デザインの力で再生プラスチックの社会実装を促す。3期目のRecycling Meets Design® Project
- X(旧Twitter)にポスト(別ウインドウで開く)
- メール
- URLをコピー
- 印刷
デザインの力で再生プラスチックに新しい価値を与えるDNPの共創プロジェクト「Recycling Meets Design Project」(以下、RMD)。第3期までの活動も完了し、いよいよ社会実装に向けた動きが活発になってきました。DNPが運営するオープンイノベーション施設「DNPプラザ」(東京・市谷)では、これまでのプロジェクト活動の成果をまとめた展示イベントを開催(2024年1月26日〜4月30日)。今回、その会場で、プロジェクトを取りまとめるLifeデザイン事業部の川上愛と、パートナー企業として参画中のレフォルモ株式会社の中山龍生さんに、今後の展望や再生プラスチックの可能性について話を聞きました。
目次
プロフィール
大日本印刷 Lifeデザイン事業部 ビジネスクリエイションセンター
川上 愛(写真左)
RMD運営メンバー。
レフォルモ株式会社
中山龍生さん(写真右)
第3期からRMDのサポートメンバーとして参加。容器包装プラスチックのリサイクル原料を使った製品の開発から販売まで手掛ける知見を活かし、活動をサポートいただいている。
レフォルモ株式会社 https://www.reformo.co.jp
容器包装プラスチックのリサイクルについて、課題を認識する企業と共創し、社会実装をめざす
——RMDの概要とこれまでの取り組みを教えてください。
DNP 川上 愛(以下、川上)
RMDは、再生によって品質が低下することもあって、これまでは用途が限られてきた容器包装からの再生プラスチックについて、デザインの力によって活用の場を広げ、「モノからモノへの資源循環」を促すことを目的に、2020年に始めたプロジェクトです。
日本国内で家庭から排出される容器包装プラスチックは年間約130万トンに及びます(※1)。このうち、廃棄物の性質を変えずに新たな材料として再利用する「マテリアルリサイクル」によって生まれた再生プラスチック、容器包装リサイクルプラスチック(以下、容リプラ)は、「製造するごとに毎回色や材質が均一ではない」「強度・耐熱性・衛生面などの機能が低下する」といった理由から、これまで輸送用パレットや建築資材などの限られた用途でしか使われてきませんでした。そこで、デザインの力で再生プラスチック(容リプラ)の素材としての新しい価値を見出し、生活者にとって身近なプロダクトとして価値を高める「アップサイクル」の方法を検討するべくスタートしたのがRMDです。
-
※1出典元:リサイクルのゆくえ プラスチック製容器包装/公益財団法人 日本容器包装リサイクル協会
https://www.jcpra.or.jp/recycle/recycling/tabid/428/index.php
|
2020年〜2021年の第1期では「デザインする仲間」を募り、再生プラスチック(容リプラ)を活かすデザインに挑戦しました。続く2021年〜2022年の第2期では「デザインする仲間」をさらに増やすとともに、素材関連のノウハウや成形へのチャレンジなど、技術面での知見を培ってきました。2023年の第3期ではプロダクトデザイナーやエンジニアの分野にも仲間の幅を広げるとともに、具体的な製品をつくり、最終的に生活者に試してもらうことをめざしました。
|
——第3期ではプロダクトデザイナーだけでなく、リサイクラーや化学メーカー、成形技術を持つ企業も参加しています。レフォルモさんはどのような経緯でRMDに参画することになったのです?
レフォルモ 中山龍生氏(以下、中山)
当社はリサイクル原料を使った製品開発から販売までを手掛ける企業です。RMDの活動を知ったのは、第2期の企画展で作品の展示台に再生プラスチック(容リプラ)を使った輸送用パレットを採用したいという相談を受けたことがきっかけでした。
長年リサイクルに関わる中で、再生プラスチック(容リプラ)をもっと世の中に知ってもらいたいという気持ちはありました。しかし、色が均一ではなく、成形するにも扱いが難しい。リサイクラーとして日々再生プラスチック(容リプラ)を扱っているぶん、その固定観念から抜け出せず、生活者向けプロダクトの素材として提供するのは無理だろうと思い込んでいました。
|
そんな折、DNPの活動を知り、新鮮な驚きがありました。容器包装のプロフェッショナルであり、幅広い業界に取引先を持つDNPと一緒に取り組むことができれば、既存の限定的な用途に留まらない再生プラスチック(容リプラ)の新しい活用事例を切り拓けるのではないか。そう考え、第3期からプロジェクトメンバーとして参画することを決めました。
|
生活者に身近な「ハンガー」をテーマに開発
——第3期のプロダクトテーマは「ハンガー」でした。どんな意図があったのでしょうか?
川上
「再生プラスチック(容リプラ)を使ったプロダクトを生活者に使ってもらうこと」をRMDのゴールとしていたので、生活者に身近なプロダクトであることが前提でしたが、もうひとつ「量産化できるか」もポイントでした。さまざまな可能性を検討した中、業務用のハンガーで再生プラスチック(容リプラ)の活用実績があることが決め手となり、ハンガーを選びました。
また、見慣れたプロダクトであるハンガーがデザイナーの発想でどう生まれ変わるのかという観点も興味深く、「デザインの力」というコンセプトが伝わりやすいと考えました。
——第3期では社会実装もテーマに掲げています。実際にどのような進展がありましたか?
川上
第3期のプロジェクト開始前に、レフォルモさんと一緒に再生プラスチック(容リプラ)100%で成形テストを実施して、製造に必要な成形性や強度を確認するところからスタートしました。これは、製造可能性を検討する目的でした。
その後、さまざまな意見交換や試作を通じて、デザインを製品として形にする工程を設計できたことが大きいと思います。中山さんを通じてレフォルモさんには、再生プラスチック(容リプラ)の知見の提供や今後の製造体制構築にご協力いただいただけでなく、全国に拠点のあるリサイクラー企業を紹介していただくなども大変ありがたかったです。
中山
再生プラスチック(容リプラ)には、ポリエチレン・PET(ポリエチレンテレフタレート)・ポリスチレンなどさまざまな素材が混ざっているため、そのときどきによって成形のしやすさが異なります。パレットのように大きなものであれば分厚くすることで強度を保てるのですが、小さなプロダクトの場合は強度が安定しません。サイズや形によっては、うまく成形できないことさえあります。
こうした課題に向き合う中、プロジェクトに参加している成形メーカーのマルソー産業のアイデアで、乾燥時間を長くすることで水分を飛ばし、強度を保つ方法を発見しました。これは、まだ実現できていない再生プラスチック(容リプラ)100%の製品化をめざすうえで、大きな進歩でした。
|
——技術面のアプローチやプロダクトテーマの設定のほか、第3期ならではの取り組みは?
川上
アイデアの創出に向けて、レフォルモさんに再生プラスチック(容リプラ)の特性やリサイクルの現状についてレクチャーしていただきました。第1期・第2期はコロナ禍でオンラインの会合が中心だったのですが、第3期ではリサイクル工場や成形工場を実際に見学できたことが意義深かったと思います。
また、リアルの場でメンバーが集まってディスカッションやクリエーションを重ねられたことで、より議論を深めることができたのも大きいです。
RMD第3期の活動の様子
|
|
——第3期からメンバーの一員として参画して、中山さんは、どのような気づきがありましたか?
中山
再生プラスチック(容リプラ)の特徴である色ムラや樹脂の浮きなどは、素材としてネガティブな要素だと思っていたのですが、デザイナーが「むしろ、その不均一さがいい」と言ってくれたのが新しい発見でした。それぞれのプロダクトの背景にストーリーがあるからこそ、色や質感に価値が生まれ、材料の魅力が引き出されるのだと感じました。
製品化や実証実験に向け、さらなるブラッシュアップを
——第3期の活動で生まれたプロダクトを「デザインの力で再生プラスチックを社会実装する」展として2024年4月30日まで「DNPプラザ」で展示しています。具体的には、どのような内容を紹介していますか?
|
|
川上
第3期の活動を通して、子どもたちの学校での利用を想定した荷物を整理しやすいハンガーや、形状を工夫することで衣類以外も吊せるようにしたハンガー、パーツを取り付けることで収納力を高めるハンガーなど、さまざまなアイデアが生まれました。「DNPプラザ」ではこれらのアイデアのプロトタイプを展示し、コンセプトやストーリーとともにRMDの活動事例を紹介しました。
地域の皆さんや学生だけでなく、企業の方にも多くご来場いただいており、再生プラスチックや、そこから生み出すプロダクトについて、多くの方がポジティブに受け止めてくれているという印象です。プロダクトへのアドバイスや協業の相談も寄せられています。
会期終了後は、会場で実施したアンケートなども参考に、最も反響のあるプロダクトをさらにブラッシュアップして製品化し、実際に生活者の皆さんに使っていただく予定です。
中山
企画展では、展示しているハンガーのデザインと背景にあるストーリーを見ていただきたいです。
プロダクトの完成度を高めることは、機能を補う異なる材料を加えることで簡単に実現できます。しかし、それでは再生プラスチック(容リプラ)の価値を高めるというRMD本来の目的は達成されません。川上さんは終始一貫して「再生プラスチック100%でなければならないストーリーをつくろう」と言い続けていて、プロジェクトの方向がぶれそうになると、特にリーダーシップを発揮していました。その妥協しない姿勢に、プロジェクトに参加した皆さんの“本気”を感じるとともに、新たな可能性を生み出せると予感しています。
|
——いよいよ社会実装間近のフェーズですが、RMDの今後の展望についてお聞かせください。
川上
再生プラスチック(容リプラ)の活用の幅を広げ、利用を増やしていく取り組みは、DNP1社だけでは決して実現できません。新しい価値やアイデアを生み出すデザイナー、技術やサプライチェーン上の機能をつなぐネットワークを持つリサイクラー、化学メーカー、成形工場など、さまざまなパートナーとの共創が不可欠です。
また、今後は製品化して生活者に届けるフェーズに移るため、販路の開拓や実証の場が必須となります。日用品の製造・販売企業、自治体や学校などを中心に、さらにパートナーとの共創を広げていく予定です。
RMDの活動はある意味で、ようやく山の麓にたどり着き、登山路を歩み始めたと言えるかもしれません。今後も多くの課題がふりかかってくるかもしれませんが、リサイクルや再生プラスチック(容リプラ)の可能性について真剣に考える貴重な場として、着実に歩みを進めていきたいと考えています。
Recycling Meets Design展 デザインの力で再生プラスチックを社会実装する。
会場:DNPプラザ(東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル)
会期:2024年1月26日(金)〜4月30日(火) ※終了しました
再生プラスチック(容リプラ)を100%使うことで、難しい材料の価値を向上するためのデザインアイデアや活用ストーリーの創出にみんなで取り組んでいます。
企画展で紹介したハンガーデザインの一部をデザイナーのメッセージとともにご紹介します。
容器包装リサイクルプラスチックから生まれる、美しい循環・景色。
「LUCKY CLOVER ラッキークローバー」※意匠登録出願中
デザイナー:株式会社COLOR シラスノ リユキ、シラス アキコ、サトウ トオル
|
『リサイクルプラだからこそ表現できる新たなハンガーのストーリーをカタチにした「LUCKY CLOVER/ラッキークローバー」という名のハンガー。
“Recycle Beauty”という開発コンセプトのもと、廃プラスチックが美しいハンガーとして生まれ変わり、日々の暮らしの中で、リサイクルのこと、地球環境のことを心地よく、ふと思い出させてくれるような存在になれば、という想いが込められたアイデアです。細身に見えるハンガーのカタチは美しさだけでなく、幾度の試作検証を経て、強度も兼ねた設計となっています。』
「業務用システムハンガー」
デザイナー:株式会社良品計画 大友 聡、東郷 光花、松本 真貴
|
『食品パッケージの廃棄物からできた素材をどこに循環させるかを考えた。
ハンガーを使うことが想定される家庭やクリーニング店、アパレルショップさまざまな場所を検討したが、
元食品パッケージである必要性が薄かった。
原点に返り食品パッケージが生まれた場所に戻すというシンプルな解決法に思い至った。
「働く人のためのハンガーをデザインする」を主題とし、印刷工場のオブザベーションを行った所、
更衣室でユニフォームに着替える際に、着てきた服の始末が悪いことが分かった。
行為とモノの関係性を見直し、ハンガー下部にスリットを設けるという単純な構造にすることで、
「脱ぐ、かける、着る」の行動をスムーズに行える新しいシステムハンガーが完成した。』
-
※記載された情報は取材時(2024年2月)のものです。あらかじめご了承ください。
- X(旧Twitter)にポスト(別ウインドウで開く)
- Linkdin
- メール
- URLをコピー
- 印刷