自社ECモールを成功させるための立ち上げ方と構築のポイント

ここ数年、通常のECサイトを構築するのではなく、構築したモールに多くのテナントを募って「ECモール」を作るという実例が増えてきています。自社で「ECモール」を立ち上げるというケースについては、それほど多くの事例もないため、具体的にどのようなことを立ち上げ時に意識する必要があるのか分かりにくいのが実情です。

そこで、通常のECサイト構築とECモールの立ち上げでは何が異なるのかなど、自社ECモールを構築して成功に導くために必要なポイントを考えていきます。

目次

1.自社ECモールとは
2.自社ECモールを検討すべきケースと構築する際のポイント
3.構築の際にしっかり検討すべきポイント
4.見落としがちな必須機能
5.運営する際の留意点
6.自社ECモールを成功させるために

1.自社ECモールとは

自社ECモールとはその名の通り、他社のモールに店子(テナント)として出店するのではなく、モール自体を自社で構築することです。代表的な見せ方には、店子ごとにページを割り当てるモール型と、カテゴリごとに各店子の商品を並べるマーケットプレイス型の2通りがあり、それぞれ目的に応じて使い分けられています。

単一ショップとして自社ECサイトを持つ企業は多くありますが、事業内容とECサイトを立ち上げる目的によっては、複数のショップを取りまとめる自社ECモールのほうが適切なケースが存在します。次の項目では、自社ECモールを検討すべきケースと、構築の際のポイントについて詳しく解説していきます。

ECモールのイラスト

2.自社ECモールを検討すべきケースと構築する際のポイント

自社ブランドごとにECが散在し、運営に手間がかかっている

ブランドごとに個別のECサイトを持っており、管理が煩雑になっている場合は、自社ECモールを構築して運営を統一することが望ましいと言えます。それにより運営負荷を軽減でき、より効率的でスムーズな運営が可能になるからです。実際の運用イメージとしては、モール内の店子に各ブランドを割り当て、それぞれの担当者が店子機能(ショップ機能)を用いて商品情報をメンテナンスする、といったものでしょう。

このケースで自社ECモールを構築する場合、ポイントとなるのは次の2点です。

(1)企業の認知度

ECサイトを運営する母体がブランドではなく企業となることから、企業そのものの認知度が高いほど有利になりやすく、さらに複数のブランドを運営している企業であれば認知度の向上やブランド間の相互送客も狙えるため、メリットが大きいでしょう。しかし一方で、運営している複数のブランドの世界観がさまざまで、ブランド間の関連を持たせない方針で販促している企業においては、自社ECモールは不向きと捉える見方もあります。

(2)データ移行のコスト

多くの場合、既存のECサイトごとに蓄積されている商品データや顧客データを統一し、新たに構築する自社ECモールで引き継ぐことになります。それにより顧客や商品のデータ管理の大幅な効率化が見込めますが、構築にかかる手間やコストも比例するため、事例の豊富なパートナーに相談し、規模に応じた適切な取捨選択を心がけましょう。

特定のコンセプトをもとに、将来性のあるEC事業を展開したい

例えば生産者こだわりの食品や名産品を集めたECモールは、近年勢いを増している事業のひとつです。自社ECモールであれば、特徴的なコンセプトによる大手総合モールとの差別化や、生産者と生活者の距離を近づけ身近に感じさせる工夫がしやすいなど、意欲的な生産者を集めやすいだけでなく、ECモールを通して日本各地の優良商品の販路を拡大することで地域振興の促進にもつながります。

このケースにおいてポイントとなるのは次の2点です。

(1)出店者にとって魅力的であるか

なにより、出店したいと思える魅力的なモールであることが第一条件です。出店者の意欲を刺激するコンセプトはもちろん、モールにおける戦略や提供価値など、出店者視点での利便性を追求します。

(2)出店者を開拓する体制があるか

ECの世界で埋もれないためには、魅力的なコンセプトだけでなく、出店者を増やす開拓力も必要です。そのような活動ができる体制や有力な営業網があるか、具体的な戦略はどのようにするかなど、自社の環境をふまえて事業計画を立てましょう。

いずれの場合も、自社ECモールを運営する目的に加え、自社が持つ市場環境を明確にしておく必要があります。多くの事業者の商材を卸している、マッチングビジネスを行っている業界において企業やブランドが信頼されているといった点も有利に働くため、適宜考慮すると良いでしょう。

3.構築の際にしっかり検討すべきポイント

ターゲットと目的を明確にする

自社ECモールは、出店者はもちろん、その顧客である生活者にとっても納得感があり、共感できるものであるべきです。例えば、生産者を集めるモールであれば、なぜそのECモールが必要で、どのような生活者に対してどんな価値を提供したいのか、複数のブランドを持つ企業の自社ECモールであれば、前述の内容に加えブランドごとに異なるターゲットをどうとらえるかなどを明確にすることが、顧客満足度につながります。

自社ECモールで購入するメリットを明確にする

既存のECサイトや大手総合モールにはない、生活者が自社ECモールを利用する動機となるメリットについても検討を重ねる必要があります。価格面も大切ですが、顧客へのきめ細やかなフォロー体制や既存の不便を解消するといった「価格以外の価値」を含むもののほうが、他との差別化もしやすいでしょう。

リテラシーの差に関係なくサイトが整うよう設計する

出店者ごとにリテラシーの差があっても、サイト全体の見た目が一定の統一感を出せるよう、ページのテンプレートに配慮します。社外から出店者を募るタイプの自社ECモールでは、特に留意すべきポイントとなります。

決済手数料を考慮した出店手数料を設定をする

ユーザビリティなどの観点から出店者の手数料を一律にするケースも多くありますが、実際はクレジットカード決済、代引き、コンビニ払いなど支払方法により手数料が異なるため、利率設定が重要になってきます。また、決済手段や出店者ごとに利率を変えるほうが有効な場合もあります。

複数のブランドや出店者を取りまとめる自社ECモールの構築には、既存ECサイトとの差別化を図るための視点が必要不可欠です。自社ECモールだからこそ提供できる価値とは何か、ビジネス面とシステム面それぞれの観点から検討しましょう。

4.見落としがちな必須機能

店子ごとに料率を変える

社外から出店者を募る場合は、ECサイトに初めて触れる担当者や小規模の生産者でも参入しやすいよう、最初の手数料は低く設定しておくのがベターでしょう。適切な範囲でハードルを下げておくことで、出店者の増加が見込めるからです。

手数料のイメージ

店子の動きに応じて運営本部にアラートが届く

店子に対してだけでなく、自社ECモールの運営本部にアラートが届く機能はぜひ備えておきたいところです。商品の発送が滞っている場合などにアラートが出るよう設定しておき、必要に応じて店子に確認することで、遅延のないスムーズな運営が可能になります。

店子ごとに精算書を発行できる

定期的に発生する精算業務の負荷を軽減するため、注文件数、利用決済手段、手数料をふまえた精算書を店子別に出力できると、運営の恒久的な効率化を図ることができます。

自社ECサイトでは特に考慮する必要のないものでも、自社ECモールにおいては必須レベルとなる特有の機能が存在します。機能の後付けは難しいケースが多く、ユーザーの混乱を招く可能性もあるため、必要な機能はあらかじめ洗い出しておき、構築の段階で組み込んでおくことをおすすめします。

5.運営する際の留意点

問い合わせやクレームは、運営本部で一度集約する

大規模ECモールでは難しいですが、サービス立ち上げから当面の間は、商品に関する問い合わせやクレームをモール運営事業者側で一度預かり、その後各店子へと連携することが望ましいです。それにより生活者の声を直接知ることができるだけでなく、本部を経由する仕組みが店子の運営品質の維持にもつながります。

優良店子を表彰する

売上に大きく貢献している、多数のレビューを集めているなど、モールに良い影響を与えている店子を定期的に表彰し、モチベーション向上を意識しましょう。商品画像などに掲載可能なバッジを付与すれば、優れた店舗であることを生活者にもPRできるため、サイト全体を活性化させ、好循環を作り出すことができます。

店子のサポート体制を整える

売上が伸び悩む店舗に対し、商品の見せ方や商品説明、魅力的な写真の撮り方についてアドバイスするなど、相手に寄り添ったサポート体制を整えます。親身なサポートが店子ごとの売上を伸ばすきっかけとなり、ひいてはモール全体の売上向上への布石となるでしょう。

社外から出店者を募るタイプのモールにおいては、新規出店者の獲得はもちろん、継続的な出店者を育成することも必要になります。顧客の要望にいち早く対応することも効果的なため、ユーザーの声や改善要望をピックアップし、常にアップデートを行っていきたいところです。

6.自社ECモールを成功させるために

生活における日常的な買い物の手段としてECサイトが浸透し、購入する場所を生活者が自由に選べる時代になりました。信頼できる企業のブランドが一堂に揃う、こだわりの商品が購入できるなどの理由からモールの需要は増えつつありますが、多数あるECサイトの中から自社ECモールが選ばれるためには、徹底した顧客視点でユーザビリティを追求する必要があります。短期的な売上を上げることも大切ですが、自社ECモールでしか体験できない価値ある顧客体験を追求し、「企業やモールのファンを増やす」という中長期的な視点をもつことが、自社ECモールを成功させるための最大のポイントと言えるでしょう。

自社ECモールを用いた運営効率化や、有意義なコンセプトを持つECモール立ち上げに際して、本記事が成功の一助となれば幸いです。

※2020年12月時点の情報です。

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