Think Japan 東京大学千葉学研究室×DNP
「近未来のライフスタイルから見る新しい住宅のカタチ」
東京大学大学院 千葉学研究室とDNPは、2015年4月より共同研究を開始し、住宅の建具や境界面を切り口に、
近未来のライフスタイルから見る新しい住宅のカタチを考案するため、研究をすすめてまいりました。
このコラムでは、未来の住まいを考える方々に、新しいカタチを提案いたします。
*この内容は、2015年7月より2018年5月にかけて掲載した内容を、2022年7月にまとめたものです。
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未来の住まいってどんなだろう!?をみんなで考えるプロジェクト
東京大学 千葉学研究室とDNPの共同研究は、日本の建築には欠かせない「建具」というものを問い直すことからスタート。
それらに用いられるさまざまな素材や技術などを調査・分析。
建具が人と人の関係にどのように関わってきたのかを読み解くことで、未来の住まいのカタチを考えていきました。
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- 「世界の建具に共通することって?」
世界にはさまざまな建具があります。動きに特徴のあるもの、開閉により機能が変化するもの、気候による機能の差異があるもの。そして、建具が重なることで多様な環境やアクティビティを生んだり、目的・性能に応じた格子のスケールなど、古今東西の建具から見えてくる共通項を探りました。
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- 「素材って、こんなにもあるの?」
「素材と機構」「気候帯」「寸法」「年代と素材」「重さと動かし方」「格子の大きさ」「光の透過と風の透過」など、さまざまな指標をもとに建具を類型化。 まずはいちばん基本となる「素材」を指標に分類しました。建具だけでなく、あらゆる素材に着目し、各素材の使われている理由、加工性や、素材の特徴と機能や趣向性の関係などを考察。触感を操作する、光を操作する、空気を操作する、強度を操作する、熱を操作するマテリアルなど、世の中のさまざまなマテリアル・素材を調査しました。
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- 環境の変化が大きい「北陸」を視察場所に。
これまでに調べた世界各国の建具を、気候ごとに分類。“環境の変化が大きいとさまざまな機能が必要”だと分かりました。
次のステップは、“参考例となった建具の実物を見る”こと。
環境変化が大きい気候=四季のある日本の日本海側気候=「北陸」
私たちは視察場所として、北陸地方を選びました。
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- 北陸視察を通してわかったこと。
北陸のなかでも、対象の建具を絞り、調査を開始。富山市の「簾虫籠(すむしこ)」、輪島市の「間垣」、金沢市の「木虫籠(きむすこ)」、白川村の「腰高障子」、白山市の「背戸」の5つを選定しました。
環境への変化の対応や地域への影響などを実測やヒアリングを通して調査し、伝統的な建具が現代にどのように活かされているのかを考えました。
視察地 |
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調査の視点
1.環境の変化への対応
2.町への影響
3.伝統的な建具の現代的な使われ方
調査風景 |
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それぞれがその地の気候風土や文化風土に根ざした機能や意匠を持っています。
なかでも私たちは、「間垣」に注目。
自然素材の“竹”を使って、「風の力を吸収・拡散する」材料の特性が生かされた建具。
束となって、寒波から住戸を守り、夏には適度に風を通す役割を持ちます。
町の第一の建具であり、メンテナンスもコミュニティで行われます。
間垣は、「まち・コミュニティ」の建具でもあったのです。
- 団地調査で見えてくる事実。
間垣(建具)=「まち、コミュニティの建具」になりえることが分かりました。
では、「集まって住む場所」にある建具、境界面は?私たちは団地に着目し、団地調査を行いました。
少子高齢化や建物の老朽化の問題で、団地を維持していくことが難しくなっている事例は数多く存在します。設備の老朽化や生活スタイルの変化への対応の難しさから、空室の割合が高まってきています。
しかし、そのような現状を打破し、団地を活性化するために全国でさまざまな試みが行われています。
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- 2年間の研究内容をふまえた建具のアイデア。
これまでの研究の議論をまとめてみると、課題としているのは「快適性」だということが分かりました。
そこで、これまでの研究をベースに、「未来の快適性」をテーマに「建具」のアイデアを発想。
数多のアイデアから厳選した提案を数回に分けて発表いたします。
提案1 ELASTIC WALL
エラスチック織物に仕切りの機能を持たせる。織物が引っ張られるとき、網目が大きくなり、透明度が変わる。 |
提案2 CURTAIN CLOUD
カーテンとガラスの間に領域を作る。カーテンの掛け方が作り出すバリエーションにより、さまざまな領域を生み出す。
提案3 2.5次元の建具
形状記憶ポリマーの壁紙。物を掛ければ自重で安定し、外せば元の形状に戻る。面材なので、掛けるポイントを選ばない。
提案4 開口反転
偏向板を組み合わせて透明度を変化させられる壁。全体の壁は全て透明で、隠したい所を後から選択できるようにする。
提案5 押し出し扉
壁を外側に延長できる扉で、空間の仮の拡張を可能にする。使われることが無かった片廊下(という空間)を、私的かつ公的に活用する。
提案6 Bright Blind
表と裏にそれぞれ白と黒の色がプリントされた縦格子が回転する建具。表面は白色が反射して向こう側が見えにくいが、裏面では背景が良く見える。
提案7 Curtain of indigo-dyed checkerboard textile
伝統的な藍染を市松状に印刷したのれん。市松のすだれを二重に重ね合わせることで、その位置関係によって背景の透け方が変化する。
提案8 Breathable rotate door
通気性のある壁全体が回転して開く扉。空気はいつでも通り抜け、回転させることにより人も通り抜けれる。扉の開き方により通る空気や人の量を調整できる。
提案9 Window door
格子が窓サッシとなり、片開きの窓がそれぞれの格子にはまっている。どの扉を開けるかで、建具の両側の関係性を変えることができる。
提案10 Mirrored lattice
厚みのある格子の深さ方向に鏡面が貼られた建具。ある波長の光だけを反射するフィルムを使い分けることにより、グラデーショナルに色が変化する格子となる。
提案11 Plastic tube
ある高さを持った円筒チューブ状のプラスチックを横方向に圧着して作る壁。
切断面が円なので、厚みが変化し、向こう側の透け方にリズムを与える。
提案12 Shitomirror
鏡、蔀戸(しとみど)、両開き扉の3つを掛け合わせた建具。
上辺を軸に開くと、床のテクスチャや風景を取り込み、下辺を軸に開くと、空の風景を取り込む。
提案13 Thin sunlight shade
薄い木でできたランプシェードや壁。
外壁の素材として木の厚みを調整することで、太陽光が当たった時に、ぼんやりと表面が光るインテリアとなる。
提案14 Scratched wood
削ると下地の色が現れるスクラッチアートに着想を得た建具。
複数の薄いレイヤーからなる一枚の板。表面を削ると、下から異なる表情を持つテクスチャが現れる。
提案15 Extendable crosspiece
横桟が奥行き方向に伸ばすことができる窓格子。奥行きを伸ばすことで、より太陽光を遮ったり、小物を置いたりすることができる。
提案16 3 Way Louver
完全に開いた状態、ルーバーとして視線を適度に遮る状態、日よけとして一枚になった状態の3種類の使い方があるルーバー。
提案17 Weak Layers
人、虫、雨、空気、音、光、視線などそれぞれ単一を遮る膜を幾十にも重ねる。
弱い膜が何層にも重なり、その間にさまざまな環境を生む。
提案18 Roll door
ロール紙のようにモーターで巻き取られて開く扉。
提案19 Coloring lattice
反射して室内の色を染める格子戸。
格子戸がその配置、角度を変えることで空間が拡張される。
提案20 FOLDING WALL
さまざまな大きさの開口が空いた、アコーディオンのように折れる壁。
折れ戸の折り方を調整することで、壁となったり窓や通路となったりする。
提案21 ミルフィーユ・ウォール
セロハン紙レイヤーを石膏ボード壁面で挟み、厚さを変えられる壁。
壁が厚くなるにつれて通過する情報も増えるという、通常と異なる性能を持つ境界面。
まとめ
建具の未来を提案する中で、住宅の建具や境界面が人の暮らし方やコミュニティのあり方と密接に関わることに改めて気づかされました。