デジタルアーカイブを活用した新たな鑑賞体験とは?「BnF × DNP ミュージアムラボ 第2回展 これからの文化体験」の記録
DNPでは、フランス国立図書館(BnF)との共同プロジェクト「BnF × DNP ミュージアムラボ」の一環として、展覧会「BnF × DNP ミュージアムラボ 第2回展 これからの文化体験」を開催し、デジタルアーカイブ活用の可能性やニューノーマル時代の新たな鑑賞体験の提案を試みました。ここでは展覧会開催に携わった中心メンバーへのインタビューを通して、プロジェクト始動から展覧会開催の裏側、来場者の反響など、展覧会の全貌をご紹介します。
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目次
メンバー紹介
田井 慎太郎 / 大日本印刷株式会社マーケティング本部アーカイブ事業推進ユニット事業開発第1部
デジタルアーカイブ事業企画を担当。文化財の3Dデジタル化と、データを活用した体験展示の企画・ディレクションを行う。これまで美術展・漫画展などの展覧会イベントや、科学館、展望台施設などの常設施設に対するインタラクティブメディア・映像システムの導入実績がある。現在、フランス国立図書館リシュリュー館に新設されるミュージアムへのデジタルコンテンツ導入に向けたプロジェクトを担当。
平澤 公孝 / 大日本印刷株式会社マーケティング本部アーカイブ事業推進ユニット事業開発第1部
デジタルアーカイブ事業企画を担当。文化財の3Dデジタル化と、データを活用した体験展示の企画・ディレクションを行う。「BnF × DNP ミュージアムラボ 第2回展 これからの文化体験」(2021.4.15-10.29)では会場設営・運営・プロモーションにおけるプロジェクトマネジメントを担当。
磯田 和生 / 大日本印刷株式会社マーケティング本部アーカイブ事業推進ユニット事業開発第3部 主席研究員、博士(芸術工学)
ルーヴル美術館やフランス国立図書館との共同プロジェクト、DNPミュージアムラボにてマルチメディアを使った鑑賞体験の企画及びHCI研究開発に従事。現在、VR、デジタルアーカイブ等をテーマにユーザの認知的、行動的な理解による製品・サービスの開発及び研究を行っている。
「BnF × DNP ミュージアムラボ」とは
田井 フランス・パリを中心とするフランス国立図書館(以下、BnF)は、14世紀に王立図書館として創設されて以降、写本や書籍のみならず、地図やコイン、写真やマルチメディアなどのあらゆる資料や作品を約4,000万点所蔵しています。
そのBnFを象徴するリシュリュー館は、「リシュリュー・ルネサンス・プロジェクト」として1721年の創設以来初の全館改修を進めており、2022年に大々的なリニューアルオープンを控えています。これまで研究者など一部の人に入場が限定されていたリシュリュー館に新たなミュージアムを設置し、BnFのコレクションを広く公開します。
#1 |
DNPはこの「リシュリュー・ルネサンス・プロジェクト」にアジアで唯一の技術メセナパートナーとして参加しており、貴重なコレクションや、歴史的空間の3Dデジタルアーカイブ化をBnFと共同で進めてきました。同時に、これらのデジタルデータを多種多様な情報と連携させて、公開させる新たな鑑賞手法の開発も進めています。そして今回、共同プロジェクトの一環として展覧会を開催し、2022年のリシュリュー館の新たなミュージアムで展開するこの鑑賞体験のモデルを、DNPのギャラリーにて先行的に公開しました。
展覧会「これからの文化体験」における新たな挑戦
田井 展覧会を企画していた当初は、BnFからコレクションをお借りして、実物を展示しながらデジタル技術を組み合わせた鑑賞体験を提案することをイメージしていました。しかしながら、新型コロナウィルスの影響により実物の作品展示が難しくなり、BnFとも協議の上、コロナ禍以前にすでに撮影を終えていたデジタルデータを使用して、展示を構成することとなりました。かえってそのことが、作品や人の移動が物理的に制限されたニューノーマルにおいても、人々が知識と出会い、興味がひろがる鑑賞体験を創出する新しい文化体験のモデルとして発信することとなり、これまでにない挑戦ができたと感じています。
空の展示ケースに作品が浮かび上がる 「みどころグラス」
#2 |
平澤 たとえば「みどころグラス」を展示したギャラリー空間では、1点だけ、3Dデジタルアーカイブデータを利用し最新式3Dプリンタで出力した高精細レプリカを現物で展示し、あとは空の展示ケースを配置しました。スマートグラスを装着すると、空の展示ケースの中にデジタル作品が浮かび上がって見える仕掛けにしました。
磯田 スマートグラスが空間を認識し、最適な位置にコンテンツを表示します。仮想的に表示された3DCGの作品は、ユーザが展示作品を切り替えたり、手で持ち上げて詳しく観察をしたり、デジタルならではの表現が可能です。現物の展示に合わせて、作品解説を表示させることも行いました。
限られたスペースで広大な空間を体験する 「みどころウォーク」
田井 今回、BnFのコレクションだけではなく、マザラン・ギャラリーという空間にある天井画の3Dデジタルアーカイブ化にも挑戦しました。そして、その再現した空間を実際に歩いて体験できるVRコンテンツも展示しました。
磯田 「リダイレクテッド・ウォーキング(*)」という技術を用い、東京大学鳴海准教授らの監修を受けて開発しました。体験者にはヘッドマウントゴーグルとバックパックPCを装着し、設置した2本のポールと手すりをつかみながら歩行していただきます。現実の世界では、4メートルの手すりに沿って歩き、その端にあるポールをつかんで2周回転し、再度手すりにつかまって出発点に戻ります。ところが、VR空間では実空間の動きとは異なり、コの字型に進みながららせん階段を上り、全長45メートル×幅8メートル×高さ9メートルというギャラリー空間の中を歩きながら、間近に天井画を鑑賞することができます。
- *体験者に実際の動きとは少し異なる映像を見せる事により、空間知覚を操作する技術。東京大学 葛岡・雨宮・鳴海研究室 鳴海准教授および松本助教による監修。
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再現が難しい作品もデジタルで高精細に鑑賞 「みどころビューア」
#5 |
平澤 実物の作品が展示できない中でも、作品の細部まで鑑賞することを可能にしたのが、「みどころビューア」です。55インチの4Kディスプレイに、DNPがデジタルアーカイブ化したBnFの21作品を表示しました。ディスプレイ上では、高精細な3DCGを拡大、回転させ、細部まで観察できるほか、解説表示もできます。ビューアは最大8Kの解像度に対応しています。
©David Paul Carrr / BnF |
田井 今回、BnFのコレクションをフォトグラメトリ技法(*)で3Dデジタルアーカイブ化するにあたり、特に難易度の高かったのが銀やブロンズなどの光沢のある作品です。撮影時に照明を反射してしまうため、多くの工夫が必要でした。そのほかにも難しかったのが、象牙のチェスの駒です。こちらは形状が非常に複雑で、撮影や再現にも時間を要しました。DNPでは、撮影技術やノウハウを駆使して、照明の当て方や撮影角度を工夫し、膨大な枚数の写真を撮影することでデジタル化に成功しました。
こうしたデジタルアーカイブ化の難しい作品についても、「みどころビューア」ではその質感や形状の細部まで再現し、鑑賞していただくことが実現したと思います。
- *高解像度撮影した画像から3Dデータを生成する写真計測のこと。
複数の作品の関係性を表現する 「みどころキューブ」
#6 |
田井 ここまで紹介してきたのは、1つの作品や1つの空間に対して興味を深めていくためのシステムでしたが、会場で最後に展示していた「みどころキューブ」は、複数の作品にどのようにアプローチしていくかという視点で作りました。
キューブ状のインタフェースを用いて、BnFの代表的なコレクションをテーマ、関係性など多様な視点から鑑賞できる仕組みです。直感的な操作で、キューブを回転させてテーマを切り替えたり、キューブの中に入って作品どうしの関係性を見たりすることで、作品への興味を広げることが出来ます。
磯田 「みどころキューブ」のもう一つの大きな特徴は、ウェブブラウザでも利用できる点ですね。展示施設からだけでなく、自宅からもアクセスできるというのは、ニューノーマルの文化体験に非常にマッチしていると思います。
また、このシステムには美術作品だけでなく、文書や資料などさまざまな情報を組み込むことができます。アイディア次第で幅広く活用していただける仕組みではないでしょうか。
【参考】みどころシリーズ
上記の展示製品を含む、DNPコンテンツインタラクティブシステム「みどころ」シリーズを以下のページにてご紹介しております。
当シリーズはデジタル化された作品と多様な*MLAの知的情報「みどころ」を組み合わせ、作品に対する興味のきっかけを提供する目的で開発されました。
文化・芸術に関連するさまざまなシーンでの体験・鑑賞を想定しており、以下のページでは製品情報の他に事例もご紹介しております。是非ご覧ください。
*MLA:美術館・博物館(Museum)、図書館(Library)、文書館(Archives)
展覧会来場者からの反響
平澤 展覧会を運営するにあたっては、新型コロナウィルス感染症対策を徹底しました。来場いただくお客様、運営スタッフの両方が安心安全に会場を利用できるよう、事前予約制、人数制限、タッチペンの配布等といった対策を講じました。さらに、オンラインによる会場案内も導入しました。そうした努力の結果、さまざまな業界から多くの方々にご来場いただくことができました。
田井 展覧会のコンセプトに対しては、来場者の方々から非常に多くの共感を得ました。「バーチャル上で作品に触れることで、作品への興味が増して、本物の価値も高まるように感じられた」「デジタルと本物とでは、別の体験として考えることが重要だと感じた」など、ポジティブなご意見もたくさんいただきました。
磯田 一方で、機器導入のハードルが高い、今回展示していたBnFコレクションのようなハイクオリティな作品を保有していない、など多くの課題についても共有していただきました。こうした貴重なご意見を今後の開発にぜひ活かしていきたいです。
平澤 「これからの文化体験」は法人向けだけではなく一般公開も行いました。実際に来場されたお客様に鑑賞システムをご利用いただいた感想として、「何もない空間でも作品鑑賞が楽しめた」「リアルではわからない細部まで鑑賞でき、作品に興味がわいた」「みどころキューブが学校にあったら歴史や文化への理解が深まる」など、多数のご意見をいただきました。
「2021 デジタルアーカイブ産業賞 技術賞」を受賞して
田井 今回の展覧会「BnF×DNP ミュージアムラボ 第2回展 これからの文化体験」は、有難いことに2021年9月、デジタルアーカイブ推進コンソーシアム主催の「2021デジタルアーカイブ産業賞(*)」で技術賞を受賞することができました。この賞の中では、従来困難だった「光沢のある作品」や「大規模な空間」の高精細3Dデジタル化技術や、多様なデータを情報連携させた新しい展示手法を高く評価していただきました。
- *「デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(略称 DAPCON)」が主催しており、各年度においてデジタルアーカイブ産業振興に寄与した活動が、選考され表彰されています。「技術賞」はデジタルアーカイブ産業に資する革新的な技術・手法・サービス・機材・システムが対象とされています。
田井 展覧会の中でもコンセプトとして発信してきましたが、ミュージアム、図書館、公文書館には、たくさんの「知」があります。デジタルアーカイブ技術が進み、それぞれの「知」が枠を超えて集まり、オンラインでの活用が可能になりつつあります。生活様式の変化に伴い、加速する情報化社会では、いつでも、様々な切り口から情報にアクセスでき、自身の視点によって、興味や関心が広げられる仕組みが必要です。
今回の展示を通して多くの方々と意見を交わすことも実現しましたが、デジタル技術を活用した新しい鑑賞体験が、更なる「知」との出会いや、より興味を広げる機会となることを願っています。そのためにも、新しい文化体験モデルを創出し、発信していきたいと思います。
新しい文化体験は、P&Iラボ・テクノロジーで体験できます
今回、「BnF × DNP ミュージアムラボ 第2回展 これからの文化体験」で好評頂いたDNPコンテンツインタラクティブシステム「みどころシリーズ」の展示内容を一部見直し、「P&Iラボ・テクノロジー(*)」に組み込み常設化いたしました。DNPは今後も高精細3Dデジタル化技術、および多様なデータを情報連携させた新しい展示手法を皆様に、ご紹介すると共にコラボレーションを通じ新しい価値を創り出していきます。ご興味のある方は、ぜひお問合わせ下さい。
- *P&Iラボ・テクノロジーは、DNPの強みである印刷(Printing)と情報(Information)「P&I」を起点に、社外の企業・団体の方々とコラボレーションしながら新しい価値を創り出していく施設です。
- *#1,2,3,4,5,6 ⓒDNP Dai Nippon Printing Co., Ltd. 2021, with the courtesy of the Bibliotheque nationale de France.
※「みどころグラス」「みどころウォーク」「みどころキューブ」「みどころビューア」「みどころシリーズ」は、DNP大日本印刷の登録商標です。
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