都市における新しい森づくり。「市谷の杜」プロジェクト
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市谷地区敷地内に、緑豊かな樹木や植物が育つエリアがあります。市谷地区再開発の一環として誕生したこの公開空地は「市谷の杜」と名付けられ、社員のみならず地域の人々にも親しまれています。生物多様性に配慮し、自然に近い緑地をめざしている「市谷の杜」は今後さらに広がっていく予定です。このプロジェクトがどのようにして生まれたのか、開発計画から関わった渡邊泰弘と環境面からの緑地PRを担当する鈴木由香の2名に話を聞きました。
目次
写真右:
技術・研究開発本部
渡邊泰弘
写真左:
CSR・環境部
鈴木 由香
昔ながらの武蔵野の雑木林をイメージして
春には草花が咲き、夏には緑が生い茂り、秋には木々が紅葉して道行く人を楽しませている「市谷の杜」。住宅街にDNPの施設が点在するこの地区にあって、多種多様な植物や生き物が生息するその様は、まるで昔からそこにあったような佇まいを見せている。
「都市の中に作られた緑地は形の整った木を中心に植え、きれいに剪定されている人工的な緑地が多いのですが、『市谷の杜』はあえて自然に近い緑地をめざしました」と話すのは、市谷再開発プロジェクトに構想段階から関わっている技術・研究開発本部の渡邊だ。
まず渡邊らが手がけたのは、この地区にあるべき緑地の姿とはどのようなものかというコンセプトづくりだった。
モックアップ作りに使用した模型 |
「さまざまな意見が集まる中、『市谷の杜』とは、都会の中で四季を感じられること、地域に親しまれること、明るく安全であることという3つの方向性が見えてきました。そしてこれらを起点に、この場所ならではの自然に近い緑地をつくるため、地域固有の在来種だけを植えることにしました。市谷はちょうど武蔵野台地の東端にあたります。かつての武蔵野の雑木林をイメージし、将来的には、年に1回の下草刈り程度で、木々や植物が自然に育っていくような緑地をめざしています」
「市谷の杜」が作られる場所の多くは地下に建物がある。コンクリートの人工地盤上で樹木が自然に成長していくにはどうすればいいのか。渡邊らは従来の緑地作りの方法論から離れた、独自のアプローチを強いられることとなった。
例えば、木がしっかりと根を張れる豊かな土壌を作るため、人工地盤上の土を、人工軽量土ではなく自然土とし、土の被り厚を1.5m確保する計画とした。また自然の森では、尾根や谷の部分、斜面などそれぞれの地形に適した植物群が生息しており、「市谷の杜」もこの自然界のルールに従い地形の起伏にあわせた植物群の配置計画を行った。
次に行ったのが、どこにどんな植物を植えて、どんな全体像になるかを確認するためのモックアップ作り。生育環境としての検証や周辺に与える影響、ランドスケープのイメージをプロジェクトメンバーで共有するため、施工会社の協力を得て実際の樹木を植えて検証を行ったという。
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「あとから知ったのですが、緑地を作るときに実際に木を植えてモックアップを作るのは珍しいケースなんだそうです。DNPの場合は都会に緑地をつくるため、具体的なイメージを確定させるうえでも欠かせない工程でした」
こうして、四季折々の豊かな表情を見せてくれる「市谷の杜」が生まれることとなった。
地域に親しまれる緑地をめざして
現在できあがっている「市谷の杜」の面積は全体計画の3分の1ほどでしかないが、小道が整備されており、公開空地として地域の人々にも開放されている。
地域に親しまれる緑地にしたいという思いから、地元住民を対象に見学会を開催するなど、「市谷の杜」を紹介している鈴木は、「すでに近隣のみなさんの中にも、『市谷の杜』に関心を持っている方がたくさんいらっしゃいます。毎日近くを通るときに立ち寄って花が咲くのを楽しみにしている方もいて、私たちとしても責任とやりがいを感じています」と話す。
さらに、「市谷の杜」をより深く知るため、完成直後から関係者が続けている活動がある。それが、植物の様子を日常的に観察し、気が付いたことをメモしていく「気づき記録」の作成だ。自身も参加している鈴木は、次のように語る。
「これまでは工場建物が中心だった場所に緑地が生まれ、しだいに成長し、周囲と一体化していく。日々変化していくその過程が愛おしくて、今では観察が日常の一部となっています。記録する内容も、最初の頃は『赤い花が咲いた』『鈴虫が鳴いていた』といった見たままの感想を書くだけだったのですが、次第に参加スタッフそれぞれが植物の名前や特徴に詳しくなり、細かく成育状況を記すようになりました。3年ほど経過してデータの蓄積がある現在では、前年度の成育状況と比較できるようになり、日々の植栽管理にも役立っています」
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日々の「気づき記録」から得られた植物の生育情報や、地域住民から寄せられる声は、現在工事が進んでいる新しいエリアの緑地づくりにも活かされている。
日々成長していく「市谷の杜」
現在の緑地が完成してから約3年が経過し、緑地そのものにも変化が生まれている。木々が大きく生育していることはもちろん、当初は植えていない植物が自生していたり、珍しい生き物がみつかったりと、緑地自体が成長しているのだ。人工的につくられたものでありながら、土壌に養分が蓄えられ、樹木が自然に成長していく。自然の循環を促進することをめざした成果と言えるだろう。
また、「ヒートアイランド」対策にも効果が期待できる。都会の森だからこそ緑化の重要性が増す。
こうした生物多様性に配慮した活動が評価され、「市谷の杜」は2018年3月に一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)の「いきもの共生事業所®」として認定された。また、5月には緑地事業の認証制度「SEGES:都市のオアシス」認証を取得。社会的にも取り組みが認められ始めている。
開発に携わっている渡邊は、「建物は完成したあとは次第に古くなっていきますが、植物は緑地が完成してからどんどん成長していきます。その様子を見られるのはとてもうれしいですね。今はまだ人の手によるメンテナンスが行われていますが、将来的にはその頻度を減らし、より自然の森に近い緑地になっていってほしいです」と語る。
「市谷の杜」は2020年にはさらに面積が広がる予定で、最終的には2万㎡の敷地が緑地になる計画だ。今後について、鈴木は次のように語った。
「全体の緑地計画のうち、今できているのは一部。全体が完成したら、どんな光景になるのかとても楽しみです。『市谷の杜』プロジェクトは環境に配慮した企業活動の1つとして始まっていますが、地域の方にDNPを知っていただく機会にもなっています。今後は『市谷の杜』を通して、今まで以上に地域の方とのコミュニケーションを深めていきたいです。社員にも、さらに興味をもってもらえるように働きかけていきたいですね」
『市谷の杜』全体が完成するのは数年後。そして、さらにその先、樹木や植物がのびのびと成長していったときに杜全体がどのような姿になっているのか、今から楽しみだ。
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