【シリーズコラム】DNPのデジタルアーカイブ 第1回 デジタルアーカイブとは
本コラムでは「DNPのデジタルアーカイブ」というシリーズで、近年注目されるデジタルアーカイブについてDNPの視点から解説を行ってまいります。第1回は、「そもそもデジタルアーカイブとはどんなものか」といったことをテーマに、デジタルアーカイブの定義、課題点や可能性についてご紹介します。DNPでは、文化財や文化資源のデジタルアーカイブに関する多様なソリューションを展開しています。
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作成日:2022年7月1日
目次
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デジタルアーカイブとは
デジタルアーカイブの定義はさまざまありますが、一般的に多種多様な形態の情報資源をデジタル化し、それらを整理・保存して、インターネットなどを用いて提供すること(*1)を指します。デジタルアーカイブの対象は、美術作品や貴重資料、建造物などの有形物から、伝統芸能や祭事・神事などの無形物まで幅広くあります。そうした記録や記憶をデジタルデータとして保存し公開することで、次世代への継承や、研究分野での応用、さらに幅広い分野での利活用が期待できると言われています。
日本国内では「知的財産推進計画(*2)」のもと、デジタルアーカイブが社会の知的活動の基盤となるような「デジタルアーカイブ社会」の実現に向けて、さまざまな取り組みが推進されています。その中の一つとして、日本が保有する多様なデジタルコンテンツの分野横断型検索・閲覧・活用のためのポータルサイト「ジャパンサーチ」が、試験版を経た正式版として国立国会図書館により2020年に公開されました(*3)。全国の地域やミュージアム施設に対しては、各地の郷土資料に関するデータを充実させ、「ジャパンサーチ」との連携を推進していくことが期待されており、デジタルアーカイブの整備は地域やミュージアム施設にとって重要な役割の一つとなっています。
注目されるデジタルアーカイブ
近年、日本国内では災害が多発し、文化財が被害にあう事例も多く見られます。文化財防災の観点からも、デジタル化したデータを保存し未来に継承できるデジタルアーカイブへの注目は高まっています。アーカイブされたデジタルデータを広く公開することによって、文化財の劣化を最小限に防ぎながら、多くの人々が文化財へアクセスすることも可能になります。
また、新型コロナの影響で世界中のミュージアム施設が閉館を余儀なくされる中、多くの施設がオンライン上でのデータ公開やプログラム提供によって、施設に来館することができない利用者のニーズに応えようとする動きが見られました(*4)。デジタルアーカイブを整備し情報発信していくことの重要性が、改めて認識される大きなきっかけとなりました。
こうしたアクセシビリティの観点に加えて、デジタルアーカイブ上でデータを公開することで、さまざまな学習プログラムや研究目的での活用が可能となります。さらには地域活性化や観光、ヘルスケア、エンターテインメント分野への活用など、社会的・経済的な波及効果も期待されています。
デジタルアーカイブの課題点
多くのメリットが挙げられるデジタルアーカイブですが、一方で普及に対する課題もあります(*5)。
デジタルアーカイブを充実させていくためには、資料のデジタル化はもちろんのこと、資料に関する情報(メタデータ)の整備作業が必須となります。そのための予算、人員、スキルの不足を課題として抱えている地域やミュージアム施設は多くあります(*6)。
公開したデータの利活用を促すためには、利用者が利用しやすいよう、二次利用のための条件が整備されていることも重要です。しかしながら、自由に二次利用ができるオープンライセンスのコンテンツ数はまだまだ少ない状況で、利用条件が明示されていないデータも一定数存在します。著作権や肖像権、プライバシーなどの問題から、扱いが難しいデータもあり、法制度との調和が求められます。
また、デジタルアーカイブを評価する枠組み整備も大きな課題の一つです。デジタルアーカイブを整備・公開することでもたらされる社会全体への波及効果は、従来型の来館者数やアクセス数といった指標だけではなかなか評価することができません。地域やミュージアム施設は、デジタルアーカイブの役割や目的を認識した上で、達成度を客観的に評価する新たな指標を設定していくことも必要だと考えられています。
博物館・美術館、図書館、学術・研究現場などにおいては、デジタルアーカイブの活用は広がりつつありますが、デジタルアーカイブを日常的に利用している一般生活者はまだそれほど多くはなく、デジタルアーカイブへの理解が社会に十分に浸透しているとは言えません。また、観光、医療、福祉、地域活性化やビジネスなどさまざまな分野へのデジタルアーカイブの活用も今後の課題と言えます(*7)。
DNPが考える、未来のデジタルアーカイブ
今日、デジタルアーカイブの重要性はますます高まってきています。
将来的には、MLAと呼ばれるミュージアム施設(Museum)、図書館(Library)、公文書館(Archives)などさまざまな施設のデジタルデータが連携して、分野横断的に情報を検索、活用できるようになると言われています。
DNPでは、デジタルアーカイブを基盤としてMLAなどが施設の枠を超えてつながり、多面的な知識や教養を享受・共有・発信できる仕組みを提供することで、生活者一人ひとりの自由で豊かな学びや暮らしを実現することを目指しています。
- *1内閣府知的財産戦略推進事務局による「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」(平成29年4月) では、デジタルアーカイブは「様々なデジタル情報資源を収集・保存・ 提供する仕組みの総体」と定義されています。
- *22022年6月3日知的財産戦略本部が公表した「知的財産推進計画2022(案)」 において、「デジタルアーカイブ政策を、デジタル時代のコンテンツ戦略における重要な柱の1つと位置付け、各種関連施策との連携を図りながら、これを推進していく必要がある」としています。
- *3 ジャパンサーチ
- *4ユネスコが2020年5月に発表したレポート『MUSEUMS AROUND THE WORLDIN THE FACE OF COVID-19』 によると、新型コロナの影響で世界のミュージアムの約9割が一時的な閉館を余儀なくされたが、86の国で600近くのオンラインによる活動の事例が報告されたとされています。
- *5デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会、2020(令和2)年8月19日「3か年総括報告書 我が国が目指すデジタルアーカイブ社会の実現に向けて」
- *6みずほ総合研究所が2021年3月に発表した「令和2年度『博物館ネットワークによる未来へのレガシー継承・発信事業』における『博物館の機能強化に関する調査』事業実績報告書」 によると、全国の博物館がデジタル技術を活用した取り組みを実施する上での課題として、「予算の不足」「人員の不足」「知識・ノウハウの不足」「必要な設備・通信環境が整っていない」といった要因が挙げられています。
- *7 「ジャパンサーチ・アクションプラン2021-2025」 でも、「デジタルアーカイブを日常にする」をキャッチフレーズに、現状課題を把握した上でさまざまなコミュニティにデジタルアーカイブの活用方法を伝えることが目指されています。
- 「文化財のデジタルアーカイブソリューション」コラム編集部
DNPのメンバーが、「文化財のデジタルアーカイブ」に関するコラムを発信。デジタルアーカイブの今と、未来について考えていきます。
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