リアルとデジタルをつなぎ中長期視点で「顧客の感動体験」を創造する

印刷市場にもデジタル化の波が押し寄せる中、大日本印刷(DNP)はデジタルマーケティング支援の部署を立ち上げ、顧客の「感動」をマネジメントするソリューションを提供しています。既存の事業の枠を超えてデジタル領域に参入する企業が相次ぐ中、今後のマーケティングはどうあるべきか。日本郵便 鈴木氏と対談を行いました。

いま必要なのは、リアルとデジタルの効果をつなげた中長期マーケティング

天本:DNPでは従来より、さまざまな形で企業のマーケティング支援を行ってきました。 当社は印刷技術と情報技術に強みを持ち、アナログな施策にITやデジタルの施策を組み合わせたサービスを提供しています。近年はスマートフォンなどの普及により、多くの生活者がデジタルデバイスを持つようになっています。
そうした中で、今まで以上にデジタルに軸足を置いた部署として立ち上げたのがデジタルマーケティング本部でした。

誤解されがちなのですが、アナログで実施してきた施策を単純に「デジタル」に置き換えていくことが目的ではありません。

鈴木:なるほど、確かに今は「デジタルかアナログか」という手段の議論ではなく、すべては「顧客とどのように関係を築いていくか」という考えありき。顧客を中心にしたシナリオを描くことが重要になっていますよね。
私はそれを「オムニメディア構想」と呼んでいます。欲しい情報を、欲しいタイミングで得られる環境をつくっていく、ということです。
DNPさんが提供するソリューションも、「デジタル専業」ではできないことを目指しているのではないですか。

天本:おっしゃる通りです。これまでのマーケティング事業で培ってきて、これからのマーケティングに活かせる「資産」が2つあると考えています。
ひとつは、これまで金融機関のダイレクトメールの案件を通じて、情報をセキュアな環境で加工し、活用してきた実績があること。もうひとつは、クリエイティブやマーケティングのスキルとサービスデザイン思考を持った1000人規模の人材です。

たとえば、金融機関の個人情報をお預かりして、パーソナルに加工したモバイルページをつくったり、サービスデザイン思考でダイレクトメールの内容を個々の情報に合わせてカスタマイズして送付したり。
それらのバックエンド業務をフルアウトソーシングで支援している実績があります。

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写真右)日本郵便 郵便・物流営業部担当部長 鈴木 睦夫 氏(以下鈴木)
写真左)大日本印刷 情報イノベーション事業部C&Iセンター デジタルマーケティング本部 本部長 天本 直也 氏(以下天本)

「デジタル=短期の成果」で終わらせない

鈴木:「デジタルとアナログを融合していきましょう」と言うのは簡単なのですが、重要なのは、アナログの部分をいかにデジタルのデータとして紐づけられるか。
そのためには、「体験」の効果測定が必要です。
印刷物をIoT化して商品パッケージなどから情報を取得する技術はもう存在していますが、コストが高いのでまだまだ回収がしづらいですね。

天本:そうですね。デジタルマーケティングの仕組み全体のコストを短期の成果だけで回収しようとすると難しいと思います。中長期の成果も踏まえて評価をしていくべきです。
しかし、デジタルマーケティングの効果測定手法は未成熟で、短期の成果は測定しやすいですが、中長期の成果は測定しにくい。経営者もマーケティングに求める成果を短期で見てしまいがちです。

ただ、これからはLTVの最大化がマーケティングの世界では主流になるとみています。LTVの最大化は顧客満足を超えた感動体験を提供することにより成し遂げられますが、顧客の求めるチャネルを考慮しない、デジタルチャネルに偏ったリアルチャネルと整合性がとれてない顧客体験では満足さえ得られないと思います。

具体的にはオンライン施策同様、オフラインメディアをプログラマティックに駆使して、最適な時に、最適なオファーを、最適な媒体で実行する施策のポートフォリオを提供していきます。たとえば、人によってはメール+DMを重ねて訴求する、オファーの内容によっては、パーソナル動画で理解を高めるなど…。我々は、顧客企業の一連のマーケティング業務を中長期で支援・代行する場を5月に開設します。

「オムニチャネル」化構想の根幹に、マーケティングの基本

鈴木:今後、顧客を真ん中に置いた「オムニチャネル化」はますます進んでいくでしょう。「オムニチャネル化」とは、ECとリアル店舗をつなげることだけではありません。新規獲得、購買が終わったあと…、すべての接点において「いつでも、どこでも、その人の欲しいものが手に入る」環境にしていくことです。

ただ、顧客接点データは多く存在するものの、今はまだ顧客接点同士のデータをつなぐ技術が黎明期なので、分析対象データが“少ない”んです。リターゲティング広告で、ECサイトで靴を買ったら、延々と靴のバナーばかりが出てくることがあるでしょう。「このサイトにアクセスした」というデータだけを取得しているからで、「見たけれど買っていない人」や「買って満足している人」など、その人の行動に対する情報が増えれば増えるほど、コミュニケーションの方法は変わっていく。

今は、生活者一人ひとりがデータを発信するようになっています。これまでデジタルとアナログと分断していたものが、アナログも含めて「データ起点」で情報が統合されていくことになる。「データドリブン」こそ、デジタルマーケティングの本質です。

天本:同感です。だからこそ、私たちもデジタルかアナログか、という文脈ではなく、「マーケティングとしてどうあるべきか」を考えていかなければならないと思っています。
提供するプロダクトやサービスが同じであっても、生活者個々で求める価値が違う。その個々への対応はプロダクトの工場では効率上困難です。
しかし、購入や提供までのデジタル-アナログの顧客体験プロセスを、データとテクノロジーを駆使してそれぞれに合った価値として提供できれば、かなりの部分を解決できる。

デジタルのツールばかりに目が行きがちですが、我々の事業は、現実(リアル)とデジタルをつなぎ、感動体験を創出する「Emotional Experience!」というコンセプトで、顧客体験価値の最大化を目的としています。業種業態が異なっても提供したい価値は変わりません。



「AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議」より一部修正し転載。
※当記事は、株式会社宣伝会議の許諾を得て転載しています。
※2018年4月時点の情報です。

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