生活空間デザインレポート ホテル Vol.5
ご好評頂いている「デザインレポート ホテル」。第5弾は京都から2件、名古屋から1件をご紹介します。ホテルのコンセプトやデザインの背景をご紹介するとともに、筆者視点でインテリアのポイントやコーディネートについてご紹介します。
※2024年1月時点の情報です。
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・日本の建築文化と優雅なタイネス(タイらしさ)を融合したデザイン
・アールを取り入れたラグジュアリーな空間
・木質に包まれたスタイリッシュでありながらもぬくもりを感じる客室
Point of Materials
木質・金属・石・ファブリック・レザーなど
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・左官による陰影が美しい空間
・お茶の香りに包まれるプライベートスパ
・京都らしさをユニークに取り入れたモダンな客室
Point of Materials
木質・左官仕上げ・ガラス・ファブリックなど
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・デザインコンセプトは公園の緑を引き込むバイオフィリアネスト
・緑化したテラスと木や石を中心にしたインテリア
・木質のあたたかみが際立つモダンな客室
Point of Materials
木質・石・金属・ファブリック・など
- デュシタニ京都
https://www.dusit.com/dusitthani-kyoto/ja/
住所:京都市下京区西洞院通正面上ル西洞院町466
TEL: 075-343-7150
アクセス:京都駅から850メートル(タクシーで6分)、
京都駅から京都市バス50「西洞院正面」下車 1分
タイの大手ホテル・不動産開発会社である、デュシット・インターナショナルが2023年9月にデュシタニ京都を開業しました。「西本願寺」の門前町エリア内にあった元植柳小学校跡地に建てられたこのホテルは、日本の繊細な伝統文化とデュシタニの祖国タイの優雅なホスピタリティが織り交ざっ たおもてなしを提供しています。外観は周辺の京町屋の景観を保ち、木製のルーバーを設えた和モダンなテイスト。4階建ての館内には、147室の客室のほか、レストランやスパ、プールなどを完備。ホテルの設計・施工は戸田建設。
01-1.日本の建築美とタイらしさを織り交ぜた新しい空間
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ホテル内は日本の建築文化と優雅なタイネス(タイらしさ)が織り交ざり、新しい視点から解釈された空間が広がります。グレーやブラウンを基調としたロビーラウンジは、アールを描くデザインが多数あり空間をより広く感じさせ、空間の奥へと視線を誘導します。天井に設えられた装飾や青い布は、インディゴや藍染を想起させ、タイで敬意を表して渡される花輪を表しているようです。
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ロビーラウンジから見下ろすことのできる中庭は、地下1階に位置しています。ホテルの建物に囲まれ、静かなプライベート空間を堪能できるな美しい庭園です。砂利の小道に瓦を設え、柔らかい行燈風照明の光が足元を照らします。京都三大祭りの一つである葵祭で使用される二葉葵も植栽されています。
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ロビーラウンジの横にはホテルのギフトショップがあります。ショップを囲む柱はパーン(タイの高杯)をいくつも組み合わせることで、融合を表現したオリジナルのデザイン。素材はパーンの特産地であるタイ北部の竹を使用しています。
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左画像は茶室をモダンに表現したティーサロン。椅子座のお客様と同じ目線でお茶が提供できるよう、カウンター内の畳のフロアレベルがあがっています。日本らしい美しさを感じるミニマルな空間に、折り上げ天井や障子を装飾するメタルグリッドの華やかさが美しく融合していました。
右画像はロビーラウンジの「ザ・ギャラリー」。グレーベースのモダンな空間ですが、良く見ると壁面に五重塔やチェディ(タイの仏塔)が描かれ、照明の光でぼんやりと浮かび上がってきます。ザ・ギャラリーの内装はタイのデザイン会社、ティーサロンは日本のデザイン会社によるデザインで、その点においてもこの空間には2か国の融合が見られます。
01-2. タイカルチャーを味わえるレストランやスパ
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タイ料理レストランのアヤタナは、バンコクのミシュランのタイレストランのタイレストラン「Bo.Lan(ボー・ラン)」のシェフ、ボー・ソンヴィサヴァ氏とディラン・ジョーンズ氏が監修。京都の伝統工芸である金継ぎのデザインから発想されたエレガントな空間で楽しむことができます。
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デバラナ ウェルネスは一人の静かな時間や癒しを提供し、自然治癒力の回復のための日本の伝統的なセラピーと、 タイヒーリング セラピーを提供します。屋内プール、フィットネスエリア、アクティビティスタジオが完備されています。
01-3. 日本の感性とタイの華やかさが融合した客室
客室内のフローリングや建具にはグレイッシュな木質を使い、スタイリッシュでありながらもぬくもりを感じるインテリアです。日本の感性で余分なものをそぎ落とした上質な空間をベースに、随所にタイを想起させる華やかさが香ります。
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こちらはインペリアル スイートの客室です。最上階の4階に位置し、173m2を有す広々とした最上級の客室です。ヒノキ製のバスタブを備えたビューバス付きとなっています。
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フロアのコーナーに位置するプリミエスイートツイン ガーデンビュー(108m2)の客室です。窓際に縁側を想起させるような畳貼りの小上がりが設けられています。空間を囲む障子戸を開くと、美しい日本庭園を見ながらくつろぐことが可能です。障子戸を閉めると、間接照明が柔らかく障子を照らし、また異なる表情が空間に生まれ、静謐なラグジュアリータイムを作りだします。
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プリミエツイン(40m2)の客室です。オリジナルで制作されたミニバーが空間のアクセントになっています。レザーと木目で構成された面材に、ハンドルは鍛金加工された円形のメタル素材を組み合わせ、曲線を強調したデザインです。またヘッドボードはプリーツのような形状をし、着物の衿合わせをイメージしたウォールランプの光により、美しい陰影が空間に刻まれます。
- THE HOTEL HIGASHIYAMA
https://www.tokyuhotels.co.jp/higashiyama-h/
住所:京都市東山区三条通白川橋東入三丁目夷町175-2
TEL: 075-533-6109
アクセス:京都市営地下鉄東西線「東山駅」より徒歩約4分、京都駅八条口からシャトルバス約20分
東急ホテルズ&リゾーツ株式会社は、京都市東山区で「THE HOTEL HIGASHIYAMA by Kyoto Tokyu Hotel」を2022年7月に開業しました。ホテルが位置する場所は、元白川(粟田)小学校があった場所であり、隣には粟田神社や青蓮院門跡があり、京都の歴史を感じられる街並みが広がっています。「今日の極み 東に宿る」をコンセプトに、多様な文化が感じられる東山の地で、時空を超えて現代の日本人の心に引き継がれる美をさまざまな形で提供するホテルです。地下1階、地上5階建ての館内には168室の客室、プライベートスパ、ユーティリティールーム、レストランなどを完備。内装設計は乃村工藝社、建築設計は浅井謙建築研究所。
02-1. 左官調のぬくもりを感じるスタイリッシュなロビー
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正面玄関から回廊アプローチを通り、エントランスを抜けるとグレージュカラーの左官調で囲まれた、隠れ家ようなロビーエリアが広がります。ぼんやりとしたやさしい間接光の光が壁面や天井を照らし、左官の生み出すテクスチャの印影が美しく空間を包み込みます。
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地下1階のレストランに続く階段の吹き抜けには、京都の伝統的な文様や、元白川(粟田)小学校の校章や当時の校舎図面など、この土地の歴史を感じるシンボルを取り入れ現代的に表現した西陣織のアートが展示されています。
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校庭があった場所には、水盤を有した中庭があります。実はこの水盤は足湯になっていて、京都の風を感じながら、あたたまることができます。また水盤にはよく見ると月の満ち欠けが描かれています。中庭に面し、粟田祭の山車「粟田大燈呂」が保存され、夜になるとライトアップされ、中庭を華やかに彩ります。
02-2. お茶の香りに包まれるプライベートスパなど豊富な施設を完備
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宿泊者限定のリラクゼーションスペースとして、趣が異なる3つの「プライベートスパ」が設けられています。京都のおもてなしであるお茶をモチーフとした各個室では、茶葉の香ばしい香りが茶香炉から漂い、癒しの空間を提供しています。
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京フレンチ ナナノイチは、一日を通し、地元京都の食材を使ったお料理を楽しむことができます。「ナナノイチ」は室町時代から江戸時代にかけて、京都と諸国を結ぶために設けられた街道の出入り口を指します。このレストランが京の七口の一つである粟田口にあること、さらに七日に一度訪れたくなる、という思いが込められています。
02-3. 京都らしさを感じるコンセプチュアルなスイートルーム
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4つのスイートルームはそれぞれコンセプトがあり、こちらの写真「Higashiyama( 57.8m2 )」は陶器を収集するのが好きなオーナーの自宅に泊まる、というもの。陶器の破片をテラゾーの骨材のように埋め込んだ壁面、祇園祭のタペストリーをイメージしたブルーのカーペットが空間に彩りを与えます。
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こちらの写真は、お茶が好きなオーナーの自宅に泊まるというコンセプトの「awata ( 57.8m2 )」。ベッドルームは茶室の床の間を想起させるデザインで、勾配天井に吊り鴨居を設えるユニークな間仕切りでした。
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スーペリア(21.3 m2~25.5 m2)の客室はグレーをベースにした、モダンな空間です。勾配天井を煌びやかに照らす照明はオリジナルデザインで、川の流れや揺らぎをイメージしています。2枚引き戸は下部が抜けていて、雪見障子を想起させるデザインでした。
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全客室にはオリジナルで制作された「茶箱」が置かれています。高野竹工の職人が一つ一つ竹を曲げ、桐を組み合わせて、全て手作業で制作しました。中には寺内信二氏の急須と湯呑茶碗、祇園辻利の宇治茶が入っています。
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- TIAD, AUTOGRAPH COLLECTION
https://hotel-tiad.com/
住所:愛知県名古屋市中区栄5-15-19
TEL: 052-252-2288
アクセス:地下鉄名城線矢場町駅1番出口より徒歩1分
株式会社日本セレモニーはマリオット・インターナショナルが展開する31ブランドの一つ、オートグラフ コレクションと提携、「TIAD, AUTOGRAPH COLLECTION」を名古屋市 栄の久屋大通公園沿いに開業しました。ホテル名称のTIADは、「Tomorrow Is Another Day=ゲストの明日が変わるホテル」の頭文字を取って名付けられています。地上14階建ての館内は、全150室( 3つのカテゴリー14 タイプ)の客室で構成され、そのほかレストラン、多目的ホール、フィットネスやインドアインフィニティプールなどを完備。デザインコンセプトはBIOPHILIA NESTで、外観は緑化したテラスを入れ子状に配し、久屋大通公園の緑をホテルに引き込むデザインです。デザイン設計は乃村工藝社、建築設計は清水建設。
03-1. 公園の自然を引き込むデザイン
TIAD, AUTOGRAPH COLLECTIONは、久屋大通公園沿いに位置し、公園の自然をダイレクトに感じられる立地です。公園の中に佇むような外観を望み、近づいていくと、どっしりとした石で構成された重厚感のあるエントランスに出迎えられます。
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TIAD, AUTOGRAPH COLLECTIONのデザインコンセプトはBIOPHILIA NEST(バイオフィリアネスト)。公園から続く緑を建物の中に引き込み、自然に包まれるような空間=ネスト(巣)の創出をイメージしています。
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エレベーターで5階にあがると、グレーカラーをベースにしたラグジュアリーな空間が広がります。大きな窓ガラスにはアルミのルーバーが天井から無数に垂れ下がっています。木々の枝を想起させるようなデザインは、屋外の自然と調和し、屋外と室内をゆるやかに結びます。室内に居ると、鳥の巣の中に入り込んだような印象をも感じました。
03-2. 自然と調和する落ち着いたグレーのインテリア
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レセプションやロビーエリアは落ち着いた色調のインテリアで、屋外の木々のグリーンを際立たせます。また矢場町という土地柄を活かし、随所に矢羽根のモチーフが使われていました。
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公園の自然を室内に引き込むテラスには、水盤と球体アートが設えられています。球体アートは、話題のアーティスト大巻伸嗣さんの作品で、近くで見ると名古屋城やナナちゃん人形など、名古屋にちなんだもので形作られています。美しい造形が水盤や天井に反射し、きらめきを空間に生み出していました。
また、公園の豊かな緑が空間に溶け込むようにセットバックしたデザインのテラスは、豊かな植栽により積極的に緑化しています。
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メインダイニング「Table For Tomorrow」は、緑、水、風、光を感じる、自然に囲まれた空間です。インテリアはグレーの木質や大理石をベースに、照明にもこだわりを感じるコーディネートでした。愛知県産の食材を中心に SDGsを考慮し、自然との関わりを追求した料理を、活気あふれるライブキッチンにて五感で味わうことができます。
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The Loungeは木のぬくもりをイメージしたWarmth of treeをコンセプトに、フルーツや木の実を使用したスイーツ、セイボリーなど季節感あふれるアフタヌーンティーを提供しています。モダンなインテリアの中で、公園の木々の揺らぎを身近に感じながらくつろげる空間です。
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チャペルとしても使用可能な多目的ホール「TIAD HALL」は2500個のライトが生み出す優しい光が美しいホールです。木質で包み込まれた上質な空間のコンセプトはNEST。左右対称に広がる、LEDライトのアーチが空間を華やかに彩ります。音響設備にもこだわり、空間全体を包み込む、のびやかで厚みのある音が広がります。
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6階にあるUrban Well-Nest (ウェルネスゾーン)。宿泊者は、栄の街並みとつながるインフィニティプールのほか、フィットネスジム、ラウンジ、スパ(スパは別料金)が利用可能です。緑豊かな木立を望みながら、トータルリラクゼーションを愉しむことができます。
03-3. 木質のあたたかみが際立つモダンな客室
全室50m2以上の客室は、デラックス、プレミア、スイートの3タイプがあります。どの客室もベージュやブラウンカラーをベースに、木質のあたたかさが感じられるモダンな客室です。この落ち着いたトーンは、屋外の木々のグリーンをひきたてています。そして窓から見える景色がアートのような役割となり、客室内と屋外が自然と融合しているように感じます。
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こちらの写真は人気の、バルコニーがついた客室「ユーフォリア プレミアキング パークビュー バルコニー付(61m2)」。ベッドルームからステップを下がったところに、リビングとテラスがあり、ベッドからでもソファからでも外が臨めるようにデザインされています。
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こちらは「ユーフォリア プレミア ジャパニーズモダン(72m2)」の客室内、洗面スペースの写真です。垂直面にはあたたかみのあるブラウンカラーの木材が使われ、両開きの扉を開くと、上質な洗面スペースが広がります。
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こちらの写真は「ユーフォリア プレミアコーナーキング (52m2)」。窓際に置かれた大きな植栽により、爽やかな印象で、外の景色を室内に引き込んでいます。ヘッドボードは矢場町を象徴するヘリンボーンパターンが採用されていて、空間のさりげないアクセントになっていました。
03. トレンドレポート ホテルVol.5 まとめ&編集後記
今回は京都と名古屋に開業した3つのホテルをご紹介しました。いずれもその土地の特徴を生かし、屋外にある自然や歴史と、モダンなインテリアを融合させていました。そのポイントとなっているのが、中庭やミッドテリアのデザインです。周辺環境と調和をしながら、ホテルの世界観へ引き込むような、空間づくりが求められています。
またインテリアのキーになっているのはグレーのカラーです。グレーのなかでも、あたたかみを感じるウォームなカラーを取り入れ、落ち着いたラグジュアリー空間を作り上げています。グレーカラーのトレンドは国内のマンションでもスタンダード化してきていますが、ホテルのインテリアにおいてはさまざまなマテリアルを組み合わせより複雑なインテリアコーディネートがなされています。それぞれのマテリアルを際立たせる、照明も大事な要素です。日中は外光をふんだんに取り入れ、夜は間接光による柔らかな光の陰影により、非日常的で特別なくつろぎ時間を作り出していました。同じ素材でも、時間や外の環境によって見え方が変化することを考慮した空間のコーディネートをしっかり考えていきたいと思うきっかけとなりました。
- 取材、撮影 & テキスト
Chihori Kunito (大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
大学・大学院で心理学・認知科学・色彩心理学などを学ぶ。学生時代は内装の色彩が人間の心理に与える影響や、肌がきれいに見える壁紙の色彩などについて研究。日本色彩学会 2011年学会大会にて発表奨励賞を受賞。2012年DNPグループに入社し、壁紙の企画デザインを担当。2016年より現在の部署にて、ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター
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