アパレル業界調査<前編>
消費者の7割は、EC購入の前に実店舗を訪問していた!?
進む消費者のオムニチャネル化、マーケティング担当者は統合的な購買体験の実現が迫られる

アパレル業界のマーケティング戦略でSNS施策やDX(デジタルトランスフォーメーション)に注力する傾向がある今、実際のところ、消費者にそれらの施策は届いているのでしょうか。そこで、アパレル業界に従事するマーケティング担当者95名と、ECサイトや店舗で購入している20~50代の消費者各100名、計400名を対象とし、「企業の注力施策」と「消費者の商品認知から購入までの一連の体験」について調査しました。

双方のギャップから浮き彫りになった「今後のアパレル業界におけるマーケティングの課題」を前後編にわたってレポートします。今回は、SNS施策についての分析を紹介していきます。

企業のマーケティング担当者が注力しているのは、「SNSなどによるネット施策」。一方、消費者の認知経路の実態は、「リアル店舗の店頭や店内の展示」だった!

「マーケティング担当者の商品認知施策」と「消費者の商品認知経路」(上位抜粋)
担当者設問:既存客(リピーター)の商品認知に効果的だと思う施策は何ですか?1番目から3番目までお選びください。(3SA)
消費者設問:何度か買ったことがあるブランドの商品を知るきっかけはどんな時ですか?あてはまるものすべてお答えください。(MA)

「マーケティング担当者の商品認知施策」と「消費者の商品認知経路」(上位抜粋)

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今回の調査で、第一に注目すべきは、アパレル業界のマーケティング担当者の意識と、消費者の認知経路の実態に大きなギャップがある点です。

マーケティング担当者に「既存顧客の消費者の認知に効果的な施策」を聞いたところ、第1位は「SNSへの露出」(52.6%)となっており、全体の過半数を占めていました。次いで、「店頭・店内の展示」(37.9%)、「店舗スタッフのセールストーク」(37.9%)が同率2位という結果に。いずれも4割近くの回答となっています。

一方、消費者に「商品を認知するきっかけ」を聞いた結果、第1位は「店頭・店内の展示」(53.8%)、第2位は「オフィシャルサイト」(38.0%)第3位は「ファッション情報サイト」(33.5%)となっています。

マーケティング担当者の過半数が「SNS」施策を効果的と考えていることに対し、消費者の過半数が認知する経路は、「リアル店舗」であることがわかりました。マーケティング担当者が考える消費者像と、実際の消費者行動には大きなギャップがあるといえるでしょう。

消費者の世代によって、デジタルの認知経路にもギャップがあった。20代は「SNS」、40代は「Webサイト」で認知する傾向に

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一方、世代別に見ると、「SNSでの認知」において、異なる傾向があることがわかりました。デジタルにおける認知経路を比較すると、スマホ世代である20代は、「SNS」で認知する傾向が高いようです。

一方、40代では、「SNS」を挙げた人は、20代の半数にも満たない結果となりました。IT初期世代ともいえる40代は、オフィシャルサイトや情報サイトなどの「Webサイト」で認知する傾向が高いようです。

とはいえ、20代の認知においても、「Webサイト」を挙げた人の割合は、「SNS」と大差ないという、意外な結果も出ています。ここについても、若者世代をターゲットに「SNS」施策に注力しているマーケティング担当者の意識とは、ギャップがあるといえそうです。

消費者の7割が「EC購入前に実店舗を利用する」傾向があった!最も実店舗を利用していたのは、「20代」という驚きの結果に

EC購入前の消費者実店舗利用状況
消費者設問:商品をインターネットで購入する場合でも、事前に店舗で実物を見にいきますか?

EC購入前の消費者行動では、「店頭の商品を必ず確認しに行く」、「店頭の商品を確認しない時は不安になる」という消費者が全体の7割を占めていました。

一方、「店頭の商品を確認しなくても不安はない」という消費者は全体の3割程度にとどまっています。消費者の7割は、「ECで購入する場合でも、実店舗を利用する」可能性が高いことがわかりました。

また、男女別で比較すると、男性の8割弱が実店舗利用の可能性がある一方、女性は7割弱という結果に。男性のほうが、実物を確かめるなどをする傾向にあり、購入検討に慎重な傾向があるようです。

さらに、世代別の比較では、20~30代消費者は、ネットのみでの購入に「やや慎重」な傾向がありました。特に注目したいのは、20代の3割強は、「店頭の商品を必ず確認しに行く」と回答している点です。

幼少期からデジタル環境に馴染んできた20代は、インターネットリテラシーが高く、SNSによる口コミ情報などを自然に活用してきた世代といえるでしょう。しかし、その一方では、「アパレル商品の購入時に失敗はしたくない」という不安があり、店頭で実物を確認してから購入を決める消費者が多くいるという、意外な実態が見えてきました。逆に、40代消費者は、「店頭の商品を確認しなくても不安はない」と回答した人が3割強を占めており、20〜30代よりも店舗を訪れる可能性がやや低い傾向にあることもわかりました。

ここまでの調査結果をふまえると、以下のような消費者の実態が見えてきました。

20代は主にデジタルで情報収集するものの、購入決定には実店舗の役割が大きい。

20代消費者の商品認知においては、他の世代と比べて、InstagramやLINEなどの「SNS」から情報を得る傾向はやはり高いといえます。しかし、実際にEC店舗を利用する際には、「ネット上の情報のみで、EC購入をすることには不安がある」と考えている人が7割強となっていました。

スマホ世代の20代は、情報収集のメインデバイスもスマホであることが想定できますが、SNSやファッション関連のWebサイトなどを通じて確認するのは、流行のファッションや口コミ情報であり、欲しいと思う商品を効率的に探すことに役立てているようです。しかし、欲しい商品の情報を入手しても、商品を購入する前には店頭で実物を見て、「似合うかどうか」「買ってもいいブランドかどうか」をチェックし、購入を検討する傾向が高いことがわかりました。これらをふまえると、20代消費者がEC店舗を利用するメリットは、商品情報を確認することではなく、「いつでも、どこからでも購入できること」といえそうです。

40代は、実店舗とデジタルの双方で情報収集。EC購入への不安感はやや低い。

40代消費者の商品認知は「店頭で実物を見ること」に加え、「オフィシャルサイト」からも情報を得る傾向が高いことがわかりました。また、EC店舗の利用に対し、6割強が「ネット上の情報のみで、EC購入をすることには不安がある」としており、さらに2割超は「実店舗を必ず利用する」と回答しています。気になった商品があれば、インターネット上で事前リサーチと検討を行いますが、オフィシャルサイトを利用する傾向があるため、「買ってもいいブランドかどうか」をすでに絞り込んでいることが推察できます。また、20代に比べて、40代はアパレル商品を購入してきた経歴が長く、自分に似合うファッションを選択・購入するための経験値もあるといえるでしょう。そのため、商品の詳細情報や口コミ、価格を総合的に考えて、特に気になる点がなければEC店舗で購入する傾向にあるようです。

実店舗とデジタル施策を双方向に連動させ、顧客が求める購買体験を設計することがポイント

アパレル商品の購買行動を追った今回の調査結果では、いまどきの消費者が「リアルとインターネットを行き来」しながら購買行動を進めていく様子がうかがえます。昨今の企業においては、販売チャネルによって、マーケティングや広報の担当者が異なるケースも多く見られますが、消費者の「いま」を考えると、リアルとインターネットの垣根をなくして統合的に捉えることがカギとなるでしょう。実店舗とデジタルの施策を双方向に連動させながら、顧客が潜在的に求めている購買体験を設計していくことがポイントといえそうです。

※2020年4月時点の情報です。

後編はこちら:消費者は、ECサイトの「即日発送」「在庫数表示」も重視していた。「サイトのユーザビリティ」「商品情報」も含むCX全体の設計がポイントに

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