テレワーク推進に不可欠な帳票のデジタル化とその課題

コロナ禍では、デジタル化やITを活用しながらテレワークを推進し、「従業員を守りながら、業務を効率化しつつ、事業を継続させる」取組みが進んでいます。一方で、テレワークで対応できないオフィス事務処理も浮き彫りになってきました。
なぜデジタル化が進まないのでしょうか?テレワーク推進に不可欠な帳票のデジタル化とその課題についてご紹介します。

目次

1.テレワークで対応できない帳票業務
2.帳票業務の流れとデジタル化
3.なぜ帳票のデジタル化が進まないのか
 3-1.「捺印」「署名」「控え」のデジタル化対応
 3-2.デジタル帳票の作成費
 3-3.帳票の共通化と課題
4.効率的に帳票をデジタル化するには
5.まとめ

1.テレワークで対応できない帳票業務

コロナ禍では、デジタル化やITを活用しながらテレワークを推進し、「従業員を守りながら、業務を効率化しつつ、事業を継続させる」取組みが進んでいます。
最近のアンケートでは、コロナウィルス対策として「デジタル化を加速する」と答えた企業は7割強にのぼりました。(出典:2020年6月10日 日経クロステック)

これまで「リアル、アナログ」でなければできないと考えられていた業務についての「バーチャル化、デジタル化」が真剣に検討され、従来の業務をテレワークで処理できる形に適応させる工夫が各所で検討され、実践されるようになりました。

一番目立ったテレワーク対応例としては、遠隔会議が挙げられます。これまで社内会議や得意先との打ち合わせは、関係者が集まって行うものでしたが、遠隔会議システムの急速な普及で、離れた場所から参加するスタイルが定着してきました。また、電子契約のニーズも高まり、得意先との契約書を電子契約会社に預け、印鑑を使わずに、本人認証とタイムスタンプを取ることで契約書とみなす動きが活発になってきました。

しかし、一方で、テレワークで対応できないオフィス事務処理も浮き彫りになってきました。社内での上長承認が必要な書類は紙からデジタルに変えて対応できても、生活者からの申込書や変更届などの帳票の内容をコンピューターに入力する業務は、生活者の個人情報を扱うこともあり、従業員が交代で出勤して対応しなければならないのが実態ではないでしょうか。この種の帳票は特に金融業界に多く、数百から数千種類の「申込書」や「諸届」といった帳票が、まだ「紙」の状態で運用されています。

2.帳票業務の流れとデジタル化

「1.テレワークで対応できない業務」のなかで例として挙げましたが、「申込書」や「諸届」といった生活者が記入した帳票の内容をコンピューターに取り込む業務を「帳票業務」と呼びます。現状の帳票業務について、一般的な申込書の運用フローを見てみましょう。

金融機関で扱っている申込書は、サービスや商品によっていろいろありますが、大抵の場合、生活者の自署が必要になっています。また、申込書によっては、生活者の捺印が不可欠なケースもあります。さらに、記入した申込書の控えをその場で渡す場合は、複写帳票を使って1枚を生活者に控えとして返却しています。

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生活者とのやりとりは、一旦、これで終わりますが、実際にはこの後システムに登録する作業が残っています。申込書に記載された内容を、キーパンチ入力してシステムに取り込みます。業務ごとに帳票が異なる場合、入力するシステムもそれぞれ異なり、同じ帳票を複数人で入力し、内容をすり合わせることで、入力ミスを防ぐ工夫をしている場合もあります。

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この時、必ず記入しなければならない項目に入力不備や記載漏れがあると、システムに登録できません。その場合、担当者は生活者に連絡して申込書の書き直しを依頼し、初めからやり直してもらうことになります。

このように、帳票業務には紙帳票のデータ入力と、記入不備への対応という2つの課題があります。生活者にご記入してもらうところからタブレット端末などのデジタルデバイスを使って正確にもれなく入力してデジタル化すれば、上記のような課題は解決できるでしょう。

帳票入力をデジタル化することで、入力不備や記入漏れを検知して、記入画面にエラーメッセージを表示する仕組みもできます。そうすれば、生活者が記入不備で帳票を書き直すこともなくなりますし、申込書を2人掛かりで入力するキーパンチャーの人件費も省けます。

タブレットから入力することは技術的には可能ですし、タブレット自体は既に営業担当者に配布されているところが多いようですが、どうして帳票業務でタブレットの活用が普及していないのでしょうか。

3.なぜ帳票のデジタル化が進まないのか

3-1.「捺印」「署名」「控え」のデジタル化対応

タブレットは普及しているのに申込業務で利用されていない理由について考えてみましょう。上述した現状の一般的な申込書の運用フローでは、「捺印」「署名」「控え」がありましたが、このうち「捺印」「署名」は、「確かにこの人が行った」と本人を特定するために必要な要素です。「捺印」「署名」「控え」について、いかにデジタル対応するかが、帳票のデジタル化を進めていく上での大きな障害でした。しかし、それも今はさまざまなソリューションが開発され、タブレット上で本人を特定する情報を取得することができるようになってきました。

捺印

印鑑のデジタル化については技術的に実現しており、既にそのサービスは世の中に存在しています。印鑑のイメージを切り取って別の帳票に貼付するだけでは、本人を特定するものにはなりません。そこで、光学式印鑑スキャナーで凹凸を直接読取り、登録印との照合がスムーズに行える仕組みが提供されています。このような新しいデバイスを使えば、確実な本人確認が可能です。

しかし、印鑑のデジタル化とは関係なく、今回のコロナ禍で「印鑑レス」の機運が急速に高まっています。捺印が必要な帳票はなくならないかもしれませんが、契約書も印鑑レスで対応するようになりつつあり、この動きは今後ますます促進されると考えられます。したがって、「印鑑」が帳票のデジタル化を阻む一番の理由とは考えられません。

署名

次に「署名」です。皆さんが普段使っているスマートフォンやタブレット端末の画面から記入して、手書き文字をデータとして取り込むことは、既にできるようになっています。偽造防止についても、筆跡を残すだけでなく、筆圧や記入スピードなどストローク情報を取り込めるようになっているので、署名イメージのコピーペーストによる偽造の対抗策になると考えられます。「署名」も帳票のデジタル化を阻む一番の理由とは考えられません。

控え

申込書を提出すると、通常生活者には控えが返却されます。紙の申込書の場合は、複写帳票にすることで、1枚を生活者控えにしてきました。生活者が必要としないケースもありますが、控えを考慮した運用フローとなっています。

申込書をデジタル化した場合、申込書全体をイメージ化してデータを保存し、そのデータを生活者に渡すことが可能になります。ファイルの生成時刻情報を保持し、改ざん検知の仕組みを使うことで、確かに生活者がその時に記入したデータであることが分かると思います。

このように見てみると、印鑑は必要がなくなりつつあり、署名と控えをデジタル化対応する仕組みを構築すれば、テレワークでも帳票処理ができるようになるでしょう。

3-2.デジタル帳票の作成費

上述の通り、デジタル化を困難にしていると考えられた「署名」「捺印」「控え」は、既にデジタル化の障害要因ではないことが分かりました。帳票業務のデジタル化は、よりスムーズに推進できるのではないかと考えられます。ここで、帳票業務のデジタル化に使うデジタル帳票の作成作業についてみてみましょう。

デジタル帳票の作成作業は、手書き記入された項目内容をテキストデータとしてシステムに取り込めるようにするので、「姓名」「電話番号」「署名」など記入する項目ごとの作業となります。項目数は、単純な帳票でも数十項目、多いものでは数百項目になりますし、帳票によってレイアウトは当然異なります。項目の位置や大きさが変われば、それに応じたデジタル帳票を作成することになります。

さまざまなデジタル化の仕組みはありますが、どんな仕組みでも、帳票ごとに入力画面を作成することは避けることができません。そのため、帳票レイアウトの種類が増えれば増えるほど、作成作業費が膨大になり、帳票業務のデジタル化が進まなくなっているのが現状ではないでしょうか。

3-3.帳票の共通化と課題

帳票レイアウトの種類が増えればコストも増えてしまいますが、たくさんの種類の帳票レイアウトを共通化できれば、帳票ごとの作成作業を軽減することが可能になり、低コストでデジタル化が進められます。すべての帳票レイアウトをひとつにすることは難しいですが、内容が似たような帳票や、それ程利用頻度が多くない帳票レイアウトを共通化する工夫はできますし、それがペーパーレス化につながります。

したがって、帳票のデジタル化の課題は、いかに帳票レイアウトを共通化することになると思います。特に金融機関では、数千種類の帳票が存在しています。業務上、やむを得ないのかもしれませんが、帳票の統一を進めることが、ペーパーレス化の近道になることは間違いありません。従業員一丸となって帳票業務改善に真剣に取り組めば解決できそうですが、実際は、なかなか共通化が進んでいないということは、ほかにも理由があるのかもしれません。それは、慣れ親しんだ帳票業務のやり方を変えることに対する、アレルギーのようなものではないでしょうか。

営業部門はこう言います。「これまで使い慣れた帳票がいい。同じになると、間違えてしまう。」
総務部門はこう言います。「帳票改定となると、関係部署の承認を取り直さなければならない。」
業務部門はこう言います。「どうしても共通化できない項目が帳票ごとに残ってしまう。」

経営トップからは帳票レイアウトの共通化によるメリットが見えるのですが、いざ、実際の作業を想像すると、現場の従業員からは既存の業務を変えられてしまうデメリットばかりが浮き彫りになってしまうのです。

帳票業務のデジタル化が進まない真の原因は、まさに、ここにあると考えられます。

4.効率的に帳票をデジタル化するには

ここまで見てきた通り、帳票を共通化することができないため、ペーパーレスを進めようとするとすべての帳票をデジタル化することに莫大な時間とコストがかかり、本末転倒となってしまいます。

既にペーパーレス化に着手している企業でも、頻繁に利用される主要な帳票しかペーパーレス化していない(できていない)のは、そのためです。ペーパーレス化が中途半端な状況に陥っている企業が、多く存在しているのです。このままでは、帳票業務のデジタル化は一向に進まず、コロナ禍でも今まで通りの対応を強いられ、業務効率化も進まないままとなってしまいます。

逆に言えば、多くのデジタル帳票を安く簡単に作成する仕組みがあれば、帳票を共通化することなく、ペーパーレス化を進めることができるようになります。どんな仕組みがあるのか、インターネットで探してみましょう。例えば、「電子帳票システム」というキーワードでインターネット検索をすると、

・ 帳票制作に関するもの
・ 帳票を読み取ってデジタル化して取り込むもの
・ 取り込まれたデータをデジタル帳票として配信するもの
・ 取り込まれたデジタル帳票を管理するもの

など、用途の異なる仕組みが混在して紹介されているようです。どの作業をデジタル帳票で行うことが自社の業務効率化につながるのか、きちんと確認する必要があります。

例えば、多くの帳票においては署名が必要となります。紙帳票をデジタル帳票に変えた時、入力方法がキーボードに限定されていて手書き入力ができなければ、紙帳票で行っていたように生活者から手書きの署名をもらうことはできません。必要な機能が導入したシステムには含まれていなかった、などということのないように、自社の業務に最適な仕組みをご検討ください。

次に、「デジタル帳票 作成」というキーワードでインターネット検索すると、単純な「記入」「選択肢」「択一選択」「プルダウン」といった項目をExcelで設定できるようなアプリは、いくつか見つかります。Microsoft Officeを使っているユーザーなら簡単に帳票を作成できるのではないでしょうか。

複数項目に関連する設定や、入力に間違いがあった時に画面上にアラートを表示して、生活者にそれを知らせてくれるような機能もあると便利です。せっかくデジタル帳票にするのですから、生活者の記入漏れや記入不備をあらかじめ防ぐため、次に記入する項目を自動的に表示する機能なども取り入れるとよいでしょう。

5.まとめ

本コラムをまとめると、以下のようになります。
・ テレワークが進んできた一方、生活者に記入してもらう申込書などの帳票業務は、従来通り、従業員が出社して対応せざるを得ない。
・ IT技術が進みタブレットが普及しているにも関わらず、帳票業務のデジタル化は進んでいない。
・ 帳票業務のデジタル化が進まない理由としては、帳票の「作成作業費」と「共通化」が挙げられる。
・ 多種類の帳票をデジタル化する帳票作成のアプリを上手に活用すれば、すべての帳票をデジタル化する作業を、柔軟に、簡単に、安価に行うことができる。
・ 帳票作成アプリ選定に際し、自社の帳票業務に適合する仕組みか確認することが肝要である。
・ Excelの設定と同じ要領で帳票を簡単に作成するアプリもあるが、生活者の使い勝手にも配慮した、記入不備防止機能などを備えたアプリを検討すべきである。

上記を踏まえて紙帳票のデジタル化を計画的に進めれば、ペーパーレス化が加速され、「業務を効率化しつつ、事業を継続させる」取組みが促進されるでしょう。この機会に貴社の帳票業務のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。

※2022年12月時点の情報です。

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