dデジタルデータを作成しました。デジタル化においては、独自の撮影技法、ノウハウ、カラーマネージメント技術を活用し、作品の材質や質感などを高精細で再現しています。

高解像度撮影画像から3Dデータを生成するフォトグラメトリ計測と、3Dデータを取得するレーザー計測を組み合わせ、文化財に負担をかけずに短期間で高精度の3Dデジタルアーカイブ化を実現しました。

備前長船刀剣博物館所蔵の国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」の高精細な3DCGデータを活用したVRコンテンツの開発に協力いたしました。

関連ページ

「そもそもデジタルアーカイブとはどんなものか」といったことをテーマに、デジタルアーカイブの定義、課題点や可能性についてご紹介します。

設計から公開後の利活用まで、デジタルアーカイブを立ち上げるために必要なことや、各段階におけるポイントについてまとめています。

「デジタルアーカイブ化に関する博物館評価」というテーマについて、デジタルアーカイブの導入効果をいかに評価するか、という問いに対し博物館評価との関りから考察します。

2019年7月からアジア唯一の技術メセナパートナーとして参画したフランス国立図書館(BnF)のリシュリュー・ルネサンス・プロジェクトについて、プロジェクトリーダーである田井慎太郎へのインタビューを通して、プロジェクト参画の経緯や概要、具体的な実施内容、今後の展望等についてご紹介します。

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DNPのメンバーが、「文化財のデジタルアーカイブ」に関するコラムを発信。デジタルアーカイブの今と、未来について考えていきます。

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