マイナンバーカードを使った本人確認
~次期マイナンバーカードはどうなるか?~

マイナンバーカードは約8割の国民が保有するまでに普及し、その活用や情報管理など私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか気になる方も多いのではないでしょうか。DNPはサイバートラスト株式会社(CTJ)を協業パートナーに、マイナンバーカードを使った本人確認「公的個人認証サービス(JPKI=Japanese Public Key Infrastructure)」に取り組んでいます。

スペシャル対談企画vol.1では「基本4情報の提供サービス」について、vol.2では「マイナンバーカード機能のスマートフォンへの搭載」「認証スーパーアプリ」について詳しく解説しました。vol.3となる今回は、2026年度の導入が検討されている「次期マイナンバーカード」を取り上げます。マイナンバーカードは今後どうなっていくのか?両社が提供する公的個人認証サービス(JPKI)の強みとは?など、今までの取組みについても詳しく話を伺いました。

2023年7月10日公開

DNP×サイバートラスト株式会社 対談企画

金子大輔氏写真

サイバートラスト株式会社
PKI技術本部 トラストサービスマネジメント部 部長
金子 大輔 様


2012年サイバートラスト入社。PKI商材の技術サポート、品質保証に従事し、2020年よりiTrust本人確認サービスのプロダクトマネージャー兼プロジェクトマネージャーを担当。2022年よりトラストサービスを統括するトラストサービスマネジメント部部長に就任。米国PMI認定PMP。

盛田雄介写真

大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部 PFサービスセンター
デジタルトラストプラットフォーム本部
盛田 雄介


2009年DNP入社。IoT・RFID・デジタルキーなどさまざまな最新IT技術分野で、セキュリティサービスの企画・開発に従事。現在は金融業界を中心に、本人確認・本人認証領域で企業の課題解決に取り組む。

1.次期マイナンバーカードとは?

──デジタル庁が6月に発表した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」のなかでも触れられた「次期マイナンバーカード」について、詳しく教えてください。

マイナンバーカード券面イメージ

【CTJ金子氏】マイナンバーカードの交付は2016年から開始され、2026年に10年という節目を迎えます。2016年当時に発行した方のカード有効期限が2026年となりますので、現在マイナンバーカードの改良点をデジタル庁で議論しています。

次期マイナンバーカードでは、マイナンバーカードの券面に記載する情報をどうするか検討されています。今は、基本4情報と呼ばれる氏名・住所・生年月日・性別のほか、顔写真も掲載されています。

【DNP盛田】性別の記載を望まない声や、個人情報の券面記載が不安だという意見が上がっていると聞きます。確かに、カード発行時に渡されるカードケースで目隠しをされているとはいえ、マイナンバーカードを持ち歩くことに抵抗を感じる人もいるかと思います。

【CTJ金子氏】その点を考慮し、券面に何の情報を記載するかは選択式になるかもしれません。人によってはカード表面に何も記載されず、ICチップの中に個人情報が格納されているという形になるかもしれません。あとは、戸籍法の改正と合わせてとなりますが、氏名のフリガナ表記が追加されるのではないかと思っています。

【DNP盛田】ご存じのようにDNPは金融機関様の口座開設アプリを開発・運用しているのですが、フリガナの問題は必ず出てきます。せっかく公的個人認証サービス(JPKI)を使ってリアルタイムで本人確認ができ審査業務も不要となるのに、口座を開設するには氏名のフリガナをチェックしなくてはならず、目視での確認がどうしても発生してしまいます。

口座開設イメージ

【CTJ金子氏】この点は、マイナンバーカードと公金受取口座の紐づけでも話題になっていた点です。金融機関の口座名義を照会するには、氏名のフリガナを用います。しかし、マイナンバーカードは氏名の漢字情報しか保有していないため、マイナンバーカードと金融機関の口座名義を自動で照合することができません。

【DNP盛田】氏名のフリガナ情報については、金融機関様をはじめ事業者側のニーズは高いですよね。

【CTJ金子氏】はい、そうだと思います。ただ、懸念されるのは、仮に次期マイナンバーカードで氏名のフリガナ情報を保有するようになったとしても、次期マイナンバーカードが登場した以降に発行した人のみ対応されることとなります。世間に次期マイナンバーカードが行き渡るまでにはそれ相応の時間がかかると思います。

【DNP盛田】マイナンバーカードの普及推移を見てみると、2026年にカード更新を迎える人は、全体のごく一部です。

【CTJ金子氏】はい。マイナンバーカードの有効期限は10年ですが、カードの中に搭載している電子証明書の有効期限は5年です。制度開始直後の2016年にマイナンバーカードを発行した人に関しては、5年の電子証明書の有効期限はすでに迎えています。マイナンバーカード自体の有効期限が切れるのが一番早くても2026年ということになります。

【DNP盛田】だからデジタル庁は、「2026年中を視野に次期マイナンバーカードの導入をめざす」としているのですね。

金子大輔氏写真

【CTJ金子氏】電子証明書は5年で有効期限が切れ、電子証明書の中には、氏名・住所・生年月日・性別という基本4情報が入っています。ここに、氏名フリガナ情報が追加されるようになれば、電子証明書を更新したタイミングからフリガナ情報を保有できるようになります。私たちが提供している公的個人認証サービス(JPKI)を使って本人確認を行えば、このフリガナ情報が取得できます。ここは非常に大きなポイントとなります。

【DNP盛田】氏名のフリガナ情報を取得したい場合は、公的個人認証サービス(JPKI)を使ってね、という流れができますよね。

【CTJ金子氏】一方で、仮に2026年から次期マイナンバーカードへの切替えがスタートしたとしても、電子証明書の更新に合わせて、2026年以降まだ有効期限を迎えていないマイナンバーカード自体も更新するのかというと、そうはならないように思っています。

【DNP盛田】マイナンバーカードを所持する利用者としては、氏名フリガナ情報があることとないことは、それほど大きな違いを感じないかもしれません。ただ、政府がめざすマイナンバーカードを確実かつ安全に本人確認・本人認証ができる「デジタル社会のパスポート」とするには、現在の基本4情報、しかも氏名の漢字のみという情報だけでは足りないということが露呈してきたのだと思います。

【CTJ金子氏】券面記載事項やICチップの格納情報以外にも、偽装防止技術を含めた券面デザインの見直し、5年という電子証明書の有効期間の延長、マイナンバーカードの早期発行体制の構築も検討されていると発表されています。

マイナンバーカードイメージ

【DNP盛田】マイナンバーカードがより一層セキュアで便利なものとなることが望まれます。今後さまざまなシーンで、マイナンバーカードをピッとかざすだけで本人確認が完了するようになり、“マイナンバーカード=本人確認のスタンダード”となっていくことを期待したいです。

【CTJ金子氏】マイナンバーカードのユースケース拡大のため、お話しした氏名フリガナ情報のように、「この情報をマイナンバーカードに持ってほしい」「この情報があったらこんなユースケースに使える」というような提言を、積極的にデジタル庁にしていきたいと考えています。

【DNP盛田】はい、これからもより連携を強化して取り組んでいきましょう。次期マイナンバーカードがどんなカードになるか楽しみですね。

●「次期マイナンバーカード」まとめ

2026年中を視野に次期マイナンバーカードの導入をめざし、現在検討中。

【検討事項】
・券面デザイン
・券面記載事項(性別・マイナンバー・仮名・国名・西暦等)
・電子証明書の有効期間(5年)の延長
​​​​​​​・早期発行体制の構築
​​​​​​​・カードの公証名義

JPKI対談メイン写真

2.DNPとサイバートラスト株式会社の取組み・補完し合う関係性

──2016年より協業パートナーとして、「公的個人認証サービス(JPKI)」の普及に取り組んできた両社ですが、そのきっかけや今までの取組みについて、お聞かせください。

【CTJ金子氏】2016年以前より認証関連サービスでDNP様とは取引をしておりました。当時、電子認証基盤「iTrust」サービスを当社が立ち上げる際、協業パートナーになりませんか?と声をかけたのが始まりだったかと思います。欧州でのeIDAS規則(※)もあり、日本でも公的個人認証サービス(JPKI)が次世代の認証サービスになるという私たちの強い想いに賛同いただいた形です。

  • eIDAS(イーアイダス)規則とはElectronic Identification, Authentication and Trust Servicesの略で、2016年7月1日に施行されたEU加盟国全体に適用される、電子商取引のための電子識別およびトラストサービスに関する規則のこと。
盛田雄介写真

【DNP盛田】DNPは「未来のあたりまえをつくる。」をキーワードに、新しい製品やサービスの開発に積極的に取り組んでいます。まさに認証領域での「未来のあたりまえ」を作り出し、社会課題の解決に貢献したいと考えたのだと思います。

2016年当初、公的個人認証サービス(JPKI)を推進していくにあたり、まずPoCによる実現方法の検討から始めました。当時は、国が提供する専用アプリを使わないと公的個人認証サービス(JPKI)は利用できませんでしたよね?

【CTJ金子氏】はい、当時はマイナンバーカードの読取り用ライブラリが開放されておらず、国が用意したJPKI利用者クライアントソフトなどの別アプリを使わなくてはなりませんでした。JPKI利用者クライアントソフトの知名度も低く、利用者が離脱してしまうのではないかという懸念がありました。

【DNP盛田】企業にしてみれば、利用者に何個もアプリをインストールさせたくない・なるべく自社アプリだけで完結させたいというニーズがあります。この点は大きなハードルとなりました。

【CTJ金子氏】そのため当社はプラットフォーム事業者として地方公共団体情報システム機構(J-LIS)と協定を締結し、eKYCライブラリを自社開発しまして、企業側の既存アプリにアドオンして提供できるようにしました。

【DNP盛田】御社にマイナンバーカードを読み込むためのライブラリを用意していただいて、それをDNPが開発・運用していた口座開設アプリやオールインワンアプリなどに組み込んでいきました。アドオンという形にすることで運用フローを変更せずに提供することができ、大きなメリットとなりました。

また、犯収法にのっとった形で公的個人認証サービス(JPKI)の提供を実現するにはどうしたらいいのかを、一緒に検討していきました。

金子大輔氏写真

【CTJ金子氏】はい、警察庁の犯罪収益移転防止対策室に公的個人認証サービス(JPKI)の導入・扱いについて幾度となく相談したことを思い出します。例えば、疑わしい取引が発生した場合にはどうしたらいいのか・仮にそれが刑事犯罪となってしまった時にはどうしたらいいのかなど、細かく確認しました。

対面での本人確認では運転免許証などの身分証明書をコピーして保管しますし、オンラインでの本人確認の「ホ」方式(※)では運転免許証などの身分証明書の券面写真をデータとして保存します。ですが、公的個人認証サービス(JPKI)で本人確認を行った場合、事業者側が身分証明書という形で本人確認書類を持てるわけではなく、“本人の署名用電子証明書が有効です”という結果が送られてくる形となります。従来の運用とは異なってくるため、この点をどうしたらいいのか非常に苦労しました。これらの点について、どういう形で情報を保存して、何かあった場合にはどういうフローで情報を提供すればいいのかを犯罪収益移転防止対策室に確認し、ひとつずつクリアしてサービス設計をしていきました。

  • 「ホ」方式とは、犯罪収益移転防止法(犯収法)で規定された手法のうち、自身の写真と運転免許証やマイナンバーカードなどの券面を撮影・アップロードし、人物の同一性を確認する手法。
CONNECTアプリ画面

【DNP盛田】こうした取組みを経て、2021年に大和コネクト証券株式会社のスマートフォン用証券口座開設アプリに公的個人認証サービス(JPKI)を導入することができました。公的個人認証サービス(JPKI)で本人確認を行うだけでなく、個人番号(マイナンバー)も一緒にオンラインで安全に収集することを実現しました。これは大きなポイントとなりましたよね。
CONNECTのスマートフォン用証券口座開設アプリに導入

【CTJ金子氏】マイナポイント施策でマイナンバーカードと公金受取口座の紐づけが推進されましたが、金融機関は個人番号(マイナンバー)の収集には非常に注目しています。

【DNP盛田】金融機関は預金口座と個人番号(マイナンバー)とを紐づけて管理する義務が課せられているため、顧客から個人番号(マイナンバー)の収集を行う必要があります。ですが、制度上強制はできないため、どうやって番号収集を行うのかが課題となっていますからね。

【CTJ金子氏】個人番号(マイナンバー)の収集と公的個人認証サービス(JPKI)を同時に行うことができることは、非常に大きな強みになります。政府としても、子育て支援や各種免許・国家資格との紐づけなどマイナンバーを活用していこうと動いています。この個人番号(マイナンバー)の収集実績は、金融業界以外にも横展開していくことができると思っています。

【DNP盛田】公的個人認証サービス(JPKI)の特長として、セキュアな本人認証の実現があります。公的な機関である地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に照会をかけるのですが、サイバートラスト様には第三者の視点で情報の信頼性を担保していただいています。

セキュリティイメージ

【CTJ金子氏】公的個人認証サービス(JPKI)に必要な情報をマイナンバーカードから受け取った後、当社のサービスで署名検証を行うことで、取得した情報が改ざんされていないことを保証できる仕組みとしています。

公的個人認証は、PKIというインターネット上で安全に情報のやりとりを行うセキュリティ基盤技術をベースとしたサービスです。当社はPKI分野の専門家・日本初の商用電子認証局として、20年以上、認証・セキュリティサービスを提供してきた実績があります。認証・セキュリティ面は当社に任せていただき、DNP様にはユーザビリティや運用面をメインにサポートしていただいています。

【DNP盛田】よくセキュリティを高めると利便性が落ちてしまうなどと言われることがありますが、両社の強みを掛け合わせてベストなサービスが設計できたと自負しています。

【CTJ金子氏】DNP様は、印刷製造・情報加工など多岐にわたる分野で事業展開をされています。特に金融機関様とは付き合いが深く、強い信頼関係があります。公的個人認証サービス(JPKI)をアプリに組み込むにあたり、アプリの運用面でのナレッジを持たれている点は非常に大きいと思っています。

【DNP盛田】御社はバックエンドの仕組みに精通しているという強みがあります。だからこそ、お互いに補完し合う関係性が作れたのだと思っています。

【CTJ金子氏】まさにその通りだと思います。ようやくマイナンバーカードが8割近くの国民に普及し、デジタル庁も「本人確認は公的個人認証サービス(JPKI)に一本化していく」という方針を打ち出しました。これからもお互いの強みを掛け合わせて、より良いサービスを提供していきましょう。



「公的個人認証サービス(JPKI)」へのお問合わせ(URL別ウィンドウで開く)



今回は、2026年度の導入が検討されている「次期マイナンバーカード」について解説しました。また、DNPとサイバートラスト株式会社が「公的個人認証サービス(JPKI)」の協業を始めたきっかけ・サービス開発にあたって苦労した点・両社の強みについても、サイバートラスト株式会社の金子様に詳しく話を伺いました。

次回は今までの総まとめとして、これからの本人確認はどうなっていくのかについて語っていただきます。認証領域でのビジネスに長年携わってきた両社が考える今後の展望について解説します。

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