生活空間デザインレポート ホテル Vol.2

昨年リリースし、ご好評頂いた「デザインレポート ホテル」。第2弾は関西に開業した新しいホテルを2件ご紹介します。ホテルのコンセプトやデザインの背景をご紹介すると共に、筆者視点でインテリアのポイントやコーディネイトについてご紹介します。
*2022年6月時点の情報です。

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Photo W大阪

・大阪商人の羽織りからインスピレーションを得た外装、内装デザイン

・ディスラプターをターゲットにした華やかな空間

・さまざまなマテリアルとカラーを組み合わせた新しいスタイリッシュラグジュアリースタイル

Point of Materials
木質・ミラー・メタル・ファブリックなど

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Photo 丸福樓

・1930年に竣工した任天堂旧本社社屋をホテルにコンバージョン

・昭和初期の京都 鍵屋町の歴史を物語るミュージアムのような空間

・魅力ある歴史的部分は残し、モダンらしさも取り入れオーセンティックなレトロモダンスタイル

Point of Materials
木質・タイル・ガラスなど

W大阪 外観

http://wosaka.jp
住所:大阪府大阪市中央区南船場4-1-3
TEL:06-6484-5355
アクセス:地下鉄御堂筋線「心斎橋駅」3番出口より徒歩3分

米マリオット・インターナショナルが展開するラグジュアリーブランド「Wホテルズ・ワールドワイド」は、2021年3月16日に同ブランド日本初進出となる「W大阪」を、大阪・心斎橋に開業しました。ホテルの外観は安藤忠雄氏が監修、インテリアはオランダ・アムステルダムのコンクリート社が担当しています。御堂筋に堂々と佇むシンプルなデザインの外観に対し、ホテルの中に入ると煌びやかで遊び心のあるラグジュアリー空間が広がり、このコントラストは大阪商人の羽織からインスピレーションを得ています。

01-1. W大阪の世界観に没入するエントランス

アライバルトンネル

わくわく感が高まるアライバルトンネルは、切り絵や折り紙をイメージしています。約3000個の円状プレートで構成されたトンネルは、照明でさまざまな色に変化し、時代を超越した日本の四季を表しています。

アライバルホール

トンネルを抜けるとアライバルホールがあります。抑揚感のある大胆な天井デザインと六角形のスツール・ソファが特徴です。これらは日本の伝統的な文様である麻の葉をイメージしています。2階のバンケットフロアに続く階段はカッパー色で構成されています。W大阪の世界観に没入できるアライバルエリアとなっています。

01-2. W大阪の心臓部 “ソーシャルハブ”

バーエリア

エレベーターが開くと、目の前にバーエリアが広がります。カクテルカルチャーを大事にしているW大阪ならではの演出です。バーラウンジのLIVING ROOM、レセプションデスク、そしてレストランOh.lala...に繋がります。無限の障子のような折り紙風のプリーツが付いた白い薄手のカーテンが空間をゆるやかに仕切り、導線を導いていました。

LIVING ROOM

W大阪のソーシャルハブであるLIVING ROOMは色鮮やかなカラーとさまざまなモチーフに囲まれ、楽しさやときめきといったポジティブな感情が一気に高ぶる空間が広がります。レインボーカラーのソファは、道頓堀の水面にうつる華やかな色合いからインスピレーションを得ています。またネオン街の看板と空の雲のイメージを融合させたユニークな照明が明るく華やかな空間を演出します。
中央には漫才ステージとトランジスタラジオのフォルムをしたDJブースが設置されています。

01-3. ディスラプターのライフスタイルを体験

FIT(ジム)室内

W大阪は常識を壊して、好奇心旺盛な“ディスラプター”と呼ばれる人々をターゲットとしています。ディスラプターは日々忙しく、さまざまなことから刺激を受けながら、限られた時間の中で身体も動かし、美味しいご飯も食べて、といったアクティブで欲張りなライフスタイルを送っています。そういった人々のライフスタイルを後押ししたり、ディスラプターのライフスタイルを体験できるのがW大阪の醍醐味です。

FIT(ジム)、WET(プール)もその体験の一つとして、RETOX, DETOX, REPEATをテーマにしています。

FITの壁面には、大阪の象徴でもある道頓堀のあの看板からインスピレーションを得たLEDアートワークがあります。

WET(プール)室内

WETは鮮やかで涼しい色で季節を反映するLED照明を備え、フォトスポットの一つになっています。

01-3. エンターテイメント性あふれるレストラン空間

ニューブラッセリ―Oh.lala...店内

ニューブラッセリー Oh.lala...はミシュラン2つ星にも輝くフレンチの名店「ラ・シーム」の高田裕介シェフとコラボレーションし、新しいビストロダイニング体験を提供しています。インテリアデザインは伝統的なフランス料理の銅製の鍋からインスピレーションを受け、カッパーが多用されています。また青と白のカラーリングは、フランスのブルトンシャツからイメージし、ジグザグな形に変えてデザインされています。

鉄板焼MYDO店内

「鉄板焼MYDO」 は、大阪とWの両方の文化、歴史、遊び心を無限の驚きとともに体験できる鉄板焼のレストランです。インテリアはGLAMOROUS co., ltd. 森田恭通氏が手掛けた煌びやかな空間です。空間を彩るアートは黒田征太郎氏が担当し、その場で黒田氏が実際に描いています。

01-4. W大阪のデザインが存分に楽しめる客室

WOWスイート

WOWスイート室内

「WOWスイート」 は120㎡を有し、大きな窓ガラスで囲まれた開放感のあるスイートルームです。客室に入るとさまざまなマテリアルやカラーをスタイリッシュに組み合わせた、気分が高揚するような楽しいインテリア空間に包まれます。リビングルームやベッドルームのフローリングはライトカラーのベーシックな木目とグレーの大理石で構成され、個性的な家具のデザインや彩り豊かなアートや照明の光を映えさせます。

W大阪では、全室でカクテルカルチャーを体現する「ミックスバー(ミニバー)」が装備されています。ゲストはカクテルシェーカーやその他のアイテムを使用して自分のオリジナルカクテルを作ることができます。大阪の街並みを眺めながら自分好みのカクテルを楽しむ、というプライベートタイムが過ごせる場所です。

バーエリアとリビングの間に設置されたミラーは、電源を入れると、OSAKAのネオンに触発されたピンクまたはブルーの斜めのストライプで部屋が劇的に変化します。ピンクは日本の桜、ブルーは大阪湾をイメージしています。

ベッドルーム壁面のテキスタイルアート

ベッドルームの壁面にはオランダ人アーティストのテキスタイルアートが飾られています。窓際には縁側のような小上がりスペースが設けられており、W大阪オリジナルデザインのピローのデザインが遊び心を感じます。

エクストリーム WOW ペントハウススイート

エクストリームWOWペントハウススイート室内

ホテル最上階に位置する「エクストリーム WOW ペントハウススイート」は、200平方メートルの広さを有し、高い天井と大きな窓、沢山の植物やユニークなインテリアに囲まれ、圧倒的なラグジュアリー感が漂います。

客室扉を開けると大小さまざまな観葉植物が出現し、小鳥がモチーフになったスタンドライト、枯山水を想起させるラグでコーディネイトされたガーデンルームが存在します。

リビングスペース室内

リビングスペースは雲をイメージした多数の照明が空間を彩ります。DJブースもあり、音楽に合わせて照明の色を変えることも可能です。ブラウンレザーのソファーにカラフルなクッションやスツールが組み合わされ、楽しさやポジティブな感情を呼び起こすインテリア空間が広がります。
ガーデンルームとリビングのコントラストから、「ワクワク感や高揚感」と「穏やかさや落ち着き」の両方を体験できる贅沢さをも感じました。

ダイニングルーム室内

ダイニングルームはライトカラーの木質と真鍮色を基調としています。障子を想起させるスライドドアによりほんのり和のテイストも感じます。キッチンは真鍮色を基調とした大胆なデザインですが、過度な華美さは全くなく、洗練された印象のエレガントなキッチンスペースでした。
このゴールドカラーともう一つ、ポイントになるメタルカラーはバスルームのバスタブです。

バスタブ

シャンパンボールをイメージした直径1.9mあるバスタブが存在感を放ちます。壁面にあるミラーの効果も相まり、フューチャーリスティックなムードが漂っていました。

Photos W大阪

丸福樓外観
photo 丸福樓

https://marufukuro.com/
住所:京都府京都市下京区鍵屋町342番地
TEL: 075-353-3355
アクセス:京阪本線「七条」駅から徒歩約6分。

株式会社Plan・Do・Seeがプロデュースし、任天堂旧本社社屋と建築家・安藤忠雄氏設計監修の新建築が融合して生まれ変わったホテル「丸福樓」が、2022年4月1日に開業しました。丸福樓は、1930年竣工の南北に連なる三棟のRC造の任天堂旧本社社屋「既存棟」と、その一部を解体修復し、さらに新しく建物を増築した「新築棟」から成り立っています。3棟からなる館内には、7つのスイートルームを含む表情豊かな18室があり、宿泊料金に滞在中の飲食を含むオールインクルーシブが採用されています。

02- 1. 歴史を紡ぐエントランス、ラウンジ

看板と面格子

photo 丸福樓

山内任天堂は日本で初めてトランプの製造をした会社であり、1947年に京都 鍵屋町に花札・かるた・トランプの販売製造をする株式会社丸福を設立しました。その歴史からこのホテルは「丸福樓」と名付けられています。
ホテル外観のグリーンの面格子は、旧本社社屋時代から窓に設置されていたもので、丸福のロゴがかたどられています。

エントランス

photo 丸福樓

昭和初期にタイムスリップしたかのような感覚になるエントランスは、当時の建物に使われていた石やタイルを活かした内装になっています。既存の建物にあった要素残し活かしつつも、モダンなエッセンスを加えることで、スタイリッシュに紡いだ歴史を表現しています。
エントランスを入ってすぐに目に入るサギのオブジェは、建物の解体時に発生した廃材を活用したアート作品です。

床のモザイクタイル

Photo DNP

既存の建物に存在していたピンク、ブルー、ホワイトのモザイクタイルは、ところどころパターンに変化を持たせ、デザイン性の高い内装デザインであったことを思わせます。夜になり地下の照明がともされると、ガラス部分から柔らかな光がもれるのもポイントです。

ラウンジ

Photo DNP

「客室の延長である第二のリビング」感覚でくつろげるラウンジです。重厚感のあるラウンジに使われている家具の一部は、任天堂旧本社社屋で実際に使われていたものを手直しして使われています。歴史とぬくもりを感じる椅子・ソファの下には、色柄の異なるラグがパッチワークのように重ね敷きされていました。

扉

Photo DNP

館内はトランプのマークになぞらえ、入り口に近い棟からスペード棟、中央の新棟はダイヤ棟、元山内家の住宅があったハート棟、一番奥はクローバー棟と名付けられています。建物の扉や、スタッフの方のユニフォームなどホテルのコンセプトカラーはダークなグリーンが使われています。トランプゲームを楽しむカジノテーブルのグリーンを彷彿とさせます。

02- 2.貴重な調度品と空間を嗜む

建物内部

Photo DNP

館内には貴重な調度品が展示され、ミュージアムのように楽しむことができます。左側の画像は当時の棟札がウィリアムモリスの壁紙を背景に収められています。当時まだ珍しかった西洋の壁紙ですが、客間にある押し入れの中の壁紙にこのウィリアムモリスの壁紙が使われていたそうです。右側の画像は、トランプや花札を運搬していたエレベーターです。倉庫棟に現在も存在し、可動はしませんが、当時の面影を強く残しています。

階段・廊下

Photo DNP

既存棟の廊下・階段スペースはブルーグリーンのカーペットが空間を彩り、カラフルなステンドグラスやモダンな壁紙のデザインが映えます。客室の前には京都の街並みを感じられるくつろぎのスペースがあります。ホテルのアートにも頻繁に登場するサギが窓越しに出現することも。

02- 3. 新旧の融合を味わう客室

スタンダードキング(新築棟)

スタンダードキング客室内

Photo DNP

安藤忠雄氏がデザイン監修した新築棟のスタンダードの客室です。ベッドや椅子、テーブルなど全体的に座面が低くデザインされていて、木のぬくもりと共に安心感を感じる客室になっています。ヘッドボードの脇には安藤氏が自らの似顔絵とともにサインが描かれていて、遊び心を感じます。

家具・タッセル

Photo DNP

あたたかみのあるブラウンカラーの木質とアクセントに取り入れられた真鍮色の組み合わせが美しいです。Don’t Disturbのサインにはクラシカルなタッセルが使われています。客室ごとに異なるデザインのタッセルが使われています。

スーペリアキング サウス(既存棟)

スーペリアキングサウス客室内

Photo DNP

旧山内任天堂社屋の内装デザインを踏襲した既存棟のスーペリアキングの客室です。暖炉や梁、壁紙など当時の趣を感じる空間になっています。実際に扉として使われていた建具はクローゼットの扉として使われています。建具の高さが現代よりも10cm以上低く、日本人の背が低かったことを物語っていました。

内装

Photo DNP

テレビ下にある暖炉はこの客室の一番のアクセントとなっているインテリアエレメントです。ランダムな大きさやカラーで構成されたデザインは歴史的に装飾性の高いことで知られている泰山タイルで構成されています。客室によって、ライオンや海老などのモチーフが描かれ、訪れた人々を楽しませるポイントになっています。
天井や壁面は既存の建物の構造を活かしながら、モダンにアレンジされていて、ところどころ見られる昔のおもかげを見つけるのも楽しみの一つです。

02- 4. 任天堂の歴史を楽しめるライブラリー dNA

ライブラリ

Photo 丸福樓

任天堂創業者・山内家がプロデュースし、山内家の解釈による任天堂の歴史や創業の理念を表現した空間です。任天堂やゲームにまつわるさまざまな品が展示されています。任天堂という会社が人々の生活に寄り添いながら、その時代にあった“遊び”を提案していたことを伺うことができます。懐かしいゲーム機器も多々あり、訪れた人々の会話も弾みます。

02- 5. 五感で素材を感じられるシンプルなレストラン空間

レストラン

Photo 丸福樓

料理家・細川亜衣氏が監修するレストラン「carta.(カルタ)」。旬の食材で彩られた素材の旨味が詰まった無国籍料理を堪能できます。内装も細川氏が監修し、明るく爽やかな印象です。壁面のタイルは、食器なども作成している作家さんがつくられたタイルが使われています。桂離宮の襖を彷彿とさせるブルーとホワイトの市松模様の扉が空間のアクセントになっています。BGMがない静かな空間の中で、料理の香りや触感など五感に集中できるレストラン空間です。

まとめ&編集後記

今回は関西に開業した話題のホテルから2つご紹介致しました。
それぞれのホテルが考えるコンセプトやライフスタイルを、空間やサービスで大胆に表現し、その空間にいるだけで気持ちが高揚して、楽しい気分になりました。皆さまもホテルを利用される際には、このコラムでご紹介したデザインのポイントを思い出して空間を体験してみてください。デザインの意図を理解、共感すると、より充実した時間が過ごせると思います。

W大阪
カラフルなカラーリングやネオンカラー、メタルカラーを取り入れると、過度に派手さを感じがちですが、そのような印象は全くなく、日本・大阪らしさをスタイリッシュに取り入れた、新しいラグジュアリー空間をつくりあげていました。
空間の箱となるフローリングや建具、床はベーシックな木目や石で構成することでユニークなマテリアルやカラーを持つ家具やアートを美しく映えさせています。日本の感性が持つ引き算のスタイルと、W大阪がターゲットするディスラプターの刺激溢れる足し算のライフスタイルが、絶妙に組み合わされ、新たなトレンドに満ちた魅力溢れるホテルとなっています。

丸福樓看板

丸福樓
歴史漂う住宅街に堂々と佇む丸福樓はホテル全体が、任天堂旧本社社屋と昭和初期の京都 鍵屋町の歴史を物語るミュージアムのようでした。当時のトランプやカルタといった遊びがから、平成にはスーパーファミコンやゲームボーイといったソフトを入れ替えて遊べるゲーム機器を開発し、そして現代は遊びながら身体を動かしたり学習できるWiiやDS、SWITCHといった新しい“遊び”を次々に開発している任天堂。その根底にあるのは、人々を楽しませたい、おもてなししたいといった精神であり、それが丸福樓の建物・デザインからも感じることができました。既存の建物にあった魅力ある歴史的部分は残しつつ、モダンらしさも取り入れた味わい深い空間となっています。日本が昔から紡ぐ建築の美しさや味わい深さを感じられるオーセンティックなレトロモダンスタイルのホテルです。

取材、撮影 & テキスト

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Chihori Kunito (大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
大学・大学院で心理学・認知科学・色彩心理学などを学ぶ。学生時代は内装の色彩が人間の心理に与える影響や、肌がきれいに見える壁紙の色彩などについて研究。日本色彩学会 2011年学会大会にて発表奨励賞を受賞。2012年DNPグループに入社し、壁紙の企画デザインを担当。2016年より現在の部署にて、ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

このコラムで紹介した製品・サービス

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