セミナー開催レポート「DNP P&Iセミナー これからの文化体験」

2021年6月29日、「これからの文化体験 時空を超えた鑑賞体験で『学び』が変わる!?~最先端VR技術がもたらす可能性と課題~」と題してオンラインセミナーを開催いたしました。ここではセミナー当日の様子をレポートしてお届けします。

パネリスト

・鳴海 拓志 先生(東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 准教授)
・石戸 奈々子 先生(慶応義塾大学教授、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会 代表)
・磯田 和生 (大日本印刷株式会社マーケティング本部アーカイブ事業推進ユニット 主席研究員)

プログラム

1.フランス国立図書館(BnF)との取り組みと「みどころウォーク」開発経緯(磯田 和生)
2.採用技術の解説・研究事例(鳴海 拓志 先生)
3.教育分野での活用における可能性と課題(石戸 奈々子 先生)
4.対談および質疑応答

1.フランス国立図書館との取り組みと「みどころウォーク」開発経緯

現在フランス国立図書館では、その歴史的原点といわれるリシュリュー館の創設以来、300年ぶりの全面改修となる「リシュリュー・ルネサンス・プロジェクト」が進行中です。DNPは、このプロジェクトにアジアで唯一の技術メセナパートナーとして参画しており、その一環として、2021年10月29日までDNP五反田ビルにて「DNP×BnFミュージアムラボ第2回展 こらからの文化体験」を開催しています。

セミナーではまずはじめにDNP磯田が、本展覧会で展示中の最先端VR技術を活用した「みどころウォーク*1」について、その開発経緯とコンテンツの概要を紹介しました。

DNPとBnFは2016年に共同プロジェクトの第一弾として「地球儀・天球儀3Dデジタル化プロジェクト」を行いました。そして今回第二弾として、貴重なコレクション21点と歴史的空間の3Dデジタル化に取り組みました。

「みどころウォーク」では、リシュリュー館の象徴的な空間であるマザランギャラリーをVR空間で体験することができます。全長45.55メートル、横幅8.2メートル、天井高9.2メートルの空間を高精細アーカイブデータを活用して再現し、実際に空間を訪れたかのような体験と、現地でも体験できない天井がの細部鑑賞が実現しました。

マザランギャラリーのスケール感を表現し、五感に訴える鑑賞体験を目指す中で、鳴海先生が研究するリダイレクテッド・ウォーキング(以下、RDW)*2に着目し、共同で開発をするに至りました。

  • *1仮想空間を歩くことで興味がひろがる「みどころウォーク」。
    ヘッドマウントディスプレイを装着し、手すりをたどりながら体験者自身の足でVR空間内を実際に歩きます。
    組み込まれたリダイレクテッド・ウォーキング技術によって、限られた展示空間内の歩行にて、広大なVR空間を歩行する体験が可能です。
  • *2体験者に現実とは少し異なる映像を見せ錯覚を起こさせることで仮想的に物理空間を拡張する技術。

2.採用技術「リダイレクテッド・ウォーキング」の解説・研究事例

続いて、「みどころウォーク」開発のキーとなったRDWについて、研究を進める鳴海先生より、ご自身の研究内容やVR技術の活用の可能性、課題についてお話いただきました。

鳴海先生は、これまでのさまざまな研究活動から、五感を伴う体験や身体を動かす体験が、鑑賞や学びの効果を高めることに着目するようになりました。世界的に基礎研究が進むRDWについて、応用的に活用するための課題点に取り組む中、DNPとの「みどころウォーク」設計に携わることになりました。

セミナーでは、これまでの研究実績のご紹介や、博物館、企業との取り組み実績についても詳しくお話をいただきました。今回展示中の「みどころウォークについては、「視覚(映像)と触覚(手すり)を組み合わせることで、RDWの効果が上がり、安全性も担保されました。また、コンテンツの中にらせん階段を配置したことが、非常に効果的だった」「『みどころウォーク』によってマザランギャラリーの鑑賞が可能となり、場所の大きさをよりリアリティをもって把握できるようになった」とお話いただきました。

視聴者へのアンケート投票

ここでセミナーのブレイクも兼ねて、視聴者の方々にアンケート投票にご参加いただきました。

セミナーに参加した動機としては、「VR・先端技術」に関心がある方が最も多く、続いて「文化資源の利活用」「ICT教育」となりました。また、自社や担当施設、学校現場等でのVRの導入状況については、「導入したいが課題がある」という回答が最も多く、続いて「導入したいが活用方法がわからない」でした。

3.教育分野での活用における可能性と課題

後半に入り、まず石戸先生から「みどころウォーク」を事前に体験した際の感想として、「視覚情報に加えて手すりの触感が加わるだけで、こんなにも没入感が増すのかと、非常に驚き感動しました。ぜひ皆さんにも体験していただきたい」と高い評価をいただきました。

「VRを教育現場で活用する意義としては、もちろん映像等のコンテンツによって学びの動機づけをするという点もありますが、完成度の高いVRコンテンツを体験することによって、このような世界を実現できる科学技術そのものへの興味の入り口にもなり得る」とご意見を述べられました。

4.対談および質疑応答

そこから石戸先生を中心に、視聴者からのコメントや質問に対して登壇者が回答する、コメントセッションに移りました。先のアンケート投票でも視聴者の関心があったように、VR技術に関する質問や、導入に関する課題点等、以下のようなコメント・質問が多数寄せられました。

  • ミュージアムという空間でVRを活用することによる相乗効果とは?
  • RDWに世界的な注目が集まっているが、ミュージアムでの活用事例がこれまでなかったのはなぜか?
  • RDWでVR酔いが軽減される理由とは?
  • 視覚・触覚以外にも、聴覚をコンテンツに取り入れる際の作用とは?
  • コロナによってVRの導入は加速する?
  • VRコンテンツの研究開発は今後どのように展開するのか?

時間の都合上、すべてのコメントや質問にお答えすることができませんでしたが、未来に向けた前向きな議論が広がり、非常に有意義なセミナーとなりました。最後に登壇者三名より本日のまとめの一言を頂戴して、セミナーは終了となりました。

アーカイブ事業_セミナー_VR教育の可能性と課題_2

セミナーの全編はアーカイブ映像でご覧いただけます。ご視聴を希望される方は、下の「お問合せはこちら」ボタンよりお問合せください。

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