観光資源のデジタル化とリアルプロモーションによる地域活性化 北秋田市 世界遺産「伊勢堂岱遺跡のXR化」事業
2023年4月に公開した北秋田市の世界文化遺産「伊勢堂岱遺跡(いせどうたいいせき)」のXR(Extended Reality)鑑賞システムは、文化体験の新しい可能性を切り拓くとともに、観光資源のデジタル化による地域活性化を実現する事例となっています。本業務を担当した当社の社員3名へのインタビューを通して、導入事例の詳細や今後の展望などをご紹介します。
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作成日:2023年4月17日
目次
メンバー紹介
森本早紀/株式会社DNPプランニングネットワーク 営業企画本部 東日本企画営業部
プロジェクト全体を統括。
平澤公孝/大日本印刷株式会社 マーケティング本部 文化事業ユニット アーカイブ事業開発部
「みどころビューア®」「みどころキューブ®」「360°VR鑑賞システム」を担当。
大庭結花/大日本印刷株式会社 マーケティング本部 文化事業ユニット アーカイブ事業開発部
「板状土偶のペーパークラフト」を担当。
世界遺産「伊勢堂岱遺跡のXR化」事業
伊勢堂岱遺跡とは、どのような遺跡ですか?
森本 伊勢堂岱遺跡は秋田県北秋田市で発見された約4000年前の縄文時代後期の遺跡で、2021年に世界文化遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の一つとして登録されました。国内では唯一となる4つの環状列石(ストーンサークル)が完全な形で残っているのが特徴で、縄文時代の人々の暮らしや世界観を知る貴重な資料となっています。
伊勢堂岱遺跡が発見されたのは、大館能代空港へのアクセス道路建設の直前でした。先行して実施された発掘調査で環状列石が発見されたのを受けて、地元住民を中心に遺跡の保存を求める声が高まり、道路計画を変更して遺跡を残すことになりました。その後も地元住民のグループが遺跡のボランティアガイドを務めるなど遺跡保存の取組みを継続しながら、地域を盛り上げています。
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XR
化事業が始まった背景は?
森本 長年地元の皆さんがボランティアガイドを務めてきましたが、近年の人口減少、高齢化などを背景にガイドのなり手が少なくなっていました。また冬季は、雪から守るために遺跡をシートで覆ってしまうので、見学ができなくなります。
こうした課題を解決するために、デジタル技術を活用して伊勢堂岱遺跡に併設されたガイダンス施設・伊勢堂岱縄文館におけるXR化事業がスタートしました。遺跡や出土品をデジタルで楽しめるようにすれば、実際に訪れた来館者の体験価値向上につながりますし、季節や場所に関係なく多くの方に伊勢堂岱遺跡の魅力を体験してもらうことができます。
DNPグループは本事業のパートナーとして、企画からプロモーションまでトータルに、関係する皆さん一緒に新しい価値創出に挑戦してきました。伊勢堂岱縄文館で展示されている出土品を、3Dデジタルで鑑賞できるシステムや、環状列石を360度のバーチャルリアリティで体験できるシステムの開発、首都圏のJR主要駅でデジタルサイネージを活用したプロモーションなどを行っています。
本事業の受注経緯
XR化事業に参加した経緯を教えてください。
森本 本事業ではDNPプランニングネットワークが統括して北秋田市との窓口となり、マーケティング本部がプロジェクトマネジメントを担当。鑑賞システムや体験プログラムの企画・制作を社内の制作部門と連携して進めるなど、DNPグループが一丸となって推進してきました。
DNPプランニングネットワークは、2020年にDNPグループとなる以前はJTBグループ傘下だったこともあり、主に地域と連携した観光振興や地域活性化プロモーション、旅行業や観光業向けのインバウンド施策に強みを持っています。
北秋田市とのつながりが生まれたのは2021年頃。同市の学芸員の方と定期的に情報交換をするなかで、世界文化遺産に登録された伊勢堂岱遺跡を活用した観光客誘致、地域活性化に取り組みたいという話をうかがっていました。その後、2022年3月に「デジタル田園都市国家構想推進交付金」の採択が決定し、2022年6月に伊勢堂岱縄文館の展示品をXR化するご提案の機会をいただきました。
わたしたちが開発したXR鑑賞システムは2023年4月18日から伊勢堂岱縄文館で公開されているほか、そのうち「みどころキューブ」と「360°VR鑑賞システム」は伊勢堂岱遺跡や北秋田市のWebサイト内でも鑑賞することができます。
受託内容:導入コンテンツ&プロモーション施策
今回、DNPが関わった導入コンテンツについて教えてください。
平澤 DNPは伊勢堂岱縄文館の体験価値の向上を目指して、「みどころビューア」「みどころキューブ」「360°VR鑑賞システム」という3つの鑑賞システムと「ペーパークラフト」を提供しました。
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平澤 たくさんの貴重な出土品があるものの、一つひとつのサイズが小さいため、細かい意匠や形状の面白さを伝えにくいという課題の解決に向けて、ご提案したものです。10点の出土品を高解像度で3D(三次元)デジタルデータ化し、利用者は画面上で出土品を拡大・回転しながら、手に取るように鑑賞できるシステムです。出土品の質感や刻まれた細かい文様を高精度に再現していることが最大の特徴です。実物の出土品が展示されているすぐ横に設置された大型タッチパネルディスプレイで、デジタルならではの自由な視点で鑑賞することができます。
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平澤 「みどころキューブ」は、出土品の背景を知る上で見落とされがちな「発見された場所」と「出土地点の深さ」に着目してご提案したシステムです。キューブ(立方体)型のインタフェース上に出土品25点の画像と情報を配置。見つけた場所や深さに沿って配置することで、「いつ頃の時代のものか」「どのような関係性があるのか」を想像できるヒントを視覚的に表現します。利用者は画面上で気になった出土品を選択すると、詳しい情報を閲覧することができます。一般的に博物館は静的な展示が多いので、画面上でキューブが動く「みどころキューブ」は館内の雰囲気を活性化すると思います。
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平澤 冬季に見学できないという課題への対策としてご提案したのが、4つの環状列石をバーチャルに散策できる「360°VR鑑賞システム」です。実際の遺跡では景観保護のために看板がありませんが、このシステムの画面では、ポイントとなるスポットに日本語と英語による解説やボランティアガイドの皆さんによる案内動画を表示します。実際に現地を訪れた方も、本システムで遺跡についてさらに理解を深めることができます。制作にあたっては、4つの環状列石が並んでいるスケール感をダイナミックに表現するため、ドローンで俯瞰して撮影した映像を活用しました。
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大庭 鑑賞システムだけでなく、実際に手にとって触れられるコンテンツをご提案したいと思い、伊勢堂岱遺跡を代表する出土品「板状土偶」のペーパークラフトを制作しました。館内のミュージアムショップでオリジナルグッズとして販売するほか、学校教材としての活用を想定しています。実物の土偶の厚みが2cmほどなので、北秋田市の方からは「厚みを再現してほしい」との要望をいただき、ペーパークラフトとしての強度を保てるギリギリで調整を行いました。また、土偶のぼこぼことした文様を箔押しで再現し、実際に土偶を触っているような感覚を楽しめるように工夫しました。DNPの印刷技術や加工技術をうまく活用できたと思います。
プロモーション施策では、どのような支援を行ったのですか?
森本 今回、北秋田市では、地域外からの来館者を増やしたいという思いを持っていました。世界文化遺産になったとはいえ、伊勢堂岱遺跡の認知度を上げ、北秋田市にどんな観光スポットがあるのかをもっと知ってもらうために、ターゲットを「専門的知見層」「認知層・コア層」「潜在的関心層」に分類し、それぞれの特性に合った情報発信を行いました。
基本的な施策として、ニュースリリースを発信し、XR系専門メディアから一般的なニュースメディアまで幅広く露出。加えて、「潜在的関心層」向けに板状土偶やXR鑑賞システムの画面イメージを用いたインパクトのある動画を作成し、首都圏JRの主要18駅・24エリアのデジタルサイネージで展開しました。
そのほか、北秋田市や伊勢堂岱遺跡、世界遺産等に興味のある「認知層・コア層」向けに、検索キーワード連動型広告を配信し、「専門的知見層」向けにはチラシを作成して都内近郊の博物館等約30か所に設置しました。また、「土偶女子」として知られる文筆家・譽田亜紀子(こんだあきこ)さんを起用して全6回の記事をWebサイトに掲載するなど、さまざまなプロモーションを展開しました。
https://www.city.kitaakita.akita.jp/isedotai/dogugirltalks
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DNPの強み
DNP
の強みを教えてください。
平澤 DNPでは、印刷事業を通じて培った高精細デジタル処理の技術とノウハウを生かし、デジタルアーカイブ化に必要な最新技術の研究・企画・開発を行っています。貴重な美術作品や文化財を最先端のデジタル技術で保存し、博物館を取り巻く人々のために活用していくことに取り組んできました。こうした取り組みを通じて培ったノウハウを活かし、個々の博物館が持つ課題に寄り添った鑑賞体験を提供できることが強みです。また、「みどころビューア」「みどころキューブ」では、素材の特性にあわせた撮影を行い、展示品の色や風合いを忠実に再現し、素材の特性にあわせた撮影を行うなど、コンテンツ制作の最前線で培った高度なデジタル化技術を活かしています。
森本 地域活性化の取組みはコンテンツをつくって終わりではなく、認知を広げるための施策やその後の運用も重要です。今回、DNPグループ各社のスペシャリストが集まって、アイデアを出し合うことで、鑑賞システムやペーパークラフト、プロモーションといった多面的なご提案ができましたが、今後も継続的に取り組みを強化していくうえでも、このチーム力を強みにしたいと思います。
北秋田市様からの反応
一連の施策に関して、北秋田市様からはどのような反応がありましたか?
森本 伊勢堂岱縄文館ではこれまで、鑑賞の邪魔にならないように解説の表示を少なくしていましたが、その一方で「出土品に刻まれた文様の意味を知ってほしい」などの想いもあったそうです。今回導入した鑑賞システムで、リアルで見る以上に細部まで見ることができるようになったほか、展示では隠れてしまう部分や、空洞の部分の内側なども鑑賞できるようになりました。「単に高精細画像を撮影するだけではなく、より縄文時代に対する理解が深まる鑑賞システムができた。来館時の体験価値の向上につながった」と喜んでいただきました。地元のボランティアガイドの方にも好評だと聞いています。
また、鑑賞システムの提供にとどまらない多面的な事業活動に対しても、「ここまで広範な提案をいただいたのは初めてで、驚いた」とのコメントをいただきました。
今後の展望
本事業における今後の展望を教えてください。
森本 本事業は、伊勢堂岱遺跡の体験向上によって地域の活性化につなげることが目的のひとつです。そのため、今回制作した伊勢堂岱縄文館のXR鑑賞システムをフックにして、地域住民の方にも継続的な学びや体験の機会を提供し、より地域を好きになってもらう取り組みを継続的に行っていきたいと考えています。その入り口として、まずは地元の学校教育でのコンテンツ活用を検討しています。また、地域外の方に対しても継続的にプロモーションを行い、関係人口の創出を目指していきます。
DNPグループが展開する「観光・文化資源の磨き上げ」
今回の受託事例の背景にある、DNPグループの「観光・文化資源の磨き上げ」について教えてください。
森本 観光資源と地域振興を起点とした持続可能な地域活性化を実現するためには、魅力ある地域基盤の構築が必要です。そのために必要なのが、地域の観光資源・文化資源を磨き上げていくことだと考えています。デジタル化による新しい鑑賞システムによって体験価値を向上させ、直接その地を訪れることができない方にも疑似体験を提供してファンを増やしていく。また、広く情報発信することで地域住民の認知度も高まり、シビックプライド(市民の誇り)の醸成にもつながっていきます。
DNPグループでは「みどころシリーズ®」「360°VR鑑賞システム」などを通して、遺跡をはじめとした地域の観光・文化資源の魅力を高めたいと考える皆様とともに、新しい価値の創出に取り組んでいきたいと考えています。私たちは、リアルとバーチャルが融合した新しいコンテンツやシステムの開発などに強みを持っています。地域の観光・文化資源の魅力向上に一緒に取り組むパートナーを探している方は、ぜひ私たちにご相談ください。
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※「みどころビューア」「みどころキューブ」「みどころシリーズ」は、DNP大日本印刷の登録商標です。
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デジタル化された作品と多様な MLA の知的情報「みどころ」を組み合わせ、作品に対する興味のきっかけを提供する目的で開発された、インタラクティブ鑑賞システムです。
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