トンボちゃんと活じいがテーマを紹介。「宇宙日本食パッケージじゃ!」

宇宙飛行士のパフォーマンスを食事の面からサポートするDNPの「宇宙日本食パッケージ」

みなさんは、「宇宙日本食」をご存知ですか。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する日本人宇宙飛行士の心と体をサポートするために開発された宇宙食です。DNPはそのパッケージを、宇宙での長期間の滞在でも中身を衛生的に保ち、容器のまま食べやすいように工夫して製造しています。厳しい審査をクリアし、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の指定パッケージになっているDNPの「宇宙日本食パッケージ」の秘密に迫ります。

目次

宇宙日本食パッケージについて話すトンボちゃんと活じいの4コマ漫画。

登場人物

活じい…金属活字じいさん。活字としてのキャリアは100年以上。長い経験で培われてきたDNPグループに関する豊富な知識で、いろいろなことを教えてくれる生き字引的な存在。

トンボちゃん…印刷物の見当合わせ※トンボから生まれたキャラクター。きっちりした性格で、曲がったことが大嫌い。細かな気遣いで活じいをサポートします。

  • 【印刷用語:見当合わせ】見当とは、多色印刷において各色版の重ね合せる際の位置精度のこと。版面にトンボといわれるレジスターマークを入れて、見当を合わせるようにしている。

宇宙飛行士の心と体の健康を支える宇宙食

2019年5月にNASAが「アルテミス計画」(*1)を発表し、2024年1月にJAXAの探査機「SLIM(スリム)」が世界5カ国目の月面着陸に成功するなど、近年、あらためて盛り上がりを見せている宇宙開発。

  • ※1アルテミス計画:NASAを中心とした月面探査プログラムで、将来的には火星有人探査をめざしている。

地上から約400kmの軌道上を周回するISSには、2023年末現在7名の宇宙飛行士が滞在しています。およそ6カ月もの間、閉鎖空間で生活する宇宙飛行士たちにとって、食事は肉体的・精神的な健康を維持する大切な要素。摂取量や栄養バランスが適切でないとミッションを妨げてしまう恐れもあります。宇宙空間での一層の長期滞在が想定される今後の開発において、その重要度はさらに増していくことでしょう。

現在の宇宙食は300種類以上! アメリカやロシアが用意する「標準食」と、宇宙飛行士個人が選んで持っていける「ボーナス食」があります。ボーナス食は各国の宇宙飛行士に合わせて開発し、ISSに搭載されており、それぞれのお国柄があらわれます。

日本製のボーナス食、いわゆる「宇宙日本食」は、すべてJAXAが認証・管理しています。カレーやラーメン、サバの味噌煮、羊羹や唐揚げなど56品目(2024年4月現在)があり、なかには海外の宇宙飛行士のボーナス食として提供されたものもあります。

こうした宇宙日本食の認証には、常温で長期保存できること、無重力空間でも中身が飛び散らずに安全に容器のまま食べられること、ISSの設備で調理できることなど、厳しい基準をクリアする必要があります。当然、そのパッケージ製造には高度な技術が求められるため、JAXAは食品メーカーに、指定パッケージ(6種)を紹介しています。

実は、この6種類の指定パッケージを開発・製造しているのが、DNPなのです。

JAXA指定のパッケージ

JAXAの指定パッケージに選ばれている6種類。S1、S2は宇宙食を入れる外装袋。R5、R6はレトルト食品用のパウチ容器。W1、W2は加水食品用の注水口付きパウチ。

安全で食べやすく、食べたくなるものに!
DNPの技術力が実現した高性能パッケージ

DNPが宇宙日本食のパッケージを手掛けるようになったのは、2001年からの宇宙日本食開発プロジェクトで開発担当として指名されたことに始まります。

当時からDNPは、国内の食品包装市場でトップクラスのシェアを持っており、メーカーや生活者のさまざまな要望に応えるパッケージ技術とノウハウを有していました。特に、水蒸気や酸素などのガスの透過を防ぐ機能性フィルム「IB-FILM®」の開発実績が認められて、食品メーカーの業界団体からJAXAへの推薦を受けたのでした。

「宇宙日本食パッケージ」の開発にあたって特に課題となったのは、加水食品用の注水口付きパウチでした。加水食品とは、水やお湯を注入してつくるスープ状の料理や温かい料理のこと。地球での食事に近い料理を楽しめる重要な食品である一方、「輸送」〜「調理」〜「食事」の各シーンで求められる条件は厳しいものでした。

課題の一つは、長期の保存でも内容物の品質を守るバリア性と、宇宙飛行士の食欲を喚起するように中身が見える透明性を両立すること。それまでは、透明にすることでバリア性が低下するパッケージが多かったのに対して、DNPはIB-FILMで培った高度な蒸着技術やコンバ―ティング技術(材料加工技術)を応用することで、バリア性と透明性を両立できるパッケージの製造に成功しました。

もう一つの課題は、ISS内の加水器の仕様に合う注水口が付いたパウチをつくること。ISSには、ニードル(針)で容器の注水口に穴を開けて水を入れる加水器が備え付けられており、加水中・加水後に容器から水漏れしないことが要求されます。

そこでDNPは、JAXAと協力して試作品の開発を開始。ガスバリア機能を有した材料、成形品の形状設計・加工、レトルト仕様の包材設計など、各分野のスペシャリストがチームを結成し、最適な容器を追究していきました。

設計にあたって特に工夫したのが、ニードルを抜いた後も中身を逆流させない注水口の内部構造です。注水時に開けた穴から内容物が漏れてしまうと、ISS内の精密機器にダメージを与えてしまうおそれがあります。そこで注水口の内側の口径を狭くし、封止弁を圧迫させることで、内容物の漏れや逆流を防ぎました。

内容物を逆流させない注水口の仕組み

このほか、DNPは、宇宙飛行士が食事しやすい形状にも配慮しています。

例えば、スープと具を同時に食べられるように飲み口を大きくしたり、内容量の増加と持ちやすさを両立するためにマチ(容器の奥行き)を設けたり、長期滞在用になるべく多くの宇宙日本食を運ぶために負荷軽減を考慮して全体を軽量かつコンパクトにしたりなど、さまざまな工夫を盛り込んでいます。

飲み口ありの加水食品用の注水口付きパウチ

利用者の目線で考えることが重要なのは、地上でも宇宙でも同じ。DNPの「宇宙日本食パッケージ」が、カスタマイズを繰り返しながら15年以上も指定パッケージとして利用され続けている理由は、こうした設計思想にこそあるのかもしれません。

民間参画のパイオニアとして宇宙食開発を支えていくDNP

宇宙日本食では、メニューのさらなる充実に加え、JAXAが理念の一つに掲げる「宇宙技術の社会還元」がめざされています。

宇宙日本食で検討している社会還元の一つが、常温での長期保管、簡易な調理性が求められるなど、宇宙食との共通点が多い「災害食」への転用です。近年、宇宙日本食に認証された食品が、日本災害食学会による簡易な審査で災害食にも認証されるなど、転用への道筋ができつつあります。

また、注水口付パウチに応用したDNPのスパウト付きパウチは、中身が飛び散りにくく、飲み口の口径が大きいため、病気で起き上がれない人や高齢者などの「療養食」への転用も考えられています。

宇宙開発自体の展望については、民間企業の参画が注目されています。2030年にISSの運用が終了すると、低軌道の宇宙ステーションは民間企業による運用に移行する予定であり、JAXAの探査機「SLIM」にも多くの国内企業が参画していることが話題となりました。

今後、火星探査や月旅行などを含めて宇宙での長期滞在が実現すれば、より高度な技術が求められる場面は増えていくでしょう。その際の高い要求に応え続けていくには、多様な民間企業が宇宙開発事業に参入し、競い合って技術力などを向上させることが重要となります。

なかでも宇宙食は、小ロットの製造が多いため小規模の食品メーカーでも取り組みやすく、すでに宇宙開発に夢と希望を持つ多くの企業が参加しています。その新メニュー開発を支えるためにも、約20年にわたってJAXAと連携してパッケージ開発を進めてきたDNPは、独自のノウハウや技術力を最大限に活かしていきます。

今後もDNPは、多彩なアイデアを持つ民間企業とJAXAをつなぐパイオニアとして、宇宙飛行士の食を豊かに、心と体を健康にする取り組みを支援していきます。

DNPの製品が宇宙にまで届いているなんて、知らなかったわ〜

「食」をはじめ、さまざまな分野で生活を支えているDNPだからこそ、活躍の場をますます広げていくのじゃ!

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